天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

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ギフト番外編84話『早坂兄弟の休日』

「お休み何する?」
「寝る」
「んもーーーーんもーーーーーーーー!」

yukio
 

早坂兄弟の休日は遅い。
金曜日の夜に、何もそこまで!というくらい遊ぶからだ。
正広は、ゲームボーイソフト、ドラゴンクエストVそして伝説へ、をやっていた。ドラクエ7をクリアしてしまった正広が、待ちに待っていた早めの自分へのクリスマスプレゼントだ。
(この後も、いくつか自分へのクリスマスプレゼントを買う予定)
時々、星のカービィなんかもやったりしながらゲームし続けること5時間。
「つ・・・疲れたぁ〜・・・」
指も腕も疲れて、ふにゃーー!!とベッドに倒れ込んだ瞬間、正広の意識は失われた。

「・・・力尽きるまで、やるか・・・!」
ベッドに斜め大の字になっている弟を見て、由紀夫はため息をつく。
そういう由紀夫はソファに長々と横になり、DVDで懐かしの日本映画鑑賞に余念がなかった。江分利満氏の優雅な生活と、また逢う日までを、まったくなんの脈絡もなく見ていて、そのまま寝てしまう。

くしゅ。

由紀夫が自分のくしゃみで目を覚ましたのは、土曜日の11時を回ろうか、という時間だった。
フリース素材のブランケットにくるまって寝ていた由紀夫なので、寒かった訳じゃなく、単にそのフリースが鼻をくすぐっただけ。
「んー・・・」
くしゅくしゅと鼻をこすり、ベッドに倒れている弟の様子をうかがうと、正広は微動だにしていなかった。由紀夫がかけた毛布の下で、大の字のまま。
左手には、まだゲームボーイが握られている。
由紀夫は、もう一度ソファに頭を戻し、ベストスポットを求めてころころと動いていたのだが、どうも決まらない。
あーでもなーい、こーでもなーい、とさっきまでの幸せな眠りを求めたのだが、どうしてもみつからない。

ちっ。

由紀夫は心の中で舌打ちした。
気持ちが寝たいと思っているのに、体が起きたがっている。体が起きたがっているって言うことは、次に来るのは。

ぐー。

空腹だった。

腹減ったなー・・・と、起きあがった由紀夫は冷蔵庫に向かう。
早坂家の冷蔵庫は、男二人暮しとは思えないすっきりさだ。正広はいい嫁になるな、と由紀夫は常々思う。正広は、食べ物賞味期限を切らすようなことはめったにない。
切れる!と思った前日に、無理やり食べさせられるからだ。
「ににに、兄ちゃん!た、大変!このドレッシング!賞味期限が切れる!」
と、ウサギか、というほどの青野菜を食べさせられたりもする。
買い物も計画的だ。なにせ、袋分け家計簿に凝っていたりする。食費や、光熱費、ごとに袋をつくって、そこに一月分の金額を入れ、買い物はその中からするというものだ。
買い物の行く時は、その可愛らしいピンガちゃん封筒を持って、ウキウキと出かける正広だが、どういう訳か、その食費を一月で使い切ることが楽しいらしい。残り金額を残り日数で割って、今日はこれだけ「買わなくては」と思ってしまい、15円の駄菓子を買ってでも、それに合わせようとするのは・・・・・。

・・・・・・・いい嫁になるのか・・・・・・・・・・?

すっきりした冷蔵庫を眺めながら由紀夫は首を傾げ、正広さんを私に下さい!とか言う女が現れても、よござんす、さしあげましょう、といえるほどの良妻っぷりはまだ望めないかもしれない。

・・・・・・・別に良妻じゃなくていいのか。

寝ぼけながら、なおも冷蔵庫を開けっぱなしにしていた由紀夫は、バターの賞味期限が残念ながら近づいていることを発見。
ここ暫く朝もご飯だった早坂家では、バターの消費量は少なかったはずで、ということは、これから数日のうちに、バター食べてぇ!という恐ろしい依頼がやってくるはずだった。
・・・由紀夫の食欲は、それを想像した時点で、一度落ちた。
冷蔵庫を閉じて、しばらく考えたのだけど、ともかく冷蔵庫の中に食べたいものはない。
それじゃあ何?と考えていると、そうだ焼きそばが食べたいな、と、思えた。
それもカップ焼きそば。UFOではなく、一平ちゃん夜店の焼きそばがいいな、と。
早坂家には、インスタントラーメン棚があるのでそこを覗いてみたが、あるのは、すがきや味噌煮込みうどん、カップヌードルシーフード、SMAPがCMをしていた時代のスーパーカップ(正広が記念としてとってある。そんな古いものもう恐ろしくて食べられないし、食べたら怒られるに違いない)、さっぽろ一番塩ラーメン(袋)、などなど、いっくらでも出てくるのに、なぜか焼きそばが一つもない!
これは買いに行かねばなるまい!
すっかり一平ちゃん夜店の焼きそばモードに入ってしまった由紀夫は、Tシャツ、ジーンズの上に、正広のおかげで有り余っているユニクロフリースを着て、部屋を出た。
ジーンズのポケットには、1000円札が一枚入っている。
コンビニ、コンビニ〜、と一番近くにあるコンビニを目指し、焼きそば、焼きそば〜、と棚を見ると。
むむ!!
UFOしかないじゃないか!
季節は冬。
これからのインスタント棚は、あったかーい、ラーメンやらうどんやらで占領されてしまうのだった。
むーー!UFOじゃないんだよなー、一平ちゃんなんだよなー・・・!
訳の解らないこだわりを持って、さらなるコンビニを目指して進み出した由紀夫は、まさかそれから1時間半も帰ってこれなくなるということを知る由もなかった。

1時間半後。

由紀夫は手ぶらで戻ってきた。
どーーーしても!一平ちゃん、夜店の焼きそばが見つからなかったのだ。ムキになって入ったコンビニ4チェーン7店舗。スーパー2店舗。全部歩きだったため、時間もかかったのに、見つからない。
コンビニにも、スーパーにも、美味しそうなものは色々あったのだが、一度モードに入ると変わらないのが由紀夫のいいところだったり、悪いところだったりする。
困ったなー・・・。
おなかもすいたから、ここは、近所の中華料理屋で、特製塩焼きそばで手を打ってやってもいいのだけども、特製なだけに、1050円する。
手持ち現金、1000円。
50円まけてくんねーかな。なんちてー。
一人で会話をしながら部屋まで戻ってきた由紀夫は、正広が起きてれば一緒にいくか、と思いながら階段を上がり、ドアを開けた途端。

「にいちゃーーーん!!」
弟の叫び声に迎えられた。
「えっ?」
ドアを開けたままギョっと固まっていると、ばびゅん!と正広が近寄ってきた。それはもう、あたかもCGのようにすばやく、目の前に。
「どした??」
「モーリシャス行こうよぅーーーーーー!!!」

「・・・毛利指圧?」
「・・・も、もーりしゃす」
「何それ。どこ?」
「モーリシャスだよぅ〜、綺麗なんだよぅ〜」

はっ!
わ、忘れてた・・・!
由紀夫としたことが、今朝の朝刊チェックをしていなかったのだ。
慌ててさっき拾ってきた新聞を見たら、昼間の再放送枠に、『インド洋の楽園モーリシャス』という番組があるではないか!
「あのねぇ、あのねぇ、それで、ザ・レジデンスってホテルに泊まるの!すっごいんだよー!全室にメイドさんがついてるんだってー!全室に一人ずつなんだってー!それでそれで、客室の3倍の従業員がいるんだってぇーー!!」
正広の目はキラキラと輝いている。
頬は薔薇色だ。
「いつ行くー?いつ行くぅーー??」
「いつって、インド洋?インド??」
「あー、なんで兄ちゃん帰ってきてくんなかったのー?もぉ、すっごい綺麗だったんだよー!海とかー!」
正広は、テレビの旅番組が大好きだ。
かつて、メトロポリタン・ジャーニーという番組があったが、まだ入院中だった正広は、いつか行きたい!と前向きな希望を持ってその番組を見ていたほどだ。
「モーリシャスッ♪モーリシャスッ♪モォーリシャスっ、にぃ〜、いっきまっしょおー♪」
モーリシャスに行きましょう音頭(作詞・作曲溝口正広)を歌いながら、正広はウキウキと世界地図を広げる。
「んーーとおーー、インド洋、インド洋・・・・・・・・・・・、って、どこ?ん?ここ!ここだよ、兄ちゃん!」

ここ!と指差され、早く早くと手招きされ、由紀夫は仕方なくベッドに地図を広げている正広に近寄る。
「ここ!ね!ここインド洋!」
「いや、インド洋はわかるよ。モーリシャスがどこだって?」
「んっとんっと・・・どれだろ。どれ??」
1枚で全世界を見るようになっている地図に、モーリシャスは見つけられなかった。
「あれぇ?」
「ないんじゃないの?架空の島なんじゃないの?モーリシャスって」
「そんな訳ないじゃーん!後宮小説じゃあるまいしー!」(M木S子が、後宮小説というアニメを見ながら、中国にこんな国あったよなー、と思い込んでいたが、まったくもっての架空の国にすぎなかったという故事に基づく)

で、探し出したら、小さな小さな島が発見された。
「これがモーリシャス・・・!インド洋の真珠・・・!」
「真珠ー?インド洋の楽園だろ?」
「あぁん、もぉ、兄ちゃんにはロマンってもんがないのっ?」
べしっ!と腕を叩きながら、正広は日本との距離を指で測ってみる。
「これって、1cmが何キロくらいの地図?」
「・・・いや、そういう地図じゃないと思うぞ?」
この種類の世界地図では距離を測っても意味がない。
「どれくらいかかるのかなぁ」
「直行便なんてないだろ。乗換えとかで時間かかんじゃねぇの?」
「あーーーーいきたーーい!モーリシャスーーーー!!行こうっ?ね?行こうねっ!いつ行く?いつがいい?兄ちゃん、いつヒマっ?」
そして、もう残り少ない、12月のカレンダーを持ってきて、いつ!?と真顔で聞くのだ。
「・・・そ、そゆことは、サンタさんにお願いしなさい・・・」
「サンタさんとモーリシャスぅーー??」
ぶーぶーぶー、と正広は不服の声をあげ、来年でもいいよぅ、と来年のカレンダーも持ち出してきた。
「はー・・・、嬉しいなー、ザ・レジデンスー・・・!」
「う、嬉しいって、おまえ行く気満々か!」
「え!行くよ!行くに決まってんじゃん!俺、本買ってくる!モーリシャスの本!」
「待て待て待てーー!!」
ぴょーーん!と寝巻き同然の格好ででかけようとする正広の首根っこをつかむと、ぴょーんと体が戻ってくる。ベッドに正座で着地した正広に、腹へってない!?と持ち出す。
「・・・減ってる、けど・・・」
「あそこのさ、塩焼きそば食いにいこうかと思ってんだけど、おまえ行かないの?」
「えっ!あの、あの、俺、ヒスイ餃子も食いたい・・・っ!」

よし!
まずは気持ち反らし成功っ!
心でガッツポーズをした由紀夫は、正広を連れて中華料理屋へ向かい、塩焼きそば、ヒスイ餃子にプラスし、点心の数々を心行くまで食べさせ、あぁ、香港行きたいねぇ、と、ぐっと日本に近いところにまで正広の気持ちを引き戻したのだった。
それにしても、なんで土・日ってのは、旅番組が多いんだよ!
だから由紀夫は、あらかじめ休日の旅番組チェックをして、テレビを塞いでゲームをしたら、映画を見たり、はたまた外に連れ出したりしていた。
そうじゃないと、いつまでも、いきたーい、いきたーいと言いかねない正広だ。
あぁ、自分が一平ちゃん夜店の焼きそばなんかを食べたがったばっかりに・・・!
この後、本屋に行かさないためにはどうすれば・・・!
「あ、正広、あそこのバッティングセンター、上原入ってたぞ」
「え!い、行かなきゃ!」
上原の投げるボールが打ちたい!と、正広は張り切ってバッティングセンターに行き、打てないー!キレてしまい、何時間いるつもり・・・というほど打ちまくった。
その後、おなかすいたー!という正広を焼肉屋に連れていき、やっぱり韓国か!と、ますます日本に近づける。
韓国なら、土・日でもいけるしな、という由紀夫の作戦は、見事に成功し、ちょっと日帰りもやってみたいねぇ、なんてノンキな話で一日は終わった。

やれやれ、と眠った由紀夫は、飲みなれない韓国の酒のせいで、なかなか起きられなかった。
休みは今日で終わりという日曜日。
まだ、寝てようかなぁとぼんやりしていたら、突然体をゆすぶられた。
「兄ちゃん!兄ちゃんっ!!」
正広の切羽詰った声。
「・・・ん・・・?」
「兄ちゃん!行かなきゃ!!」
「え・・・どこぉ・・・?」
「ベトナム!」

・・・ベトナム・・・?

「ベトナムだよー!ベトナムーーー!!」
え!と起きあがり、正広がとってきていた新聞に目をやると、『魅惑のベトナム滞在記』という番組名が飛び込んできた。
「ベトナムだよね!ドクだよ、ドク!いかなきゃベトナム!お土産はアオザイだぁ!!」

世の中の旅番組なんか、すべて消えてしまえと、早坂由紀夫は思っている。


モーリシャスが国だって知ってました?私は先週初めてしりましたよ。ザ・レジデンス、泊まりてーーー!!

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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