天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

このページの画像は、すべてyen@gallery様から使わさせていただいております!皆様も遊びにいらしてくださいね!

ギフト番外編85話中編『21世紀に届ける』

「・・・。君は、あれかな。田舎から都会へ、夢を求めて上京してきた昭和初期の女学生なのかな」
「い・・・いえ・・・」
稲垣アニマルクリニック助手、草g剛は苦しんでいた。
ずっと、胃がムカムカして吐き気が治まらない。
「どうしてこの世紀末の大都会を生きる男が、見知らぬ人からもらったチョコレートを食べようと思うかなぁ」
「そ、そでずね・・・っ」
バタバタっ!とトイレに駆け込んでいく草g助手を見て、稲垣医師は、やれやれ、と両手を上にして肩をすくめた。

yukio
 

「兄ちゃん、兄ちゃん!」
お歳暮持って、しぃちゃん連れて、稲垣アニマルクリニックへ行っていた正広が慌てて帰ってきた。
「うわ、寒そー!」
「寒い寒い!あー!しぃちゃん大丈夫ぅーーー!!」
すでにフリースでは間に合わない!ともこもこダウンを着ている正広は、温風ヒーターの前に座って、懐からしぃちゃんを取り出す。
いえ、私はあったかかったですが。
と平気な顔のしぃちゃんは、部屋の中をぱたぱたと飛んで、巣箱に戻っていく。
「耳ー!耳ぃー!」
「耳冷たいよなぁ」
ぺと。
「ぎゃーーーー!!!」
寒風で冷たくなってる耳に、さらに冷たいものを押し当てられ正広は絶叫。何をする!と振り向くと、それは兄の手だった。

「・・・な、何やってんの・・・」
「・・・米を研いでおりました・・・」
「・・・・・・お、お疲れ様でございます・・・」
ヒーターの温風を背中に受けながら、正座して丁寧に頭を下げる弟に、いやいや、と手を振り、さ、続きをするか、とキッチンに行こうとした由紀夫は、あ!と一声あげた正広に止められる。
「大変、大変!それ、大丈夫なものっ?」
「大丈夫なものって、何?米が?」
一度洗い出すと、水がにごらなくなるまで洗いたい、という変なこだわりを持っている由紀夫は、再び寒さのため赤く染まっている手を水につけようとしていた。
「あぁ、お米は大丈夫かぁ。昨日も食べたもんねぇ・・・」
「どした?」
「草g先生がね」
「うん」
「・・・具合悪くしちゃってて」
「今行ったら?」
「すごかった。控え室→トイレ→控え室→トイレって往復してたよ」
「風邪かぁ〜?って、・・・食中毒?」
正広の心配さ加減から推測していうと、正広はこっくりうなずく。
「稲垣医師が言うには、拾い食いしたからだなんて言うんだけど、まさかそんなことするはずないじゃん?だから、イロイロ聞いたら、なんか、親切な人にもらったチョコレートを食べてからおかしいって」

「チョコレート!?」

「え!?う、うんっ」

突然大声をあげた兄に、正広は驚いた。
「ど、どしたの・・・?」
「・・・いつから具合悪いって・・・?」
「チョコレート食べてから?」
「それって、いつ!?」
「いつって、今日の夕方?」
正広の答えに、由紀夫は大きく息をついた。
「・・・何・・・?」
「いや、俺さぁ、チョコレート上げたんだよ、草g先生に」
「え、そうなんだ。いつ?」
「昨日の、夜」
「・・・じゃあ、違うよねぇ・・・」
「違うだろ。そりゃ、あの人だったら、俺からもらったチョコレートで具合悪くしたら、俺の名前を出したりはしないだろうけど、あれだぜ?ロッテアーモンドチョコ。昨日の夜、おまえが残り平らげた」
「全部一人で食べたみたいに言わないでよー!」
「ほとんど一人で食べただろー?」

なんてところで、そういやおなかもすいてたんだ、と再び米研ぎにかかった由紀夫は、やっぱり水つめてい!と正広の首筋に触りに行き、またもや悲鳴を上げさせた。

親切そうな人だったのに・・・。
ようやく吐き気も治まり、一人の部屋でひっそりベッドに入っていた草g助手は、寂しく思った。
結局今日も発見できなかったノイハウスを求めて出かけたデパートで、がっくりとベンチに座っていたら、顔色悪いですよって心配してくれた。
疲れてる時は、甘いものがいいんですよって、綺麗な包み紙に包まれたチョコレートをくれた。
・・・甘くって、美味しかったのに・・・。

いや。
と、草g助手は首を振った。
たまたま悪くなってただけなんだ。チョコレートが悪くなっていたのは、あの人のせいじゃない。あの人の好意は、好意として、ありがたくいただいておかなくちゃ!それが人の道だ!
草g助手。
稲垣医師の言う通り、コンクリートジャングルを生きていくには、あまりにピュアなお人柄だった。

寒い夜は鍋に限る。
それも、体の内部からあったまるキムチチゲ!
「からーー!」
「かれぇーー!」
どうしてこういう時、人は、辛さの限界に挑戦しようとしてしまうのか。早坂兄弟も、かえって体に悪いわ!というくらい、辛い鍋をごはん、わしわし食べながら平らげて行く。
そして、活性化された体は、脳まで活性化していくのか、ふと、由紀夫はつぶやいた。
「チョコレート、花束、バック・・・」
「え。それをお題に落語のごやるの?」
「いや・・・。今日、変なことがあったけど、それって、全部俺に関係あるのかな?と思って」
「・・・草g先生は関係ないんじゃないのぅ?」
「でも、昨日、俺もチョコレート渡したし、花束届けたのは俺だし、まぁ、バックは知らないけど、取られた子とは会ったし」
「・・・取られたのは、兄ちゃんに会うために、事務所に来た時だったし」

「・・・・・・」
「・・・・・・」

しばし、部屋の中には、辛い鍋が煮詰まっていく、グツグツという音だけがしていた。

「あれ?」
「・・・あ、あれ・・・?」
「俺か??」
「うそぉ。兄ちゃん、違うでしょう!」
正広は目を丸くしたが、由紀夫は首を傾げて考えている。
「ちょっと、草g先生から話、聞いた方がいいかぁ?」
「あ、じゃあ・・・。なんか、食べられそうなもの・・・」
と、二人の目線は、ぐぅつぐぅつとなおも辛さを増していく鍋に注がれたが、吐き気で苦しんでいる人間にこれを食べさせると、上げるだけでなく、下げる恐れがある、ということで却下。
「レトルトのおかゆあったや。あれにしよ」
美味しいキムチチゲは、次の日、キムチ雑炊にすることで決着をつけて、ぬくぬくとあったかい格好になった二人は、草g助手のアパートへ向った。

「こんばんはー!」
ドンドンドン!
草g助手のアパートは、『ザ・アパート』
これだけ草g助手にふさわしいアパートはあるまい、というほどの、完璧なアパート。すなわち、2階建てであり、鉄の階段が外についている。もちろん、その階段は、ガンガンとうるさく響き、それぞれの家の前には、洗濯機が置かれている。
草g助手の洗濯機は二槽式であり、ドアにチャイムはない。
「・・・野長瀬のうちみてー」
「草g先生ー、溝口ですー」
・・・正広くーーん・・・?
「あ!生きてる!兄ちゃん、生きてるよ!」
「縁起でもねぇこと言うな!」
「入りますねー!」
草g助手の部屋は、ちょっと散らかり気味の2Kで、草g助手は、奥の部屋のベッドに入っていた。
「大丈夫ですかぁ・・・?」
「あ、うん・・・、ちょっとおなかすいちゃったんだけど、食べたらまた具合悪くなっちゃうかもしれないから・・・」
「おかゆ、とかでもダメですか・・・?」
「梅干は?」
由紀夫が顔を出して、にこっと笑う。
「お湯沸かしてもいい?」
「すみません・・・お願いします・・・」

とりあえず、梅干湯でも飲みなさいと、大き目の梅をいれたマグカップを渡され、ゆっくりゆっくり飲んでいると、ちょっと胃が落ちついてきたような気がする。
「先生、大丈夫ですかぁ・・・?」
「うん。心配かけちゃって、ごめんね。大丈夫だよ」
「チョコレート食べて具合悪くしたって?」
「そうなんですよ。これ、なんですけど」
草g助手は、着ていた服のまま、ベッドに入っていたので、上着のポケットから、金色の包み紙を取り出して見せる。
「綺麗でしょう?中も美味しそうだったから、すぐ食べちゃったんですよねぇ・・・」
「アーモンドチョコも一気してたしな」
「見てたんですかっ!?」
「3粒一気」
正広に言うと、自分なら、8粒くらい一気行ける、と胸を張られた。
「いいんだよ、別にリス化しなくても・・・」
ため息をつきながら、由紀夫は慎重に包み紙を自分の手に乗せた。
「・・・お兄さん・・・?」
「これ、田村に調べてもらうわ」
「えっ?」
いや、10粒くらいでも?と考えていた正広が目を見開く。
「指紋までは無理でも、中に何が入ってかくらい解るかもしれないし」
「え、いやそんな・・・。悪くなってるだけだと思いますよ・・・?」
「それならそれで、心配することないけど・・・。ちょっと変なことが続いてるから」
「どんな人だったんですか?」
「え?それ、くれた人?」
由紀夫の手のひらを指差した草g助手は、ちょっと考えて、普通の人でした、と答えた。
「普通の・・・。僕くらいの年の男の人でしたよ。優しい顔した」
「服とかは?」
「服・・・。フリース着てたかな。それとジーンズと、普通の」
「普通って、ビンテージじゃないってこと?」
正広は、草g助手の趣味が、ジーンズだということを知っている。
「そう。普通の。現行モデルで・・・。どこのだろ。リーバイスかな」
由紀夫は首を振った。
「どこにでもいそうだな」
「そうですねぇ。変な顔でもないし、ものすごくカッコいい訳でもなかったし、でも、優し〜い、顔でしたねぇ」
「草g先生みたいに?」
「え。いやいや、僕はそんな・・・」

梅干のおかげか、ちょっと体調が戻ってきた草g助手はおかゆも食べて、その後具合悪くなることもなく、早坂兄弟は1時間ほどで部屋を出た。
「・・・田村んとこ行ってみるかな」
「あ!俺も俺もー!」
わーい!とはしゃいだ正広は、田村トラップ、さよなら2000年バージョンにひっかかってしまい、頭上からの金だらいが背中直撃。
怒り狂った由紀夫が、成分分析のみならず、指紋採取、および、改造PS2の徴収を要求。
そんなダウン着てて、痛い訳ないだろぉーー!!という田村の叫びは、『いたいよう。にいちゃん。いたいよう』という正広の演技の前には無力だった。

そして、3日後。
田村からの連絡がやってきた。


やるなぁ、ひろちゃん。金だらい、多分全然痛くなかったんだと思うんだぁ・・・(笑)

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

今までのGift番外編へ

What's newへ

SMAPレポートへ

SMAPメニューへ

トップへ