天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

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ギフト番外編86話前編『栗を届ける』

よく考えてみれば、ここんとこ栗ばっかり食べている。
もう冬なのに。
なぜか栗を大量に・・・(笑)

yukio
 

「これって、いつ頃からあるんだっけ」
腰越人材派遣センターでは、甘栗むいちゃいましたが、ちょっと流行っていた。
今更だが流行っていた。
「こないだですよ!ついこないだ!」
「えー。もう見飽きた気がするー」
野長瀬と典子の間には、深くて暗い年齢さがあった。
野長瀬にとって、甘栗とは、手を真っ黒にしながら食べるものだったのだ。爪の間も真っ黒にするものだったのだ。
でも、やっぱり進化するもんなんだね!こんなに簡単に甘栗が食べられるようになるなんて!
「なんか、気づいたらあった気がするー」
仕事中のおやつに、ホントの甘栗は食べられないけど、これなら手が汚れないから簡単でいいよねーと正広も喜んで食べていた。

しかし。

「あんたたち!!」
冷たい風とともに、恐ろしい声がした。
ぴきっ!と固まる3人。
「あれ?奈緒美さん」
「社長、今日はもう、帰らない予定だったんじゃ?」

「ごちゃごちゃいわなーい!!」
氷点下の怒鳴り声が、より一層3人の体を凍えさせる。
「そんなもん、食べてるんじゃなーーい!」

「「「えっっ????」」」

昨日まで。
いや、今日のお昼にエステ行ってきまーす!とでかけるまで、一緒に甘栗むいちゃいましたを食べていたはずなのに・・・!
「な・・・、奈緒美さん・・・・?」
「どしちゃった、ん・・・ですか・・・?」
甘栗むいちゃいました仲間の変貌を、3人は、ただ黙って見上げることしかできなかった。

「あんたたち、そこに座りなさい」
社長用デスクの前に正座させられる3人。なぜかBGMは、母さんの歌。
かーーさんがぁ〜♪のメロディーに合わせ、奈緒美はゆっくりと言うのだ。
「甘栗というのは、一つ一つ、自分で殻を割って食べるものなのよ。平らな側面に、爪を入れ、両脇からぐっ!と押した時の抵抗・・・!そして、その抵抗も、切れ目には適わず、ぱくっ!っと割れた時の快感!逆に殻に栗の実がくっついて割れた時の哀しみ!!あぁ、人生は、山あり、谷ありなのねぇ!!!」
「そんな大げさな」
寒波の中、一仕事終えて帰ってきた由紀夫は、この冷たい耳に必要なのは温かいタオルであって、奈緒美の訳の解らない寝言ではないと強く思うのだった。
「あ、兄ちゃん、お疲れ様ですー」
「お疲れ様です」
「あ、あの、あの」
正座したまま、いいですかっ?と奈緒美を見上げる正広に、奈緒美は、ひらひらと手を振る。
「ちょっと待ってねーー!」
と、元気よくキッチンに向おうとした正広は、わずかな時間の正座で、足をしびれさせ、おっとっととソファに倒れ込み。

その後、4人がかりで足をくすぐられるという気の毒な目にあった。
ただ、兄のために電子レンジで蒸しタオルを作ってあげようとしただけだったのに・・・!うう、と涙をにじませる正広だというのに、すっかり体もあったまった由紀夫は、うひゃうひゃ笑いながら、おみやげに、と、お菓子を取り出した。
「うわ。何これ」
美味しいもので、簡単に機嫌のとれる正広は、すちゃっ!とソファに座りなおし、恭しく兄からお菓子を受け取る。
大きめの箱に、5つ。大きなお饅頭が入っていた。
「でっかいわねーこれー!」
「なんか、行列できてたから、買ってきた。出来たてだったんだけど、冷たくなっちゃったな」
「あ、じゃあ、ちょっとあっためてみる?チンする??」
「じゃあ、やってきますね」
受け取った典子がキッチンに消え、正広は、無意識にしていた正座から足を崩そうとして、
「あっ・・・」
キラン!
3人の目が輝く!

「いやぁーーーー!!!!」

そして、典子の耳に、絹を裂く悲鳴が届いた・・・。

そんなに人の足がしびれたのが面白いか!面白いのか!!と正広にキレられたため、社長の椅子におすわりいただき、下にも置かぬおもてなしをさせられた腰越人材派遣センター一同だったが、そのお菓子、栗福には、いたく満足した。
小さなお殿様状態の正広もいたく満足した。
そして奈緒美は、再び甘栗というのは!と語り出したのだ。
「いつまでも、元気だねぇ・・・」
ちょっと呆れたような由紀夫の言葉に、当たり前でしょうが!!と奈緒美は胸を張り、健康管理もできないような人間が、経営者として一流だとお思い!?と高笑いした。
「いや、そうは思わないけど、一流の経営者と奈緒美の間には、なんの関係もないんじゃあ」
「どーゆーことよーーー!!」
きぃ!と怒った奈緒美は、どいてどいて、と正広をどかせて、社長椅子に座る。

「まったく、あんたたちは口ばっかり達者なんだから!仕事してんの、仕事っ!」
「俺はしてますよ。他の3人は知らないけど」
「やってますぅー!!あ、ほら、奈緒美さんに見てもらわなっきゃいけない書類もたっぷし!」
「そうそう。こちらにも、ハンコを」
「社長、パーティーのお誘いも来てるんですけれど、どうします?」
甘栗むいちゃいましたを食べながらでも、仕事はしていた面々。それぞれのデスクから、これーと、書類の束を持って現れる。
「いやー、助かりました。今日はもう帰ってこられないって思ってましたから」

「こっちは、まだいいんですけど、これは、明日までに見てもらえますか?」
「K社の新社屋完成披露なんです」
わらわらと机に群がり、口々に喋る3人。あいつら、奈緒美のことを聖徳太子とでも思ってるのかしらん、と由紀夫はソファに落ちつこうとして、ふと奈緒美を見た。

「・・・奈緒美?」
「え?」
様子の違う由紀夫の声に振り向いた正広は、そのまま首をひねって、座っている奈緒美の顔を覗き込む。
「奈緒美さん!?」
「えっ?社長っ?」
典子や、野長瀬も覗き込んでみたら、奈緒美は、エスメスのケリーバック(もどき←普段遣い用。フィリピンからの輸入もの)の中から、こともあろうに、天津甘栗の袋を取り出そうとしているところだった。
「奈緒美さん!まだ栗食べるんですか!?」
「甘栗よ、甘栗。皮を自分で剥いて食べるのが甘栗の醍醐味なの!」
「だ、ダメですよ!ここで食べちゃ、書類が汚れるじゃないですか!」
「だから、甘栗剥いちゃいましたにしたんでしょ?社長ー!」
「うるさい」
奈緒美は、甘栗の袋をでん!とデスクの中央に据える。3人は慌てて書類をどかせた。
「まずはこれを食べてからです!」
「食べてからって、全部食べるつもりじゃないでしょー!?」
「あら。こんなの5人もいれば、すぐじゃない」

こういうことを仕事中に強要する経営者は絶対に!絶対に、一流ではない。と由紀夫は思ったのだが、正広が不器用なため、栗を割るのはどうしても由紀夫の仕事になる。
由紀夫が割って正広が食べ、由紀夫が割って、野長瀬が食べ、由紀夫が割って典子が食べ、由紀夫が割って奈緒美が食べ。
「待てーー!!おまえら、全然割ってねぇじゃねぇかーー!」
「だって、由紀夫びっくりするほど器用なんだもん」
「びっくりした!兄ちゃんすごいね!なんか、兄ちゃんがやったら、全部ぱくって割れるような気がする!」
だからって!と、怒りながらも、基本的に面倒見のいい由紀夫は、500g入り甘栗の8割をむかされた。
「うわ、でも、兄ちゃん、この爪・・・」
「うわー、いたそーー・・・!」
ちゃんと短く切ってある爪が、黒く汚れて、何やら痛そうな状態になってしまっている。
「もー、やだ。俺、当分甘栗見たくねぇ」
ムっとしながら手を洗いに行った由紀夫は、帰ってからも、指がいたーい指がいたーいと文句を言い、正広に、足がいたーい足がいたーいと言い返される羽目に陥った。
「でも、なんだよ、あの甘栗」
「奈緒美さん、ほんっとに今日のお昼まで、甘栗むいちゃいました、喜んで食べてたんだよ?だって、奈緒美さん、いっつも爪綺麗にしてるじゃん。だから、普通の甘栗なんて絶対割れないし、多分、もっただけでもちょっと汚れるから、イヤなんだと思うけど・・・」
「・・・それにさぁ。俺が剥いて渡してるんだったら、甘栗むいちゃいましたと変わらねぇじゃん」
「・・・あ。そっか」
奈緒美の理屈には、根本的な矛盾がある。
早坂兄弟は、今度同じようなことがあったら、その論理の破綻をついてやろうねー、なんて言い合い、まぁ、指と、足は、お互い痛み訳ってことで、と仲直りした。

「だから矛盾してんじゃん!!」

そのセリフを、すでに翌日言わされることになろうとは、知る由もない、幸せな夜だった。

つづく


栗福は、信州のお菓子。1度に作れるのは6個という、焼き菓子です。鯛焼き機は、鯛の形にへこんでますけど、それが栗の形になっていて、そこにタネを流し込み、餡を置いていきます。あ、1度に12個の型にタネはいれます。その半数に栗をおいていくんだけども、この置き方には法則が!最終的に二つずつ重ね合わせるようになっているのだけど、それが、鉄板の外周に並べやすいように、栗の置き方に法則があるのです!!真中あたりで作る時は、3列×4行で作るので、中の2行に栗をいれて、1行目、4行目にかぶせていくようになるし、端っこで作る時は、1列目には栗を入れず、2行目は中2列、3行目は4列すべてに栗を置き、1行目全部と、2行目の上下2つにかさね合わせるようになるのです!
・・・ごめん、すごいわかりにくいな。今も、自分で図を描きながらですわ・・・。
あ、でもその法則性が楽しくて、また作ってる人の動きに無駄が無くて、1度にできる数の少なさから、焼きあがるまで、10分や20分は待たされるんですけど、楽しいです。
信州展、また来てくれないかな・・・。一人なのに、5つも買っちゃった・・・(笑)

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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