天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?
『Gift番外編』
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ギフト番外編86話中編『栗を届ける』
前回までのお話「奈緒美が甘栗にとりつかれた。甘栗星人と化し、毎日甘栗を会社に持ってくる!そして、甘栗むいちゃいましたは、甘栗として邪道だ!というのだ!誰か知らない人が剥いた甘栗なんて食べたくない!とワガママを言う奈緒美・・・!ちなみに、みかんの缶詰のみかんも、外側の皮を剥き、ふさに分けるのは人力だ!1kgあたり120円〜240円くらいのバイトがあるらしいぞ!」
しかし、奈緒美の甘栗攻勢は、それから3日でなりを潜めてしまった。
「あれ?社長、甘栗は?」
毎日楽しみしていた野長瀬が尋ねると、尋ねただけで、ファイルが飛んできてしまう。
「いったー!」
「な、奈緒美さんっ?」
「甘栗、甘栗って、あんたは甘栗大臣か!」
昨日まで、甘栗女王だった奈緒美の豹変ぶりに、腰越人材派遣センター一同は、固く口を閉ざす。女王はお怒りだ。女王の逆鱗に触れると、多分、くそ寒い中、どっかの行列が出来てる店までいかされて、何か冷たいものを買ってこさされるとか、されてしまうに違いない。
そして日常が帰ってきた。
のだが、奈緒美がどうも元気がない。
「奈緒美さんさぁ、最近元気ないよねぇ」
また新作チョコレートみっけ♪とこっちはウキウキ顔の正広が言った。
「寒さが骨身に染みてんじゃねぇの?」
「あぁ、そうかも」
「え?」
生チョコおいちー!と幸せーな顔をした正広は、首を傾げている兄に向き直る。
「こないださぁ、俺が買っといたチョコ、兄ちゃんが食べちゃったじゃん」
「あ?あぁ、でかいキットカット」
文鳥柄チョコレートBOXを開けて、今は食べないよ、今は食べないけど、何が入っておくか見ているの。ふふ、とにっこり笑った正広は、その顔を兄に剥けた。
「あれさぁ、机の引出しにいれてたじゃない?そんで、おでかけする前に、引き出しあけて、うわーん、帰ってきたらキットカットたぁべよぉーと思ってたのに、それがなかった時の!それがなかった時の!!」
由紀夫は思い出す。
一仕事終えて帰ってきて、正広の「ひろちゃん」シャチハタを伝票に押す必要があったため、勝手にあけた引き出し。
その中に転がっていたキットカット。
それは確かに大きめサイズではあるけれど、通常のキットカットの箱よりは小さくて、由紀夫はてっきり試供品だと思ったのだ。
「ちょっと疲れてたから甘いのがいいかなって思ったんだよ!んだよ、いつまでも、グチグチとぉ!」
「いや!ちょっと聞いて!」
びしぃ!と正広は手を由紀夫の顔の前に付きだし、言葉を止めさせる。
「その後兄ちゃんには、色々チョコレートも買ってもらったし、キットカットなんて、コンビニ行けばいくらでも売ってるから、すぐにでも手に入るんだよ!それはいいの!それはいいんだけど!この場所で、いつでも自分を待っていてくれるチョコレートがいなかった!って時の寂しさは!その瞬間の寂しさは、どうしようもないんだよ!!」
例えるならば・・・、宙を見上げて正広は言う。
「わーい、長崎ぶらぶら節のビデオだー、今晩帰ったらみるぞー、と思っていたのに、再生してみたら、夕方のニュースを上から録画されていたようなもんなんだよ!」
「・・・恐ろしく伝わりにくいけど、言いたいことはなんとなく解った」
「ね?解るでしょ?その時の寂しさ。なんか、俺、今の奈緒美さんからは、そういう空気を感じる」
甘栗屋がなくなったんだなぁ・・・。
早坂兄弟はそう思った。
毎日楽しみにしていた甘栗屋がなくなったのか・・・。
そんな静かな冬の日々だったのだが、毎日自転車で走りまわっている由紀夫は、うわー!赤鼻の由紀夫じゃん!とショーウィンドーに映る自分を見て、一しきり笑った。
耳も赤ぇー!と、ひんやり冷え切って、痛いほどの耳を、柔らかな子牛の手袋で触る。
頬を押さえて、もうちょっとだから、がんばれよー、と自分自身を鼓舞して信号が変わるのを待っていたのだが、その横断歩道の先にあるものに目を止める。
公園があり、その入り口に小さなワゴンがあって、由紀夫の2.0を越える視力で見る限り、売られているものは甘栗。
お?
こんなところに、甘栗屋が?それもワゴンで?
もしかしたら。
これが、秘密の甘栗屋?
とは思ったのだが、これから、まだお客のところにいかなくてはならないのに、甘栗の袋を下げていく訳にもいかなかった。
いや、持っていったら持っていったでウケるとは思うけども、荷物にもなる。
帰りに寄って行こうと、元気に走り出した由紀夫は、そばを通りすぎる時、そのワゴンで甘栗を売っている男をちらりと見た。
そして。
多分、90%間違いなく、ここが奈緒美の秘密の甘栗屋だ!と当たりをつける。
すらりと背の高い、彫りの深い、若い男前!
「それで?それで、同じ味だった?」
「いや、それが帰りによったらもういなくって」
「・・・じゃあ、奈緒美さんも、いつも買ってた場所があったんだけど、そこから移動しちゃったからもう買えないってことか・・・」
甘栗屋のワゴンは、定期的になのか、ランダムになのか、売る場所を変えているようだった。
「明日、もう1回同じ場所に行ってみるわ。まぁ、間違いないと思うけどね、あの顔は奈緒美の好みだし」
「男前な甘栗屋さん・・・」
「珍しい響きだけどな・・・」
そして翌日。
由紀夫が昨日とほぼ同じ時間に同じ場所にやってくると、甘栗屋はちゃんとそこにいた。
「すいません、500g下さい」
「はい!ありがとうございます」
ちょっと渡辺謙風味。
「ここ、いつから出してるんですか?」
「ここ、では・・・。まだ1週間かなぁ」
「別のとこに出てたんです?」
「はい。前は、ちょっと離れたところで、商店街の中にお店借りるようにしてたんですけど、ちょっと、事情ができて」
店舗からワゴンに変わったという割に、彼は嬉しそうだった。
とても晴れやかで幸せそうな笑顔になった。
「え、事情って・・・」
「あの・・・」
えへ、と頭をかいた男は、あそこ、とすぐそばの病院を指差す。
「入院してるんです」
「どなたが?」
「つ、妻と・・・っ」
あはっ!と甘栗屋は笑う。
「こっ、子供がっ!」
妻子持ちかいぃーーーー!!!
「ちっ、小さく産まれちゃったからっ、まだしばらく入院が必要でっ、で、だから、そばで、と思ってっ!」
「あ、そ、そぉですかぁ」
「店の家賃を払うより、そっちの方がお金も溜まるだろうってゆってくれた人がいて、確かにそうなんですよねぇ」
「・・・商店街って、あそこの?」
場所を説明すると、そうです!と返事が来る。
事務所よりも、奈緒美のマンションに近い商店街だった。
「そこさぁ。毎日甘栗買いに来る、派手はおばさん、いなかった?」
「派手なおばさん・・・?」
「無駄に高そうな服着てる」
「あ」
「来てた?おばさん」
「え、いや、綺麗な人ですよね?」
「ううん。おばさん」
「いや・・・おばさんは・・・」
あくまでもおばさんではないとしながら、彼は、店を出るように勧めてくれたのはその人だったと言う。
「派手なおばさんが?」
「いえ、綺麗な女の人が」
きっぱり言われ、よかったなぁ、奈緒美、と由紀夫は思う。
「毎日買いに来てくれて、甘栗だけじゃあ、ここの家賃払うのも大変だろうから、しばらくはワゴンだけでやってみれば?って言ってくれて。俺も、あ、あいつのそばにいたかったし」
きゃーー!はずかしーー!!と照れる顔は、渡辺謙風味でありながら、とても可愛らしかった。
奈緒美は、いつまでも「少年ぽさ」を無くさない人が好きなの、なんてことを明言している女。
少年ぽさ、どころか、少年そのもののような彼が気に入らない訳がない。
でも、諦めたんだな・・・。
500gをニ袋と、1kgの甘栗を持ち、由紀夫は腰越人材派遣センターに戻る。
妻が退院したら、またあの店を借りたいんです!と、大照れだった彼が戻ってくる日は、そう遠くはないけれど、そうしたら、また奈緒美は買いに行くのだろうか。
多分、いくんだろうな。
小さく微笑み、今日は1kgでも、2kgでも、甘栗を剥いてやってもいいぜ!と思いながらドアをあけた由紀夫は。
「んまーーい!何これー!」
「あー、これいいですねぇーー!」
「・・・なんの騒ぎだ?」
「あ!兄ちゃん!兄ちゃん!お帰りなさい!これね、これ!焼き栗!」
「・・・焼き栗?」
「由紀夫、ちょっとこれ、美味しいのよ。ほら、あんたも!」
ほら!と渡されたのは、まだ温かく、はぜたようになっている焼き栗。
「んー?」
なんだなんだと思いながらも、はぜている分、皮は簡単に取れる。ぺきぺきと割って開けた由紀夫は焼き栗を口に入れ。
「・・・うまいじゃん」
「ねっ!」
奈緒美は、今朝までの、シオシオとした感じは、何事!というほど浮かれている。
「こんなの売ってるのねー!びっくりしちゃった!ヨーロッパの冬は焼き栗じゃない?もー、パリを思い出すわぁ〜」
「パリはいいけど、甘栗・・・これ・・・」
「甘栗?甘栗はもういいのよ?これからは焼き栗!焼き栗の時代なの!」
1kgの甘栗を手に、由紀夫は、焼き栗に群がる亡者たちを眺める。
1kgもあるんですけど。
この甘栗・・・。
「どっちだと思う?」
「え?」
「その兄ちゃんが好きだったのか、甘栗だ好きだったのか」
1kgの甘栗とともにうちに帰って、話を聞かされた正広はうーんと首を傾げる。
「今度の焼き栗も、どこで買ってきたのかによるだろうね。ただ」
「ただ?」
「世の中に、栗を売ってる男前って、どれくらいいるんだろうね・・・」
「・・・そうだな・・・」
そうすると、本当に奈緒美はとにかく栗が好きで買いつづけていたのかもしれない。
家族思いの彼のために、少しでもお金を使わない方法を考え、自分の寂しさにはかまわなかったのかもしれない。
「まぁどっちにしろ」
「ん?」
「奈緒美っぽいよな」
「そだね。奈緒美さんっぽいね」
今日は、自分でむーこおっと、たらふく焼き栗を食べたはずなのに、なおも甘栗に手を出す正広は、2分後、やっぱり綺麗に剥けないーー!と兄の手を煩わすこととなった。
残り甘栗980g。
がんばれ早坂兄弟!
負けるな早坂兄弟!
新作チョコも待ってるぞ!
高松にも資生堂パーラーができまして、その店先で、焼き栗売ってました。
んまかったです・・・!
でも。甘栗より高いんです。資生堂パーラーだから。
冷凍焼き栗も売ってるんです。それはうちでオーブンかなんかで焼くことになってんですけど、3パック5500円とかするんです。5500円!?買えるか!買えるかぁーーー!!
でも、好きなんです、焼き栗・・・。
次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!