天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

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ギフト番外編88話『そりゃあやっぱりチョコレートを届ける』

バレンタインは、ケーキ屋さんで、モンブランを食べました。モンブランには、触覚がついていて、それはもう見事なフナムシテイストなルックスをしていました(笑)すんごく美味しかったです。フナムシモンブラン(笑)

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2月14日はバレンタインであるけれど、それはそれとして、正広は病院に定期検診にやってきていた。
「あら、ひろちゃん」
「あ、こんにちは」
「ちょうどよかった。はい、これ」
入院中にお世話になった看護婦さんが通りかかり、正広は小さなチョコレートをもらった。
「わ。ありがとーございますー」
おまえは、チョコレート中毒を治してもらってこーい!と由紀夫から送り出された正広だったが、それに関しては少し無理だと思っている。

だって、だって、ほら、これだって・・・。
可愛い淡いピンクの袋に入った、小さなチョコレート。どこか冷静な溝口正広には解っていた。これは、お徳用一口チョコパックのうちの5つだということが。それでも。
美味しそう〜〜♪
なんだもんーー!

1個だけ。
とキューブ型のチョコを口にいれ、満足、満足な正広は、忙しそうな病院の様子を眺める。大きな救急病院だから、夜中でもよく救急車なんか来てたなぁと思い出した。
「ひろちゃん、今日だった?」
また別の看護婦さんに声をかけられる。
「はい、そうですー」
「あらぁ、今日だって、森先生・・・」
「あ、知ってます。昨日電話かかってきましたから」
今日は、主治医の森医師が病院にいない。出張でどうしても出なきゃいけないからと、昨日の夜電話がかかってきたのだ。

『もしもぉーし』
「はーい。あ、森先生だー」
『森でーす』
「あ、明日、よろしくお願いします」
『それなんだけれどもぉー!』
森は明るい声で言った。
『俺ねぇ、明日ちょっといないんだけど、チョコレートは受けつけてるからぁ〜』
「はい!?」
『あーあ。なんでこんな日に出張かなぁ・・・』
「あーあって、あの、俺持っていくんですか?チョコレート?」
『うん。持ってきてくれても、ちゃんと箱置いておくからね』
森は明るく言い切った。

「森先生なんだって?」
電話を切った後、由紀夫に言われた。
「・・・明日、森先生はいないんだけど、チョコレートは受けつけてますって」
「・・・受けつけてるんだ」
「・・・俺、持ってかなきゃいけないのかな・・・」
「・・・そうなんじゃないの?」
「だって、チョコなんて」
ある。
早坂家は、チョコレート中毒の正広のため、大量のチョコレートがストックされていた。ストックされていただ、正広はチョコレート中毒であり、チョコレートコレクターではないため、全部のパッケージが開いている。
「どうしよう」
「明日病院行く前に買ったら?コンビニとかで」
「だって、バレンタイン当日だよぅ!?」
「じゃあ、俺が買うのか?」
「・・・俺が買おっかなぁ〜」

そして、朝コンビニでめくるめくチョコレート棚の前で、1つだけ、1つだけ!!と心に言い聞かせながら、気が遠くなりそうな思いで1つだけチョコレートを買い、やれやれと額の汗をぬぐう。
おかげで、診察時間に遅刻しそうなありさまだった。
それは、バックの中にちゃんと入っている。さっきの看護婦さんからは、お約束のチロルチョコをもらって、今日はなかなか順番こないなーとベンチにもたれる。
チロルも食べちゃおうっかなー・・・。

「溝口さん」
「あ、はい」
名前を呼ばれて立ちあがり、診察室に入ったら、大きな段ボール箱がまず目に入った。
冷蔵庫用!?という大きな段ボールには、チョコレートが山盛りになっている。
さ、さすが森先生・・・!こんなところに、自分のコンビニチョコなんていいのかな、と思いながらも、おずおずと山のてっぺんに乗せる。
「どうぞ」
穏やかな声で言われ、はい、と丸い診察用の椅子に座る。森の代わりの先生は、
「溝口正広さん」
「はい」
「すみません、今日は森がいなくて」
「はい、うかがってます」
「じゃあ、診察しますね」
森よりも、かなり小柄な感じで、穏やかに微笑んでいる。名札を見ると、「直江」と書いてあった。
『直江先生か・・・』
「最近、体調に問題はありますか?」
「いえ、特に・・・」
聴診器を当てられ、尋ねられた正広は、小さく首を振る。そして、あ、と顔を上げた。
「でも、ちょっとチョコレート中毒かも」

バレンタインの軽い冗談のつもりだった。

なのに。
「チョコレート中毒?そうなんですか?」
「え、はい。もう食べたくて、食べたくて」
「うーん・・・」
聴診器を外した直江は、カルテにチラリと目をやった。
「チョコレートが、食べたくてしょうがないんですか?」
「・・・は、はい・・・」
「じゃあ、あれとかは、たまらない感じです?」
診察室の片隅、というには、幅を取りすぎている、森のチョコレートボックスを指差され、確かに、と頷いた。
「一体何種類、何個入ってるのとか、分類してみたいです」
「分類してみたい・・・」
表情は穏やかなままだったけれど、カルテに書き込みがされる。
「え、あのっ」
「高木さん」
直江先生が看護婦を呼ぶ。二人は目で会話をして、高木は、正広にまだ血圧測ってなかったですよね?と聞いた。
「はい、まだ・・・」
「じゃあ、こちらで取りますので」
あれれ?と正広は、また不安になる。血圧なんて、診察室でも取れるのに、なんで、なんで、なんで別室?ダメなの?チョコレート中毒って、マジに病気なのっ?あれぇっ!?

「こちらで横になってください」
よ、横になるのぅ〜っ?
そりゃあ、点滴は茶飯だった正広だから、診察台で横になることに抵抗はないけれど、血圧取るだけだったら座っててもいいじゃーん。何ぃ〜?
けれど、テキパキと腕をまくられ、血圧を測定するための帯が巻かれる。
「どうかな」
「ちょっと低いですね」
遅れて入ってきた直江先生に尋ねられ、高木看護婦が答えた。
「心拍数も」
「そう、ですね・・・」
「あの、俺、元々血圧は低いんです・・・っ」
「溝口さん」
見上げた直江先生の顔は微笑んでいた。

直江先生は、いつも微笑んでいる。
なのに、どうして恐い、と思うんだろう。

「チョコレート、食べたいですか?」
「え・・・、いや、今は・・・」
ここで、はいって言ったら大変なことになるんじゃあという恐れは、チョコレートに対するもののみならず、すべての食欲を正広から奪い取りつつあった。
「これも、ですか?」
なのに、直江はやっぱり微笑みながら、寝ている正広の顔の真上に、チョコレートを持ってくる。
「あっ!それは!」
テレビの情報番組で、午前中には売り切れると聞いた、デパ地下有名ケーキ屋の生チョコ!
「直江先生、脈拍上がりました」
高木看護婦がほっとしたようにいい、もう一度血圧を測りだす。
「血圧も、です」
「そうか」
軽く頷いた直江先生は、また真上から正広を見下ろす。
「じゃあ、点滴しますね」
「て、点滴!?なんのですか!?」
「え、チョコレート中毒なんでしょう?」
直江先生はそう言って、また、高木看護婦に指示を出す。高木が出た、と思ったドアは直ちに開き、戻ってきて、そしてその高木の手の中には。
「せ、せんせぇ!?」
「大丈夫ですよ、30分、くらいかな」
「30分って、30分って、それなんですか!?」
ビニールパックの中身は、入院・通院生活の長い正広も、見たことがない色合いをしていた。
「なんで、茶色なんですか!?」
「ホワイトチョコの方が好き?」
「えーーーー!!!ほんとにチョコなんですかぁぁーーーーー????」
「チョコレート中毒には、これが一番効くんだよ。大丈夫、保険の適用内だから」
「えーーーー!えーーーー!!保険とかー、保険とか、そんな、いいですー!そんなのーー!!」
「はい、じゃあ」
正広は暴れた。診察台の上で暴れまわった。けれど、正広の腕をつかんだ直江の手はびくともせず、チョコ点滴はフックにかけられる。
「うそーうそー!死んじゃうってそんなのーー!」
「そんな、大げさな」
アハハ、と直江先生は笑った。直江先生にしたら、大爆笑に匹敵する笑い顔だったのだが、そんなもの、正広には解るはずもなく、ひたすら暴れる。
けれど、腕の内側には消毒のひんやりした感触。
あああ、針が、もうすぐ、針が刺さって、ちょ、チョコレートが!
「これはね、ベルギーの最高級クーベルチュールでね」
「最高だろうが、最低だろうが、チョコはイヤですぅーーー!!」
と、直江先生の手が、止まった。
「チョコはいや?」
「・・・は、はいっ!!」
「そっかぁ・・・。じゃあ、高木さん」
また、目と目での会話があり、高木が両手に持ってきたものは、
「チョコじゃないですかぁーー!!」
「違うよ、これはココア。でも、ココアだと、時間はかかるんだよ、2ついれないとダメだから、1時間半くらい見てもらえる?」
「ココアもいやですってばぁーーーーー!!!」
正広は必死なのに、直江先生は、小さな子が予防注射をイヤがってるくらいにしか思っていないようだった。
「大丈夫、痛いのは、ちょっとだけだから」
「そじゃなくってー!」

どうして!?
どうしてこんなことになっちゃうの!?
助けてー!誰かー!兄ちゃーん!助けてーーー!!

「もうチョコレートなんて食べないからぁーーーー!!!」

 

「み、溝口さん?」

そして、そこはまだ待合室だった。
起きない正広の腕を持って呼んでいた先生が、驚いた顔でまじまじと見詰めている。
「チョコレートは、いいですから、診察に・・・」
「な、直江先生・・・」
「はい。じゃ、こちらへ」
「夢!?夢か!夢じゃん!」
よかった!と小さくガッツポーズで診察室に入った正広は、待合室中の人が笑いをこらえていたことを知らない。

診察室の中には、冷蔵庫大の段ボールはなかった。テーブルの上に、ちょっとしたチョコの小山があり、でも、それは直江先生へのものかもしれないと思う。
「溝口正広さん」
「はい」
「すみません、今日は森がいなくて」
「はい、うかがってます」
「じゃあ、診察しますね」
夢の中の直江先生も、目の前の直江先生も、どちらも微笑んでいて、今度はそれほど恐くはない。
確かに、笑った顔だけど、目が笑ってないじゃん?と思わせないでもないけれど、それはうがちすぎってものだろう。
「最近、体調に問題はありますか?」
「いえ、特に・・・」
聴診器を当てられ、尋ねられた正広は、来た!と身構える。ここでゆったらダメなんだよ。
「チョコレート中毒なんて」
「え?チョコレート中毒なんですか?」
俺のばかぁーーーーー!!!!!

ムンクの叫び状態になった正広を不思議そうに眺めた直江先生は、高木さん、と高木看護婦を呼ぶ。
き、きたぁーーーー!!!
逃げなくちゃ!と、足を踏ん張った正広だったが、高木看護婦は、水を張った器を持ってきただけだった。
「・・・それ?」
「これね、ちょっと変わってるんだけど」
中に小さな実が浮いていて、それをどうぞ、と食べさせられる。
「こ、これ・・・」
「それでね」
小山の中から、開いていた箱を取りだし、正広に差し出す。

あぁ・・・!これは、テレビの情報番組で、午前中には売り切れると聞いた、デパ地下有名ケーキ屋の生チョコ!
うわーーい!
と手を出した正広は、ぱくんと口に入れ。

「・・・・・・・味しません・・・・・・」
「ね、このフルーツ食べると、甘味を感じなくなるんだって。バレンタインだけど、甘いものは苦手だからって言ったら、これ食べさせられた」
えへへ!と高木看護婦がピースをしている。
「・・・それ、意味違いますよね」
「・・・違うよね」

そして、正広のチョコレート中毒は納まった。
あんな高い、そして美味しいはずのチョコレートを味わえなかったなんて、俺のバカ!!という自責の念からで、それ以来、由紀夫の中では、直江先生は伝説の医者として君臨している。


思い出せなーーい!あったんですよ、食べたら甘味が感じられなくなるフルーツだかなんだかが!あれ一体なんだったのー!なんだったのぅーーー!!

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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