天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

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ギフト番外編89話『正しい人生に届け直す』

いや、もう、何がなんだか・・・(笑)

yukio
 

その朝、早坂兄弟は、早朝散歩を楽しんでいた。
3年に一度くらい、そんな爽やかな朝もあるのだ。
白文鳥のしぃちゃんも連れて、ひんやりとした空気を楽しみつつ、どこともなく歩いていた早坂兄弟は、やっぱり散歩は川っぺりでしょう!という正広の意見により、道を外れて、土手を歩いていた。そこからなだらかに河川敷に続き、そこそこ広い川がある。
「あれ持ってくればよかった、グローブ!」
「えー!そんな嘘くらいドラマみたいなことしたくねー!」
「なんでよー!河川敷はキャッチボールでしょー!」
きゃっちぼーるって私できないのー、ひろちゃんーん
しぃちゃんの反対にも合い、正広はブチブチ言いながら歩いていたのだが、ふいに足を止めた。
「・・・あれ」
「ん?」
「兄ちゃん、あれ、何・・・?」
「どれ、って、ボート・・・?あ」
「ね?」
しぃちゃんも含め、3人で、じっと見た方向にはボートがあった。オールはなく、穏やかな川面をゆったりと漂っている。
そして、視力の悪い正広さえ解るくらいだから、異常に視力のいい由紀夫には、はっきりと見て取れた。
ボートには、人間が乗っていることが。
・・・ボートの底に、倒れていることが。
「・・・ど、どしたの、かな・・・」
「6時半だぜぇ?」
「貸しボートって、こんな時間から借りれるの?」
「・・・普通、もっと遅いだろ」
そうなると、あのボートは、昨日のうちに借りられたものだと考えられる。一晩中、あの状態で漂っていたんだろうか・・・。
「昨日は、ちょっと、寒かった、よな」
「さ、寒かった、ねぇ・・・」
もし、本当に一晩あの状態だったら!?早坂兄弟は、さぶー!と自分の体を抱きしめる。しぃちゃんも、いやー!と正広のフードの中に入ろうとする。
「死んでるってー!絶対ー!」
「警察、警察・・・」
由紀夫が携帯を取り出そうとして、たかが散歩じゃ持ってきてないということに気がついた。
「うわー・・・、どっか交番探すか?」
「あ、でも・・・」
正広は河川敷に降りて行こうとしている。
「でも、死んでなかったらどうするっ?」
「どうするって・・・、まぁ、警察まで呼ぶのは、あれか・・・」
「か、確認してみた方がいいかなぁ、どうかなぁ」
「確認すんの?死体!?」
「だよねー!やだよねぇー!」
しかし、二人と一羽は、もう河川敷に降りてきていた。川べりに近づいてもいた。
「・・・見えないね」
「うーん」
高さが変わったため、ボートは見えても、その中に倒れている人間が見えなくなってしまった。
「どうすっかな・・・」
考えていた由紀夫は、あ、と、顔を上げた。
「あの橋の上から見たら、解るか」
川だから、当然橋もかかっている。その上で待てば、ボートが通過する時に判断つけられるだろうと由紀夫は思ったのだ。
「そか!じゃ、いこ!」

ゆっくり流れるボートより早く、早坂兄弟は橋の上に到着。ぜーぜー言いながらボートを眺める。ほぼ川のど真ん中、まっすぐにやってくるボートには、確かに男が一人倒れている。
黒いコートを着て、横倒しになっているようだ。
「でも、オール上がってるな」
「オール?」
ボートの中に、オールはちゃんとあった。
「自分で引き上げた、んだったら・・・、事件性はないのかな・・・」
「じ、事件なの!?これ!」
「だって、おまえ、冬の朝にボートで漂ってる男って、これ、普通か!?」
普通では決してない。
そして、二人がじっと見守る中、ボートはどんどん橋に近づき、よし、もう少し詳しい様子が!と思ったら、急に船足が速くなった。
「な、なんでぇ!?」
あっと言う間に橋の下を通過され、ただ後ろ姿を見送るばかりの早坂兄弟はきょとんとするが、その付近が、支流からの流れの合流点になっていたのだ。
「ちっきしょ!」
それなら次の橋!と、早坂兄弟はボートを追いかけて走り出した。

ボートのスピードは上がったり下がったりで、しかし確実に海に近づいていた。
「なんだっけ」
歩きながら由紀夫が口を開く。
「昔、かな。川の真中に溺死体が浮いてたんだけど、その川の真中で、管轄が違ったんだって。どっちもやだって言ったんだけど、結局頭がある方が引き上げたとかって話、聞いたことある」
「じゃあ、この場合は、どうなるのかな」
ボートは相変わらず、川のほぼ中央をキープ。中の人間も、ほぼ中央にいた。
「右を下にして倒れてたから、えーと、どっちだ?」
今、早坂兄弟は河川敷を歩いているので、ボートの中の男がどうなったかは、解らない。それでも、次の橋では状況が解るかもしれないと歩いていたのだけれど。
「嘘ぉ」
「えっ?」
「あっち行く!」
正広に言われてボートを見た由紀夫も驚いた。それまで、まっすぐに川の真中をただよっていたボートが、徐々に方向を変えていた。
由紀夫たちのいる河川敷は、進行方向に対して右側。それなのに、左側に寄っていこうとしている。
「えーっと、あっちに渡るにはー、んー?どこだぁ〜?」
「で、でも!」
ボートはスピードを上げ、別の流れに入って行きつつあった。
「ちょっともう徒歩じゃ無理か」
「無理だねぇ!どーする・・・!?」
正広に見上げられ、由紀夫は、辺りを見まわした。結構歩いたつもりでも、所詮徒歩。距離的には大したことがない。
ということは、今は住所でいえばあの辺りで。
「あ」
「何?」
「こないだ、奈緒美が自慢してたよな。ボート買ったっつって」
「あ!ゆってた!」

『ボート!?』
『え!社長クルーザー買ったんですか!?』
『クルーザー!?加山雄三みたいなの!?』
『ひろちゃん、古いこと知ってるんだねぇ!』
奈緒美は、ホホホと得意気だった。
『ま、クルーザーってほどじゃないんだけど、やっぱり都会は混むじゃない?その点、海の上ならすいてるし♪』
まぁ、いつかあんたたちを乗せてあげてもよくってよ、ホホホホ〜、と出かけていったのが、1週間ほど前だ。
「多分、そのボート止めてあんの、この近くだ」
「え?でも、海って・・・」
「この辺りが安いって言ってたんだから、間違いない。そのボートなら、追いつけるだろ」

「・・・ボートだ」
「まぁ、モーターボートだな」
La mer Naomiと名前の入ったボートは、クルーザーどころか、見事なモーターボートだった。
「・・・釣り舟、って感じかな」
「釣り、好きだもんね、奈緒美さん・・・」
由紀夫の勘に間違いはなく、奈緒美のボートは、近くの船着場で見つかった。
「でも、キーがないと」
「あーゆー女は、こーゆーとこにキーも隠してんだよ・・・っ、と!」
ハンドルの奥の手を差し入れた由紀夫は、テープで貼りつけられている鍵を探し当てる。
「な」
「すご!」
「ポストの中とかに鍵を貼ってるタイプ」
「・・・付き合ってんの・・・?」
「そうそう。だから、ボートがこの場所にあることも、鍵のあるところも知ってるの。・・・知ってるかぁ!!」
「いだだだだだ!!!」
拳骨で正広のこめかみを心ゆくまでぐりぐりした由紀夫は、モーターボートのエンジンをかける。
「・・・兄ちゃん、ボートの免許とか、持ってんの?」
「俺は、車の免許も偽造だぜ?」
「・・・運転したこと。あるの?」
「車と一緒だろ」
しぃちゃん!
ひし!と正広は、白文鳥を抱きしめた(潰さない程度に)
俺たちに何かあったら、しぃちゃんだけでも逃げてね!ね!!
何いってるの!ひろちゃん!私たち、いつでも一緒よ!一緒じゃないの!
一人と一羽が泣きの涙で別れを惜しんでいる間に、モーターボートは川を遡っていく。そして、少し上流まで戻って、さっきのボートが流されていった、左の支流に入っていく。
「海まで、もう分かれてなきゃいいけど」
そんな兄の言葉は、恐怖と、実は、寒さに震えている正広たちの耳には入らなかった。
「あ!」
「えっ」
でも、その寒さと恐怖をこらえてそっと目を開けた正広は、目前にあのボートが近づいているのが見えた。
「と、やべ!あの先、段差あんじゃねぇ!?」
「あ、ある!急がないと落っこちちゃう!」
しばらく先には水門があり、わずかながら段差があるようで、そこで水が途切れて見える。
「前に出て、ボートに当てる」
「え」
お兄様、今、なんとおっしゃいました?と正広が問い返す間もなく、La mer Naomiはスピードを上げ、ボートを追いぬいていく。
その波で、ボートが揺れるのさえ、正広を慌てさせた。
「危ないって!転覆しちゃうって!」
「任せなさいって、こっちはボートの行く先で待ってるだけ。いくらなんでも、何かにぶつかりゃ停まるし、生きてるだったら、目も覚ますだろ」
「い、生きてるんだったら、ね・・・」
水門の手前で、由紀夫はボートをゆっくりと操り、徐々に上流に向かいつつ、方向を流れに対して垂直に向ける。
やってくるボートに勢いがあれば、横っ腹に突っ込まれることになるから、危ないのはこっちのボートも同じだった。

けれど。
流れはゆっくりで、木のボートは、こつん、とLa mer Naomiに当たっただけで、そのまま停止。
中で倒れていた男が、あれ、と目を開けた。
「生きてる」
やれやれと由紀夫がため息をついた時、正広が、あー!と男を指差す。
「直江先生じゃないですか!?」
「あれ・・・?溝口くん・・・?」
なんだ?と起きあがった直江の手から、何かが飛んで、川の中に落ちていく。
「あ、先生、なんか落ちました!」
「え?何、なんだろ」
ぱたぱたとコートをはたき、ボートの中を見た直江は、別に何も持ってなかったから、と気にしない。
「あれー、ここって・・・」
「正広、知ってんの?」
「こないだ、森先生の代わりに見てもらった直江先生」
あ!あの正広のチョコレート中毒を治したという名医!
「あ、ありがとうございます!俺、正広の兄で、早坂と言います」
「直江です」
兄と弟の苗字が違うということを、直江は丁重に黙殺し、頭を下げる。そして、3人はしばし黙った。
一人は木のボートに。二人(と一羽)はモーターボートに乗り、ぶつかった状態で挨拶をしている。
とってもとっても、おかしな状況だった。
「・・・そのボート、どうしたんですか?」
とりあえず、気になってしかたなかったことを聞こう、と由紀夫が口を開く。
「これは、あの・・・。私のボートなんですけど」
「マイ・ボート!」
「学生時代ボート部だったんで、時々乗りたくなるんですよね。それで、家の近くで、このボート預かってもらってるんです」
ちょっと恥ずかしそうに微笑む直江。
由紀夫と正広は、世の中に、こういう形でマイボートを所有している人間がいるとは想像だにしていなかった。
「て、ことは、昨日から・・・?」
「いえ、今朝、です。昨日のみ過ぎて・・・。まぁ、ぷらっと乗っちゃったんですね。あぁ、随分流されちゃったな・・・」
直江は、まぶしそうに眉間に皺を寄せながら辺りの風景を見ている。
「お送りしましょうか?」
「え?いや・・・」
「このボートで引っ張れるし、その方が早いですよ」
その申し出を、直江は少し考え、小さく頷いた。
「すみません。お言葉に甘えます」
直江は、前夜、一人ぼっちだと思うなと恩師から言われたばかりだった。自分は一人じゃない。こうして助けてくれようとしてくれる人もいる。
こういう時は素直に、甘えようと思った。

こうして、3人と一羽は、モーターボートで直江のマイボートを曳航しながら川を遡って行くことになった。
これにより、この少し下流で悪の看護婦が用意していた『恐怖!タンポポの呪い』を直江は回避することとなり、この先の人生が変わっていくことになるのだが、それを直江はまだ知る由もないのだった。


どんな川なんかさっぱり分からん(笑)段差あってもいけるもんなんかな。まぁ、いけるか!いけるよきっと!知らんけど(笑)!

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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