天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

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ギフト番外編90話『ひな飾りを届ける』

3月になったやん!早いやん!いやーーー!!!

yukio
 

明かりをつけましょ、ぼんぼりにぃ〜♪
お花をあげましょ、桃の花ぁ〜♪

そんな音楽が流れている場所に、野長瀬は立っていた。
「お嬢様に、ですか?」
側に、すすす、と寄ってきた店員がにこやかに尋ねる。
「えぇ、うちのお姫様に」
野長瀬は満面の笑みで答えた。

こ、恐い・・・!
と思っても顔には出さない、彼女はプロのデパートガール。
「どういったタイプがよろしいんでしょう?」
「そうだなぁ〜、色々あるしなぁ〜」
デパートがこの時期特設する、雛人形コーナーで、野長瀬は一際異彩を放っていた。
「今日はお一人ですか?」
「はい」
きっぱり野長瀬は言う。
「さようですか。よく、おじい様や、おばあ様を連れてみえられる方も多いんですよ」
微笑みながら言う彼女は、自力で買うつもり?というのを見極めるつもりだ。
「そうなんですか?でも」
ふふ、と野長瀬は笑う。
「智子ちゃんにはなぁ〜」
おじい様やおばあ様はいないから!とうふうふと七段飾りの前に行く野長瀬を見て、デパートガールは想像した。

じいちゃん、ばあちゃんに援助を頼む気はないってことは・・・。おそらく、親戚はあまりいないのね?
そして、こういう強面の人に、意外な美人がくっついてる場合が多い。
そして、きっとかたぎじゃないけれど、家族への愛には満ち溢れている人で、奥さんは、そう・・・。

『しょうがないじゃない。あたしが、あんたじゃなきゃやなんだもん』
とかって、半ば押しかけた美女!
きっと、この人、ほんとにしょうがない人だったりするのよね・・・。
でも、娘の名前が『トモコ』か。ふーむ。なるほど。パっと見、『流未恵』とか、『樹梨亞』とか、平気でつけそうなこの人に、『トモコ』って名前をつけさせるとは、やっぱり奥さん、相当なしっかりもの!

プロのデパートガールは、一世代前のドラマにでてきたおっちょこちょいの主人公のように、想像力豊かだった。(もちろん、こういうおっちょこちょいの主人公は、現代においても絶滅した訳ではない)

「綺麗だなぁ〜」
七段飾りを買おうとは、やはり、カタギじゃねぇな?てことは、財布は厚いな?と判断したプロのデパートガール。
イキイキと説明をする。
「こちらは、お人形本体はもちろんなんですが、お衣装も全て手作りでございまして」
「これも全部ですか!はぁー!」
すごいなぁ、と顔を近づけて、しみじみと野長瀬はお雛様を眺める。
「お人形の表情も、豊かでしょう?」
「あぁ、本当だぁ・・・。あ、これなんて、これなんて、智子ちゃんの怒った時の顔によく似てる!」
「こちら、仕丁と申しまして、怒り上戸、笑い上戸、泣き上戸を表しております」
「えー、お雛様にそんなのがあったんですかぁ〜」
上から下まで、そしてまた上まで、野長瀬はしみじみ眺める。隣の七段飾りも眺める。さらにその隣も・・・。
プロのデパートガールは、つかず離れず、野長瀬について歩き、色々と説明をした。
「でも、こちらのお雛様にも、欠点はございまして・・・」
まさか、それが欠点になるようなランクの客ではあるまい!と、あえてこれを口にした。
「え、な、なんですか?」
しかし、七段飾りって素晴らしい!と目を輝かせていた野長瀬がとたんに弱気になったことで、まさかこの人、ガンになっても、告知に耐えられないタイプ!?とびくっ!としてしまう。
「いえ、あの。大きさです」
「大きさ」
「えぇ。この奥行き」
「あ。そっか」
ぽん、と野長瀬は手を叩き、うーん、と奥行きを確かめた。
「いや、でも。置けます!」
「さようですか!」
やっぱり違うわ、かたぎじゃない人って。
プロのデパートガールはしみじみ頷いた。

「智子ちゃ〜ん!」
野長瀬は大荷物をともに、アパートに帰ってきた。
その大荷物は、もちろん雛人形!ではなく、奈緒美が買ったスーツだ。野長瀬は、お直しから帰ってきたのを取りに行くように言われていたにすぎない。
いたにすぎないのに、フラフラと雛人形コーナーに行ってしまったのだ。
だって、野長瀬には、可愛い可愛い智子ちゃんがいるのだから!
「あっ!ちょっと近くまできたから帰ってきたんだよぅ〜、智子ちゃん、元気ぃ〜?」
野長瀬のペット、巨大ミニウサギ智子(オス)は日溜りの中で、気持ち良さそうに寝そべっていた。
白い毛並みが光をはじき、あぁ、君は幸せの毛糸のようだね。(野長瀬定幸心のポエム)
「ふふ、かぁわいいなぁ〜、智子ちゃ〜ん」
幸せの毛糸をなでなでしながら、野長瀬は幸せな笑顔を浮かべる。心からの笑顔だ。
「あのね、今日はお土産持ってくるからね〜」
綺麗な綺麗なお雛様!

「遅い!」
奈緒美からののしられても、野長瀬は幸せだった。
あの、赤い毛氈。
七段飾り。
智子ちゃんのように可愛いお雛様・・・!あぁ・・・!

「ん?どしたんだ?こいつ」
ぽわぽわぁ〜ん、と夢見る表情になっている野長瀬に気づいて由紀夫が尋ねる。
「・・・雛人形買ったんだって・・・」
「娘を産んでくれる結婚相手どころか、付き合う相手もいないのに?」
「智子ちゃんに・・・」
「あいつオスだろ?」
「稲垣医師はそう言ってたから、そうだと思うんだけど・・・」
じぃ〜、っと野長瀬を眺める早坂兄弟だったが、野長瀬は、時折クスクス笑いながら、部屋のどこに七段飾りを置くかばかりを考えている。
広くもない部屋なのに。

「智子ちゃーん!たっだいまぁーー!」
野長瀬の声に、智子はぴょんと玄関まで跳ねてきた。
「と、智子ちゃんっ!」
大荷物を外においている野長瀬は、その姿に、倒れそうなほど感動する。

ただいま、と帰れば、おかえり、と迎えてくれる人がいる・・・!
それも、智子ちゃんが!智子ちゃんが出迎えてくれるなんてぇぇぇーーーー!!
人じゃねぇだろ、と由紀夫なら突っ込むところだが、今の野長瀬は智子ちゃんと二人ぼっち。よよ、と喜びに泣き崩れ、智子に背中にのっかられる。
「あ、智子ちゃん。そうだよね!そうだったよね!待っててね、智子ちゃん!このお土産をっ!」
デパートから、自ら運んだ雛人形七段飾りを、野長瀬は一生懸命設置した。
智子も、その足元でぴょんぴょん跳ねている。
なんて可愛いんだ、智子ちゃん!そんなに喜んでくれるなんて・・・!
もっと早くに買ってあげればよかった・・・。
ごめんね智子ちゃん。
こころで、そっと囁いて、最後にお内裏様と、お雛様を置いた野長瀬は、できた・・・!と満足そうに七段飾りを見つめる。
智子ちゃんは、僕の・・・、お雛様・・・!
なんちてー!なんちてー!きゃーー!!

「さ!智子ちゃん!すごいだろ!このお土産!」

じっと七段飾りを見上げている智子に言うと。
智子は、じっとそれを見上げたまま、後ろ足で、何度か軽く床を叩き。
一気にジャンプした。
「とっ、智子ちゃんっ!」
赤い毛氈が引かれた七段を、軽やかにジャンプして、最上段お雛様に到着したと思ったら、いっきなりお雛様を払い落とし、お内裏様を払い落とし、そこから、下に向かって、三人官女、五人囃子と叩き落としつづけ、ついには、単なる七段の赤い階段が現れた。
「と・・・・・・智子、ちゃん・・・・・・・・・?」
床に散らばる綺麗なお雛様。沢口靖子のように美しいお雛様の歯は、もしかしたら抜けてるかもしれない。
そして野長瀬智子は、3段目と4段目にまたがって体を伸ばし、がしがしと緋毛氈をも齧っている。

さらば、七段飾り雛人形。

そして、そんな智子の今日1日は。


春、だな・・・。
温かい日溜りの中、野長瀬智子は思った。
野長瀬のアパートで一番日当たりのいい和室、というか、彼の部屋は基本的に和室しかないが、ともかく、その和室で、巨大ミニウサギ野長瀬智子(オス)は長々と伸びている。
ウサギのマフラー!?というほど長々と。
と。
バタバタバタっ!がちゃっ!
「智子ちゃ〜ん!」
ど平日の昼間だというのに、野長瀬が戻ってきた。
「あっ!ちょっと近くまできたから帰ってきたんだよぅ〜、智子ちゃん、元気ぃ〜?」
4時間の間に何が起こると思っているんだろうと、智子は長々と寝たまま思う。
「ふふ、かぁわいいなぁ〜、智子ちゃ〜ん」
伸びている背中を、意外な繊細さでなでなでしながら、野長瀬は満面の笑顔を浮かべる。

・・・恐い。

「あのね、今日はお土産持ってくるからね〜」

土産?

ぴくん、と智子の耳が動く。
お土産が智子は大好きだ。単にご飯とか、お菓子というより、『お土産』という響きが好きだった。
イチゴだな・・・。
智子は思う。もう、この日溜りの中で食べたいのはイチゴだ!
イチゴじゃ、イチゴじゃ!!智子はイチゴを所望じゃ!
うふふふ。
白い自分と赤いイチゴ。うふふ♪

と、思っていたのに。なんじゃあこりゃあ!!!!

赤は赤でも、赤い階段じゃねぇかぁぁ!!許せねぇーーーー!!!!

七段飾り雛人形セット798000円。
イチゴ1パック500円。
智子は、1596パックのイチゴを手にできるはずだったのだ。

「智子ちゃん・・・」
くすん、と雛人形を片付けていた野長瀬は、恐ろしい考えてに取付かれてしまっていた。
まさか・・・!
まさか、智子ちゃんは、こんなにこんなに可愛いのに、ホントはオスなんじゃあ!
だから、女の子の節句の人形なんて、女々しくてやってられないって思ったんじゃあ!!!

だからオスなんだってば!!!!!


うちの雛人形はとても可愛い雛人形です。親戚の中で最初に生まれた孫にして女の子とは思えないほどのささやかな可愛らしさ(笑)

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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