天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

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ギフト番外編94話『ミシンを届ける』

裁縫とか、学校の授業でしかしたことがないです。
ボタンがとれたら、捨てようか、と思いつめたりしますし、ズボンの裾上げには異常に時間がかかります。
哀しいね・・・

yukio
 

その日曜日、早坂兄弟はそれぞれに過ごしていた。
由紀夫が仕事だったのだ。
どうして、花見客の元へプロポーズの後押しにとバラの花を持ってでかけなくてはならないのか。
桜の下でバラって、そのセンスのなさに軽くというか、はっきり由紀夫はうんざりしながら酔っ払いうごめく花見会場を歩く。
ちなみに、依頼をしてきたのは、プロポーズをしてくれ!と願っている女性側からだった。
やや!A子さんに、あんなステキな男性からバラの花束が!
いけないA子さん!そんな男は遊び人に決まっている!
もてあそばれて捨てられるのが関の山だ!A子さん!
それよりも、僕が!この僕がA子さんを幸せにするよぅーー!はい、指輪ぁ〜〜!
きゃあ、ありがとう!C夫さぁ〜ん!
「ばっかばかしい」
長い髪に桜の花びらなんかつけちゃって、そこらの女酔っ払いの視線を釘漬けにしつつ、指定された花の下に向かう。
場所取りには命をかけたの!というにふさわしい、大きな桜の下は、青年男女が入り乱れた、しかし淫靡というよりも、乱暴な花見の席となっていた。
依頼人は、絶対人には真似をさせないわ!という春らしいファッションでいます!と無茶なことを言っていた。
春らしいファッションって・・・。
少し離れた場所から、乱れている一同を見たところ、おまえだろお!!という女を見つけた。
ピンクのワンピース着て、かなり鮮やかな緑のショールを羽織っている。
「桜餅・・・!」
間違いなし!と判断し、すっと足を踏み出した。

「英子さん」
彼女は本当に英子と言った。
「今日、お花見だって聞いたんで、枯れ木も山の賑わいになればなと思って」
サクラの下にバラなんていうセンスのないことをさせられても、そのバラ自体は、淡いピンクの上品な形をしたバラだった。お値段もかなり張る。
花びらと、葉の色は、英子のワンピースと、ショールと揃いと言える。
「まぁ」
なかなか綺麗な女性だった。
アルコールのせいもあるにせよ、頬はほんのりピンク。大きめの黒目がちな瞳は、とろん。ありがとうと両手を出して、由紀夫から花束を受け取った。
「綺麗だね」
にっこり笑いながら、口調を砕けさせると、予想以上に英子の顔が赤くなった。
「え、さ、桜が?」
テレっ、という彼女に、もちろん由紀夫はとびきりの微笑みを浮かべて、何言ってるの?と首を振る。言外に君がだよ、なんてことを匂わせると、乱れていた青年男女も色めき立つ。
「だ、誰っ?」
「え、えへへ」
微笑んだまま、二人は何も答えず、そしてまた微笑みあう。
あぁ、営業笑いって疲れるな、と思っていたところで、すっくと立ちあがった男がいた。
「え、英子っ!さんっ」
英子、とは呼べない辺りに気の弱さは感じられるけれど、優しさは目一杯なんだよ、という山男風。
「え?何?椎夫さん」
彼の名は椎夫。椎茸栽培をしていて、何よりも椎茸と妻を愛した祖父からつけられた。
「英子さん、あの、これを!」
顔色は変わっていないが、声が妙に大きい。彼も酔っているんだろうかと思っている由紀夫の前に、ビロードのケースが差し出された。
「酔ってるわ・・・」
こっちに渡してどうする!と由紀夫が、こっちこっち!英子の方を目を示す。
「あ。ああ。あ、これ」
「椎夫さん・・・!」
「英子さん!」

なんでうまくいくんだぁぁぁーーー!!

おめでとー!おめでとぉー!の歓喜の中、由紀夫は疲れた体を引きずって部屋に帰った。

「ただーい、い!?」
「あっ!飛ぶっ!」
日頃、男二人暮しは思えない、こざっぱりとしている早坂兄弟の部屋が荒れていた。
「そっと閉めて、そっと!」
「何やってんだ?おまえ」
乱暴に、ではなく、普通に開けただけで、部屋に舞いあがっている色とりどりの物体は、少し、さっきまでの桜吹雪を連想させた。
「ベストを作ろうと思ってぇ〜」
「ベストぉ?」

その日曜日、正広は、お昼から、「SMAP BEST」というテレビを見ていたのだ。
「それで、木村くんが、ベストのジャケットにベストを作ろうとしてて」
「ベストのジャケットにベストぉ?」
「あ、えーとえーと、SMAPのベストアルバム用の、ベスト?」
「SMAPのベストアルバム?あぁ、あれな。おまえが12枚も買った。12枚も、12枚も買って、さらに通常版とかも買おうとしてる、あれな。CDにして24枚になる。例の」
「何が気にいらいなんだよぅーー!」
「いやいや、同じCDが12枚も、CDラックに入ってて、それが13枚になるかもしれないんだ。正広ってお金持ちだなぁ〜と思っただけで」
「きぃぃーー!!」
うるちゃいうるちゃーい!と兄に向かってものを投げつけるとんでもない弟だが、それは痛くもかゆくもない。
だって布だから。
「それで、これ何よ!」
「布!」
「布って、なんの!」
「・・・えっとぉ」
「あ!これ見たことある!

由紀夫は、その濃いブルーの布をじっと見つめる。
「シーツだろ!」
「ぎゃっ!」
「ぎゃって!」
「だって、だって!知ってるよ。これすごく高いんでしょ?知ってるけど、でも、だって俺、これやっちゃったじゃん」
「あぁ、アイロンな」
正広は、大きなシルクのシーツにアイロンをかけようとして、思いっきり高温だったため、溶かしたことがあった。その溶かされたシーツの着れっぱしが飛んでいる。
「このブルーはそれでいいや、他のは?」
「ハンカチとかぁ、タオルとかぁ、まぁ、色々とぉ〜」
「色集めの好きな正広くんのことだから、あのユニクロフリースもカットしてたりするのかなぁ〜」
「きぃぃーー!!」
どんどん!と兄の背中を蹴ったりなんかする、不心得な弟だ。

いい加減にしなさい!とその足首をつかんで、高だかと持ち上げた兄によって、正広は動きを封じられ、ビールマンスピン6割なポーズで事情説明を強制された。

「だからぁ、木村くんが、吉田かばんで、ベストを作ってぇ」
「・・・正広の話って、こう、推理する楽しみってもんがあるよな」
「ちゃんと喋ろうと思ったら喋れるの!俺だって!えっと、SMAPのみんなが、自分たちのベストを探す旅に出て、まず中居くんは、湘南へ行って、地元とか色々みたいんだよ。それから、吾郎ちゃんが車でしょ?マセラッティ。剛くんは香港で食べ歩きして、慎吾くんが、浅草で写真を撮って、それで、木村くんは吉田カバンでベストのジャケットに着せるベストを作ったんだよ!」
「吉田カバンて、ベストねぇ」
「あ!だから、工房があるんだってば!いいから離してぇーー!!」
でも、面白かったので、そのまま足を後ろに持ち上げていると、不自由な体でケンケンしながらリモコンに向かった正広がビデオ再生させる。
「これ!」
「あ、ホントにジャケットにベスト着せてる」
由紀夫が笑うと、ね、そうでしょ!と自慢そうにいった正広は、だから、足下ろして!となおも言い、さらに却下される。
「でも、あれちゃんとした生地じゃん。ベストって感じの。こんなぺらっぺらのシーツでどーすんの」
「だって!あんな生地ないし、それに、手縫いなんだよ?」
「え」
「だって、うちミシンなんかないじゃん!」
早坂兄弟のうちにミシンがあったら、なんか、やだ・・・。
「それに、まずは試しとしてね、一度どうやったらできるのか、試してみようと思って。それで、布を切ったんだけど。・・・・・・・・・どれがどれか解らないぃー!!」
「ま。頑張ってな・・・」
脱力した由紀夫は、正広の足をソファの上に落とし、昼寝というか、夕寝でもしようかと寝室に入った。
小さくカットしたために、ますます飛び散ってしまった布きれたちを、正広は集め、何やら椅子に座ってはじめたようだ。
静かになった部屋の中、寝る前に、ちょっとシャワーでも・・・とキッチンに向かった由紀夫は、思わず足を止める。
「うわ!おまえ、それ何!」
「えっ、だって!」
正広は、長い針で、薄い布を縫い合わせようとしていた。
「そんな内側縫っちゃっていいの?」
「内側かなぁ」
「あれだろ?開いたら外になるようにしたいんだろ?」
「ん?」
「いや、だから、表になるほうを合わせて、端を縫ってんだろ?」
「え、違うよ。これは、そのまま使うんだから・・・」
「えぇ?」
普通、布と布を縫い合わせる時は、中表にして、端を縫ったりするものだが、正広はその手間を省いた。縫っただけで出来あがり!というのがお好みらしい。
「それ、どこ・・・」
「ここだよ。ベストの前のところ、後ろのとこ。右っかわの」
「はー・・・」
どんなものができるのか、まったく想像ができないまま、由紀夫はシャワーを浴びる。結構砂っぽくなっていた。
ゆっくり湯船にも浸かり、どうなったかなと覗いてみると。
正広は、神妙な顔で、じっと布キレを見ていた。
まだそれは、由紀夫にとって、布キレにしか見えなかった。
「・・・おまえって、裁縫したことあるのってぇ」
唐突に声をかけると、正広は顔もあげず、小学校の時!と答えた。
「小学校って」
「そりゃ、後半ちょっといけてないっちゃいけてないけど!」
「それに、その裁縫道具は一体?」
「これ、見たことない?」
「あ、ノベルティだ」
「そーでーす。腰越人材派遣センターに登録しませんか?ノベルティ第17段!ロゴ入りソーイングセット!プラダ風」
「な、嘘っこプラダ風にしてあんだよな」
しかし、と由紀夫は正広の手から、それを取り上げる。
「これはちょっと・・・」
「なんでー!もうすぐできるんだからね!」
雑巾を縫うときでも、その縫い目のでかさはどうよというでかさだった。CDジャケット1辺の長さしかないとはいえ、そこに入ってる縫い目が、5つや6つっていうのは、少なすぎるだろう。
「こんなのすぐできんだから。ほら、できた!」
「できたって!」
「そりゃ、ポケットとか、タグはないけど、着せるだけなら・・・・・・・・・・・・・」

ジャケットぴったりのサイズで布をカットし、縫い代をたっぷり取って縫うと。
当然のことながら、そのジャケットに、その青いベストを着せることはできなかった。
んんんーーー!!と無理やりひっぱって、ひっぱって、縫い目から千切れます!というほど引っ張って、どうにかこうにか、CDジャケットの肩にベストをひっかける。よし!それでこれを!と持ちあげたら。
かしゃん!
とCDが落ちた。
VTRの中で、ここが好き!といっているオムツの部分が、正広のベストにはなかった。

「・・・だって俺、小学校の時しか裁縫なんて・・・」
「そうだな・・・」

フードファイターまで寝る、としょんぼりベッドに入った正広を見送った優しい兄由紀夫は。

「片付けは俺かい!!」
と濡れ髪で怒るのだった。セクシィ〜。

そして本当にフードファイトまで寝ていた正広は、何かの物音でぐずぐずと起き出して、はっ!と後悔する。
「兄ちゃん!さんまのからくりテレビって!」
「あぁ、ビデオとってある」
「あぁーー!よかったぁーー!6時半から?釈由美子と中村玉緒が料理するんだけど」
「うん、やってた」
「あー、よかったぁ〜!後はフードファイトだから、ビデオ入れ替えてっと。・・・兄ちゃん、それ、何・・・?」
「ミシン」
「なんでぇ!?」
さっきからの物音の招待は、由紀夫が使っている電動ミシンだった。
「懐かしいなって思って。ほら」
「うわ!ベスト!タグつき!?」
テレビで木村た作ったものと寸分変わらないそれを見て、正広は声をあげる。
「このタグなにぃー!?」
「刺繍機能で作った。すごいな、今時のミシンって」
「これ、誰のミシンなの!?」
「奈緒美。あいつ、服のリフォームとかできるって豪語してたから、絶対嘘だろ。ホントだったらミシン見せてみろっつったら、持ってきたから借りた」
小さなタグには、Masahiro Vestと刺繍がされていた。
「楽しいわ、ミシン!」
「今、何つくってんの?」
「通園バック」
「誰の!」
「いや、基本かなと思って、通園バックって。これ、お花とかフェルトで作ってて、スナップで外せるようになってんの。季節の花を選んでもらおうと思って」
「にいちゃーーん!」
「来るね」
電動ミシンをストップさせ、由紀夫はニヤリと微笑んだ。
「これから、ミシンが来る」

来るとは、とても正広には思えなかった。

しかし。
それから3日後、正広は、由紀夫製作のジャケットを着て出勤することになる。

おまえどこまで器用やねん!!


いいなー。ミシン木村さん、すごくよかった。似合う!ものつくりが似合うよ、木村さんには!!ミシン由紀夫もステキだろうなぁーー。

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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