天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

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ギフト番外編95話『Vカッターを届ける』

優しいとか、包容力があるとか、そゆことは本人にはなんの役にも立たなかったりするんですね・・・ということを友達と話していて感じました(笑)

yukio
 

稲垣アニマルクリニックの草g助手は、懐が広い。
優しいし、情け深い。その上、なにげに有能だ。

しかし、それが、草g助手自身を幸せにするとは限らない、というお話。

「・・・草gくん」
「うわぁ!」
「何が」
「いえ。いえ、いえ、そんな風に呼ばれた時、あんまりないような気がして、いえ、でも、気のせいですかね、えぇ、すみません、ちょっと、驚いてしまいました」
「あっはは!草gくんったら、愉快だなぁ〜」
稲垣医師は、軽やかな笑い声を上げる。
その上、親しげに肩などぽんぽん、とされたりなんかして。
どうしちゃったんだろう稲垣医師と、心配になってきた草g助手だったが、その後の稲垣医師の言葉に、むしろホっとした。

「草gくん!君にレンタル依頼が来ています!」

医者は忙しい。
有能な医者はもっと忙しい。
だからといって、356日24時間、働いている訳にはいかない。
怪我もするし、病気もするし、お休みもしたい。ニースにバカンスだって行きたい。それも人妻と。人妻は、和服が似合うような。
しかし、担当の患者を抱えている医者であれば、そうそう人妻とニースにバカンスにいって、それが自分の妻にバレて、帰るに帰れなくなるようなことがあってはまずい。
ということで、稲垣アニマルクリニックは、とある互助組織に加入していた。
加入の病院で急遽欠員が出たような時に、お互いの病院で人の貸し借りをするのだ。
稲垣アニマルクリニック自体は、この制度を活用したことがない。にも関わらず、草g助手の貸し出し回数はハンパじゃなく多かった。
元々二人でやっている稲垣アニマルクリニックなので、長期はないが、1日や2日のレンタルは、ざらだ。
一度草g助手をレンタルした病院は、次回も、必ず草g助手を指名するという抜群の指名率を誇っている。
なので、今回も、はいはい、と準備をする。
「今回はどちらですか?坂田動物病院ですか?井下ワンニャンクリニックかな」
「解った、解った。君がたくさんの顧客を抱えていることはもう解ったからね。はい。住所ここね。担当者の人の名前、これ。はい、いってらっしゃい」
「え?知らないですけど、こんな住所」
「君がいかに有能でも、日本中のすべての住所を覚えているとは思えない」
真顔で稲垣医師は言った。
「・・・行って参ります」
「はい、行ってらっしゃい」

稲垣医師、看護婦さん、患畜の動物たちに見送られ草g助手は颯爽と旅だっていった。
もちろん、草g助手はナニゲに優秀なので、住所を教えてもらえれば、その場所にたどりつくことはできる。電車を乗り継いでやってきたそこは、こじんまりとした動物園だった。
「動物園・・・」
草g助手は、ちょっと困ったな、と思った。稲垣アニマルクリニックは、ごく一般的なペットの処置がほとんどで、ピレネーズ以上に大きな動物はほとんど見たことはない。
まぁでも、動物園だし。いきなり象の具合が悪くってってことはないだろう。
一つ頷いて、草g助手は動物園に入っていった。

「草gです」
「あぁ!よろしくお願いします!」
スタッフたちは、バタバタしていた。
「あ、あの」
「すみません、インフルエンザで、人手が足りなくって!」
「えーとえーと、お茶が」
「あ、あの、お気遣いなく・・・」
人間が病気だと、動物に伝染る可能性があるからだな、と思った草g助手は、お茶、お茶、と若い女性スタッフがバタバタしているので、どうぞ仕事にいってください、と自分でお茶をいれてみた。
ついでに、シンクの中にためられていた湯のみを洗ったりなんかして。
「ふぅ。えっと、私の仕事は・・・、あれっ?」
すでに、スタッフルームで草g助手は一人ぼっちだった。
その時、電話がなった。
出てもいいものかと一瞬考えた草g助手だったが、3コールしても誰も出る様子がなかったので、とりあえず受話器を上げる。
「はい、ニコニコ子供動物園です」
『あの、すいませーん』
「はい?」
『開園のスケジュールを教えていただきたいんですけど』
「あ、はい。えーとですね、こちら、あ、うちの、開園、時間が・・・」
『あの、5月25日は開いてますか?』
「5月25日ですか?」
『子供の誕生日なので、動物園につれていってあげたくて』
「あぁ、そうですか。よろしいですね。5月・・・」
きょろきょろと辺りを見まわした草g助手は、少々お待ちくださいと保留して、カレンダーをのぞきこむ。
「5月、5月・・・25日・・・、は、開いてるな」
うん、と確認し、電話の相手にそれを告げた。
その電話一本を処理して、さて、どうしたものかと考える。今みたいな電話があるかもしれないし、まだ何も指示されていないし、待機しておこうか、と、椅子に座ったところで、また電話がなった。

「あ!すみません!電話まで!」
バタバタっ!とお茶お茶とおたおたしていた女の子が戻ってきた。
「少々お待ちください。すみません、業者の方のようなんですけど、私ちょっと解らなくて」
「ありがとうございます。はい」
受話器を渡し、電話メモに目を落とす。あぁ、字が汚いなぁ、なんて思ったりしたが、その電話メモは、すでに5件になっていた。
「それと、折り返し電話して欲しいっていうのが、2件ありまして」
電話が終わった女の子に言うと、え?と驚かれる。

「そんなに電話かかったんですか?」
「えぇ、解らなかったもので折り返しにしたんですが・・・」
「すみませんー、電話、最初にこの事務所の電話がなるようになってるんですぅ〜。その後、受けつけとか、あちこちでなるんですけど・・・」
「いえいえ」
ほんわか、っと草g助手は微笑む。もちろん、リスザルの元気がないんです、なんて電話にもきっちり対応済みだ。
「それで、私は何をしたら」
「こちらにお願いできますか?」

連れていかれた先は、動物舎の裏だった。
「具合の悪い動物でも?」
「特別具合が悪い動物がいる訳じゃないんですけど・・・」
ドアを開いたら、中は戦場だった。
「・・・これは・・・?」
「食事の準備です・・・!」
「えっ!?」
ニコニコ子供動物園での動物の食事は、スタッフの手作りだ。動物の体にいいものを、と、その時々に、有機農法だの、無農薬だのの食材を仕入れ、各動物に合わせて調整していく。
「切ってるんですね」
「新しく来た子が好き嫌いするんで、全部混ぜ込むことにしたんです」
「新しく来た、何ですか?」
「チンパンジーなんですけどね」
「はぁ」
「あの・・・」
「はい?」
「草gさんって、包丁使えますか?」
「・・・まぁ、人並みに」
「あ、あの・・・、これ・・・」
おずおずと、しかし、どん!と目の前に置かれたものに、草g助手は目を見開いた。
「みじん切りして欲しいんですぅーー!!」
「このキャベツですかぁーーー???」
キャベツは5つあった。
そして、包丁だけが置かれた。

ガーン。
キャベツのみじん切り・・・。
料理がまるでできない訳じゃあないけれど、でも・・・。
包丁を手に、じっとキャベツを見下ろし、ふっと息をつく。
でも、よかった、と思っていた。
細切りにはあんまり自信ないけど、みじん切りなら、なんとかなるんじゃないかなって。

「はい、腰越人材派遣センターです・・・あ、草g先生?」
正広が受けた電話は、草g助手からのものだった。
「え?あの、え?あ、はい・・・」
「どした?」
由紀夫が尋ねると、正広は首を傾げながら、届け屋依頼用の書類に書き込み始める。
「え、俺?」
「うん、届けて欲しいんだって」
「届けてって言われても、何を?」
「これ」
書類を渡されて、由紀夫は、どこで準備するんだ、これ。とためらった。

「届け屋です」
「あぁ!お兄さん、すみません!」
ニコニコ子供動物園に到着した由紀夫は、キャベツと格闘している草g助手を見つけた。
「何してるんですか?」
「みじん切りです!」
「キャベツの?」
餃子でも作るのか?と大量のみじん切りを見た由紀夫だったが、みじん、というには大きい気がする。
「あ、だからこれ・・・?」
「そうなんです!やっぱり慣れてないから時間かかっちゃって」
ふう、と、額に光る汗をぬぐい、キラリ、と微笑む。
「でも、だったら、こういうVカッターじゃなくって・・・」
頼まれていたVカッター、すなわち、スライサーを草g助手に渡しながら由紀夫は言った。
「フードプロセッサーみたいなんじゃないと」
「え・・・。あ、そっか!」
スライサーでできるのは、細切り、千切りまで。みじん切りにするのは難しい。
「す、すみません、フードプロセッサーもお願いできますかっ?」
「え、いいですけど。いいんですか?予算とかあるんじゃないですか?」
「え?」
「え、だって動物園でしょ?」
「あ、でも買うのは僕ですから」
「ん?そもそも、なんでここにいるんですか?」
「今日、レンタルなんです」
レンタルで来ていながら、自腹でフードプロセッサーまで買うつもりか?由紀夫はマジマジと草g助手を見つめる。
「僕がぐずぐずしてるもんだから、動物たちの食事の時間が遅くなっちゃったら申し訳ないですし」
「あ、はい・・・」
そして由紀夫がフードプロセッサーを買って戻ってきた時は、最後、半分だけ残っていたキャベツの隣に、ニンジンと、ジャガイモが置かれていた。
「お兄さん、ありがとうございます!」
「・・・増えてるじゃないですか」
「フードプロセッサーがくるんだったら、もっとできるから」
「・・・そうですか・・・」
頬に、ジャガイモのドロをつけながら、微笑む草g助手の顔は、由紀夫には眩しすぎた。

「手伝わなかったの?」
「手伝えるか。なんか、あのまま羽根が生えて天に昇っていくんじゃねぇかって勢いだったぞ」

どこまで働くつもりか・・・!とその実態を目の当たりにした由紀夫は、ふぅ〜・・・と首を振る。

そして稲垣医師は。
「はい。はい。あ、そうですか。えぇ。えぇ。え、明日もですかぁ〜・・・?うーん。ねぇ、解るでしょう?患者さんも、彼を頼りにしてるんですよ。もちろん、私もですけれど。えぇ、えぇ。・・・え?いえいえ、そういう、いや、そんな。だって、お互い様じゃないですか。まぁ、確かにうちで頼んだことはないですけれど。え、でもー・・・。あ、そうですかぁ・・・?うーん。じゃあ、草gくん、明日も。えぇ・・・。え、掃除?あぁ、なんでも得意ですよ。えぇ、なんでも。彼は有能ですからね」
ニコっと微笑み電話を切った稲垣医師。
草g助手の1日と引き換えに、前から欲しかった、アンティークの美しい鳥かごをGETしたのだった。

あぁ、どこまで働くのか、草g助手!


お好み焼き屋に勤めて2週間の友達は、キャベツを何玉も刻んでいるそうです。
・・・え!?そゆお店には、キャベツ千切りマッシーンがあるんじゃないの!?9時から夜10時まで、ほとんど休みもなく働いているの!まだ休日がいつになるかもわかっていないの!?おぉぅ!なんて大変なのぅーー!

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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