天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

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ギフト番外編96話『春の頼りを届ける』

春は楽しい時じゃなくなったんですね・・・。

yukio
 

「ブエックション!!」
「きったーなぁーーーい!!」
野長瀬のくしゃみと同時に典子の悲鳴が上がった。
「んもー!口くらい押さえてくださいよっ!その無駄に可愛いハンケチでっ!」
野長瀬のハンケチは可愛い。確かに無駄に。今日のハンケチは、ラルフ・ローレン風(あくまでも風)
「そんなことしたらハンカチが汚れるじゃないですか」
「意味わかんない!」
デスクに置かれた、明るい花柄のハンケチをぎゅっ!と握り締めた野長瀬は、大事にポケットにしまう。
『美しいものが嫌いな人がいて?』
野長瀬心の座右の銘。
「野長瀬さん、風邪ですか?」
「ありがとうひろちゃん、優しいのはひろちゃんだけだよぅ〜!」
「正広、あんま近づくなよ」
「由紀夫さぁーん!」
「もう、兄ちゃん。野長瀬さん、だるかったら帰っても大丈夫なんじゃないですか?」
正広の表情は心配そうだった。
真剣に言っていた。
けれど、もう長い付き合い。野長瀬には解ってしまう。
「・・・帰ってほしいんですね・・・」
「え!そんなぁ!」
「風邪っぴきは帰れってことなんですねぇ〜〜!」

「違うわ!!」

ばぁん!とドアが開き、何かが入ってきた。
それは『何か』としか表現できない物体だった。しいていえば、スターウォーズとかで見たことある感じ。
もしくは砂漠の民。
全身を布で覆った、ある種の生き物が腰越人材派遣センターに飛び込んできていた。
「えっ!?」
「風邪っぴきなんかじゃなぁーーーい!!」
顔も布で覆われているため、声はくぐもっているが、その声は女性のもの。
「うふふふ・・・」
くぐもった不気味な笑い声をあげながら、その物体は、野長瀬に近づいていく。顔は怖くても、臆病者な野長瀬は、そのまま硬直してしまう。
「おぉ〜まぁ〜えぇ〜もぉ〜、かぁ〜ふぅ〜んん〜しょおおおお〜〜〜・・・・・・・」

「野長瀬花粉症かよ!」
「花粉症って花粉症って不治の病って言われる花粉症ーーーー!!!????」
「ひろちゃん、そ、それは・・・」
「花粉症・・・!」
野長瀬は呆然と呟く。
ついにやってきたのか。
あの、春の風物詩、花粉症が・・・!
解っていた。二つある箱に、当たりとはずれがあるならば、100%に近い確率で外れを引いてしまうこの自分が、今の今まで、花粉症にならなかったことがおかしいのだと。
「ふ・・・、ふふ・・・」
「の、野長瀬さん・・・!」
典子も痛ましい顔で野長瀬を眺める。正広はもちろん、由紀夫でさえも。
「いいんです・・・。解っていました。薄々感づいてはいたんです。このくしゃみは、なんなのか・・・。どうしてとまらないのか・・・。目も涙目になっちゃってるし・・・。喉は痛いし。頭はずきずきするし、関節は痛いし」

「それ、熱じゃん?」

「んっ?」

潤んだ目にハンケチを当てながら語っていた野長瀬が顔を上げる。
「熱って出るものなの?花粉症って」
「いぃやぁ〜〜・・・・・・・かぁふぅんしょぉぉぉ〜〜〜」
「そんで、おまえ、誰?」
野長瀬の後ろで、クネクネと謎の動きをしている物体に由紀夫は近づき、その布を引っ張ろうとして逃げられた。
「・・・何ぃ?」
逃げられた由紀夫がなおも手を伸ばし、さらに逃げられムキになる。
その物体は、くねくねしながらも、えらく機敏に逃げ回った。正広も、典子もがんばったが、やっとこさそれを捕まえられたのは、事務所中をかれこれ4周以上した後だった。
「なんなんだよ!おまえはよっ!」
後ろから羽交い締めにして怒鳴ると、腕の中の体じたばたと動く。布をまきつけている割に、軽い、機敏なこの動き。
「おまえ!まさか!」
「そうよ!あたしよっ!」
「星川さん!」
「久しぶり、ひろちゃん」
みずから顔を覆っていた布を引き剥がしたのは、ジュリエット星川。
「どうしたんですか、そんなカッコして」
兄に、下ろして、下ろしてと手で合図しながら正広は聞く。
「この時期は、こうなのよ」
ふぅ、と布を取り外していく星川だったが、脱いでも、脱いでも、服。そもそも、異常なスタイルの多い女だった。
「てことは、おまえ花粉症?」
「ふっ、今時花粉症じゃないなんて、都会人として失格よ!」
涙目で星川は言い、まだ座ったまんまの野長瀬を指差した。
「そしてあんたも!やっと都会人の仲間入りよ!てゆーか、人の?」
「俺はなんなんですか!」
「花粉症よ!」
そうか、花粉症か・・・。
もう一度、野長瀬は頷いた。
この目の潤みは花粉のためだ。
もう一度、そっと、ハンケチを押し当てる。
「いや、でも、風邪だろ?熱あるんだし」
「花粉症って、熱はでないよね。出たらホントに大変じゃない?」
正広の言葉に、星川は舌打ちする。
「風邪と花粉症よ」
「うわ、サイアク」
そんなサイアクがお似合いさ。なんて歌を口ずさみながら、野長瀬は立ちあがろうとして、動けない自分に気がついた。
「あれ・・・」
「あ、野長瀬さんっ?」
「ひろちゃんが、ふたりいりゅぅ〜〜」
「熱ですって、それ絶対!!」

「風邪ですね」
森医師に言われ、あ、そうなんだ・・・、と野長瀬はうなずいた。
「でも、目も潤んで、なんか、痒いっていうか・・・」
「うーん。確かに、風邪と花粉症は区別つきにくいんですけどぉ〜。じゃあ、念のため、検査してみますね」
「お願いします」
野長瀬は、ぺこりと頭を下げた。
だって、絶対おかしい。絶対花粉症だと思う。それが自分だ。腰越人材派遣センターには、花粉症がいないというだけでもおかしい。それなら最初になるのが自分であることを疑っていなかった。
そういう意味で、彼は『引き』が強い。
「検査結果は、お知らせしますね。薬は、まずは風邪の方のヤツ、出しておきますから」
「ありがとうございます」

診察室を出た野長瀬は、病院に置かれている花粉症関係のパンフレットを、律儀に1部ずつ持っていく。
「ふむふむ、花粉症というのは・・・。ふーむ・・・」
花粉症用のマスクをした自分、というのは、警察の前を通ったら職質率10割を誇ることになるに違いないなどと思いながら。

「うわ!野長瀬さん!」
翌日、サングラスにマスクにコートという、変質者間違いなし!なスタイルで出社してきた野長瀬に、正広は仰け反った。
「おはよう」
くぐもった声で挨拶した野長瀬は、ドアのところで、着ていたコートをばんばんはたく。
「まず花粉を落とすことが重要なんだ!」
「そ、そうなんですかっ?」
でも、もう、正広は出社していて、着ているものもそのままだ。花粉はすでに中に入っているだろう。
だから、ジュリエット星川は、基本的に、布を多くまいて、中まで入ってこない方式をとっているらしい。
ついでにサウナ効果もあって、一石二鳥よ!と赤い顔で笑っていたが、真昼間にあれで出歩けるところが、彼女の素晴らしいところだろう。
「あの、熱は大丈夫なんですか・・・?」
「熱?あ、熱か。計ってないけど、動けてるから大丈夫でしょう!」
そういう問題なのかしら、と思うけれど、病は気からというし、と、あえて口を挟まない正広。
「ちょっと、あんた何バサバサしてんのよ!」
昨日は接待ゴルフだった奈緒美が、ゴージャスなお帽子なんぞをかぶって出社してくる。
「あれ、野長瀬さん、お迎えにいかなかったんですか?」
「しゃ、社長!その帽子はキケンです!」
「昨日、ベンツ乗って行ってたから。で、何がキケンなのよ!」
「花粉が!」
「花粉〜?あ、ほら、これ素敵でしょ、カサブランカ。生花よ」
「ごーじゃすぅ〜」
「花粉ー!花粉がーー!」
派手にくしゃみをしながら野長瀬は帽子から遠ざかろうとする。
「なに、どしたのこいつ」
「いや、花粉症らしくって・・・」
「あらー!よかったじゃない!これでやっとあんたも、人間ねぇ〜!」
なぜ寿がれる・・・。
そして、なぜ、野長瀬さんは、嬉しそうなんだ・・・。
正広は、微笑みながら、おかしな人たち、と思った。

『あ、正広くんだ、森です』
「あー!森先生ー!」
ものすごく懐かしそうに正広は声をあげたが、二人があったのは、正広の定期検診があったほんの2週間前。
「どしたんですか?」
『うん、あの、あ!そうだー!昨日カレー作ったんだけど、これが!何事か!と思うくらい美味しくって、よかったら取りにくる?』
「行きます、行きますー!しかも1日おいたカレー!」
『やっぱり、たくさん作ると美味しいよねぇ』
「森先生料理上手だしー」
『まぁねぇ〜。じゃあ、今日病院の方来る?』
「行きます!タッパー持っていきます!」
『タッパーはいいよ、誰かにあげようと思って持ってきてるから』
「ありがとうございますぅー!」
『それじゃー』
「はーい!夕方に」
『あ、ちがーーーう!!』
「えっ?」
『ごめん。忘れてた。野長瀬さん、いる?』
森医師、集中力が持続しないタイプであった。

「はい。お電話代わりました・・・!」
今日も、サングラスとマスクの野長瀬は、神妙な顔で受話器を持った。
ついに、この日がやってきた。
正式な、花粉症デビュー・・・。
この二日で、野長瀬はすっかり花粉症通になれる気分だった。
『野長瀬さん?森です』
「はい。お世話になっております」
重々しい口調に、森はくすりと笑い、用件を告げた。
『野長瀬さん、やっぱり風邪だったみたいです。花粉には反応出ませんでした』

「・・・・・・・・・・え?」

『代表的な花粉は全部やってみましたけど、どの花粉にも反応なかったんで、花粉症じゃないみたいですよ』

「えっ、で、でも、カサブランカはっ?」
『カサブランカぁ?』
「えぇ!昨日、カサブランカで、激しいくしゃみの症状が出て!」
『いや、カサブランカまではもちろん調べてないですけど、カサブランカに近づくことってそんなにはないんじゃないですか?カラブランカ花粉症って人、聞いたことないけど・・・』
「そ、そうですか・・・?」
『カサブランカは香りがキツいから、むせたんじゃないですか?』
「そ、そぉなんですかぁ〜・・・!?」
『えぇ、とにかく、花粉症じゃないんで、安心してくださいね』
にっこり笑った笑顔まで見えるような、明るい、優しい口調に、野長瀬は叩きのめされた。
花粉症では、なかった・・・・・・・・・・・・。
また、来年から、花粉症になるかもしれないって怯えることになるんだ・・・・・・・。
あぁ、いっそ!いっそ花粉症になったら、こんな心配しなくていいのに!!

「バカじゃねぇの、こいつ」
身悶えする野長瀬を見下ろす由紀夫に同意しないものは一人もいなかった。

 

「智子ちゃん、ただいま・・・・・・・・・」
どんより気分で帰ってきた野長瀬は、愛するミニウサギ(♂)の野長瀬智子に挨拶をする。
智子は、長々と和室で体を伸ばしていたが、偶然、その後ろ足が動き、あ!喜んでくれている!と野長瀬を喜ばせた。
花粉症デビューできなかった野長瀬の気持ちを、智子だけが解ってくれる!
そう思い、智子ちゃあん!とぎゅ!っと抱きしめた途端。

「ふぇぇっくしょん!!!」

カトちゃんもびっくり!という勢いでくしゃみが出た。そしてそれはしばらく止まらなかった。
智子は、おまえ、何をしやがる!と後ろ足で、力いっぱい野長瀬の蹴っ飛ばし、隣の部屋に避難する。
「か、風邪・・・?」
ずるずる言う鼻をおさえながらもらった薬を飲む野長瀬は、気づいていない。
そのくしゃみが、智子の白い、美しい体から抜け落ちた毛によって起っていることに・・・。

「智子ちゃぁーん!ごめんねぇ〜!もうくしゃみしないから、智子ちゃぁーーん!!」


今年、危うく花粉症デビューするところでした・・・!キケン!木村さんは花粉症デビューしちゃったんですね?気の毒!早くいい薬ができればいいのに!と思います。自分がいつなってもいいように!

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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