天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

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ギフト番外編97話前編『黒ラブを届ける』

春は眠いねぇ。起きていられなくて、深夜番組が見られやしねーや・・・ちきしょっ。

yukio
 

「くわぁ〜〜・・・」
春は花粉とともに睡魔がやってくる恐ろしい季節。
正広は大層気持ちよさそうな声を上げて、ベッドの中で転がった。
目覚ましもならないし、てことはまだまだ寝てても大丈夫。目を閉じてると、外の明るい日差しが天気の良さを教えてくれるし、新しいシーツも、新しい枕カバーもきぃもちいいぃ〜〜。
ごろごろーー。
ごろごろごろー。
ん?
ん?ん??
転がっているうちに何かにぶつかり、なんだ?と正広はそれに触れる。
相変わらず兄弟で一つのベッドだけども、正広が転がるのは兄の由紀夫がいないと確信している時。
その気配を読み切れず、ごろごろ転がって兄にぶつかると、蹴っ飛ばされるくらいのことは覚悟しておかねばならない。
50kgあるかないかの正広が、ただ転がってぶつかったというだけで、蹴っ飛ばすのもどうかと思うが、多分、ぶつかる時には、ほぼ間違いなく、足とかが、わき腹やら、鎖骨やらに突っ込んでいくのが悪いんだろう。
でも、今兄ちゃんの気配はしない。
起きるか、起きないかのギリギリを楽しむのが好きな正広は、不思議な心持ちでもう一度転がり、自分の定位置に戻った。
さっきぶつかったものは、枕や、クッションではないと思う。
温かかった。
季節が冬なら、丸まった電気毛布とも思えないこともないけど、電気毛布がまるまったらキケン?ひょっとして火事とかなっちゃう?低温やけどとかしちゃう?低温やけどって痛い?

いや、だから、そじゃなくって!
今のは一体なんだろう。
まだ全然覚醒してない兄ちゃん?覚醒してない背中にぶつかったくらいじゃあ、蹴っ飛ばされない?蹴っ飛ばすより寝てる方がいいと思った?後で蹴っ飛ばすつもり?えー、それはひどいじゃーん。
いやいやいや!だから、じゃあこれは兄ちゃんな訳!?

ごろごろーっ!
勇気を出して転がった正広は、同じ場所で、同じものに激突。兄なら間違いなく蹴られるか、足ツボを押されるかの強さだったが、それは動かなかった。
「何、これ・・・」
ぽんぽんと叩くと、なんだか、いい手触りで、温かくて、すべすべしている。
「んー・・・・・・?」
まだ起きたくない。まだ起きたくないが、これが一体なんなのか、手触りがよくて、温かく、すべすべしている兄なのか、そうじゃないのか、はっきりさせないことには、心置きなくごろごろもできない!
しぶしぶ目を開けた正広は。
「・・・・・・黒い・・・・・・・」
黒い物体を目にした。寝ころんだままの正広の視界が黒で埋められる。ツヤツヤと光を弾くような黒。
それは微かに動いている。
「・・・・・」
円柱は上からみれば円だが、真横から見れば長方形。これは起きてみなくては、全体像はつかめまいと仕方なく起きあがった。

「あうっ!?」

「あ!上がってやがる!」

「兄ちゃん!なにこれ!何っ?」
「なんで、こんな奥までさくさく入ってきてやがんだよ!」
早坂兄弟の大声にも、一切めげることなく、すぴすぴ寝ているモノ。それは、黒いラブラドールレトリバー通称黒ラブだった。

「どゆことなのでしょう」
パジャマ姿で、よろよろとテーブルについた正広が兄に尋ねる。
「あ」
寝起きの頭は、まともには動かない。高速回転をしても、間違った方向で、空回りしているにすぎない。
「可愛い可愛い弟が、もうすぐ誕生日だから、ベッドの中にプレゼントをし込んでおいたとか?」
「おまえの誕生日がなんでもうすぐよ」
「なんでもない時に、サプライズプレゼント?」
「だからなんで!なんで俺がそんなロマンチックなことをしなきゃいけない訳!?」
「・・・それに言うほどロマンチックでもないよね・・・」
まだ、黒い犬はベッドで寝ている。それはもう、犬としてどう?というほど、長々と伸びて、横向きになって寝ている。正広が見ていたのは、ヤツの背中だった。
「せっかくの新しいシーツだったんだけど」
「なぜ、あんなによだれが・・・」
牛か!と寝ている黒ラブを見た時に由紀夫が怒鳴ったほど、シーツは汚れていた。
「じゃあ、サプライズプレゼントじゃなかったら、何」
「迷い犬」
「迷い犬ぅー?」

由紀夫は、その朝正広よりも早く目覚めた。
珍しいことではない。大抵そうだ。一度起きたら二度寝はしないと断言し、腰越人材派遣センター一同から信じられない!この高血圧男!といわれたこともある由紀夫は、新聞でも取りにいきましょう、と、1階の壊れたビデオ屋へ降りていった。
新聞受けにある新聞を取ろうとドアを開けた時、それは飛び込んできた。
黒い疾風だった。疾風ってシュトルムって言うんだったっけ。今、頭をよぎった、シュトルム・ウント・ドランクって言葉は一体何?

「じゃなくって、なんだ今の!」
由紀夫がビデオ屋の中を見ると、店の真中で、何ですか?という顔で振り向いている、黒いラブラドールがいた。
「何ですかじゃなくって・・・」
ノンキそうな顔。綺麗に手入れされている毛や、赤い首輪は、この犬が間違いなく飼い犬であることを表していた。
朝の散歩の途中で逃げたのかな。飼い主いるのかなと、店の外をきょろきょろと見まわす。ちょっとその辺まで、と、角まで歩いてみた。通勤、通学中の人たちはいても、犬を逃がして困ってるんです、あたし、といった風情の人はいない。
犬を逃がして困っておるんじゃ、わし、という感性は由紀夫にはなかった。
あれー、と、家の前を通過して、反対の角まで着たけれど、やっぱり女子高生たちが、やった!今日は朝から顔を拝めたぜ!と由紀夫を見て喜んでいるだけ。
おかしいな、と思いながら帰ってきたら、もう犬の姿はなかったので、あぁ、出ていったのかと新聞を改めてとって、2階の部屋に上がって、キッチンでコーヒーをいれつつ、新聞を読んでいたのだ。
しかし、なんだか、おかしは気配がして寝室を覗いてみると、

「寝ていたんだね、あれが」
「あぁ・・・。あれと、おまえがな」
「うーん・・・、じゃあ、迷子か」
「図々しい迷子」
由紀夫がきちんと訂正をいれる。
「そっかぁ〜・・・」
まだ寝られる、と思っていたところで起きてしまった正広は、ベッドに未練たっぷりなのだが、なんだか、あの犬と一緒に寝るのも恐いと思っていた。
「なんか、おっきいし・・・」
その瞬間、目覚ましがなった。対正広用、昔懐かし強力ベル音がする。それはもう、うるさい!の一言に尽きて、正広が、というより、由紀夫が怒って正広に消させるという代物だ。
「うわー!うるさーい!」
今朝は正広もちゃんと起きているから、慌てて消しに行く。そして、その騒音の中でも、黒らぶはすぴすぴ寝ているのだった。

「置いてけないよね」
「そりゃ無理だろ」
朝ご飯も食べました。お洋服も着ました。もう会社に行けます。
そんな二人は、まだ寝ている黒ラブを見下ろしている。
「なんで起きないのかなぁ〜」
さっきから突ついたりしているのだが、黒ラブは起きようともしない。

「どーする?」
「どーするって」

由紀夫は、手近にあったヒモを、赤い可愛い首輪にくくりつけて。
「こーするでしょ」
力いっぱい引っ張った。
しばらく動かなかった黒ラブだが、首輪と同時に、正広にも押されて、ベッドから落っこちる。
「きゃんっ」
と鳴いた後、何事です!?とキョロキョロして、由紀夫と正広を見上げた。
「・・・子供みたいな目ぇしてるね」
「子供なんだろ」
黒いビー玉のような目は、キラキラと輝いて、とても楽しそうだ。そして、飼い主ではない二人にも、え、お散歩ですか!?どこいくんですかっ?とすっくと立ちあがり、嬉しそうに尻尾を振っている。
「・・・ラブラドールって賢いんだよね」
「盲導犬はラブラドールじゃなかったっけ?」
今日は遅刻だ、と、腰越人材派遣センターまで歩いていった早坂兄弟だった。

「きゃー!可愛いー!」
「いやーん!可愛いぃーー!!」
典子と野長瀬のセリフだ。
そして、由紀夫と正広はへとへとだった。
「そうか、可愛いか・・・」
「へ、へー・・・」
お散歩、お散歩!と嬉しくなったらしきラブラドールは、はしゃいではしゃいではしゃいではしゃいで、車の前に飛び出さないように押さえるのだけでも、二人は必死だった。
「やだ、大型犬って・・・」
「なんでですかぁー!可愛いじゃないですかぁー!」
典子はきゃあきゃあ喜んでいるが、喜びすぎて、肩のあたりにべったりよだれをつけられていることに気づいていない。
スーツのズボンを思いっきり踏みつけられている野長瀬も同様だ。
さらに野長瀬は、くしゃみもしたくなってきた。彼は、動物の毛アレルギーになりかけである。(前週参照)

「ひろちゃん、飼うことにしたのぉ?」
「違いますぅ、これ、迷い犬なんです」
「えー?でも、すごく綺麗じゃない?」
「綺麗だから、迷い犬なんだろ?」
「あ、そっか。じゃあ、飼い主心配してるでしょうね、探してあげないと」
「・・・どうかな」
由紀夫は首を振る。
「え?」
疲れてソファに寝ていた正広が、顔を上げた。
「逃げた逃げたと思ってたけど、逃がした犬かもしれない・・・」
「なんで?」
「疲れるだろ!こんな犬がいたら!」
「こんな犬って、大型犬って大抵そうですよ」
ねー?と撫でている典子は、下ろしたてのスカートも汚されていることを知らない。
「いいなぁ、やっぱり大型犬って!」
「だったら、連れて帰ります?」
野長瀬が鼻をぐしゅぐしゅ言わせながらも幸せそうなので、正広も言ってみる。
「えっ!?」
一瞬目の色を輝かせた野長瀬だったが、あぁ、と首を振った。
「だって、うちには智子ちゃんが・・・」
「ちっ」
「えっ!なんですか、由紀夫ちゃん!『ちっ』て!」
「あんなのより、こっちの方が面白いぞー、愛想もいいし」
愛想がいいのは本当すぎるほど本当だった。
「あんたたちは、また何をやってるのー!」
社員たちの騒ぎに怒りながら登場した奈緒美にも、惜しみなくダッシュして、まとわりついた。
「何!何よ、これ!」
「黒ラブです」
「見れば解るわよ!何やって、きゃーーーっ!」
「嘘・・・」
その日、奈緒美は新作のスーツを着ていた。
今日は接待ランチだもぉ〜ん、と張り切ってエステにも行っていた。
そのスーツに、黒ラブの、歯型がついていた。
穴も、開いていた。
「うわ、しゃちょ!きゃーん!私もぉー!」
立ちあがった典子も、肩がべったり濡れていることに気づき、野長瀬も、水溜りとみれば、入りたがった汚れた足で踏まれていたため、ズボンむちゃむちゃ。
「何これー!」
「うわうわ!」

「な?だから言ったろ?」
こんな犬がいたら疲れるって。
由紀夫が人事のように(実際人事なので)言った。
「由紀夫ぉーー!」
それが、奈緒美の怒りの炎に、油を3キロリットル注いでしまう。
「あんたすぐ飼い主見つけてきて、弁償させなさーーい!」
「えっ?」
「じゃなかったら、あんたに弁償させます」
「探します」
「俺も探しますぅー!」
奈緒美のスーツがいくらするのか考えただけで、月の給料吹っ飛びそう!慌てた早坂兄弟は、はしゃぐ黒ラブを引っ張って、街へと出ていったのだった。

<つづく>


大型犬に触れ合うチャンスが今までほとんどありませんでした。これからもないでしょう。私の知ってる開業医夫婦のところには、セントバーナードが2頭、日本犬家族が、4・5頭、誰よりもえらそうな、ペルシャ2匹、錦鯉、オウムなどがいました。セントバーナードがうちにきたこともあります。
・・・・・・・・・・でけぇ・・・!セントバーナードはでけぇよ!でもお金持ちって感じでしょう?おうちには本物の暖炉もありましたの!

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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