天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

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ギフトプチ番外編98『なぜなにひろちゃん

いや、ひろちゃんには知らないこともたくさんあるんやろうなーと思って、プチな話を。

yukio
 

「今晩、何食べるぅ〜?」
腰越人材派遣センターにももちろん残業はある。その日、早坂兄弟が事務所を出たのは、限りなく9時に近い8時だった。
「なんか食って帰るか」
「ねーねー、そーだよねー。歌いたい気分だもん・・・」
「何を」
「どぉーーしっておっなかっがっへるのっかなっ♪」
「やめなさい」
正広の脳は栄養が行き渡らなくなると、まず一度、異常にハイな状態になる。そこで残ったエネルギーを使い果たし、後は動かなくなるのだ。
「違うよ、違うんだよ、兄ちゃん。俺が言いたいのは、今まさに、おなかと背中がくっつきそうになってるってことで」
「おまえ、どこでそんな口の聞き方覚えてくる訳?」
「変?」
「ちょっとな。あー、どーするかなー」
どこで食べようかと由紀夫がちょっと首を傾げた時だった。

「あーーーーっ!!早坂さんだぁーーーっ!」

「え?」
大声で名前を呼ばれ由紀夫が振り向くと、道路の反対側で女の子が力いっぱい手を振っていた。
「早坂さぁーん!課長!早坂さんです!」
「何っ!?あっ!早坂さーん!」
早坂さーん!早坂さーん!と、彼らは由紀夫に向かって手を振る。
「あ、あの人たちは・・・!」
最初の女の子、その課長、それ以外の課員たち。総勢10名を越える人たちを見て由紀夫はため息をつく。
「誰?」
「お客さん・・・」
「早坂さーん!」
彼らはとても陽気なお客だった。
最初は、軽い冗談で、課長が、本部の会議に持っていくべき書類の封筒を、鮮やかな虹色の封筒に変えただけだった。
朝、課長がそれを見て、なんだこの封筒はとあけてみて、中に入っていたメッセージを読み、おいおい〜、こんなところに書類隠すなよぉ〜、はははぁ〜、ですむだけの話だった。
しかし。
その課長は、部下をとても愛していたし、とても信頼している、ノンキもの。
おっ、こりゃ元気の出る色合いの封筒だな、とそのまま出かけてしまったのだ。
彼は、早朝に会社に顔を出し、虹色封筒とともに本部へ。部下たちが、その課長のミスに気づいたのは、備品を出そうとしていたOLが、課長が本来持っていくべき書類と、眠たがりで、甘いもの好きな課長のために用意していた、フリスクとキャラメルがそのまま備品棚の奥に入っているのを見つけた時だった。
「ぎゃ!」
虹色封筒の考案者だった彼女は驚いた。
課長は、虹色封筒を持って本部にいってしまった!かく支店の売上データなんかをつかって、発表しなくちゃいけないのに!
あの中に入っているのは、この備品棚を見ろ、というメッセージのみ!(手の込んだなぞなぞ方式になっている)
きゃー!!と慌てた彼女らが、すぐにでも持ってって下さい!とお願いしたのが、近所にある腰越人材派遣センターだった。

「書類これで!後、これ!フリスクと、キャラメルも!」
「は?」
「課長、これが好きなんです!」
「は、はぁ」

そして由紀夫は、本部の中で、どーしたもんだこれ!となぞなぞを前に考えこんでいた部長に、正しい書類とフリスクとキャラメルを届けることができたのだった。

そのノンキモノたちが今、道の向こうで由紀夫に手を振っている。
「早坂さん!ご飯食べにいきませんか!?」
「ごはん・・・!」
その言葉に、正広の瞳は確かに輝いた。
おそらく、てこでも動くまい。
「あぁ、じゃあ!」
道路越しに、由紀夫はOKの返事をした。

総勢15名になった一行は、彼らがよく行く居酒屋に到着。適当に注文してくださいねと言われ、由紀夫は、メニューを見ながら適当に注文する。
正広はずっと黙ったままで、ついにエネルギーが切れたんだなと思っていた。
「はい、正広くんは、ウーロン茶ね」
お二人はお誕生日席ー!と横長のテーブルの短い辺に並んで座っていた。あからさまな上座で、その向かいである下座に、にこにこと課長がいるのが愉快な人たちだなを助長する。
「早坂さん、ビールと」
二人の回りは女の子が固め、あれやこれやと世話をしてくれるが、さっぱりしているのもいい感じ。
乾杯した後は、わいわい喋っているうちに付きだしが出てきて、会話も弾むんでいったのだが、ふと見ると、正広がそれに手をつけていない。
「どした?嫌い?」
「え?これ、俺、の?」
「うん」
由紀夫が辺りを見ると、ちゃんと全員の前に付きだしの酢の物は来ているようだ。
「おまえのだろ?」
「あ、そっか。うん」
箸をとって、ぱくっと口にいれた正広は、おいちぃ、と嬉しそうだったので、由紀夫は自分の分も渡してやった。他の料理が出るまでに、ちょっとでもエネルギーをいれておかないとと思ったのだが、その割に、正広のスピードは上がらなかった。あの程度の酢の物。場合によっては、器を持ちあげて、一口でしゃぐっ!くらいの勢いはあるのに、丁寧に丁寧に食べている。
言うほど美味しくないのかなと横から突ついてみたが、さっぱりと結構美味しい。
「どしたの?おまえ」
「え、あの・・・」

「はーい!お料理きましたよーん!」
長いテーブルの端にどんどんお皿が置かれていく。
「あー!おいしそぉー!」
「つくねー!」
「はい課長。好きですよねー、モツ煮込み〜」
課長側のほうにどんどん皿が置かれていくのを見て、正広の頭が徐々に俯いてくる。
「じゃあ、これこっちねー」
あれ、と思う間もなく、由紀夫の目の前には、大根サラダと、卵黄付きのつくねが置かれた。
「あ、ほら、正広」
「えっ」
「つくね。好きだろ?」
「うん。好き・・・」
「食べないの?」
「だって・・・」
「ん?」
「・・・頼んだの、兄ちゃんじゃん・・・」

正広の世界では、そういうことになっていた。
お店に入ったら、席について、メニューを見て、欲しいものを注文する。
なのに、ここのお店に入ったら、由紀夫はメニューを見せてくれず、自分だけ注文した。女の人たちもどんどん注文したけれど、自分はできなかった。
どうして?どうして兄ちゃん一人で、6つも7つも食べようとするの?揚げだし餅なんて、大好きなのに!ジャガバタだって大好き!あっ!あっちの女の人も、あんなにたくさん注文して、食べきれるの!?つくね!つくね大好きぃーー!食べたいのにぃー!
あぁ、でも、自分には食べるものがない。
なぜかここにある、注文もしてないのに出てきた酢の物しかないのだ!
兄ちゃんが一つくれたけど・・・・・。でも、ホントは兄ちゃん。俺も、揚げだし餅、食べたかった・・・。
この、酢の物・・・。大事に食べよう・・・。

「えっ!?」
「そゆことじゃないのっ!?」
「違う違う。適当に頼んで、適当につつくんだよ!」
「そなの!?」

ここはそういう世界なの!?
正広の目の前は、突如バラ色になった。自分の前にお皿が来ないという哀しみは、いまはもう消えている。
ほら見てごらん。
みんな、取り皿に、いろんなものを乗せているじゃないか。
大根サラダをとってみよう。そしてつくねも。あ、手羽先がある、手羽先大好き。ゴマふってるの。ちょっとスパイシーなやつ。
小さな取り皿をまずは山盛りにして、わしわしっ!と4口くらいで食べる。
今度は、揚げだし餅と、ほっけと、高菜チャーハン。これも4口くらいでわしわしと。
「正広くん、食べるねー!」
「はいっ!若いですから!」
「んむ!その通り!おばちゃんばっかりを前によくゆーた!」
「え!?おばちゃんがどこに!?」
立ちあがって辺りを見まわす正広は、拍手で迎えられた。

いかん・・・。

由紀夫は背筋に軽い戦慄を感じた。
正広は、エネルギーが切れかけると、落ちかけの線香花火のような、最後のきらめきを見せて消えていくのだが、消えた後、急激にエネルギーをいれると、ロー、セカンドをぶっ飛ばし、いきなりターボがかかることがあるのだ。
ただでさえノリの良さそうなこの人たちを前に、この正広・・・!
恐ろしいことが起きる・・・!

「なんだったんだよ、あの客・・・」
「出入り禁止にしますか!?」
「・・・いや、まぁ、面白かったから、いいけど・・・」
「・・・いいんすね、店長・・・」
「はは・・・・はははは・・・・・・・・・・・」

恐ろしいことが起きる、と思った段階で、由紀夫は、自らにターボをかけた。
どうせ家の近所だし、何があっても帰れるし、そしたら、止めに回るより、突っ走った方が面白いという、軽い破滅型なもので。

12時の閉店まで、一人も欠けることなくいた15人の客は、それから、その居酒屋での伝説になった。
しかし、店長たちはまだ知らない。
その伝説のご一行が、あそこの料理、やっぱりめちゃめちゃ美味しい!という理由で、3日後の再訪問を考えていることを・・・。


何をやったの!由紀夫ちゃん!ひろちゃん!
居酒屋ルールを知らない人はいるのです。たとえばうちの親とか(笑)ひろちゃんも知らなかったら可愛いなぁ〜♪と思って(笑)てへ(笑)

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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