天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

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ギフト番外編99前編『ドレスを届ける』

隣の席の子が社交ダンスを習ってるんですよ。ダーリンと一緒に。かっちょいーー!

yukio
 

「うわ。それ、最悪」
「どーゆー意味ですか!」
「だって、なぁ」
「どしちゃったんですか、野長瀬さぁん・・・」
それは、とあるお休みの日。早坂兄弟が、正広の忘れ物を取りに腰越人材派遣センターにやってきた時のことだった。
由紀夫は、時として、脊髄反射で喋ることがあり、今も、事務所に入ってきた途端、目にしたものに対する感想を、脊髄で口にした。
「最悪は最悪だろー」
「ねぇ、野長瀬さん・・・」
「どして、ひろちゃんは、泣きそうな顔してるんですかぁぁ!」
「だって・・・、野長瀬さんが・・・っ!」
隣にいた兄の袖をぎゅっと握り、大きな猫目を潤ませている。
「正広・・・」
「兄ちゃん・・・っ」
「だからーーー!!」
「だって、兄ちゃん、野長瀬さん、もう死んじゃったんだよゥーーー!!?」
「死んでませーーん!!」
「そうだよ、正広。野長瀬が死んでも、棺おけに入る時は、こーゆーカッコじゃないだろ。そりゃもう、白装束だろ。めちゃくちゃ似合うだろ。あ、おまえ、絶対そっち。白装束」

「・・・誰が自分の死に装束を選んでるんですか・・・」
「え。違うのか?」
由紀夫の口調には、からかいや、軽いイヤがらせ成分が入っている。しかし。
「じゃあ、じゃあ、野長瀬さん、なんでそんな変なカッコしてるの・・・?」
時として、悪意のかけらもない正広の言葉の方が突き刺さることもあるのだった。

さくっ!と頭頂部に落ちてきたコンバットナイフから、ぶしーー!と熱い血潮を吹き上げながら、野長瀬は答えた。

「ダンスの衣装です」

「「ダンスぅぅぅーーーー??????」」

きゃーー!!と早坂兄弟は叫んだ。
「リオのカーニバル!?」
「これがカーニバルの衣装に見えるんですかぁーー!!」
「仮装行列だ!」
「ダンスじゃないでしょ、ひろちゃーん!」
「えぇ、じゃあ、えとえと・・・フォーク・・・?」
「フォークダンスはやんないだろー、こんなカッコじゃあ〜。あれはジャージでやるんだよなぁ。運動会の時とかに」
「ううう・・・」
野長瀬は打ちひしがれていた。
ただ、事務所あてに送ってもらっていた2着の衣装。そのうち、より似合うのは、どっちかなぁと、ちょっと着せ替え感覚で楽しく試着してただけだったのに・・・!
「盆踊りじゃん!?」
「えー!盆踊りは浴衣じゃーん!だから、えっとえっと・・・!」

「社交ダンスですぅぅぅーーーー!!!!!」

黒の燕尾服に身を包んだ野長瀬は、ソファに体を投げかけ、シクシクと泣き崩れるのだった。

「冗談じゃんなぁ。泣くことないよなぁ」
「え。冗談だったの・・・」
「えっ!おまえ、マジだったの・・・?」
「ちょ、ちょっと・・・」
「そりゃ泣くわ、野長瀬」
気の毒に、と、折れて皺になりそうな燕尾服の裾を見下ろしながら由紀夫は思った。そして、おもむろに、脊髄から脳まで、その言葉が上がってきたのだ。

「社交ダンス!?」

大人の男として、ダンスの一つも踊れなくてはいけないと、野長瀬がひっそりダンスを習い始めて約1年。
ついに、競技会デビューを果たすこととなった。
「でも、社交ダンスって一人じゃできねーじゃん」
「当たり前じゃないですか」
「パートナーとかいんの?」
「いますよ!」
「あれとか似合いそう。あの、ほら、ボクササイズできる人型マシーン」
何度も言うが、正広の言葉に、イヤがらせは存在しない。
「ひろちゃん・・・」
「あ、あ、でも、ダメだよね、手がないもんねっ!」
「そ、そだよね、手がね・・・」
「でもー、社交ダンスかぁー!」
自分が何かいけないことをゆってしまったんだ!と気づいた正広は、話を強引に変える。
「兄ちゃんとかやったら似合いそう!」
「俺?」
由紀夫は、そろそろ、今日見に行く映画のことに意識を飛ばしていたので、さっさと答えた。
「俺がやったら、踊りたがる人が山盛りでレッスンにならねぇよ?」

えぇえぇ、そぉでしょうともさぁぁぁーーーーー!!

「こんなのも、俺めちゃめちゃ似合うし」
もう1着の燕尾服を取り上げ、ちょっと羽織ってみたりなんかして。
「でも、着るんだったら、やっぱりオーダーじゃないと」

そりゃあ、由紀夫ちゃんならオーダーでしょぅよぉぉぉーーーー!!!!

貸し衣装の野長瀬は、涙にくれまくったら、早坂兄弟は、正広が忘れていた映画の優待券を持ちだし、それじゃあなーととっとと出ていった。
「えーーー!!もう帰るんですかぁぁーーーー!!!」
つっこんでもくれないなんて、しどい・・・!
ますますメソメソしちゃう野長瀬だった。

「社交ダンスねぇ」
正広からその話を聞いた奈緒美は、足を組んで座っていた椅子から立ちあがり、正広の手を取った。
「どうかしら、パートナーとして」
「僕、ちっちゃいですからね」
「あたしだって、でかかないわよ!」
「でも、奈緒美さん、ヒールはくし!」
「じゃあ、私由紀夫さーん!」
典子に手を取られ、ぴしっ!と立った由紀夫は。

「かぁ・・・っこいい・・・っ!」
「そぉ?」
元ヤンてゆーか、元チンピラのくせに、なんだその背筋の真っ直ぐさは!という真っ直ぐさで立ち、典子と手と手を取り合っている。
「うわー、兄ちゃん、かっちょいー!」
「由紀夫、辞めてあげなさい。野長瀬が泣いてるから」
「うっ、うっ、どうせ、私なんて・・・っ」
「でも、ステップとか全然知らないしな」
「野長瀬、野長瀬!あんてちょっと教えなさいよ!」
正広から手を離さず奈緒美が言う。
「あ、面白そう!早く、早く、野長瀬さん!」
典子も、せっかくの男前を離してなるものか!と、しっかり手を握りしめている。
「え、えっと。じゃあ、まず、立ち方が・・・」

「いやーん!えっちぃーー!!」
こーゆー時には、必ず出てきまっせ!の千明が典子に突っ込んできた。
「いったーい!」
「も!ダメ!由紀夫はあたしと踊るの!ね!?」
「いやですっ」
「どうせ踊るなら情熱のタンゴ!ミュージックプリーズ!」
「いや、プリーズって言われてもっ」
「んもー!野長瀬さんったら、どーしてそんなグズなのっ!?このグズっ!」
「グズってー!」
千明は、ひし!と由紀夫に抱きつき、由紀夫はそのおでこに手のひらを当てて、ぐぃーーーん!と押している。
「あっ!千明ちゃん、いい!いいです、その仰け反り!」
「えっ?そぉっ?」
「こう、女性の背中っていうのは、胸から上だけで綺麗に反るのがいいんですよ!」
由紀夫と離れたくない!と、なるべくくっつこうとする千明なので、自然と、胸の上からだけで反り返るようになっていた。
「あたしたち!やっぱり、運命のパートナーなのよ!」
「おまえが、真のパートナーと出会うその日のために、仰け反り養成ギブスとして、働くぜ!俺は!」

「あ、あのー・・・」

「た、タンゴですか?タンゴ、えっと・・・」
「どーするのっ?どーするのっ?」
「いや、まだタンゴってやってないからぁ〜・・・」

「すみませぇぇーーん・・・」

「兄ちゃん、そろそろ千明ちゃん、首の骨折れちゃうかも」
「へっ、平気よっ、こんなの!だって、美しいポーズのためじゃない!」
片足を後ろに下げて、体重を差さえ、胸骨が折れるんじゃないかという圧力と闘う千明の姿は、どこからどう見ても美しくはなかったが、その必死さが、涙を誘う。

しかし。

「あーーのぉーーーー!!!!」

「あれ」
「あ、宅急便屋さんだ」
もっと必死だったのは、大荷物を抱えて、ドアを開けることもままならなかった宅急便屋さんだった。
「たしけてくらさい・・・」
「すみませーん!」
正広がドアを開け、大荷物の宅急便屋さんを助ける。
「今日、荷物が多いんで、ここ開けといてもらえますかっ?」
「はい、お願いしまーす!」
階段を降りていく宅急便屋さんを見送った正広は、あ、と手を叩いた。
「今日、ノベルティが着くんでしたね」
「あ、そうだった!てことはー!大変!場所開けてー!」
腰越人材派遣センターは、慢性的に登録者を募集中。それで、新規登録の人やら、今現在登録していて、新規の人を紹介してくれた人やら、結構継続して働いている人やらに、ちょいとしたノベルティを用意したのだった。
値段は抑え目、しかし、センスよく、品揃えも豊富に。
となると、種類も量もハンパではなかった。日頃、在庫を持つタイプの仕事をしていない腰越人材派遣センターなものだから、それだけの段ボールを置いておくのも大変で。
「あー!野長瀬さん、ダメですー!せっかくロッカーあけといたのにー!」
「えっ!随分さっぱりしてると思ったら!」
まずは、あまり使っていないロッカーをあけようと、正広が綺麗に片付けておいたところに、野長瀬の、燕尾服が2着かかっている。
「どーしよー」
野長瀬も、借り物となると、ビクビクするのだ。
「家においとけないもんな」
最初の段ボールを運び込みながら、由紀夫が言う。
そう。野長瀬の家には、野長瀬智子様がいる。野長瀬智子様は、ミニウサギで、オスで、巨大で、野長瀬家のボスだ。
ボスは、新参者を嫌う。
おそらく、燕尾服を持って返ると、なんでツバメなんか連れてくんだよ!と智子様のするどい前歯でずたずたにされること間違いなし!
「えーとえーとー!」
「あ、だから、ロッカーの中に・・・って一杯ですね・・・」
正広があけたロッカーの中は、ぎっしりと詰まっていた。
奈緒美の服が。
「ひろちゃーん!ごめん、ノベルティの数と種類の表ってどこだっけ!」
「え?あっ」

あぁ、ひろちゃんが行ってしまった・・・。
「野長瀬、邪魔」
あぁ、由紀夫ちゃんにも、邪魔者扱い・・・!燕尾服2着を抱いてウロウロしていた野長瀬は、由紀夫が置いていった段ボールに着目した。
結構大きく、けれど、棚の上に置いてしまったから、さらにその上にものを乗せることはありえない高さになっている。
ここに置こう。
皺にならないように。しかし落ちないように、段ボールの上に、燕尾服2着をずらせて置き、よし!後は荷物を運ぶだけだ!
張り切って腕まくりをした野長瀬は、次々やってくる段ボールをロッカーに収めていった。燕尾服が汚れないように気をつけながら。

 

「・・・引越し業者の気持ち・・・」
「すごいなー、これ・・・」
ロッカーがすぐに埋まり、今、事務所の壁は、段ボールで作られたようになっている。
「段ボールハウスってこーゆーこと?」
「配り出すまでには、まだちょっとあるから、当分この状態ね」
段ボールのサイズはマチマチで、それを、一枚の壁状態にするためには、立体テトリス状態で、かなり苦労したが、故事越え人材派遣センタースタッフ+千明の中には、やり遂げた満足感がある。
「・・・今日はぱーっといきましょうか!」
「いきましょう!」
こうして、大量の段ボールが事務所に搬入された。
しかし、その段ボールの中には。

<つづく>


あぁ、見てみたい、見てみたい、由紀夫兄ちゃんのモダン。燕尾服で踊る兄ちゃん。みーたーいーー!!ひろちゃんも可愛いと思うので、10歳くらいの金髪美少女と踊ってください。いや、なんとなく(笑)

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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