天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

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ギフト番外編99後編『ドレスを届ける』

隣の席の子が社交ダンスを習ってるんですよ。ダーリンと一緒に。かっちょいーー!

yukio
 

「ふーんふふぅ〜ん♪」
「うわー、やだやだ!野長瀬が浮かれてる!」
「え、野長瀬さんが浮かれあがってるんですか?」
「野長瀬が分不相応に浮かれあがってるって?」
「僕が何したって言うんですかぁぁぁーーー!!」
野長瀬の悲鳴は、虚しく腰越人材派遣センターに響き渡る。
「だって、野長瀬さん、どう見たって浮かれあがってますよ?」
典子が冷静に行った通り、野長瀬は浮かれあがっているとしか言えない様子だった。
なにせ、燕尾服を肩からあてて、踊っているのだから。
「もう、やめてよねー、その民族ダンス」
「民族じゃないでしょう!社交でしょう!」
うきー!となった野長瀬は、珍しくきっぱり言った。
「今日は、これで仕事しますからっ!」
「「「「えぇ〜?????」」」」
「何それ!どゆこと、野長瀬さん!」
「やっぱりね、着なれてないとダメだと思うんですよ!こう、堂々とした立ち居振舞い!リーダーとして、パートナーをリードするには、服に着られているようじゃダメなんです!」
「買ったばっかりの水着を家の中で着つづけるようなもんですか?」
「そんなことしてんのか、おまえ・・・」
由紀夫に聞かれ、典子はきっぱりうなずいた。水着も堂々と着なくては!彼女はそう信じている。
「でも、汚れるんじゃないですか?」
正広の心配に、野長瀬は、ちっちっちっ、と指を振った。
「本番はこっちを着ることにしたんです!」
こっち!は、野長瀬のデスクの上に、丁寧に置かれている燕尾服だった。

「だから、こっちを着ます!着て暮らします!」

運送屋が、84個の段ボールを確認して、涙を浮かべながら帰った、その翌日。朝、9時20分のことだった。

「えーと。書類はこれだけ?」
「あ。後、こっちなんですけど、ハンコくださーい」
「自転車、掃除してこよっかな」
「銀行行きますけど、いるものありますぅ〜?」

「どんなに無視されても着ますからねッ!!」

「・・・どしたのよ、あれは」
その日の3時。おやつ頂戴、とやってきたジュリエット星川は、燕尾服の野長瀬を見て、正直にイヤな顔をした。
「気にしないで。あれは幻よ」
「いやよ!あんな幻!」
今日のおやつは水まんじゅう。夏はやっぱり水まんじゅう。明日は水ようかん?なんて思いながら、正広は星川の前にガラスの器を置いた。
「どうせなら、こーゆー可愛い子に着せたらいいのに!」
「そうでしょう〜?あんな不細工な幻じゃなくってぇ〜」
「聞こえてますよ!」
「聞こえるように言ってんのよ!」
水まんじゅうをばくばく食べながら、ひろちゃんの燕尾服は可愛いでしょうねぇ、なんて喋っていたのだが。
「・・・着せようか」
「でた。コスプレ好き」
「あんたに言われたくないわよ!!」
占い師のコスプレなんかしてるくせに!コスプレじゃないわよ!あたしは占い師よ!
正広は、そんな二人の激しい言い合いを、心地よいBGMとして捉えながら、仕事をしている。二人のトークはテンポがよくて、仕事が進むのだ。

「じゃあ、そうするわ!」

その会話の中に、自分たちが巻き込まれなければ。

「今日はドレスアップデーにします!」
「はい!?」
由紀夫は届け物、典子は郵便局に行っていて、燕尾服の野長瀬と、正広しか事務所にはいなかった。
「なんですか?」
「ほら、よくやってるじゃない。金曜日はカジュアルフライデーとかって。だから、うちは水曜日をドレスアップウェンズデーにしようかって」
「なんで、アップするんですか!」

「「美しいものが、嫌いな人がいて?」」

二人は声を合わせ、昔のアニメのセリフを口にした。

ちょうどそこに由紀夫が帰ってきて、何で思いつきでそんなこと言うかな!と二人を怒鳴った時に、違いますよ!と高らかに宣言した男がいた。
「違います!社長は、前から考えていたんです!このドレスアップデーを!」
「え?」
低い声で問うたのは、その奈緒美。
「そんなはずないじゃない。この人の考えることなんて、ぜーーんぶ、行き当たりばったりよ?」
長く付き合った女友達だから言えることを、ジュリエット星川も言う。
「だって、用意されてるんですよ!?」
「用意って・・・」
じゃーん!!
野長瀬が出してきたのは、ドレスだった。
これをドレスと呼ばず、何をドレスを呼ぶのか、というドレスだった。
鮮やかなカナリアイエローのドレスは、スパンコールで飾られ、スカートの広がり具合は、半端じゃなく、肩や、首は、剥き出しになるようなデザインだった。
「すごー・・・」
正広が思わず呟いてしまう鮮やかなドレスだ。
しかし、兄、由紀夫は落ちついている。
「・・・奈緒美も社交ダンス、すんの?」
「ですよね!ですよね!社長もやっぱり、ダンスの魅力に取りつかれたんですよね!?」
それは、社交ダンスで使われるドレスに違いなかった。パーティーでは着られない。現在、このドレスが棲息を許されているのは、社交ダンス界のみ!
「あんた、社交ダンスなんて、もうずっと前に止めたんじゃなかったの?」
「しーっ!しぃーーっ!!」
「え!奈緒美さん、やってたの!?」
「じゃあ、その時の衣装!?」
早坂兄弟に詰め寄られ、違う違う!!と奈緒美は両手を振った。ぎりり!と星川を睨んでも、星川は楽しげな笑顔のまま、さらに言い募った。
「違うのよ。だって、この人がやってたの、ラテンだから」
「ラテン!?」
野長瀬が悲鳴を上げる。
「社長が、ラテン!?ラテン!?」
「ラテンって、ラテンって、ひょっとして杉本彩!?」
「そうだよ、ひろちゃん、杉本彩がラテンだよ!」
「奈緒美さんがぁーーーー!!!!」

がつん、がつん、がつん。ゴン!

奈緒美の鉄拳制裁が、野長瀬、正広、星川と続き、最後に由紀夫にも落ちた。
「ちょっと待て!俺が何を言った!」
「目が・・・!あんたのそのくりくりした、子犬のように可愛い目がゆっていたのよ!」
「俺の、可愛い子犬のようなくりくりした優しげな目が何を言ったってんだよ!」
「いいように言葉を追加しない!」
ゴン!
さらに由紀夫に鉄拳2を落とし、奈緒美はそのドレスを見に行った。
「あぁ、でもいいものじゃない?」
「ですよね。プロの人が着てもいいようなもんだと思うんですよ」
「そうなんだぁ〜。うわ、軽いね」
「ドレスにも流行りがあるんですけど、やっぱり、スカートが綺麗に回るとかっていうのがいいんですよねぇ」
「ふーん」

「あら、どしたんですか?それ」

やっぱり、こういう異常な状態は、外から見てもらった方がよく解る。
なぜかデパートの袋を下げている典子の声で、まず由紀夫が我に返った。
「なんで、こんなドレスが事務所にある訳?」
「こないだ、ロッカーは片付けたし・・・」
正広も不思議そうに首を傾げる。軽いドレスだけど、体積はあるのだ。細めのロッカーには収まりきらないかもしれない。
「典子も知らないの?」
「知りません。私、布地は少ない服の方が好みですから」
「解りやすいわねー!」
「あ、でも、千明ちゃんよりは、多めで」
星川に返事をした典子は、でも、気にはなるの、女の子だもん♪とドレスを見に行った。
「でも、これ一体・・・」
「野長瀬、どっから出してきたんだよ。あ!おまえが、本当はいないパートナーに着せようと用意したもんなんじゃん?」
「こわーー!!恐すぎるよ、兄ちゃぁーーーん!!」
「違います!これは、あの段ボールに入ってたんですっ!!」

あの!

と野長瀬が指差した段ボールは、ロッカールームの中にあった。
ロッカールームのロッカーの上にあった。
「何、あれ。あんなとこに段ボールなんてあった?」
典子に聞かれ、正広は首を振る。
「ロッカーの上になんか、段ボールなかった・・・!昨日まで・・・!」
「え?俺、置いたぞ。こないだ荷物運んだ時」
「えっ?」
「それで、僕が置いてたんですよ、燕尾服を」
「えっっ???」

正広と典子は顔を見合わせた。

「「85個目!?」」

85個目の段ボールがついに発見された。
段ボールに貼られていた配送票によると、正しい届け先は個人の家になっていた。
「入ってたの、これだけか?」
「いや、オプションが色々」
「自転車じゃ無理だな。車、出すわ」
「ちょとまって、地図地図!」
正広が住宅地図をコピーして由紀夫に渡す。
「宅急便屋に連絡しとけよ」
「はーい」
そして、カナリアイエローのドレスは、腰越人材派遣センターを後にした。

・・・着てみたかった・・・。

その場にいた何人かの心に、その言葉を残して。

由紀夫は、なにせ有能な上、記憶力や、方向感覚が優れているものだから、あっと言う間に正しい届け先についてしまった。野長瀬が言うには、この週末、ちょっとした競技会があるという。おそらく、それ用の衣装ではないかと。
もう水曜日。野長瀬のように、ドレスに体を慣らしたいとかいうのがあるのなら、それはかなりギリギリだろう。
そんな女性のために、有能過ぎる自分が恐いぜ、なんて思いながらチャイムを押すと、ちょっと泣きそうになっている女性が顔を出した。
泣きそうというか、ほぼ泣いていた。
「あ、あの・・・」
「はい?」
自分が泣きそうになっていることに気付いていないようで、涙のたまった目で由紀夫を見上げてくる。
若い、可愛らしい女性だった。
カナリア・イエローの似合いそうな。

「失礼します。酒井ゆき様ですか?」
「あ、姉です・・・」
「あぁ、お姉様ですか。お届けものです」
「届け物って・・・!まさか・・・!みつかったんですか!?」
「ドレス、ですよね」
「よかった・・・!お母さん!」
彼女の声に、母親が出てくる。華奢な、上品そうな女性だった。
「お母さん、ドレス見つかったって・・・!」
「まぁ・・・!」
母親も泣いていたのだろう。目許を押さえながら、何度も頭を下げている。
「この週末、長女が、社交ダンスに大会にでますのに頼んでいたドレスが届かなくて・・・。他にもあるんですが、娘はどうしてもそのドレスがいいと申しまして・・・」
「お姉ちゃん、がっくりしてたから・・・。部屋に閉じこもっちゃって、ずーっとでてこなかったんです・・・。よかった、ホントに・・・!」
心から、心配していたのだろう。二人の表情からは、安堵の気持ちが伺えた。由紀夫も一緒に嬉しく思えた。

「お姉ちゃん、ドレス、届いたわよ」
彼女の部屋のドアを妹がノックする。
「うそ・・・!」
「ほんとよ、お姉ちゃん!もう大丈夫!開けるわよ!」
がちゃ!!

ドアを開けた彼女は、薄ぐらいままの部屋のカーテンをざっとあけ。

「おねーーーちゃーーーーーん!!!!!!!」

と激しく怒鳴った。
それはもう、奈緒美8人分くらいの怒鳴り声だった。
何事!と部屋を覗いた由紀夫も、「こらおまえーーーーー!!!!」と怒鳴りたくなる衝動を必死にこらえた。
母親は、無言で娘のうずくまっていたベッドに近づき後頭部を張り倒した。
「なんで、3日やそこらでそれだけ太れる訳!?」
「あんたはもーー!!どこに隠してたのよ!そのお菓子!」
「ドレスが泣いてるぞ!」
オーダーしたドレスが届かない哀しみは、彼女そ過食に走らせていた。
わずか3日で、彼女の体は、ぶくぶく太っていた。
無理やり頼んだドレスは、到底入らないだろうというほどに。
「入るわよ!入るって!」
「入るもんですか!裂けるわよ!布自体が裂けるわよ!オーダーする時なんて、無理矢理ダイエットしていったくせに、そのリバウンドも来てるじゃないの!」
「お母さんには、油抜きで料理してね、なんて言ったくせに!お料理くらい、自分でしなさい!」
「リバウンドするダイエットなんて、最低だぞ!」
言われても、言われても、シナモンロールに手が伸びる、顔のパーツだけは妹と一緒で綺麗な、いけない酒井ゆきだった。

このアクシデントで、パートナーから解消を言い渡された彼女が、野長瀬のパートナーになるまで、後数ヶ月かかることになる。
(彼女の体重には、増減はない)


「美しいものが嫌いな人がいて?」
がすぐ解るという人は、ちょっと問題です(笑)古いことを覚えすぎています(笑)

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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