天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

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ギフト番外編102後編『さくらんぼを届ける・・・?』

その朝、誰もしらないさくらんぼは、倍の量に増えていた。どうした、赤い冷蔵庫!
・・・産んだのか!?

yukio
 

「とにかく、電話、出たら?」
控えめに鳴り出した電話を指差し、由紀夫がいった。
奈緒美さんかも!と飛びついた正広は、それがとても普通の電話だったことにがっくりしながら応対をした。
野長瀬も、しぶしぶ冷蔵庫の扉を閉め、仕事にかかる。
由紀夫は、この訳の解らないさくらんぼをそのままにしておくのはどうにも気持ちが悪かったが、今のところ、どうしようもない。
材料が少なすぎる、と思った。
全員揃うのは、明日だ。明日になれば、この現象にもなんらかの答えが出る。

・・・でなかったら?

ちょっと思ったけれど、いや、出るはず。と由紀夫は信じた。

のに。

「知らないですよ」
「知らないわよ、そんなの」
「えっ!?」

翌朝、正広は驚愕した。由紀夫も野長瀬も驚愕した。さくらんぼは3倍になっているのに、典子も、奈緒美も知らないというのだ。
「え、だって・・・!ウソでしょっ?」
「ウソってやぁね、ひろちゃん。だって、あたしが買うんだったら、こんなビニールにはいれとかないわよ?」
奈緒美が指差したように、そのさくらんぼは、ごく簡単にビニール袋にいれてある。
「そっか・・・!奈緒美さんが買うさくらんぼは」
「桐の箱に入ってる・・・」
「そのとぉり!」
オホホホホ!と高笑いする奈緒美は、得意満面の表情で早坂兄弟を見まわした。
「それに、ピンクの真珠と呼ばれるほど美しく、大きさも、色も揃っているものよ!これは普通!スーパーでも売ってるさくらんぼよ!」
「さ、さすが社長・・・!」
「でも、なんでスーパーでも売ってるさくらんぼが・・・」
奈緒美や、典子じゃないことが解ったといっても、現実問題として、さくらんぼはここにある。
三日間に渡り、毎晩増えていったさくらんぼ。
それをどうすればいいのか・・・。
「気持ち悪いから、捨てちゃった方がいいんじゃないですか・・・?」
「そうねぇ・・・」
典子の意見は、もっともなものだ。
「でも、捨てちゃうんですかぁ・・・?」
正広は、しょんぼりとさくらんぼを見つめる。
そりゃあ、確かにビニール袋に入っているし、色も、濃いの、薄いの混在してるし、大きさもまちまちだけど、でも、さくらんぼなのに。

ぐっすん。

ぐっすん、の顔で、正広は兄を見た。
兄は、黙ってその顔を奈緒美の方に向けた。
「・・・か、買ってくるの・・・?」
正広のぐっすん+後ろから由紀夫の上目遣いだ。
おぉ!これぞ、超強力早坂兄弟おねだり攻撃!
ダブル『目で殺す』攻撃に合い、奈緒美はしぶしぶ受話器を取った。馴染みの果物屋に電話をして、桐箱入り高級さくらんぼ(1kg28000円)を配達させるためである。
「うわぁ、奈緒美さんありがとぉ〜」
嬉しいっ!とキラキラした笑顔の正広は、奈緒美にまとわりついて、いけない!お茶忘れてた?なんにします?とご機嫌をうかがい、由紀夫は微笑んだだけで、仕事に戻った。
由紀夫は、最小限の仕事で、最大限の結果を引き出すのが身上だ。

こうして届いたさくらんぼは、まずは見た目が美しい。
冷蔵庫で冷やして、3時のお茶タイムにいただいたら。
「おーーいしぃーーーー!!!!」
「ほら!野長瀬!」
ビストロSMAPの香取慎吾役を割り振られている野長瀬が、非常にタイミング悪く、しかし、鬼瓦のような顔をしてみせたが、正広の目には入っていない。
それはもう、美しいピンクの真珠。高級さくらんぼに夢中だ。
「うわ、でもこれ、ほんと美味いわ」
3時のお茶タイムには、絶対帰ってくる!と馬車馬のように仕事をこなした由紀夫は、疲れた体が癒されるような、爽やかな甘味を楽しんでいる。

「それにしても・・・」
1kgのさくらんぼがあっという間に姿を消しそうになった頃、正広は呟いた。もちろん、彼の前にさくらんぼの種は山盛りだ。
「あのさくらんぼ、ホントにどうしたんだろ・・・」
冷蔵庫の中には、まだ、3袋分のさくらんぼが入ったままだ。
「鍵、どっかに流れてんじゃないの?あ。野長瀬」
「え?わ、私っ!?」
「気に入ったコンパニオンのおねーちゃんとかに、仕事終わったら、事務所で会いましょう♪勤務条件についてお話しませんか?なんてゆって鍵渡したんじゃねぇのぉ〜?」
「ゆっ、ゆきっ、由紀夫ちゃんっっ!」
「うわ、ありそー・・・!」
イヤそーな顔で典子が呟いたが、典子の前の種の山は小さい。
「してません!そんなことしてませんって!」
「じゃあ、あれかしら。コンパニオンのお姉ちゃんが、野長瀬のスーツから、事務所の鍵を取り出して、型を取って・・・」
「あぁ、野長瀬が、スーツ脱いで、席外した間にね」
「鍵はここに入ってるんですっ!」
立ちあがって、ズボンの尻ポケットを叩く野長瀬に、由紀夫と奈緒美は大きく溜息をついた。
「ズボンまで脱いでたとは・・・」
「だから、違いますってぇーーーっ!!」
首を振りながら、やれやれと困り果てた顔の二人に、濡れ衣だーー!と野長瀬が叫ぶ。その間にも、正広の前の山は積みあがっていっていたのだが。

「あれ?」

正広は気づいてしまった。

「典子ちゃん、さくらんぼ嫌い?」
「えっ?」
驚いて顔を上げる典子は、自分と、正広との、山の違いを見て、いやいや、と首を振る。
「そんな、ひろちゃんと比べられたら」
「だって、兄ちゃんより食べてないよ?」
「由紀夫さんと比べられたって!」
自分は女なのに!って憤慨する典子に、由紀夫は言った。
「甘いものは、俺の3倍くらい食うくせに」
「ひろちゃんは、さらに倍ですけどねっ!」
「6倍もは食べないようぅ〜」
「ほんと、食べてないわね」
奈緒美も言い、野長瀬も見たけれど、典子の食は進んでいなかった。
「どしたの?さくらんぼ、好きでしょ、あんた」
「え、えぇ・・・」
「あ!解った!」
パン!と正広が手を叩く。

「彼と食べたんだ!」

「ちょっとちょっと〜・・・」
奈緒美がイヤそーな顔になる。
「なんか、イヤじゃない?カップルで食べるさくらんぼって」
「二人で結んでそうだし」
さくらんぼの柄なんて、いっくらでも結べるぜ、と、口の中で、くるん、くるん、結んでいた由紀夫が答えた。
「結んでそう?」
何?と尋ねる顔をした正広は、兄も、奈緒美も教えてくれないと見てとると、野長瀬を見て、典子を見て、結局誰からも教えてもらえなかった。
「あ、いやいや・・・あ、そ、そうなんですよ。あの、さくらんぼ狩りに・・・」
「あら、いいわね、さくらんぼ狩り。どこ?」
「ど、どこ?」
「あたし、やったことないのよね。行ってみたくて」
「え、で、でも、もう7月だし。多分、もう、あの。無理ですよ?」
「そうなの?どこら辺にあるの?」
「え、えと、山の、方・・・」
「山?」
富士山?と日本人らしい発想をしてしまった奈緒美だ。
「何よ、はっきりしないわねぇ。あんた、どこ行ったのよ」
「奈緒美さん、奈緒美さんっ」
正広が、スーツのすそを引っ張った。
「思い出の場所は内緒♪なんですよっ!ね、典子ちゃん?」
「あ、うん。ま、ね。二人の思い出、だから」
もごもご言いながら、典子は新しいさくらんぼに手を出した。
「美味しいですね、これ」
その言葉は、かなりペラペラだった。相田翔子のコメントくらいペラペラだった。

「・・・さくらんぼ狩り・・・?」

由紀夫は呟いて、冷蔵庫の中をのぞきこんだ。
冷蔵庫の中にあるビニール袋入りさくらんぼは、それぞれに、とてもよく似ていた。さくらんぼが似ているというのもおかしな話だが、色合いの混ざり方、柄の感じ、量、痛み方なども、よく似ていた。
同じスーパーのとなり同士のパックを買えば、こうなるだろうといった感じだ。

「これ、典子か?」

「きゃーーーーー!!!!!!!」

その瞬間、典子は冷蔵庫に飛びつき、ドアを閉めた。
冷蔵庫にへばりついたその姿は、『いっそ私も冷蔵庫に入ってしまいたい』と全身で叫んでいるように見えた。
「え?典子ちゃんが、いれたの?そのさくらんぼ?」
何事が起きたか解らない正広は、きょとんとしたまま、冷蔵庫にへばりついている典子を見つめる。
「ど、どぉして私だと・・・!」
「いや、俺たち3人じゃなくて、奈緒美じゃなかったら、残るのは典子だから」
「で、でも、あたしは、りょ、旅行に・・・っ!」
「・・・ホントに行ったのか?さくらんぼ狩り」
「うっっ・・・!」
「土壇場でフラれて、スーパーで買ったさくらんぼを、3kgを毎日食ったりとかしてたんじゃあ」
「ぐふっ!」

そして、典子は倒れた。
さくらんぼの食べすぎだった。

 

ぴかー、と明るいライトの元、典子の供述が始まる。
「どうしてこんなことをしたんだ!」
若さの余り先走ってしまう刑事といえば溝口正広だ。
「す、すみません・・・」
犯人であるところの典子は、しょんぼりと足元を見つめていた。
あ、さくらんぼの種が落ちてる・・・。
そんなことを思った典子は、その種をサンダルの先でつつき、ヤダ、あたしったらなんだか落ちついてると小さく笑ってみる。
「何がおかしいんだぁ!」
ばぁん!と机を叩く若い刑事を、まぁまぁ、と先輩刑事がなだめる。
「罪を憎んで、人を憎まずじゃよ・・・」
「おやっさん・・・」
野長瀬おやっさんは、典子の前の椅子に座り、どうしたんじゃ、と供述を促す。
「あ、あの・・・」
喋ろう。喋らなくちゃいけないと思いながら、典子の口は重い。
あれは、思い出したくない出来事だった。

「カツ丼、お待たせしましたぁ〜」
出前の兄ちゃんは、ホスト!?というルックスをしていながら、爽やか。
「ま、食べなさい・・・」
「け、刑事さん・・・」
「典子!典子ぉー!」
「お、お母さん!?」
「そう。お母さんにも来てもらったんじゃよ。だから、早く、素直に・・・」
「その前にカツ丼食ってくださーい!」
爽やかな出前の兄ちゃんに言われ、ぱかっと丼の蓋をあけた典子は。

「食べられませんよ!」
「だって、奈緒美の食った後に、スーパーのさくらんぼ食えねぇだろ!!」
丼の中は、ぎっしりつまったさくらんぼだった。
「飯、入れなかっただけありがたいと思え!」
「うわー、それはイヤだねぇ〜、さくらんぼ丼!」
刑事のコスプレを楽しんでいた正広も、すっかり素に戻る。
「何ソースがかかるわけ?甘いのかしら。でも、卵でとじてあるのとかもいや!」
貧乏な田舎のお母さんコスプレのため、割烹着を着ていた奈緒美も、心底イヤそうな顔をする。
「それより、彼にフラれたんですか?それははっきりしてるんですか?」
恋愛大好きっ子の野長瀬だけが、珍しく本流から離れなかった。
「あああー!!だからイヤだったんですぅーー!!」
典子がデスクに泣き崩れる。
「二股かけられてて、ドタキャンくらったことよりもー!!この人たちから話を聞かれるのがイヤで、さくらんぼの謎を考えだしたのにーー!!あたしの旅行なんかより、楽しい話題を提供したのにぃーー!!」
「ドタキャンかぁ」
「二股ねぇ〜」
「それで、さくらんぼ食ったの?ヤケ食い?どれくらい?」
「・・・・・・・・・買ったのは8kgです・・・・・・・・・・」
「は、8キロ!?」
「スーパーで、全部買ったら、それくらいあって・・・・。ずっと食べてたんですけど、冷蔵庫にも入らないし。それで、事務所の冷蔵庫にも入れてやれと思ったら・・・。なんか、謎っぽくって楽しいかなって思って・・・」
「うん。楽しかった!」
力強く頷いた正広に、そうか、楽しかったか・・・、と典子は満足しようとして。
「でも、二股って、相手の女の子、どんな子?」
「やっぱり聞くの!?」
「そりゃ聞くよ。さくらんぼ食うより、おもしれーじゃん」
「それに、さくらんぼの謎は謎として、この話題の後は、典子の旅行話を聞くっていうタイムテーブルになってたのよ?」
「なってたんですか!?」
「そりゃなってたわよ。見てよこれ」
「ああっ!そんなものまで!」

奈緒美が後ろ手に示したものは、記者会見セットだった。何本ものマイクが組み合わさっていて、金屏風も用意されていた。

「あ、じゃあ、こっちで聞こうー!」
正広は横長会議机の上にマイクセットを置き、後ろに金屏風を広げる。
「違うじゃないですか!二股ドタキャンのセットじゃないじゃないですか!」
「でも、立ち取材用の、みんなが持てるマイクセットがなくって・・・・」
「写真もとっとくか。フラッシュばしばしたいて」
「いやぁぁーーーーーーー!!!!!」

その後、まだ3kg残っていた(5kg食べたのか!?)さくらんぼは、さくらんぼジャム、さくらんぼ酒、さくらんぼケーキなどに姿を変えた。

ビバ!さくらんぼ!


さくらんぼは美味しいですが、やはり、長嶋一茂の、桐箱に入ってないさくらんぼは見たことがないっていうのが印象的な果物ですな。一昨年、北海道で食べたさくらんぼは美味しかったっす!佐藤錦より美味しいってやつで!えへ!

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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