天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

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ギフト番外編103前編『患者さんを届ける』

昨今の小学生は、どうなんですかね。歯医者さん。私は、治療台に横になった段階で泣いてたことがありましたけど(笑)

yukio
 

「うぅ〜・・・・・・・・・・・・」
腰越人材派遣センターに低い声が響く。
その声は、倉庫の中からしていた。
たまたま、自分用に梅コブ茶をいれて、あつあつの湯のみを持って歩いていた(臆病)野長瀬が、びびくぅぅっ!と仰け反って、お約束のように梅コブ茶を、自分の手にこぼして、うわーーっちっちっ!と騒ぎ出したもんだから、その低い声はかきけされた。
「何やってんですか!ドリフじゃないですか!」
ひゃひゃひゃ!と笑う典子は、ついこないだ、二股かけられたことなんて忘れたように元気だ。
「あっつぅーー!」
バタバタとキッチンに戻る野長瀬の足音が消えると、また事務所の中は静かになった。
典子は、書類をつくり、由紀夫はのんびり雑誌を読んでいたのだが。

あれ。
さっきまで、由紀夫がいたソファが空になっている。
由紀夫がどこにいったのかと見てみれば。

「正広!」
倉庫のドアをノックしていた。ノックというより、叩いていた。
「だから言っただろ!」
「え?どしたんですかっ?」
大げさに、手にハンケチを巻いて出てきた野長瀬がかけよってくる。
「ひろちゃん?どっか具合悪いんですかっ?」
「悪いんだよ!病院行けっていってんだろー!?」
「ひろちゃん!そうですよ!病院行った方がいいですよっ!」

「ちっ、ちがうよっ!」
ドアをあけて、明るく微笑みながら出てきた正広は、ぱっちり目を見開いて、違う、違うと首を振る。
「どこも悪くなんかないしっ!」
しかし、その微笑は、いつものものとは違った。
コメカミに、細かい汗が見てとれる。
「正広」
だから、由紀夫はピシリと言った。
「行きなさい」
「平気だもんねっ!」
兄と、野長瀬の間を通り、自分のデスクに戻った正広は、そのまま、突っ伏した。
「うーー・・・・・・・・」
「ひ、ひろちゃんっ!?」
椅子を引く。座る。突っ伏す。唸る。
その流れがあまりにスムーズだったため、典子もギョっとする。
「ど、どしたのっ?」
「だから歯医者行け!つってんだろ!」
そんな兄の言葉に、正広はなお首を振った。突っ伏したまま、左の頬を、机に押しつけたまま、無理に首を振った。
「歯じゃ、ない・・・!」
「はぁ?」
がばっ!と起きあがった正広は、左頬をぎゅっ!と押さえながら宣言した。
「これは、筋肉痛!!」

「どれだけ喋ったって言うんだよぉーーー!!」

由紀夫が怒っても、正広は、違う!を繰り返すばかりだ。筋肉痛だと言い張るのだ。
「だって、顔も筋肉痛になるって聞いたことあるもんっ!」
「でも、歯が痛いんだろ?」
「ち、違うっ!顔っ!」
「じゃあ、顔でもいいよ。顔だったらどの病院だよ」
「筋肉痛だから、これでいいっ!」

ぴちゃ!

顔にサロンパスを貼り、これでいい、と正広は仕事を続けようとして、いたたたぁ〜・・・とまた突っ伏した。
「歯でしょ?」
「歯ですよね」
「歯だよ」
「ぢぃがぁうぅぅぅ〜〜〜・・・・・・・・・・!」

そこで電話が鳴り出したので、正広は、苦しい息の下受話器を取り上げた。
「あ、・・・腰越人材派遣センターです。はい。お届けものですか?はい。承ります。・・・はい、はい。それでは、今日二時ですね。はい・・・」
電話を切り、よろよろした字でメモを書きなおし、由紀夫に差し出す。
「二時にぃー・・・、そこえーーー、いってえーーー・・・」
サロンパスを貼りながら、鬼気迫る表情の正広に、典子も野長瀬も、何も言えなかった。
でも、さすが兄。
由紀夫だけは、びしぃ!とゆったのだ。
「病院行かないんだったら、痛い顔をするな」

「ま。ちょっと聞きまして?野長瀬の奥様」
「聞きました、聞きました、典子の奥様」
「典子の奥様って、誰よ」
「あ、社長」
夏は暑いから、プールで一泳ぎしてからいくわ、とさすが奈緒美様!な発想で、プール後出勤の奈緒美が、サングラスを外しながら尋ねる。
「いえね、腰越の奥様、由紀夫さんのご機嫌が悪いんですよっ!」
「あら。アノ日?」
「あーー、セクハラー、セクハラー」
きゃはは!と楽しく笑う3人だったが、早坂兄弟は、二人そろってひっじょーー!に不機嫌な顔のままだった。

「ここか」
不機嫌なまま、二時になって、由紀夫がやってきたのは、一般家庭だった。
野々宮という表札。あたかも幸せの象徴のような庭付き一戸建て。庭は緑で溢れ、その木や花はキチンと手入れされ、そこまでやったら、家の中で何かが起こってんじゃないの?2時間ドラマ的には、といった風情。
家庭内別居状態で、ガーデニングしかすることがないとか。
嫁姑が異常に揉めるとか。
子供が引きこもってるとか。
やさぐれた気持ちで、ピンポーンとチャイムを慣らすと、若いお母さんが出てきた。赤ちゃんを抱っこしている。
「腰越人材派遣センターですが」
「あ、ありがとうございます!」
そして、キョロキョロっと辺りを見まわした奥さんは、急いで!と由紀夫を手招きして玄関の中にいれた。
なんだ?
近所の奥さんに若い男を引っ張り込みやがってと思われるのか?
「そろそろ小学生が帰ってくるんですよ!私うっかりしててー!今日はクラブがなかったんです!」
「は?」
ご機嫌よさそうな赤ちゃんをベビーベッドに寝かせ、奥さんは、真剣な顔で言った。
「届けてもらいたいのは、子供なんです・・・!」
子供!?
あの子ですか?とご機嫌良さそうな赤ちゃんを指差すと、奥さんは、違う違う!と目の前で手を振った。
「あの子の、お姉ちゃんを・・・!」
「どこに・・・?別れたダンナさんのとこにですか?」
「そうそう。別れてすぐに、浮気相手のあの女と結婚するなんて、許せない・・・!じゃなくって!」
「いいノリしてますね」
「よく言われます。あああ、だから!あの子の姉で、小学校一年の、うちの長女を、届けて欲しいんです!」
「二人の結婚を認めてくれなかった、ご実家のおじいちゃん、おばあちゃんに」
「そうそう。確かにあの人は、どうしようもないプー太郎だったけれど、今は立派に、じゃあなくってぇ!!」
ショートカットの、元気の良さそうな奥さんは、じゃあなくってぇー!と大きく腕を横に振り、それがベビーベッドに当たった。
赤ちゃんは笑ったが、本人的には非常に痛そうだ。

「どこに届ければいいんですか?」
「いだだだ・・・・・・あ、あぁ、そうでした。は、歯医者さんに、お願いしたいんです!」
「歯医者!?」
なんで、1日に2度も、3度もその名を聞かなくてはいけないの?な、歯医者?
「どこの子供もそうでしょうけど、うちの娘も、それはそれは歯医者が嫌いなんです・・・!確かに、近いからと思って通った歯医者は、古いし、暗いし、痛いしで、大人でもちょっと、と思うようなところだったんです。それですっかりイヤがるようになっちゃって、でも、新しい歯医者さんが出来たんですよ!」
奥さんは、ぱぁっ!と明るい表情で言う。
「評判も上々ですし、私もちょっといってみたけど、先生も若くてカッコいいし、看護婦さんも優しいし、泣いてる子供なんていないんです!」
「あ。そうなんですか」
「でも、娘は、歯医者=痛いと思い込んでしまってて、私が言ったんじゃあ、ダメなんです!」
「なるほど。それで、うちで連れていけと・・・・・・・・・・」
由紀夫は考えこんだ。
「えーっとだったら・・・」
「それで、考えたんですけど!」
奥さんは、身を乗り出してきた。
「私が姿を出しちゃうと、歯医者がイコール痛いになっちゃうんですよ」
「はぁ」
「だから、学校帰りに娘とさりげなく知り合って、さりげなく連れてってもらう訳にはいきませんでしょうか!」
「は!?」
由紀夫はこんこんと言って聞かせた。
この小学生が危険な目に会いがちな昨今、見知らぬ男から声をかけられて、ほいほいついていくような娘にしたら、これから将来に渡ってマイナス面が大きい!と。
「でも・・・!」
奥さんとて負けてはいない。娘のことを思っているのは、彼女の方が強いのだから。
「今なら、多分、1度で大丈夫なんです・・・!」
学校から渡された歯の検査用紙を持ってきて、奥さんは言った。
「1本だけです・・・!ここを直せば、リリ子は、リリ子は・・・!」
「リリ子ちゃんって言うんですか」
「そうです・・・。リリ子がこれ以上痛い思いをしないように!お願いします!それに・・・!あなたならできます!」
奥さんはきっぱりと言った。
「リリ子は、私にそっくりです」
「顔がですか?」
ほがらなか表情をしている人なので、こりゃあ子供らしい子供だなと思ったら。
「面食いなんです・・・!」
「・・・は?」
「早坂さんの言うことだったら、多分、すぐ聞きます!」
「え?え??」
「お願いしますーーー!!!」

由紀夫の評判を聞きつけて頼んできたという奥さんに逆らえようか。
そして、由紀夫には、由紀夫の届け屋としてのプライドがある。
歯医者の場所、そしてリリ子の通学路を聞き、由紀夫は野々宮邸を後にした。

<つづく>


治療台に横になった途端泣いていたのは、その日は歯を抜かれることが解っていたから。歯を抜かれるのもイヤだけど、その前の麻酔の注射が、アホかぁーーー!!!ゆーほど痛かったです。先生の、「あれれー、今日はご機嫌悪いねぇ〜」というセリフまで覚えています(笑)
待合室には、ブラック1コママンガの本、みたいなのがありました。多分、海外のヤツね。どう考えても子供がいく歯医者じゃないじゃん!考えてみれば、家の3軒ほど隣には医者があって、そこに行ってたこともあったのに、なぜ行かなくなったのか・・・。謎です。多分、母親が知ってて、そんな理由かい!!ゆーよーなことをゆってくれるんだと思いますが(笑)

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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