天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

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ギフト番外編103後編『患者さんを届ける』

正広の歯が痛んでいる。でも、歯医者にいこうとしない弟を叱る由紀夫だったが・・・!

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野々宮リリ子は、小学校低学年のわりに、整った顔の少女だった。
父親似なのか、隔世遺伝なんだろう。
大きなランドセルを背負い、友達と笑顔で話していた彼女だったけれど、じゃあね、バイバイ!と手を振り合って曲がり角で別れた途端、小さくため息をついた。
その表情に、由紀夫は見覚えがあった。
小さな、紅葉の手が、頬に当てられる。そして寄せられた眉。
・・・歯が痛いに3000点・・・!
はずむようだった足取りも、とぼとぼと重たいものになり、時折止まったりする。
その表情を、遠くから見ながら、まだ、それほど深刻ではないな、と由紀夫は判断した。

さて、どーやって声かけるかな、と、自転車によっかかりながら考えていた由紀夫だったが、その視線が強すぎたのか、りり子が由紀夫の方を見た。
車道を挟んで、左右の歩道に二人はいて、ばっちり目が合う。
由紀夫も、そしてりり子も、目を逸らすタイプではなかったようで、しばらーーく距離を置いて見つめあうことになった。
「あのー」
離れているリリ子に、由紀夫は声をかけた。
「この場所って、解るかなぁ〜」
「えー?」
聞き返したリリ子の元へ、自転車で向かう。最初、じっと由紀夫を見つめていたリリ子だったけれど、近くまでくると、その自転車がとても綺麗なのに、また驚いたようだった。
「きれい」
「そう?」
由紀夫は自転車を降りて、目線を下げる。
「ここなんだけど、俺、方向音痴で」
「ここ・・・?」
まだ一年生とはいえ、近所の住所くらいは読めるリリ子は、この近く、と由紀夫に告げた。
「近くか。うーん。さっきからグルグル回ってて」
ニコっと笑いかけると、リリ子もニコっと笑い返す。
「とりあえず、ここからだったら、どっちかな」
「えっと・・・。たぶん、こっち」
こっち、と指差すリリ子は、そのメモを持って歩き出した。
「え?」
「だって、どこでまがってとか、わからないから」
「いいの?ごめんね」
自転車を押しながらリリ子の横に並ぶと、チラっと由紀夫を見上げて、ニコっともう一度笑う。
「何?」
「マ・・・、おかーさんのすきな、かおだっておもって」
「俺?お嬢ちゃんは?誰が好き?」
「リリ子です」
「リリ子ちゃん。早坂由紀夫です」
「ゆきおちゃん?」
「ちょっとどこかの政治家風だけどね」
きょとん?
首を傾げたリリ子は、わかんない、と首をふって、立ち止まった。
持っているメモと、電柱の住所表示を見比べていた。
「えっと、4、だから・・・」
「すごいな、そういうの解るんだ」
「うん。ちず、すき」
そしてまた笑顔を見せたリリ子だったが、由紀夫は見逃さなかった。前を向いた彼女は、また、少し憂鬱な顔をしている。
今は、珍しい状況で忘れているだろうが、体は解っているのだ。
いつか、この歯が痛くなるってことを。

「これは、おともだちのところ?」
「いや、仕事先。俺ね、届けものをしてるの」
「キキだ」
「魔女じゃないよ」
「リリ子はね、ママ、えっと、おかーさんが、キキがすきだから、リリにしたんだって。子は、パ、おとーさんが、子のつくなまえがすきだから」
「キキ子じゃあんまりだよね」
「なにを、とどけるの?」
魔女の宅急便は、小さい頃から、死ぬほど見ているリリ子は、ほうきの代わりに自転車に乗ってる届け屋にものすごく興味がわいてきた。
顔だけでも好き、とおもったのに、その上届け屋さんだなんて、ワクワクする。
「綺麗なもの」
「え、みせて、みせて」
「それは、ちょっと」
斜めがけにしてるバックを後ろに隠すようにすると、リリ子は、えぇ〜!と不満そうに頬を膨らませる。
「だって、届ける人に先に見せないと」
「そぉだけどー・・・」
「じゃ、さ。届けた後で、その人がいいってゆったら見せてあげる」
「ほんとっ?」
リリ子は、嬉しそうに笑った。

どうやって、リリ子に歯の治療をさせるか、明確なビジョンもないまま顔を合わせてしまった由紀夫だったが、どうやらうまくいきそうだなと思った。
問題は、自分が、かなり、相当、恥ずかしい役回りになる、ということだけで。
それで、うまくいかなかったら、自転車ごと、壁につっこんでいきたくなる、というくらいで・・・・・・・・。

「あれ。んっとねぇ・・・。ここが、5でしょう・・・?5の、2。いきたいのは、7、だから」
「あ、もう近いね」
「うん。ちかい!」
綺麗なものが見られる!とリリ子ははりきってあるいている。
そして、由紀夫には見えてしまった。
一見、花屋さん?のようにしつらえてあるが、しっかり、『デンタルクリニック』と看板の出ている歯医者を。
「さーん、しぃー、ごぉー、ろぉ〜く・・・」
一軒、一軒、数えながら歩いていたリリ子が、花屋さん!と笑顔で走っていく。
由紀夫が追いついても、花屋にしか見えないし、実際、花も売っているようだ。
「おはなやさんに、なに、とどけるの?」
「綺麗なものってゆったでしょ」
そして、さりげにリリ子の手を取り、木のドアを開ける。
花があり、靴をおくロッカーがあり、そしてその匂いを、リリ子は感じ取った。
「・・・はいしゃさん・・・っ!?」
怯えるリリ子の手を、由紀夫はきゅ、っと握った。
「あ、こんにちわぁ〜」
明るい笑顔のお姉さんは、どこからどう見ても、看護婦さんだった。ピンクの白衣(ピンクなのに白衣とはこれいかに!?)を着ている。
「お花?それとも、歯かな?」
「おとどけものですぅ・・・」
由紀夫の後ろに入ろう入ろうとリリ子は頑張る。
「お届け物?あぁ、届けにきてくれたんですね」
「はい。綺麗なもの、ものっていうか、綺麗な子をお届けに」
「えっ?」
リリ子は聞き逃さなかった。
「こ、ってゆった?」
「ゆったよ、リリ子ちゃん。お届けものはね、これ」
斜めがけバックの中から、由紀夫は鏡を取り出した。小さな鏡は、身だしなみ!とうるさい奈緒美に持たされているティファニーのもの。
その鏡をリリ子に向け、顔を映す。
微笑んでる由紀夫の背中は、さぶいぼで一杯だ。
「ほら、綺麗なお届け物」
スーツの下の両腕もさぶいぼで一杯。
「リリ子ちゃんを、届けにきたんだ」
「でも、わたし、はなんて・・・」
痛くない、と小さく首を振るリリ子の頬にちょんと触れる。
「痛かったでしょ、こっちっかわ」
奈緒美が泣いて欲しがるすべすべの頬だった。
「あ。でも・・・」
困ったなぁ、というリリ子を、待合室の椅子に座らせる。まだ靴ははいたままで、逃げようと思えば、逃げられる位置だ。
「もう一回これ見て」
と鏡を持たせる。
「リリ子ちゃん、目と目の高さ、一緒でしょ」
「え、うん・・・」
「耳の高さも一緒で、口の端も一緒。でも、これがね、もし、こっちの歯が痛くなって、その放って置いたら、ずれちゃうかもしれないんだって」
この辺りは、ウソかホントか、由紀夫もよくは知らない。
まして、虫歯一本を放置していたくらいで、そこまでひどいことにはならないと思うが、小さくても女の子。その子の自尊心をくすぐるのは、ある程度有効だろうと思った。
「ずれちゃうの・・・?」
そして、それは由紀夫が期待していたのとは違う方向に現れた。
「かおがずれちゃうの?えっ!とれちゃうっ?」
「と、取れちゃうってことは・・・」
「いやぁん!」
しまった。いらん恐怖を与えた!と由紀夫が一瞬ひるんだ隙に、逃げられるか!と思ったら。
「こわぁい!」
ひしっ!と由紀夫にしがみついてきた。

小さくても、女。
そんな言葉をもう一度心で呟く。
「怖くないよ。すぐ治っちゃうから」
「かお、とれてもっ?」
「いやいや、顔がとれないようにね。今日、見てもらったら、顔なんて、絶対とれないから」
「ほんとぉ・・・?」
心配そうな顔のリリ子に、看護婦さんがほがらかにいった。
「心配だったら、彼についといてもらおっか!」

『彼』
『彼』って、俺、ですか。

由紀夫の手をぎゅっと握り、リリ子は今にも泣きそうな顔で診察台に横になっていた。明るい色合いで、花が飾られている部屋は、どこかいい香りがした。
「野々宮リリ子ちゃん。いらっしゃいませ」
先生も女性で、いいわねぇ、とリリ子に声をかけた。
「どこで見つけるの、こんなステキな彼」
「みち・・・」
「道!最近は、道路に男前が落ちてるなんてねぇ。ちょっとお口あけてくれる?」
すでに母親からの連絡は受けているし、学校からの通知もFAXしてもらっている。先生は、あれこれ話かけて、リリ子の気をそらせながら、すばやく治療をしていく。
そして、リリ子は、ほとんど痛みを感じるヒマもないままに、治療を終えたのだった。
「大丈夫だった?」
由紀夫が尋ねると、リリ子は不思議そうにうなずき、目をぱちくりとしている。
「終わりましたよ」
先生も微笑んでいる。
「いたく、なかった」
「あら。それはよかった」
由紀夫もホッとして、自分の頬に手を当てた。

「じゃあ、リリ子ちゃん、彼に言ってあげて。痛くないよって」
「「え?」」
リリ子と、由紀夫が同時に尋ねる。
「だって、彼の方も、歯、痛いでしょ?」
「えっ!」
「え?ゆきおちゃんも、いたいの?」
「いや、俺は・・・っ」
「うっそ。痛いでしょ。そうでしょ。我慢してるでしょ。解るんだー。はい、じゃあ、リリ子ちゃん、交代してあげて」
「うん。だいじょうぶだよ、いたくないよ、ゆきおちゃん」
「え、え。いや、あの」
「ゆきおちゃんも、おかおとれちゃってもいいのっ?」
さっさと立ちあがったリリ子に叱られ、由紀夫は横になった。
「いたくないから。だいじょぶだよ?」
「そ、そっか・・・」

こうして、早坂由紀夫の虫歯は治療された。
弟の心配をするどころではなかった、歯の痛みを、ひっそり今治水で直そうとしていた男の、哀れな末路だった・・・。

帰りに、リリ子も、由紀夫も、小さな花束をもらった。
「また来てね。歯磨きの仕方とかも、色々あるの」
「はい!」
痛くなかったし、男前がついてるし、花束もらえるし。
リリ子は、大変この歯医者が気に入ったようで、由紀夫に言った。
「こんども、ゆきおちゃんとくる!」
「え」
『今度は、残りの歯石とりますから』
という言葉が頭のリピートされる。ざっととられただけでも、口の中血だらけだったんですが・・・。
「おもしろかったね!」
「う、そ、そうだね」
自転車の荷台に乗って、リリ子は嬉しそうだ。

そうだよな。
由紀夫は思った。
だって、リリ子は診察券を渡されていないのだ。
リリ子の治療は終わったのだ。
明るいオレンジの、次回の予約日時かすでに書かれている診察券を、スーツの内ポケットにいれ、由紀夫はリリ子を送っていった。

「あ、兄ちゃんお帰りっ!」
明るい正広の声が、歯に響くような気がする。
正広は、顔のサロンパスもなくなり、元気はつらつだ。
「もう痛くないよ!気のせいだったみたい!」
ふ、正広・・・。
心の中で、由紀夫は思った。
今は幸せでも、いつかは見ぬかれるぞ。プロの歯医者には解るんだからな・・・。街を歩くときは気をつけろ!歯医者とすれ違わないように!

そんな錯乱気味の由紀夫だった。


そんなに痛かったのか!?由紀夫ちゃん!

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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