天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

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ギフト番外編106前編『チケットを押しつけられた』

もう、毎日チケットのこと、考えてます。毎日、毎日・・・・・・・

yukio
 

「兄ちゃん」
「なんだ」
「・・・これは絶対不思議の国に通じてるね」
「・・・」
そうかもしれない、と思ったが、それを口にするほど由紀夫は無邪気な子供ではなかった。
盛岡から安比高原に向かう花輪線は、電車ではなく、汽車。そして安比につく最終電車は、8時に盛岡を出るが、すぐさま、暗闇の中を走るようになる。
東京にいるとなかなか見ることのできない暗さを正広は満喫するかのように窓にはりつきウキウキしていて、由紀夫は、なんでこんなところに・・・と深いため息をついた。

そういうことは、残念ながらよくあることなんだと言う。

8月10日の由紀夫の仕事は、平常通りだった。
お盆休み前に、がっつり仕事をする予定になっていて、早朝から、さくさく仕事をこなしていく。
その最後になったのが、とある会社のOLから封筒を預かり、届けるというもの。
まず、その封筒を預かりにいったのだが。
「早坂さーん!」
「ども」
その会社は、かつて、上司への、罪のないいたずらを仕掛けたところ、上司がそのいたずらに気づかないまま本部の会議に出てしまって大変なことになりかけた、という会社。
早坂兄弟は、この会社の人たちと、一つの居酒屋を混乱の渦に叩き込んだことが何度もある。
「お盆はお休みですか?」
由紀夫の言葉に、へっ、と彼女はやさぐれた顔をする。
へっ、と顔を横に歪め、肩をすくめて課長を睨む。
「仕事っす!仕事っす!」
し・ご・と!し・ご・とっ!
彼女の仕事っす!に合わせ、課内の人たちも、コールし始める。
「ど、どしたんですか・・・!」
「課長が急ぎの仕事をウキウキと受けてきて!」
その課長は、席でちいさーくなりながら、指1本打法でパソコンに向かっている。
「そりゃあもう!やりがいのある!仕事で!!」
か・ちょ・お!か・ちょ・お!
今度は課長コールが沸きあがり、課長はどんどんどんどん小さくなっていく。
あぁ!このままでは豆になる!豆になって、からすに食べられてしまう!というくらい小さくなった課長は、体全体を使ってキーボードを打っているようにさえ見えた。
「ま、そんな訳で」
課長コールを振りきり、彼女は言った。
「お盆どころか、土・日も返上で働いてるんです」
「キビキビと!」
「イキイキとっ!」

仕事があるって素晴らしい!
生きているって素晴らしい!

そんなミュージカルすら始まりかけてきたので、由紀夫は、そっと封筒を受け取り、受け渡し先が書いてある書類を手に、会社を出ようとしたが。

「早坂さんはお休みはっ!?」
「あ、明日っから」
「いいなァ〜!」
「いいなぁぁ〜!!」
おーみやげっ!おーみやげっ!!
「おみやげって!別にどこにも!」
「ウソだ!早坂さんは、男前のお金持ちだ!フィジーとかいくんだ!」
「違うね。ニースだね」
「ぎゃあ!ニース!ニースでバカンス!カッコいいーー!」
に・い・す!に・い・す!!
「だから!行きませんってば!」
「国内っ!?」
一人が、はっ!と顔を上げた。
「日本人で溢れ帰っているヨーロッパじゃなくて、ここはあえて国内!?」
「軽井沢!?」
「ここはあえて軽井沢!?」
「万平ホテル!?」
ぎゃーーー!!!
かーるいざわっ!かーるいざわっ!!

あぁやって歌い踊ってる間に、1日くらい休み取れるじゃねぇのかな。

ラップ軽井沢(三木道山風)が始まったので、今度こそ、由紀夫は会社を出た。
そう思いながら向かった先は東京駅。
ここで、この封筒を別の女性に渡すという。
約束は、3時半。
相手の特徴は、
「160cm、中肉中背。ジーンズに、サンダル。上は、水色のシャツ」
メモを読み上げ、由紀夫しばし黙った。
「100人中70人くらい、そんな感じだな」
前を歩く女の子たちを見ながら由紀夫は呟く。
時間までは後10分。依頼者から、届ける相手には由紀夫が行くということは連絡が行っているはずだった。
自分が相当目立つことを知っている由紀夫なので、向こうが探し出すだろうと悠然と構えていた。

夏休みの東京駅は、出かける人も、やってくる人も多いようで、様々な視線を受け流しつつ、由紀夫は涼しい顔をしていた。

『さ、さすがとうきょお・・・!』
さてここに、四国は香川県からやってきた哀しき田舎モノがいた。
彼女は、東京駅に到着して、大丸でもいこうかしら、それとも、八重洲ブックセンター?なんて思っていたが、その途中で足が止まった。
と、とうきょおって、こんなかっちょいい人が普通に落ちているのね!
感動しながら、長い髪を一つに束ね、汗を感じさせない涼しげなスーツ姿の由紀夫を見つめていた。
この姿だけで、ご飯3膳はいける。
彼女がそう確信した時、由紀夫の携帯がなった。
仕事用の携帯に着メロは使わない。
あぁ、そんなスタイリッシュなところも素敵っ!と目をハートにしていたところ。

「あぁっ!?」

突然の大声に、彼の顔が歪んだ。
か、顔の筋肉、じゅ、柔軟、な、なんです、ね・・・。
見ていた彼女(以外にもたくさんいたが、それら全員)はそんな感想を持った。
イキイキ、なんてぬるい言葉では表現し切れない、由紀夫の表情の豊かさがそこにある。

「え?ドタキャンって何っ?」
『ドタキャンって、土壇場キャンセルのことですよぅー!』
「言葉の意味は知ってる!」
『それね、チケットなんですよ!』
「これ?」
丁寧に封をされているチケットを目の前にかざす。
「なんの?」
『8月11日に安比である、SMAPのコンサートチケットです!』
「・・・は?あ、明日?」
『私、仕事でいけなくなっちゃったから、譲る人探してて!それで、ペンションも予約してあるんですよ!だから、それごと譲るってしてたのに、その人もいけなくなったって連絡があってーー!』
「ど、どーすんだよ、これ!」

由紀夫も慌てた。
明日のコンサートのチケットが今ここにあっても、どうすることもできない。
大体、安比って聞いたことあるけど、どこだ?
『岩手県です!』
「あ、岩手県。じゃなくって!」
『それでね!もっと大変!』
「何が!」
『5時の新幹線に乗らないと、安比まで今日中につけない!』
「えっ?」
時間は、3時半ジャスト。後1時間半で、このチケットを新幹線に乗せなきゃいけないのか!?

『それでね、早坂さん』

ふいに電話の向こうの声が落ちついた。
「あ、どうするか考えてあるんだ」
『はい。そのチケット、差し上げます』

「あ?」

『早坂さんに差し上げますんで、ひろちゃんと行ってください!』
「え?え、ちょっとまって。だって、5時に乗らなきゃ間に合わないんだろ?」
『はい!でも、早坂さん、東京駅じゃないですか』
「いやいや、正広はまだ仕事中だし」
『でももったいないじゃないですか!ペンションの予約もあって、コンサートのチケットもあるんですよ!?いかないでどーするんですか!』

どーするって・・・・・・・・・・・・・・・・

由紀夫にできることは、正広に電話をすることだけだった。

正広は、明日からのお休み、何しようかなーとウキウキ考えていた。
どうにか、ディズニーシーのプレオープンに潜り込めないもんかしら、とか。
奈緒美ならどうにかして入れるんじゃないかな。一緒に連れてってくれないかな、とか。
そんな奈緒美は、すでに、コートダジュールへ旅だっていた。
仕事だ!と言いきっていたが、コートダジュールで何をするつもりなのかは不明。
どっか旅行でも行きたいけど、この時期はどこも混んでるしなぁ〜。行くんだったら、北海道とか、沖縄とかいいな。ANAでいこう。
そんな風にすっかりお休みモードに入っていた正広は、声だけは明るく可愛く、かかってきた電話に出た。
「はい!腰越人材派遣センターです!」
そしてその電話を受けた正広は、5分で机を片付け、早退します!と事務所を飛び出した。

「来たね・・・!」
「・・・ほんっとに来るとは・・・」
正広は、満足そうに、真っ暗な安比高原駅を見上げる。
早坂兄弟は、超手ぶらだ。
由紀夫はスーツに、仕事用バックを斜めがけにし、ポラロイドカメラ。バックの中には、財布と携帯と、受け取りでとった写真だけ。
正広は、毎日持ち歩いてるバック一つ。やっぱり財布と携帯くらいしかない。
「・・・どーすんだこれから」
「ペンションに電話をするんだよ。きっと迎えにきてくれるよ。だって」
正広は、さすがに困った顔で当たりを見た。
「タクシーどころか、駅員さんもいないじゃん・・・」
由紀夫がペンションに電話をし、迎えを頼む。そして、正広は言った。

「寒いね」

8月とは思えない気温。
こうして早坂兄弟は、無理矢理避暑をさせられることになった。
正確には、早坂由紀夫は、無理矢理避暑をさせられることになった。

つづく


イヤな言葉だわ、ドタキャン・・・(笑)でも、仕事とか、体調とか、家族とか、どこにどんな落とし穴があるか解らないのが、日々の暮らしってことなのよね!おそろしい!!
私はなによりも、平穏を愛する女なのっ(笑)!

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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