天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

このページの画像は、すべてyen@gallery様から使わさせていただいております!皆様も遊びにいらしてくださいね!

ギフト番外編107前編『小動物がいた』

やっぱりペットって飼いたいって思うときがありますが、それもこれも、すべてはコンサートが終わってから・・・!

yukio
 

今日も稲垣アニマルクリニックは繁盛中。
今日は猫が多くて、そりゃあ、自分に似合うのは猫だよね、と思っている稲垣医師もご機嫌で仕事している。
「はい、それじゃあエリザベスにしときますね」
怪我をした猫が傷口を舐めないようにするエリザベスカラーが、稲垣医師はちょっとお気に入り。名前も形も可愛いし。
だからといって、猫がそれを喜ぶはずもなく、きっ!と睨まれる。睨むくらいですむのは、この猫が大人しい猫だから。
そうじゃなかったら、診察までは自分、そこから先は草g助手と適材適所を心がけることにしている。
「ジャミちゃんは、ケンカっ早いですねぇ」
「弱いのに・・・」
ジャミちゃん(どこからどうみても正統派日本猫。本当は小梅というステキな名前があるが、孫にジャミラみたいな模様といわれてから、通称ジャミちゃん)の飼い主は、孫がいるようにはとても見えない美しい大人の女性。
「まだまだ元気ですよね。ねー、ジャミちゃん」
ジャミちゃんは、意外にその名前が気に入っているようで、ジャミと呼ばれると大人しい。
「先生、どうもありがとうございました。あ、そうだわ」
小ぶりのバックの中から出てきたのは、綺麗なしおりだった。
「手作りで、恥ずかしいんですけど」
「いえ、うわぁ、今年も綺麗ですねぇ」
にこにこと受け取るしおりは、上質の和紙の上に、桜の花びらがおかれたもの。花びらの形といい、色といい、センスよく、品よく。
彼女は、毎年、こうやって稲垣医師にしおりをプレゼントしていた。
何がすごいって、都内一頭地で、庭に、桜の木があるうち。

立派なおうちの奥様なのに、控えめで上品で、庭に迷い込んで、7桁はする盆栽を叩き壊した元野良ジャミちゃんを心底可愛がっている梅香さんは、稲垣医師理想の飼い主さんだ。
そういえば、梅香さんがお嫁にくるってことになった時、お庭に梅を植えることになったけど、今ある木を抜くなんて可哀相と梅香さんが言ったため、裏の家を買って、庭を広げたっていう伝説もあったなぁ。

ありがとうございました、と、梅香さんが出ていき、いい気分で次の方〜、と言った稲垣医師だったが。
「草gくーん」
すかさず草g助手を呼んだ。
「え、えっ?」
草g助手は、草g助手で患畜を見てる最中なので、隣の部屋から慌てた声がした。
「患者さん」
「か、患者さんって。あ、どうもこんにちはっ。えっ?」
「よろしくね〜」
あんっあんっあんっっ!
去っていく稲垣医師の背中に力いっぱい吠えかかるその犬の名は、ポメラニアン。
「せんせぇ〜、よろしくぅ〜〜」
そして飼い主の名前は、梅子。
同じ梅の名がついて、この違いか!と稲垣医師が、時に殺意を覚える飼い主ナンバー1.
なので、いつか本当に刃物を振りかざさないためにも、この飼い主が来たら草g助手にパスすることにしていた。
草g助手なら刃物を振りかざさないかっていうと、多分そう断言はできない。
でも、自分が振りかざすよりいいや。稲垣医師はそう考えている。
「あら、今日も草g先生なんですかぁ〜?」
「あ、はい。ど、どしましたっ?」
小さなハムスターの小さな手に、几帳面に薬を塗っていた草g助手は、マッハでそれを終え、うるさいポメラニアンを黙らせる作業にかかる。
「なんだか、食欲が落ちてる気がしてェ〜、せんせぇに診ていただきたくってぇ〜」
もちろん、近所のペット連れ奥様のアイドルといえば、稲垣医師。この梅子も、ココ・シャネルが墓の下で号泣してるわ!という扮装で、しゃなりしゃなりとやってきているつもりだ。
たとえ、周囲には、ドスドス!とやってきているように見えても。
「あぁ、すみません」
時に殺意を覚える相手であっても、稲垣医師とて客商売。笑顔を見せる時もある。
「これから、ちょっと難しい手術があるものですから、その準備で」
そして、その架空の手術がどのようなものであるか、専門用語をちりばめつつ、微に入り細に渡って、あくまでもスプラッタに会話を展開していく。
「それでですね、その足の筋肉っていうと、まぁ、色が、あ、もちろん、その段階では血がついてますから」
ラッパーよりも滑らかな口調に、ウソだと解っている草g助手すら気持ち悪くなってきたところで、それじゃあ、と笑顔で診察室を出る稲垣医師だった。

あの丸々太ったポメラニアンの食欲が落ちることがあるのなら、あの梅子でさえ痩せることがあるのかもしれない。
梅香さんのしおりを、お気に入りのもの専用引出しに収めて、稲垣医師は紅茶を入れることにした。
稲垣アニマルクリニックの患者さんたちは、梅子とポメラニアンが来ていると、時間を改めるのが慣習だ。それほど、彼女たちの居座る時間は長い。
私室に入る前にちらりと見た待合室はガランとしていた。
「今日はもう終わり終わり」
時間は、まだ午前11時過ぎだが、今日は午後からは休診。
香りのよい紅茶を、稲垣医師はゆっくりと楽しんだ。

「それじゃあいってきまーす!」
看護婦たちは午前で帰り、草g助手は、緊急の往診にでかける。
相手は、グレートデンだそうだ。梅子の口数多い攻撃にへとへとになっていたが、それでも元気にでかけていく。
そして、稲垣アニマルクリニックには、入院患畜と稲垣医師だけが残った。
患畜たちにも変わった様子はないし、これから何をしようかなーと思った稲垣医師は、なんとなく窓の外を見た。
「ん?」
梅香さんのうちほどではもちろんないが、稲垣アニマルクリニックにも庭はある。
何本か木もあるけど、そのうち1本の枝が不自然に揺れていた。
鳥かな。
けれど、探しても探しても、鳥の羽らしきものは見つけられない。
「なんだ?」
猫が登って下りれなくなてってるのかも。庭に出た稲垣医師は、不自然な動きを繰り返す枝を、葉の間から確認しようとして、確認しようとして、そして我が目を疑った。

「・・・・・・・・・・・・・?」

白衣のポケットからロートZi−Φを取りだし、2滴ずつ点眼。
つめてーー!!となりながら、もう一度枝を見上げる。
「あ、やっぱり気のせいか・・・」
そこにはもう、さっき見つけたものはいなかった。
やれやれ、と思ったら、別の枝が揺れ始める。んっ!?と顔を向けた稲垣医師は。

「・・・・・・・・・・・・・・・!?」

ロートZiフラッシュもするべき!?
こしこしこしっ!と目をこすり、まさか、まさかと思いながら枝を見つめて。
「・・・うそぉ」
思わず呟いてしまった。
ばっちり目があったのだ。
体の割りに大きな、真っ黒の瞳。
でも、相手のサイズと、自分から木の枝までの距離で、そんな目が合う訳がないのに、合ってしまった。

「ピグミーマーモセット、みたいだけど・・・?」

木の枝に捕まって、じぃーっと稲垣医師を見ているのは、鳥でもなければ、猫でもなく。
どうやら、世界最小の猿、ピグミーマーモセットのようだった。

稲垣医師もどっちかっていうと、黒目がち。黒目がち同士で見詰め合っていたけれど、ピグミーマーモセットは、ひょいと姿を消した。
「ああっ」
慌てて両手を差し出した稲垣医師だが、彼と木の間は、5mは開いている。
しかも、半歩しか足は出ていない。
「お、落ちたり、は、しないか・・・」
稲垣アニマルクリニックでは、まだピグミーマーモセットが患畜としてやってきたことはない。
なので、ピグミーじゃなくて、コモンマーモセットかもしれないがなんにせよ、ちょっとした車が買えるくらいのペットだ。
「誰のうちのペットだ・・・?」
あの小ささで、遠くから来られるはずがない。まして、いなくなったことに飼い主が気づけば、必死で探すはず。
だから、まずはうちで保護をしておいて。

ごく理性的に考えた稲垣医師は、はた、と足をとめた。
保護って、どうやって?
木の枝に、稲垣医師の手は届かない。剪定がどうとかっていうことは、業者に頼んでいるから、はしごとかもない。
でも、今から部屋に戻って誰か人を呼ぶとすると、その間にいなくなる可能性もある。
白衣の中には、おかしと目薬のみ。
携帯電話は、見えていた。
病院の中。稲垣医師の机の上に、ちゃんと置かれている。
ピグミーマーモセットの様子をうかがいつつ、その窓から手をつっこんで、携帯をとれば!

ダメだ!

鍵がかかっている・・・!

稲垣医師は危機管理能力がいちおうあるので、施錠はきちんとしている。
てことは。割るか!

ダメだ!

セコムが来る・・・!

稲垣医師は危機管理能力がいちおうあるので、防犯会社とも契約している。
てことは・・・!祈るか!

ダメだ!

何が出てくるか解らない!!

今すぐ足元に魔方陣でも描き出しそうな稲垣医師。

稲垣医師の頭は超高速で回転を始める。
それに反比例して体の動きは止まった。
枝の間にいたピグミーマーモセットは、その稲垣医師の姿に、思わず動きをとめる。
たとえ猿であっても。
いや、野生の猿だからこそ!?
高速回転中の稲垣医師に、ある種の恐ろしさを感じてしまうのかもしれない。
一人と一匹は、動けないままだった。

<つづく>


ピグミーマーモセットは、1度でいいから、触ってみたい猿ですな。90万ほどで買えます。ペアで125万というリーズナブルなお店もありました。・・・・・・・・・・・・・・・・・10分の1でも飼えない・・・・・・・っ!!

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

今までのGift番外編へ

What's newへ

SMAPレポートへ

SMAPメニューへ

トップへ