天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

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ギフト番外編107中編『小動物がいた』

<これまでのお話>

東京スタジアムに行く途中に稲垣獣医師という動物病院があるというのに、どこやら解らない不思議の街東京には、稲垣アニマルクニックがあり、その庭には、木々が生え、そして、その木々の上には、単体で90万くらいは軽くするピグミーマーモセットらしき生き物がいる。
稲垣医師は、そのピグミーマーモセットを捕獲するべく、脳を高速回転させていた。

yukio
 

自分のクリニックの庭に、ピグミーマーモセットがいる。
稲垣医師は、じっと木の上を見つめ、見失わないようにした。

途端、見失った。

うっ!?

稲垣医師は、さっと腰を落とし気味にし、木の上をくまなく見つめる。違う。あれは風だ。もっと不自然な・・・、不自然な枝の動き・・・!
そこだぁっ!
びしぃ!
稲垣医師が指差したその先には!
『え、あ、あたしです・・・?』
「・・・ふ、スズメか」
ぎょっとしたように自分を見ているスズメを指した人差し指で、そっと前髪に触れた稲垣医師は、やれやれと首を振る。
スズメ的には、こっちが首を振りたいわ!という気持ちだったが、そのスズメの背後に迫り寄る黒い影・・・。

バサバサっ!!
鳥の羽音がし、はっ!と顔を上げた稲垣医師には、再びピグミーマーモセットの姿が見えた。
スズメがいた場所に、ピグミーマーモセットがいる。
よしよし。
稲垣医師は口元だけで微笑んだ。
ピグミーマーモセットの好物と言えば、樹液、果物、虫・・・!
虫!?
稲垣医師は、はっきり言って虫が嫌いだ。

樹液でべたべたするのも好きじゃないから、釣るのは果物にしようと決める。
しかし、今ここからは動けない。
冷蔵庫の中に、いちじくがあるのは知っていた。
冷蔵庫は、裏口を入ってすぐのところにある。とってくるのは不可能ではないが。
稲垣医師は心の中で、小さく首を振った。
人から言われるのは大っっっっっ!嫌いだったが、稲垣医師は、自分の運動能力が、ちょーーーーーっぴり!普通の人よりも、ちょっぴりね、ほんのちょっぴり低めだということを認識している。
例えば、腰越人材派遣センターの、「お兄さん」こと早坂由紀夫なら、ピグミーマーモセットがじっとしている間に、あの裏口までダッシュして、冷蔵庫の中からいちじくパックを持ってここに戻ってくることが可能だろう。
だからといって稲垣医師は悲観したりはしない。
直接自分が動かなくとも、向こうからいちじくを持ってこさせればいいのだ。

例えば、こうやって!

「ぴ、ぴゅぃ・・・っ」

稲垣医師の唇から零れたのは、息が漏れるようなおかしな音で、本人にしか、それが口笛であることは解らなかった。
そして、稲垣医師は、ほんのりと目許を赤く染める。
口笛がおかしかったからではない。
その口笛は、稲垣医師的には、あれ?ちょっといけるじゃん?と思えるほど、いい感じだった。
ただ、その口笛を聞いて、ワンッ!と走ってくるラッシーが、稲垣アニマルクリニックにいないことを思い出しただけだ。
口笛一つで、ワンッ!と飛んできて、冷蔵庫をあけ、正確にいちじくのバックを持ってくるラッシーが、稲垣アニマルクリニックにはいない。
これは問題だなと稲垣医師は考えた。じっとピグミーマーモセットを目を合わせたまま、あえてコリー犬を用意してラッシーにするべきかどうかについて思いを馳せ様として、さらに目を見開いた。
直感的に解ってしまったのだ。
今、木の上にいるピグミーマーモセットは、メスに違いない。
稲垣医師が、自分以外のことを考えていることを敏感に察知し、苛立つ風情を見せている以上、間違いない。
これはつまり・・・。
手の届かない女性を、どうにか自分の元に来させようとする男の闘い・・・!?
俄然闘志湧き立つ稲垣医師は、さらに高速で頭を回転させる。
もし、相手が手の届かない、しかし人間の女性なら、稲垣医師にはいくらでも取る方法はあった。
けれど、すべてトゲを取ったバラの花束も、奇跡のように美しいディナーも、足元に広がる宝石箱のような夜景も、今の稲垣医師には用意ができない。
ただ、想いを込めた眼差しを、じっと彼女に捧げるだけだ。
捧げられたピグミーマーモセット(多分メス)は、その眼差しを受け、動きを止めた。
二人の間に、目には見えない、けれど、美しいであろう、しなやかなリボンが繋がった瞬間だった。

繋がった。

稲垣医師がそう判断した瞬間、第二稲垣医師脳が動き始めた。
稲垣医師の脳は、同時に複数の動きをすることができるマルチタスク脳。第一稲垣医師脳は、より一層情熱的な視線をピグミーマーモセットに捧げているが、第2稲垣医師脳は、どうやって捕獲するかについてシミュレーションを始める。
(第三稲垣医師脳はラッシーのことをまだ考えていた)
手元にあるのは、目薬とおかし。おかしは個装されたチョコレートで、これは食べさせる訳にはいかない。
しかし、これを投げてはどうだろう・・・。
まず、このチョコレートを投げる。
ピグミーマーモセットが、あっ、と気をとられた隙に、すかさず目薬を投げ、彼女が座っている枝に当てる。
不意をつかれた彼女が木から落ちるところを、スライディングして助ける・・・!
まずは右手にチョコレート。そして左手に目薬を握り込む。
稲垣医師は、左利きであり、サイドスローで投げると、信じられないと思うが、想像以上にコントロールのいい男だ。
よし、投げるぞ、と思った時、いや、まてと、もう一度稲垣医師は思い留まる。
彼女が木から落ちた場合に、スライディングが間に合うか、ということについて、検証をしていなかった。
この位置から、彼女が落ちるであろう場所までが、およそ5m。
100mの世界記録が10秒弱として、5mだと、0.5秒。
そして、枝の高さが、2.5mといったところからだから、そこから物体が自由落下する場合の時間は〜〜〜・・・・・・、約0.7秒!
いける!

稲垣医師はチョコレートを投げ、そしてすかさず目薬を投げた。
そのまま、スライディング!

すべては完璧のはずだったが、次の瞬間。

「うわ!どしたんですか!あっ!ピグミーマーモセットっ!?」
「ぎゅう」

背中を踏まれていた。

「あっ!あぁっ!す、すみませんっ!ちょ、あっ」
「草gくん」
芝生の上にスライディングしたまま、稲垣医師は冷静な声で言った。
「あっ、あっ、だ、大丈夫ですっ!ほら、ちゃんと捕まえましたよ!ピグミーマーモセットっ!」
「草gくん?」
まぁるいお鼻の先端に、草の匂いがくっついている。きっと緑の汁もくっついている。
新鮮な感じだ。
まるで子供の頃のように。
「あ、い、稲垣先生っ!大丈夫ですかっ?」
腕をつかまれたが、その腕を払う。
「あ。あの・・・っ」
しかし、心配そうなセリフを口にしている草g助手の声は弾んでいた。
「あの・・・、むちゃむちゃ可愛いですねぇ〜・・・!ピグミーマーモセットってぇぇぇ〜〜!!」

「草gくん」

しゃき、と、芝生に正座した稲垣医師は、お鼻の頭をほんのり緑に染めたまま、にっこりと微笑んだ。

「君、向こう3ヶ月、80%の減給ね」
「はっ!?」
しかも、80%オフ、という鬼のような宣言をした稲垣医師は、背中に草g助手の靴跡がついた白衣を翻し、稲垣アニマルクリニックに戻った。

ローンが、ローンが・・・。
しくしくと診察室の隅でうずくまっている草g助手から、無事、情熱の恋人、ピグミーマーモセットを奪還した稲垣医師は、不覚にも、心の底から彼女を愛してしまっている自分を感じた。
キリリと大きな瞳。
小柄でしなやかな体。
しっぽの愛らしさは、なぜ人類は進化の過程でそれを失ったのか解らないほどだった。
「君、うちの子になるかい?」
手の中のピグミーマーモセットに、キスしてもいいかしら、なんて思いながら甘い言葉を囁く稲垣医師。そうだそれよりも、あのいちじくをあげなくっちゃ♪

「うちの子って、先生・・・っ」
草g助手は、しくしくしながら正論を吐いた。
「飼い主が探してますよ・・・っ」
「草gくん?」
まだ、お鼻がちょっと緑の稲垣医師は、にっこり笑顔でありながら、コメカミにはっきりと、草g助手にも解るような怒りマークを浮かび上がらせつつ、振り向いた。
「恋する男に正論を吐くことの無駄さを、君もそろそろ覚えた方がいいね」
にこ。
小さく小首を傾げて、稲垣医師は宣言した。
「減給は向こう5ヶ月にするよ」
「せんせぇぇぇーーーーーーーーー!!!!」

「あぁ、ごめんね。まったく無粋で困るね。いつまでこの部屋にいるつもりなんだろう」
恋人の、手や、足に怪我がないことを確かめながら、稲垣医師は溜息をつく。
毛並みの美しさといったらなかった。
「もちろん、君は君自身のものさ。でも、きっといるんだろうね。僕と同じように、君に恋焦がれている人間が。一体、どんな人が僕のライバルなんだろう」
器用に動く尻尾が、指に巻きついてくる感触を楽しみつつ、うふうふと甘い言葉を吐き続けていたところ。

「せぇんせぇぇ〜〜〜!!!」

梅子!?

天敵の突然の出現に、稲垣医師は緊張した。
打ちのめされていた草g助手も、すちゃっ!と立ちあがる。
「行ってきます・・・!」
ここで頑張って減給を、せめて2ヶ月くらいにしてもらわなきゃ!と草g助手は玄関に急いだ。その間にも梅子のダミ声が響き渡る。
「うちの子がぁ〜〜!!いなくなっちゃったのぉぉぉ〜〜〜!!!」

うちの子・・・!?

ま、まさか・・・!
稲垣医師は、手の中の、美しきピグミーマーモセットを見つめる。
「君、梅子の・・・!?いや、いやまかさ・・・!梅子と君は似合わない!」
稲垣医師もすちゃ!と立ちあがり、急いでハムスター用ケージを取り出した。
「君に、こんな空間は似合わないけれど・・・!もし、君が梅子の家から逃げ出してきたんだとしたら・・・!僕は君を帰すことはできない!あんな、キンピカの空間にくらべれば、このハムスターのケージの方が、よほど君にふさわしい!」
ピグミーマーモセットは、大人しく、ハムスターのケージに入り、じっと稲垣医師を見上げている。
「黒曜石だね・・・」
陳腐なことを言ってしまったと、頬をわずかに赤らめた稲垣医師は、黒曜石の瞳から目を反らすようにブランケットをケージに掛け、そのまま私室に移動させた。

「どうされたんですか?」
わぁわぁと意味の通らないことをわめいている梅子の前に顔を出す。
「あぁ、せんせぇ!いなくなっちゃったんです・・・!あの子!まだちっちゃいのに!どこいっちゃったのかしらぁぁ〜〜!」
泣き崩れる梅子は、泣き崩れるコビトカバがいるとすれば、おそらく似ている。
「落ちついてください?」
草g助手は、手馴れた様子で話を聞こうとしている。
「あの子って・・・、あの、もしかして・・・」
「そうです!あの子・・・!あたしの可愛い・・・・・・・・・・・・、可愛い可愛いチビちゃん!」
稲垣医師は、表情を険しくした。
いつも連れてきているポメラニアンの名前は、確か、エリザベート・ブラン・2世とかなんとかそんな名前・・・!
ということは、本当にあのピグミーマーモセットの飼い主なのか!?

当然、第2稲垣医師脳では、ペットショップからニセのペット情報を入手して書類を作らせようなんてことは考えているのだが、本当にこの梅子が飼い主なのかが気になってしょうがない。
その時。
稲垣アニマルクリニックの外で、うるさい犬の鳴き声がした。

「チビちゃん!!」
梅子は、水の中のカバのような機敏さで、ドアに突進。奇跡的に壊さず、外に出た。
「チビちゃん!」
ひし!と抱きしめているのは、あのうるさい、丸々としたポメラニアン。

「・・・あれ、エリザベートなんとかじゃなかったのか・・・・・・・?」
「チビ、じゃないですよね・・・・・・・」

よかったよかった。じゃあ、ちゃんとリードをつけて散歩してくださいね、なんてほがらかに挨拶を交わした3人は、ほがらかに分かれた。
稲垣医師は、すぐにでも、馴染みのペットショップから、あのピグミーマーモセットについての書類を手にいれようと携帯を手にし、着信があったことに初めて気づいた。

「え・・・?」

<つづく>


上野動物園でフェネックギツネを見ました。奴隷になりたい動物の1つですな!色々とHPを見ていると、このフェネックと、ピグミーマーモセットの両方を飼ってるおうちがあって、ぎゃーー!!お金持ちーーー!!でございますっ!くぅー!触るだけでいい!一瞬触りてぇっっ!

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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