天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

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ギフト番外編107後編『小動物がいた』

<これまでのお話>

美しきピグミーマーモセットをその手に(正に)収め、これからはずっと一緒だよと誓った稲垣医師。
果たして二人の恋の行方は!?

yukio
 

「ど、どしたんですか・・・?」
携帯をじっと見つめる稲垣医師の厳しい横顔に、怯えたように草g助手は声をかける。
「いや、・・・珍しくお兄さんから電話だ」
「あぁ、稲垣先生の」
「そうそう。おまえもいつまでも一人でどうするんだ、お父さんも、お母さんも心配してるぞ?お母さんの知り合いの娘さんで、お茶とお華の先生をしている人がいて、世間知らずだと先方さんはおっしゃってるけど、本当にいい娘さんなんだ。いやいや、だからどうってことじゃないんだが、どうだろう、こんどみんなで一緒に食事でも、って、今までうちの家族が仕事中に電話をかけてきたことなんてあったかい?」
「え!稲垣先生お見合いされるんですかっ!?」
「いやいやだから」
「僕、したことないんですよね、お見合いってね・・・。なんかどっかから、カコーンってゆってんですよね・・・」
「いやいやいやいや・・・」
「後はお若い方同士でとかいわれるんですかっ!?」
「草gくん・・・」
「庭を散歩するんですよね・・・、振袖かぁ・・・」
「・・・。えーっと、返事、返事っと」
「ご趣味はって聞くんですよね・・・。なんて答えようかって考えたことあるんですよ、俺っ!」
きゃっ!と恥らう草g助手を無視して、稲垣医師は電話をかけた。

『はい』
「稲垣ですが」
『あ、先生。すいません』
電話の相手は、腰越人材派遣センターの『お兄さん』こと、早坂由紀夫。彼が稲垣医師に連絡をしてくることはめったにない。
「どうしたんですか?」
『あのー、稲垣先生のとこに、ピグミーマーモセットっていませんか?』

ぎくり。

反射的に背筋に走った戦慄を、稲垣医師神経は、脳には伝えさせなかった。
「ピグミーマーモセット?患畜として?いや、いないね。」
『そうですか。あのー、ピグミーマーモセットって、俺見たこともないんですけど、どんなところにいるもんですか?』
「ペットショップ?」
『・・・ありがとうございました』
「あぁ、ちょっと待って」
電話を切ろうとする由紀夫を、稲垣医師は止めた。
「なんで急にピグミーマーモセット?」
『ペットが逃げたっていう人がいて』
「ふーん。小さい猿だからねぇ」
『そーなんですってねぇ〜・・・』
溜息をつきながら、それじゃあと由紀夫は電話を切り、稲垣医師は携帯を持ったまま、軽く小首を傾げた。

あぁ見えて。
というか、見たまんまというか。
早坂由紀夫は優秀な届け屋だ。
いつもの彼であれば、ここにいる愛しいピグミーマーモセットを見つける日も近いだろう。
一刻も早く、この子をうちの子にしなくては。えーっと、書類を作らせて、どこにやらせたらいいだろ。
「稲垣先生・・・」
お見合い相手とは、食事をした後別れたらしい草g助手は我にかえっていて、稲垣医師に尋ねる。
「・・・ピグミーマーモセット、いないって言っちゃってましたよ・・・?」
「『患畜として』はね!」
「はうっ!」
稲垣医師、抜け目なし!
多分、ワシントン条約なんて、楽勝〜でスルーしてしまうに違いない。
「安心して」
ケージの中のピグミーマーモセットに声をかける。
「君のことを守るから」
そんなピグミーマーモセットに、すでに名前はついている。ついているが、とっても!恥ずかしい名前なので、稲垣医師は口にできない。ちょっと思いついたはいいが、それ以上反芻することもできない恥ずかしい名前だ。(そんな名前になんの意味が!?)
「稲垣せんせぇ・・・・・・」
そんな、上質のちょこれぇとドリンクみたいな微笑、100分の3でもいいから、僕にも分けてやってください・・・・・・。
いつも、何かを含んでいる稲垣医師の微笑しか見たことのない草g助手は心から思うのだった。

稲垣医師の動きは速かった。
馴染みのペットショップに、さっさと書類を作らせようと電話をしたのだが、
「休みだとぅ!?」
きぃ!と怒った稲垣医師、携帯をうりゃ!と投げつける。癇癪を起こすと携帯を投げるのは稲垣医師のクセだ。
そのため、稲垣医師の部屋の壁は、一部、クッションがはりつけられている。しかし。
「も!何やってんですか稲垣先生!いま、べきっ!って言いましたよ!べきって!」
コントロールが悪くない、程度の稲垣医師が、サイドスローではなく、勢いに任せて投げた場合、せっかくぶつけても大丈夫にしてあるクッションから大きく外れる時もある。
「大丈夫かなぁ・・・」
電源はついてるし、と、あれこれ確認する草g助手は、デザインがイヤだというところ、無理やりGショック携帯を持たせておいてよかったと思った。
「よかった。ちゃんと使えますよ」
「切れ」
「え?」
「電源を切れって言ってるんだ。解らない?そこのボタンを」
「わ、解りますけど、切るんですか?」
「そう。今日はもう休診だ。私もでかける。君も帰るように」
「え?どこいくんですか?」
「いかないよ、どこにも」
「だってでかけるって・・・あ!ほんとなんでしょう!ホントにお見合いなんでしょお!本日はお日柄もよくってやるんでしょお!正座して足がしびれて、あの、稲垣先生って、可愛らしいところがあるんですね・・・なんて松たか子みたいな人に言われるんでしょぉぉぉーー!!」
「君のセンスはどーなってんだよ・・・・・」
妄想癖のある人とは付き合っていられないと、稲垣医師は私室のカーテンを閉めた。
由紀夫に外出していると思わせておいて、部屋にこもる作戦だ。
稲垣医師はインドアが苦にならない。幸い、読みたい本が山積みになっていることだし。
あ、でも、本なんかには目がいかないな。

だって、こんなに綺麗な君がいるんだものね。

ふふ、ととろけるちょこれぇとの微笑みをピグミーマーモセットに振り撒き、草g助手には、とっとと鍵閉めてかえれとにべもない稲垣医師だった。

その後、由紀夫から連絡がくることもなく、夜はふけていく。
ケージから出したピグミーマーモセットが、部屋の中を自由に跳びまわるを見ているうちに、つい、稲垣医師は眠ってしまっていた。
「ん・・・・・・?」
目を覚ますと、明かりをつけていなかった部屋は真っ暗で、うかつに動いたら彼女を踏んでしまうかもと、じっと気配をうかがう。

「チ」

すると、小さな鳴き声がして、枕がふわりと沈んだ。
「ここにいたのか」
柔らかな声をかけながら手を伸ばすと、指先にしっぽが触れる。
稲垣医師は、子供の頃からいろんなペットを飼ってきて、それは、もちろん、別れもあったけれど、でもいつだって、彼らに温かさをもらってきた。
そして、少し胸が痛んだのだ。
このぬくもりを、今、確実に失っている人間がいるということに。

飼っているペットを逃がすということ自体、大変な問題だとは思うけれど、それが必ずしも本人のせいとは限らないし・・・・・・・

「いやいや」

稲垣医師は首を振って置きあがった。
気弱になってはいけない。
この宝石を、今更手放すことなんて、彼にはできなかったのだ。

「梅香さん」
稲垣医師は、フルーツショップ(夜遅くまであいている。高い。近くに高級なおねいちゃんがいるお店が多い)にやってきていた。
ピグミーマーモセットは、大きなケージにいれて待っていてもらっている。
そう、まだ彼女に食事をさせていなかったのだ。こんな自分なんて死んでしまえ!と思いながら、冷蔵庫のいちじくを少し与えたものの、果たしてそれだけでいいのか!?と男として思ってしまったのだ。
僕のモンビジュー(ピグミーマーモセットの愛称。「私の宝石」の意。名前はさらいもっともっと恥ずかしい)に、スーパーで、4個398円のいちじくがふさわしいのか!?
そして稲垣医師は、親代々使っている、高級フルーツショップにやってきて、梅香を見つけたのだ。
それは、別段不思議でもない。彼女のうちでも、フルーツを買うのはここで、と決めているのを稲垣医師は知っている。
「稲垣先生・・・」
夜でも明るいフルーツショップ。色とりどりのフルーツの中で、振り向いた彼女の表情は冴えなかった。
いつもなら、さくらんぼのようだと思える彼女が、なしのように地味だった。
「どうされたんですか?」
「あぁ、私・・・。大変なことをしてしまって・・・・・・」
しょんぼりとうなだれる梅香は、手にしていたリンゴを、きゅ、と握り締めた。
「梅香さん?」
稲垣医師の脳の中で、警戒警報が鳴っている。
これはいけない。
これ以上聞いてはいけない。

でも、目の前で、涙ぐんでいる(好みのタイプの)女性がいるのに、どうしてその場を立ち去れるだろう。
稲垣医師ともあろう男が!

「梅香さん」
そっと、梅香の肩に触れて、稲垣医師は言った。
「僕でよければ、話してみてくれませんか?」

「りんごが大好きな、可愛い子でした」
フルーツショップに併設されているフルーツパーラーで、絞りたてジュースを前にして、梅香は言った。
「今朝、お部屋の掃除をしている時に・・・、私ったら、そそっかしいものだから、座敷に置いてあった花瓶を倒して割ってしまって」
あぁ、あの推定300万はするっていう、古伊万里の。
心の中で、稲垣医師は思う。
「その音でびっくりして、あの子・・・!」
泣いてはいけない、と、ぎゅっと唇を噛み締め、梅香は、そっと目許を抑える。
泣いても仕方がない。
探さなくてはいけないという決意がみなぎっていた。
「あの、梅香さん」
「はい・・・」
「小梅じゃ、ないんですよね?」
「えぇ。小梅なら、でかけていっても帰ってこれますけど、あの子は、うちについこないだ来たばっかりで・・・」
「誰かにもう、探すように行ってますか?」
「お庭は、家のものでくまなく・・・。後は、荷物を届けに来てくださった若い方がいて、その方も一緒に探してくださったんですけれど・・・」
「若い人。スーツの?」
「え?えぇ、綺麗なお顔の」
「・・・じゃあ、逃げたのは」

さよなら、モンビジュー。
稲垣医師は、小さく胸の奥で呟いた。

「ピグミーマーモセットですね?」

りんごとマンゴーを手に、二人で稲垣アニマルクリニックに戻ってきた時、クリニックの玄関先には、草g助手がいた。正広と一緒に。由紀夫に首根っこをつかまれた状態で。
「どした?」
「いや、こいつが吐きました」
「ま、あなた、先ほどの」
梅香の姿を見て、由紀夫は、草g助手を離す。
「草gくん」
にっこり。
夜とは言え、街灯のすぐ側にいるというのに、稲垣医師の笑顔は、はっきりと見えなかった。
ブラックな笑いだった。
「君は本当に優秀な助手だねぇ」
「あ、い、いや、あのっ!別に稲垣先生がどうのって言った訳じゃなくって、僕はただっ!」
「うるさいよ、君。さ、どうぞ、梅香さん」
鍵を開け、クリニックに入っていく二人の背中に、草g助手は叫んだ。
「違うんですー!稲垣先生ぇ〜〜!僕はただ、ひろちゃんにピグミーマーモセットって触ったことある?って言っただけでぇ〜〜!」

「え・・・?」
階段を上がっていた梅香の足が止まった。
「えぇ、そうなんです。きっと、梅香さんの、ピグミーマーモセットだと思います」
部屋に入って、驚かせないように小さな明かりをつけると、ケージの中で寝ていたピグミーマーモセットが動き出す。
目をこするような愛らしい動作に、稲垣医師は声もなく地団太を踏みたい気持ちで一杯だ。
「あ・・・!」
梅香の手がそろそろとケージに伸びる。稲垣医師は、ケージをあけて、二人の再会を邪魔しないように、そっと後ろに下がる。

「ま、あなた・・・!」
ピグミーマーモセットは、ぴょんと梅香の手の中に飛び乗り、腕を伝って頬に触れる。
「よかった!よかったわ、生きててくれて!ね!」
両手の中にピグミーマーモセットをおさめ、梅香は、今までこらえていた涙をこぼしながら、言った。

「太郎!」

「・・・オスかいっ!!」

 

「稲垣先生」
向こう7ヶ月給料90%オフ処分となった草g医師は、なんとなく元気のない稲垣医師のことを気にしている。
「また、梅香さんが連れてきてくれるって言ってたじゃないですか」
けれど、稲垣医師は、窓の外、あの、実はオスだったモンビジューがいた木を眺めているだけだ。

そっとしといてあげよう・・・。
今まで以上に、きびきびと!10分の1の給料で働いている草g助手だったが。

やっぱりコリー欲しいなと、稲垣医師は思っているだけだったりする。

ビンテージジーンズのローンはどーする!草g助手!


これだけひろちゃんが出てないと、多分赤い怪獣が怒る。ヤツはそーゆーヤツだ!

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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