天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

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ギフト番外編109私は彼で左利き』

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「そうかなぁ」
正広は、じっと自分の左手を見つめた。
テレビでは、島田紳助が、左利きの松本人志に、いかに左利きが得かという話をしている。
その理由が、自分が右腕を骨折した時、左手が想像をこえてバカだったから。歯磨きもろくにできないなんて!と島田紳助は怒っていて。
「・・・そうかなぁ??」
立ちあがって、正広は洗面台に向かう。歯磨きの準備をして、おもむろに左手で磨いてみたら。
「でんでんできうじゃん」
全然できた。
「にいひゃん!でんでんできう!」
「あぁ?」
あー、1日の疲れを流してさっぱりしたぁ〜とお風呂から出てきたところ、口中泡だらけの弟から何やら呪文を呟かれた由紀夫の気持ちやいかに。

「でんでんできうよなぁ」
「全然できるでしょー?」
由紀夫も左手歯磨きに挑戦。なんら問題なし!
「島田紳助不器用すぎ」
ふふふん、と得意気な正広だった。

正広も、由紀夫も右利きで、身近にいる左利きといえば、稲垣アニマルクリニックの稲垣医師くらい。
でも、野球選手には、左投げ、左打ちはたくさんいる。
左利きって言うのは、ほんとのところ、ちょっとは得なのかなぁ。スポーツするには、得なとこもあるよねぇ、きっと・・・。
草野球チームにも所属する溝口正広は、己の野球人生をかけて、左投げ、左打ちに挑戦することに、その瞬間、唐突に決めた。

 

「左投げ、左打ちのためにその1!」
「・・・ちゃんと食べろ・・・!」
翌日の朝食、正広が箸を左手に握り締めていたことは言うまでもない。
「いや、大丈夫!ちゃんと食べれるから!・・・あれっ?」
しかし、左手で、箸をきちんと持つところからして、正広には難しかった。
「ん?この指はどっちに、あれ?えーっと」
右手で持ってみて、それを左手に置き変える。
「んっっ?」
「国分太一並だな・・・」
ゴチバトルを愛する早坂兄弟は、番組の視聴を欠かさないが、その中で常に気になっているのが、国分太一の箸の持ち方。彼も左利きだが、左利きをさっぴいても・・・。
「・・・吾郎ちゃんも、ちょっと・・・」
「あ、そーだなー。ちょっと変わってるかなー」
それにしても、国分太一の足元にも及ばない。そして今自分が国分太一並!ということを自覚した正広は、それではいけない!と、何度も持ちなおして見る。
「右だったら、この指がこうだから、だから、左でも、こう、して・・・!」
正広の、「欲しいって言ってるんですよ、兄ちゃんが」の一言で、奈緒美が買って寄越した圧力IH炊飯ジャー極め炊きで、大層美味しくたけた新米が、お仏壇に供えられたご飯のように、カチカチになっていくのを、由紀夫はただ、見ているいことしかできなかった。
「あ!そっか!両手に持ってりゃいいんだ!お箸〜、お箸ぃ〜」
正広は、しかしそれ以上に左利きへの矯正に夢中だ。

「うーん、字は、さすがに・・・」
事務所についてからも、矯正は続いた。
左手で書いた文字は、右でも綺麗とはとてもじゃないが言えない正広の字を壊滅的なものにする。
「正広でも、かけないや・・・」
これが、「溝口」ともなると、壊滅的。

「これじゃ仕事にならないね」
「ならないだろ!!」
兄に見せたら、由紀夫はぴしゃり!と正広を叱り、ほら、とメモを見せる。
「・・・何?兄ちゃんの名前?」
そこには、早坂由紀夫と一言書かれているだけ。だが。
「左で書いた」
「うそぉ!!」
ぎゅっ!と顔を近づけて文字を見る。確かに線は微かに震えてはいるけれど、右手とあまり変わらない文字がそこにあった。
「えー!?兄ちゃん、すごくなーい?」
「え?ナニナニ?」
典子が顔を出してくる。
「これ!兄ちゃん、左手で書いたって」
「えっ!由紀夫さん、すごいじゃないですか!」
ふふん。
得意気な由紀夫は、まさか自分でもこんなことができるとは思っていなかった。
「私もやろー!」
「あ、俺も俺もー!」
しかし、典子撃沈。正広大破。
「そーいうのはですねぇ」
そして、遅れてきた天才。野長瀬が現れた。
「僕、得意なんですよ。左手で書くやつでしょ?ほらね、こーやって、こーやってっ」
「りょ、両手書き・・・!」
野長瀬は、両手に色ペンを持ち、さらさらと文字と絵を書いていく。
「えーー!」
「野長瀬さーーん!!」
「「「気持ちわるーーい!!」」」
「なんでですかっ!」
「だって、なんでこんな乙女なんだよ!なんで乙女な字っ?」
「丸文字じゃないですか!」
「鏡文字も書けますよ?」
「おまえ、学生時代に、誰を呪おうとしてたんだよ!!」

はっ!
野長瀬は思い出した。
鏡文字で、好きな人の名前を500回書くと、相手が自分を好きになるという噂を。
あぁ、それからだ。
それから、自分は、鏡文字が得意になったんだ。
書いたよ。
鏡文字で。
漢字4文字の女の子だったから、それだけで2000文字。好きになった人の数、トータルで考えると、30000文字以上は書いたなぁ、鏡文字。
難しかったのは、「鷹取綾乃」さんだったっけ。

「じゃあ、ひろちゃん、左手でじゃんけんしてみる?」

聞いてないし!誰も!!

「じゃんけん?」
「左でじゃんけんって、なんか難しそうじゃない?ぱって出てこなさそう」
「チョキ、難しいかも・・・」
「はいはい、由紀夫さんも。いきますよ!ランチを賭けて!」
「ランチ賭けんのか!?」
「ただで勝負はできないでしょー」
うふうふと嬉しそうな典子を見て、なんの秘策が?と疑う早坂兄弟。
「野長瀬さんっ!いきますよー!最初はグー!」
「「「じゃんけんぽんっ!」」」
野長瀬以外が声をそろえ、野長瀬が、え?と手を出したが、その手はグー。
野長瀬定幸、じゃんけんといったら、グーをださずにはいられない男。
「・・・しかも野長瀬、それ、右手だし」
「・・・ふ。いつだって、天才は不遇なもんです。両手書きが羨ましいんですね?鏡文字も羨ましいんですねぇぇぇ〜〜〜!」

こんな風に、正広の左利きへの道は・・・・・・・・
遅々として進まなかった。
いけない。こんなことをしていて、一体、いつになれば、左投げ左打ちの立派な野球人になれるのか。
未だ、国分太一並の持ち方しかできない左手の端を見つめ、正広は考え込む。
今晩のご飯も、極め炊きによる、炊きたてご飯。お茶碗を右手で持って、はっ!と正広は顔を上げた。
それは、雷に打たれたような、衝撃だった。
「こ、これ・・・!」
お茶碗を持つ、健やかな右手をじっと見つめる。
健やかな右手は、いつも、さりげなく左手をフォローしてきた。今だって、ぎこちない左手でもごはんが食べやすいように、お茶碗の角度を調整してあげてるではないか!
優しいお母さんのような右手。
けれど・・・!
この右手がある限り、左手の自立はない!!

「正広?」
炊きたてご飯の湯気を顔に浴びながら硬直した弟を見て、由紀夫は首を傾げる。
「なんか入ってるか?」
「兄ちゃんっ!」
「えっ?」
ほんとに入ってんの?とお茶碗を覗きこむ由紀夫。
「俺、右手を封印するっ!」
「はぁ〜っ!?」
「北島マヤだって、足の悪い女の子の役の時には、片足をしばったんだよ!!」
古本屋常連の正広は、年の割に、昔のマンガに詳しい(ガラスの仮面は、一応現在も続いているが)。
「あの、天才少女マヤだってそうなんだから、俺はもっときっちり封印しないと!」
「寝言は、飯食って、風呂入って、寝てからにしてくれるかぁ〜?」
「えーっと包帯包帯!どこだっけ!」
「包帯ぃ〜?救急箱はいつものとこだけど」
正広が(こう見えて)病気がちなので、早坂家の救急箱はでかい。お互いに、怪我をすることが少ない訳でもないので、バンドエイド、包帯などの準備もばっちり。
のはずだったが。

「あれぇ〜?包帯ない。使っちゃったっけ?」
「あぁ、こないだうちの前で野長瀬がすっころんで」
「あ、智子ちゃん連れてきた時だ」
「そん時、なくなったんじゃなかったっけ」
「そっかぁ〜・・・!」
正広は苦渋の表情を見せる。
「俺、買ってくる!」
「え?だから、飯食ってからに・・・」
「いや、左手一本でどこまでやれるかが勝負だもん!」

なんの勝負だ!正広!!

兄の心の叫びは、弟の魂には響かないようだ。

「ともかく、もう右手は使わない・・・!行ってくる!」
左手で財布を持ち、左のポケットにいれた正広は、左手でドアを開け、階段を降りていく。
左、左を意識していると、関係ないはずの足が、おかしくなった。
足は、ただ、順番に出せばいいところを、左を意識するあまり、バランスが悪くなり。

「あ・・・っ」

ふっと、正広は宙に浮いた。

でも!!右手は使わないっっっ!!

右手を伸ばせば、そこに手すりがあったのに。正広の強い意思は、それを許さなかった。
その結果。

「よかったなぁ〜、正広」
兄、由紀夫はこめかみをぴくぴくさせながら、リンゴの皮をむいている。
「あ、え、あの・・・」
正広は、その果物ナイフが、いつ自分に振りかざされるのかと、気が気ではない。
「ほぉ〜ら、うさちゃんリンゴ」
優しい言葉に表情はなく、微笑んだ形を作っている顔にも、感情はない。
「あ、ありが、と・・・」
そっと左手を出し、フォークで刺した冷たいリンゴを口にする。
「つ、つめたくって、甘くって、おいしぃっ!」
「左手で食べてるから美味しいんじゃないかなぁ〜」
「に、兄ちゃん・・・っ」

「正広くーん、具合どうですかぁ〜?」
氷点下40度の部屋に、突如現れた南国の太陽。森且行医師に、正広はすがりつくような目線を送る」
「えーっと、やっぱり、右腕、右足、骨折。でも、きれーーに、折れてますから治るのも早いですよ」
にこ、と微笑まれ、正広は絶望的な気持ちになる。
「でも、珍しいよね、家の階段から落ちたくらいで、これだけ綺麗に両方とも折れるって」
あははは!と、ほがらかに森医師は笑った。
「お兄さん、正広くん、ちょっと利き手が使えなくて大変ですけど」
「あぁ、大丈夫です。こいつ、左利きなんで」
「え?そうだっけ?」
疑う様子すらない、大きな目で見つめられて、正広は引きつった微笑みを返すことしかできない。
「じゃあ、まだよかったかな。足の骨折があるから、しばらくは入院してもらって〜。ついでに検査とかもやっちゃおっかな。大丈夫かな?」
家には帰りたくないんです!!な気持ちを力一杯こめて、正広は頷いた。

また後で顔出すね、と森医師が病室を去り、早坂兄弟が残された。

「・・・に、兄ちゃん、あの・・・」
「よかったじゃないか!なぁ!正広!憧れの左利きになれて!」
ばん!兄の手が、怪我をしていない、左肩におかれる。力強く。痛いほどに。
「あ、いや、その。えっと・・・」
「大丈夫。心配しなくても、毎日ちゃんと見舞にくるからな」
「え。う、いや、その、あの・・・」

そして由紀夫は宣言通り、毎日見舞いに来た。毎日、食べ物を持ってきた。
「さっぱりしたもんがいいかと思って。ところてーん」
「・・・あ、ありがと・・・」
左手一本では、食べにくいもの攻撃は、まだまだ続いていく予定だ。


左手での歯磨きは、普通にできましたが、左手で字を書くのは、全然できねい!!でございます。左利きの人が字を書いてるのって好き!なんか書きにくそうなとこが、すごく可愛いーー!

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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