天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

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ギフト番外編110骨折患者を届ける』

yukio
 

「たぁ〜、だいまぁ〜」
『あっ、帰ってきたっ!』
白文鳥のしーちゃんは、急いで玄関に向かった。
『疲れた声・・・!ひろちゃん、大変だったのねぇぇ〜〜!』
「あ、しーちゃんっ」
そこには、由紀夫に支えられた正広がいて、気配りの文鳥しーちゃんは、怪我をしてない方の左肩にちょんと止まった。
「久しぶりぃ〜〜!」
「久しぶりって・・・一昨日も見たじゃん・・・」
所属している草野球チームのためにも、左投げ左打ちになりたい!と願った正広が、右手は使わない!と誓ったがために階段から落下、骨折して十日が過ぎていた。その間は入院していた正広だが、しーちゃんの世話は、もちろん由紀夫がやっていた。やっていたどころか、どーしても会いたい!外出するっ!と騒ぐ正広のため、病院まで運んでこっそり見せてやったりもした。
「だってさぁ〜」
『そぉですよぉ〜』
冷静な兄に、正広としーちゃんは不服そうな顔をする。
「寂しかったよねぇ〜、しーちゃん?」
『さびしかったですぅ〜、ひろちゃぁ〜ん』
すりすり!すりすりすりっ!と正広の頬と、しーちゃんの頭が擦り合わされる。
「・・・いいから座れば・・・?」
正広は、左足でケンケンしながら進むことはできる。階段だけは危ないから由紀夫が手を貸したが、ソファまでは、ほんの数歩。ケンケンっとソファに進んで、くるっと反転、よいしょっ!と座った正広の肩に、もう一度しーちゃんがとまる。
「元気だったー?しーちゃーん!」
『元気ですよー!でも、寂しかったぁー!』

きゃっきゃ、きゃっきゃと異種でありながら、言葉が通じているらしい一人と一羽をおいて、由紀夫は入院中の荷物を片付ける。
正広の右手は、まだ肩から吊られている状態で、ギブスをはめているが、一応歩ける足よりも治りが遅い。
「あ、兄ちゃん、ごめん」
「いいよ。えーっと」
ざっと片付けた由紀夫は冷蔵庫を開ける。
「なんか飲む?」
「ん、ジュースとかある?」
「あるよ、オレンジだけど」
「くださーい!」
グラスを左手で受け取り、正広は思わずため息をつく。
「ん?」
「ううん。あの、仕事はいけないよねぇ」
「・・・階段も上がれないのに?」
二人のうちは、まずは階段を降りなくてはいけないし、腰越人材派遣センターも、バリアフリーなどでは決してない。
「そーだよねぇ〜・・・」
「自分のせいなんだから、退屈とか言わないで、大人しくしてろ」
「そーですけど・・・」
しょぼんとなる正広に、しーちゃんは一生懸命話しかける。
『大丈夫!私が一緒に遊んであげるからっ!』
「しーちゃん・・・」
『ひろちゃん・・・っ!』
これで、もうちょっとサイズが近ければ、ひし!と抱き合ってそうな二人は放っておいて、左手1本では食べにくい夕食の準備に、由紀夫は取りかかった。

「なんで骨付き鳥!?」
「おめでたい雰囲気がでるかと思って。正広くん!退院おめでとお!」
骨付き鳥とは、鳥の足を丸々1本使った、スパイシーな料理。クリスマスの鳥モモを、スパイシーに油タップリで焼いていて、皮のカリカリ具合が素晴らしい。
けれど、食べにくくもあるもので、大抵両手が油でベタベタになる。
正広は、じぃーっと骨付き鳥を睨み。
(しーちゃんは、骨付き鳥ですって!?と眉があれば眉をひそめたい気持ちで)
がし!と左手で骨の部分を掴んだ。
「やっぱり、これからはワイルドに!」
「あーー!!垂れる垂れる!」
左手を伝い、また皿から外れる油に由紀夫が慌てる。
「むっ!」
さすがに気持ち悪くて正広は鳥を離し、手を伝うあぶらを気持ちわるそーーに眺める。
眺めるが、これをどーにかするには、
1.舐める。
2.不自由な足で洗面台まで行き、手を洗う。
3.不機嫌そうな顔で睨んでいる兄に頼んで拭いてもらう。
うーん。さてどうするか。
そして、第4の手段はないものか。
左手を手術前の医者のように掲げたまま考えていると、由紀夫が濡れたタオルを持ってきて拭いていく。
「あ」
「あ、じゃなくって」
「・・・だって、こんな鳥なんてどーやって食べんだよぅ」
ぷくーと膨れる正広は、確実に逆ギレしていた。
「兄ちゃんは、正広がどーーーーしても!左利きになりたいって言うから強力してやってんだけどな?」
しかし、由紀夫の温度は氷点下。
「あ、えっと。えっと。ギブスしてても、指先は使えるから、こっちで鳥を押さえて、そんで、こっちで、切ってっ」
工夫工夫っ!
美味しいねっ!美味しいねっ!といそいそと食事を続ける正広だった。

「だーーいーーぐーーづぅーーーー・・・・・・・・」
翌日、由紀夫はきっちり会社に行った。
正広は、一人部屋に残っているが、片手が使えないというのは、やはり不便だ。
なにせ、ゲームができない。
平日のテレビはそんなに面白くないし、見たいビデオもない。
本を読むのはあんまり好きでもないし、どーーしたらいいのか!

『ひろちゃーん!』
でも、しーちゃんはウキウキだった。
久しぶりにひろちゃんがうちにいる。1日中うちにいる。
頭に止まってみたり、背中につかまってみたり、嬉しそうに飛びまわっている。
「しーちゃん、楽しそう〜!」
でも、俺にはしーちゃんと違って翼がない。
俺は、この地面に縛り付けられた、鈍重な生き物なんだ・・・!
出典はなんなの?という言葉を適当に呟きながら、リハビリでもしましょうと部屋を歩く正広。
「歩くのはどうにかなるんだよなぁ〜・・・」
右足のギブスのそこに、小さなな箱をかませたようにしてあって、それをつきながら地面を歩くことも可能。右手はまだつったままだけど、左手は動かせるし・・・。

「しーちゃん」
くるっとふりむいて、正広はしーちゃんを呼んだ。
「稲垣先生んとこ、行く?」

まずはこの階段だ。
右手、右足が骨折した現場を、正広はじっと見下ろす。
しーちゃんも、正広の肩から、じっと見下ろす。
『ひろちゃん・・・!私も一緒にいくから、大丈夫よ!』
キリリ!とした表情で、しーちゃんは正広を見つめる。
「いくよ・・・!」
まず、左手で壁をしっかりと押さえる。

左足で一段下がり、ギブスをした右足を揃える。
「よしよし・・・」
階段の巾は狭く、慎重さが要求される作業だったが、ここでもう1度落ちようもんなら、骨どころか、兄に殺されるんでは!?という恐怖に怯えつつ、確実に降りていく。
『がんばってひろちゃん・・・!』
じんわりと滲む汗を見守りつつ、しーちゃんは、フワリと飛ぶ。
『ここよ!ここよ、ひろちゃん!ここまで降りてきてぇーーー!!』
逆蒲田行進曲になりながら、しーちゃんは、ひたすら正広を応援し続けた。

「つ、疲れた・・・」
『ひろちゃん・・・!ひろちゃんは頑張ったと思うわっ!』
階段の一番下まで降りて、正広は階段に腰を下ろし、左手で背中を叩く。
「緊張するなぁ〜」
落ちてはいけないという緊張が、余計な筋肉に力を入れさせるようで、普段以上に疲れていた。
「稲垣先生のことまでいけるんだろうか・・・」
歩いていけないこともないっていう距離だが、今日の正広には果てしない道のように思われた。
大体、まだこれから、ビデオ屋をつっきっていかなくてはいけない。
よろよろと立ちあがり、また壁に手をつく。
この程度の距離、ケンケンでいける!いってやるぜ!俺!
「しーちゃん、見てて!」
『見てるわ!ひろちゃん!!』
悲壮な決意で正広は、足を出した。左足、左足っ、左足っ!
「うわ・・・っと!」
『きゃーーーっ!』
体勢が傾きかけても、もちまえのバランス感覚で踏みとどまる。
今の正広は、出初式の火消しのようだった(大げさ)
このまま、どこまでも左足だけで歩いていけるかもしれない!このまま、稲垣アニマルクリニックまで!!

ドアに手が届いた!これを開ければ外だぁっ!

えいっ!と勢いよくドアを開け、勢いつきすぎた体を、左腕で支える。
ドアに片腕でしがみついた形になった正広は、眩しい太陽と、青い空を振り仰いだ。
あぁ、外だ!外って素晴らしい!
『そうよね!素晴らしいわよね、ひろちゃん!』
よし、稲垣アニマルクリニックに!と、進行方向を見て、一気に顔色を失った。
白文鳥のしーちゃんも、蒼文鳥に変わった。

「あれぇ〜?」

「に、兄ちゃん・・・」
昼ご飯を用意して、一度帰ってきていた兄、早坂由紀夫がそこにいた。
「何してるのかなぁ〜?」
その微笑みは、溝口武弘な微笑み。
「んと。あの、えっと」
「左手一本で生きていける正広くんは、どんな重要な用件で、おでかけしようとしてるのかなぁ〜???」
「えーーと、あのぉ〜、しーちゃんの検診にぃ〜、えっとぉーー!!!」

きゃーー!!助けてー!
『きゃー!!お兄さーん!ポッケの中は好きだけどー!いやー!こわーい!!』

 

「ゆ、由紀夫ちゃん・・・」
「由紀夫さん、それは、ちょっと・・・」
腰越人材派遣センターに、恐ろしい空間が出現していた。
「にいちゃ〜ん!」
「うるさい。黙って仕事しろ」
「だって、兄ちゃ〜ん!」
『ひどい!あんまりだわ、お兄さん!ひろちゃんになんてこと!』
「おまえも、小松菜バリバリ食いながら、文句だけは言うな!」

「ただーいまぁ〜」
やっぱりトゥールダルジャンは美味しいわねぇ〜。鼻歌を歌いながら帰ってきた腰越奈緒美は、その恐ろしい空間を見て、ぴたっと足を止める。

「SM・・・!?」

「奈緒美さぁ〜ん!」
自分の椅子にウェスト近辺、さらに右足をぐるぐるとしばりつけられている正広が奈緒美に助けを求める。
「ちょっと!何事なのよ!由紀夫!ひろちゃん動けなくなってるじゃない!」
「これ以上、悪化させると仕事への復帰が遅れると思ったんで、まぁ、動かないように」
「動かないようにって、あんた、赤ちゃんじゃないんだから!」
「赤ちゃん・・・!?」
武弘アイズが、奈緒美、正広、野長瀬、典子を、軽く見渡す。軽くだったのに、背筋が寒かった。
「赤ちゃんだったら、ベビーサークルの中に閉じ込めとけるから、楽だよなぁ〜・・・」

「んっとっ!折らなきゃいけないのは、これだけですかっ?」
「あ、これがあるの。封筒にはいれるから、4分の1に折ってくれるかなぁ」
「はぁ〜い!後、この椅子、ころころ動くから、お茶とか、入れられますよぅ〜」
「いやーん、ひろちゃん!それでいれにいっても、持って帰れないじゃーん!」
「あっ、そっかぁ〜!」

こうして、完全に足のギブスが取れるまで、昼間の正広は事務所の椅子にくくりつけられて暮らすことになった。
もちろん。
この仕打ちのせいで、正広がオフィスチェアの扱いに精通し、レースがあるんなら出てもいいほどに上達したのは言うまでもない。


私は昔腕を折ったことがあります。弟が空から降って来て折ったんですが、その時の不自由さは覚えておりません。だって5歳とかの時だもの!足の骨は、多分折ったことありません。多分って!昔した怪我とかのこと、あんまり覚えてないんです(笑)多分ないと思います。松葉杖の記憶がないし、そもそも入院したことがなかったんでした(笑)このまま入院せずに生きていきたいもんです!

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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