天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

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ギフト番外編111後編『おかしな探偵が届いた』

早坂兄弟の前に、稲垣アニマルクリニックの獣医、稲垣医師とうりふたつの、探偵が現れた。薔薇十字探偵社の稲垣となのる男は果たして何者なのか!(探偵か!)

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稲垣家には、古くからの言い伝えがあった。
『双子の男児が稲垣家に災いをもたらす』
双子が女子だとかまわないようなのだが、男子だといけない。男女はどうかについての言及はなかったが、とにかく男子だといけないのだ。
なんでも、百八十年ほど前、瀬戸内の小島に住んでいた稲垣一族が、島を追われる原因になったのが、その言い伝えの根拠になっているものらしい。
「この時の話は、岩下志麻子さんのぼっけぇきょうてぇのモチーフに使われ」

「いや、使われてはないだろ。大体、その本、正広読んでないだろ」

「・・・た、かも、しれませんが」
「使われてないだろ。絶対」
「なんでよ、使われた『かも』!知れないじゃんよ。兄ちゃんだって読んでないくせに」

ホラー映画は好きだが、由紀夫はホラー文学は嫌いだった。必要以上に想像してしまうのがいやなのだ。例外は、犬神家の一族。
あの、白いマスクは怖かったなー・・・。その後で小説読んだら、ほとんど怖くなかった。

「じゃなくって。だから、なんなの、その稲垣家の言い伝えって」
「いや、そういうのがあるんだよ。そして、稲垣先生は、双子で生まれてしまった・・・!」
「だから、弟である、この薔薇十字探偵社の稲垣は、稲垣先生を恨んで・・・!」
きゃーー!!と草g助手は両手を合わせて神に祈る仕草をする。
「先生・・・!ご無事で!」
「ご無事ってよ・・・」
薔薇十字探偵社の稲垣は、腰越人材派遣センターのソファに寝かせられている。正広にひざかっくんされてから、意識を失ったままだ。
「ちきしょう!双子の弟め!稲垣先生を一体どこに!」
相手の意識さえあれば掴みかかっただろう草g助手だが、こういうところにもいい人っぷりが現れる。
倒れている薔薇十字探偵社の稲垣に決して触れようとはしなかった。

だから、しょうがなかったといえるのだが。

「あのな。おまえら、ちょっと落ちついてくれるか?」
「え?」
瀬戸内の小島って言えばーーと、地図帳をのぞきこんでいた二人が顔を上げる。
「この顔、見てみろよ」
「顔?あ・・・っ!」
「え!どうしたの!正広くん!」
「もしかして・・・!整形!?鼻の形とかが崩れてきているっ!?」
「頼むよ、正広・・・」
痛むこめかみをさすりながら、由紀夫は寝ている稲垣の顔を指差す。
「おかしいだろ?」
「ん?」
まじまじと顔を近づけた二人は。

「・・・・・・・・・・赤い」

と呟いた。
「熱いぞ」
額に手を置いて、さらに由紀夫が言う。
「ん?熱?」
「無理をして瀬戸内の小島から出てきたから!?あ、もう、なんていうんだろう、彼は、その島でしか生きられない体!?」
「都会の汚れた空気が、彼の体を蝕んでいる!?」
「おーまーえーらー!」
「いったー!」
二人の頭を引き寄せて、ごちーん!とぶつけ合わせる。
「熱があるんだよ!熱が!な!?熱があって、意識がないヤツを放っといていい訳ないだろ!?」

はっ!

草g助手は、獣医とは言え、医者。
突如、医師としての使命に目覚めたのだ。
「かなり熱が高いですね。病院にいった方がいいでしょう」
「車ーは、今ないのか」
「タクシー呼びます!」
てきぱきっ!
すぐさまタクシーが呼ばれ、草g助手と、薔薇十字探偵社の稲垣は病院へ運ばれていった。

やれやれ一段落、と由紀夫は思ったのだが。

「・・・保険証とかどうするんだろう」
「え?」
「だって、あの人は、稲垣先生じゃないんですよ??でも、顔はそっくりだから、稲垣先生の保険証でも使える・・・。まそもそも、保険証には写真ないけど・・・」
「あの、なぁ、正広・・・」
「えっ?」
真剣な表情で振り帰られ、由紀夫は小さく首を振った。
「・・・仕事、するか」
「あ、そうだね。それと、稲垣先生の行方も。だって、しぃちゃんを診てもらえなくなっちゃったら困るよ!」
兄ちゃん!力を合わせて探そうね!
がし!と手を捕まれ、え、うん、と、力なく由紀夫は頷いた。

「薔薇十字探偵社の稲垣・・・」
稲垣アニマルクリニックの二階。稲垣医師のベッドで、彼は眠っていた。
「病院ではなく、すぐにこちらに連れてきて、森先生に往診を頼んだんです」
草g助手に言われ、正広は目線を上げる。
「先生、なんて?」
「過労かもしれないって・・・」
「過労・・・」
痛ましい目で、正広は薔薇十字探偵社の稲垣を見下ろす(その正広を痛ましい目で由紀夫が見つめていたが)。
「やっぱり、大変なんだね・・・」
「はい・・・」
「稲垣先生のことを聞き出したいけど、こんな状態じゃあ・・・」
「でも、都会は恐ろしいですね。人一人を、こんなに簡単に連れ去ることができるんですよ?」
「ホントだよ!ねぇ、兄ちゃん!」
「うーん。まぁ、ある意味そうといえなくもないだろうけど・・・」
頭痛いなぁ、と思っていると、正広が息をのむ。
「う、動いた・・・!」
「えっ・・・!」
3人分、6つの瞳が見守る中、薔薇十字探偵社の稲垣の目が、ゆっくりと開かれていく。
「ん・・・?」
状況が把握できないように、しばらく動いた目線は、由紀夫の上で止まった。

「・・・やぁ、届け屋くん」
「と、届け屋くんって・・・」
「どうだい?みつかったかい?」
「見つかってねぇよ!」
「そうだよ!稲垣先生をどこに隠したんだよ!」
「そうですよ!あんな人でも、うちの病院には大切な先生なんです!返してください!」
畳みかけるようにいわれ、軽く薔薇十字探偵社の稲垣は、眉を潜めた。熱のある頭には、大きな声がやけに堪えるらしい。
「まったく、君たちはうるさいね。きぃきぃきぃきぃ、ネズミじゃないんだから。ともかく、見つけられないんだね?」
「だから、何を探すんだっての!」
「稲垣先生だよ!兄ちゃん!」
「犬か!猫かっ!?」

「え?」

草g助手が、ササッと部屋の様子をうかがう。
「いない!」
「稲垣先生がでしょ?」
「いや、カトリーヌです!」
「カトリーヌ???」
「稲垣先生のご実家で生まれた子猫なんですけど、ちょっとおなかを悪くしちゃったみたいで預かってて、ん?ご実家?」
「え?ご実家?」
「・・・稲垣先生のご実家は、瀬戸内ではなかったような・・・?」
「あり?」
「どんな子猫だって?」
「すごく可愛いんだよ、彼女は。雪のように真っ白で、でも、ぽちんとピンクの肉球があってね」
「真っ白な子猫な。小さいか?」
「はい!」

こうして、カトリーヌの捜索が始まった。
由紀夫、正広、草g助手の懸命の捜索の末、動物病院のほかの猫のケージの奥で、小さく丸まっていたところを発見。
「てゆーか、なんでここにいるのが解らなかったんだろう、薔薇十字探偵社の稲垣って」
「・・・熱があったからだろ」
「じゃあ、稲垣先生はどこ?」
「・・・寝てるだろ、ベットで」
「えっ?あの人は、薔薇十字探偵社の稲垣で、稲垣先生の双子の弟じゃないのっ!?」
「えっ!瀬戸内の小島で、密かに復讐のチャンスを狙っていたんじゃなかったんですかっ!?」
「だから!誰がそんなバカげたこと言い出したんだよ!!」

うーんと、と、正広と、草g助手は記憶を遡っていく。
そして、その結果。

「あれ?俺?」

「おまえだおまえ!」
みぃみぃ鳴いてる子猫を片手に収めて、由紀夫は稲垣医師の寝室に向かう。
「見つけたぞ」
「ふふふ。さすが届け屋くんだね。確かに、僕が望んでいたものは、まさしくそれだよ!しかし!今度は負けないよ!届け屋くん!私は、薔薇十時探偵社の稲垣なのだからね!ははははは!うっ!ごほっ、くっ、くるし・・・っ!」
「あっ、稲垣先生!」
「ちがーう!私は薔薇十字探偵社の稲垣だぁーー!!」
「まだ熱高いですぅーーーー!!」

確かに稲垣医師の探偵コントはちょっと面白いが、長居するほどのことではないと、由紀夫は、正広の首根っこをつかんで、引きずって帰る。
正広は、違う!あれは絶対、薔薇十字探偵社の稲垣だ!絶対そうだ!だからちゃんと確認したい!という思いと、あの可愛いふわふわの真っ白なカトリーヌに触りたい!という思いで必死に抵抗したが、無駄だった。

翌日。早坂兄弟は、再び稲垣アニマルクリニックを尋ねていた。
一応熱が高かったせいもあり、草g助手は泊まり込んでいて、薔薇十字探偵社の稲垣と、稲垣アニマルクリニックの稲垣が入れ替わったようなこともなかったようなので、結局、二人は同一人物だと思う、という報告があったからだ。
「どういつ人物だと思うって、どう見たって同一人物だろ」
「でもねー、あの姿勢がねー・・・」
正広は、それでも懐疑的だ。双子説を捨て切れないらしい。
当の稲垣医師は、ひざの上に可愛い可愛いカトリーヌを置いて、ベッドに座っている。ある意味、異常に病人姿が似合っていた。
「カトリーヌがうちに来て、おなかの具合のこととかが心配でね、つい夜通し起きていてしまったんだよ。寒い夜で、けれど、月があんまり綺麗だったから、窓を閉めることができなかったんだよ。月の光の神秘性について、僕は色々考えるんだけど」
「・・・・・・薔薇十字探偵社の稲垣じゃん?」
「いや、稲垣先生なんですよ。間違いなく」
「何が?なんだよ、一体、薔薇十字探偵社の稲垣って」
「え、覚えてらっしゃらないんですか??」
正広は、カトリーヌに触りたい、触りたいっ!と手をワキワキさせながら尋ねる。
「その夜からのことは、少しぼんやりしているんだ。覚えていることといったら」
「といったら?」
あっ!膝からころげおちた!可愛い!カトリーヌっ!と、そっちを凝視している正広ではなく、誰にともなく、稲垣医師は言った。

「『あんな人でも、うちの病院には大切な先生なんです!』って言葉かなぁ〜」

はう。
草g助手は、背中を冷たい汗が大挙して流れ落ちるのを感じた。
「なんだか、感動的な言葉だよね。『あんな人でも、うちの病院には大切な先生なんです!』って。そうかぁ〜、ぼくは大切に思われているんだー、たとえ『あんな人』であっても」

例え相手が、稲垣アニマルクリニックの稲垣であろうと。
薔薇十字探偵社の稲垣であろうと。
草g助手が苦労するのに、変わりはないようだった。

「誰が言ったのか解らなかったけどねぇええええええええええ〜〜〜!!」
「あぁぁあれぇぇぇーーーーーーーーーーー!!!!!」

 

「解った兄ちゃん!」
帰り道、カトリーヌにちょっとだけ触らしてもらった!とふわふわの感触が残る指先に触っていた正広は言った。
「二重人格だ!!」

「いいからもう、おまえは稲垣先生のことはこれ以上考えないでくれ」

由紀夫は、そのキラキラした笑顔に、心の底からお願いした。


『薔薇十字探偵社』っていうのは、榎木津さんって探偵のいる探偵社ですね。素敵な名前だったので使ってみましたわ。あぁ、榎木津さん、LOVE(笑)!

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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