天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

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ギフト番外編112後編『ナレーターを届ける』

yukio
 

「こーゆーのってぇ・・・」
正広は、頬を紅潮させながら、隣に座る由紀夫に小声で囁いた。
「き、緊張しますね・・・!」
その後を、野長瀬が引き継ぐ。彼は、どこに売ってんの、それ、という不思議な色合いのスーツを着ている。短い髪を無理矢理セットしているのが涙ぐましい。
ね、緊張するよね、と、ただでさえ固そうな体をガチガチにさせながら由紀夫の反対側にいる正広に同意を求めたが。
「わくわくするよねぇ〜・・・!」
正広は、目をキラキラと輝かせながら、辺りをキョロキョロ見ている。
そこは、こじんまりとしたスタジオだった。
「ひ、ひろちゃん・・・」
「ちょっと図太いところもあって」
代わりに由紀夫が返事をしたが、正広はただ、物珍しがっているだけだ。
「オーディションだってぇ〜・・・!」
ふふふぅ〜!と笑っている。それはもう楽しそうに。

腰越人材派遣センターにやってきた依頼は、男性ナレーターの募集だった。とある通販会社が作る、商品PR用VTRに、男性の声を使おうということになったのだ。
ポイントは、手早い選出。すぐさまオーディションに来られる人。そして、あまり料金の高くない人、しかしその低予算の中で、一番いい声の人を選びたい。
会社側は、あちこちの派遣会社などに依頼を送り、片っ端からオーディションをしていたのだが、まだピンとくる声はないようだった。
「そういえば、やっぱり無理だったね」
「無理に決まってんだろ」
変わった声と言えば、あれ!と奈緒美が太鼓判を押したのは、もちろん、犯罪マニアこと、田村。
「大体、奈緒美、田村のホントの声なんてあんま聞いたことないだろ」
「あ。そうかも」
正広にしても、どれが田村の本来の声か、と言われたら解らない。大抵いつもボイスチェンジャーをつけているし、喋る時も、歌うようにしか喋ってくれないからだ。
一応、このスタジオにやってい来る前に、3人は田村の部屋に寄ってはいたが、野長瀬がスモーク攻撃を浴び、野長瀬が、たらいの下敷きになり、野長瀬が、粉まみれになった。
そして田村は、押し入れからは出ていたものの、体の右半分をカーテンの陰にかくしたまま、決して出てこようとはしなかったのだ。

「お待たせしました」
依頼してきた会社の担当者がスタジオから出てくる。
「腰越人材派遣センターの方ですね」
「はっはいっっ!」
野長瀬が声をひっくり返らせながら立ちあがり、自己紹介をした後、由紀夫、正広を紹介する。
「3名様」
と言いながら、担当者は、不思議そうに3人を眺めた。
ちょっと前の演歌歌手のような野長瀬。声っていうより顔出せよ、という由紀夫。おいくつですか?という正広。
しかし彼は、さすが評判の高い、腰越人材派遣センターだ、多彩な人材をそろえておられる、と、無理やり思うことにした。
サラリーマンは、状況に素直に順応するのも仕事の一つだ。
「それでは、こちらにどうぞ」
スタジオの中に招き入れられ、資料を渡される。

「当社は、女性向の通信販売の会社でして」
資料に添付されているカタログには、若い女性向けの写真があり、服やら、アクセサリーやら。
「し、下着・・・!」
「おっさんか、おまえは」
下着といっても、グラビアアイドルが着るようなものではなく、ごくごく普通のものだというのに、むしろ野長瀬にはそちらの方が物珍しいらしく。
哀れな・・・
と、由紀夫は目頭を熱くさせる。
「うちのカタログを新規のお客様に知っていただきたくて、そのための販促ビデオを作っております。そのナレーションをお願いしたいのですが」
「はいっ!」
体育会系な返事に、うっ、と担当者は仰け反りつつ、野長瀬にプリントを1枚渡す。
「こちらを呼んでいただきたいのですが・・・」
え、ナニナニ?と早坂兄弟が横からのぞきこみ。

由紀夫は無表情に固まり、正広は、うひゃ!と驚く。野長瀬は、ぽっと頬を赤らめて、じっとプリントに見入った。
素敵な文章だった。

『季節は段々変わっていって、貴女(アナタ)のことをヒンヤリさせる冬がくるけれど、いつだって側にいるからね』

「うわぁ〜・・・」
たまたま担当者に電話がかかり、3人は頭を寄せ合って、その文章を眺める。
「あったま悪そうなコピー」
由紀夫が言うところの、あったま悪そうなコピーが、いくつか並んでいた。
「いろんなのあるねぇ〜・・・」
「これいいじゃないですか」

『パーティまで後2時間。でも、12時になっても魔法は解けないよ』

「いいかぁー!?」
「いいじゃないですか!ロマンティック・・・!」
「えぇ〜〜??」
こいつのセンスやだー!と由紀夫が逃げると、じゃあこれ!と正広が指をさす。

『そんな可愛いエプロンをして、そんな可愛いキッチンにいる君は、どんな可愛いお料理で、どんなに可愛く誘惑するのかな』

「ぎゃーっはっはっ!」
「面白いっ?兄ちゃん、面白いっ?」
「うーわ、おもしろー!これ、野長瀬の声で読んでみたら!」

ほわんほわん。
早坂兄弟は想像しようとした。

「そんな、可愛いエプロンをして。そんな、可愛いキッチンにいる君は。どんな、可愛いお料理で、どんなに、可愛く、誘惑、する、の、かな?」

「野長瀬さーん、それじゃあ森本レオだってー」
想像するもなにも、本人が呼んでしまったので、むしろがっかりする早坂兄弟。
「もっと太い声だせ、太い声。ガタイが泣いてるって」
「だって、太い声でこれ、おかしいでしょー!」
「んーとねー、野長瀬さんの声だったらねーー」
あれやこれやと読ませては笑っていたのだが、そのうち担当者が帰ってきてしまい。

「じゃあ、あちらでお一人ずつ録音を」
などといわれてしまい。
え!とようやく正広は慌てた。
「え、あ、俺もだ!」
「そうだよ。何言ってんの」
「えっえっ!だって、そんな見てなかったもん!できないよっ!」
「見てたろ!今!」
そう兄に言われても、正広は、急にビクビクと、ブースの中を見る。小さな椅子と、机と、マイク。ここで!あの!君の横顔は、だの、あなたの視線は、だの、なんだか歯が浮くようなことを、みんなから見られながら!?
「無理ぃ!」
ふるふるっ!と首を振る正広だったが、すぐに由紀夫が呼ばれてしまった。
「にいちゃーーん!」
手を伸ばし、いかないでぇぇーー!なポーズをする正広は。
「今生の別れか!」
と、兄にその手を叩き落とされた。
「痛いよぅ」
野長瀬に同情してもらおうと、振り向いて、正広はがっくり肩を落とす。
野長瀬は、はっはっ!と複式呼吸をしながら、必死にプリントと向き合っていた。

なぜか第1号に選ばれてしまったが、まぁ、確かに自分から始めるしかあるまいと諦めた由紀夫は、淡々と、まぬけなコピーを読み上げる。淡々だが、なんせええ声。しかも、由紀夫の姿が目に入ってしまっている以上、誰になんの文句が言えようか。
ビデオは完成しているのだが、しまった、もう1度、この人を使って撮り直しはできないものか!と担当者も思っている。

続いての野長瀬は、大衆演劇か!というオーバーさが、ウケた。担当者も、録音担当も、肩を震わせていたし、由紀夫は大爆笑した。
「これ!もう、俺だったら絶対これ採用!な!正広!」
バンバン正広の肩を叩いて由紀夫は笑ったが、正広の返事がない。
「正広?」
笑いながら顔を覗きこむと、緊張のあまり顔色が白くなっていた。
「だ、大丈夫か・・・?」
「大丈夫だと、思う・・・?」
「んーー・・・」
蒼白な顔で見つめられ、由紀夫もやばいかなぁと思ったが、名前を呼ばれてしまった。
一応、腰越人材派遣センターから3名、ということでやってきているのだし、ダメならダメで、すぐに諦めてもらえばいいことだし。
「い、行ってくる・・・」
よろり、と立ちあがり、よろよろとブースに入った正広は、うわぁうわぁ、と心臓がドキドキするのを感じる。
マイクに向かって喋るなんて!
歌ったことはあるけど、喋るなんて!録音するなんて!どぉしよおどぉしよお!

『それでは、一番上からお願いします』
「は、はいっ!」
あぁ、どうしよう!だって、なんか、兄ちゃんたちみたいにいい声じゃないし!あっ!なんか漢字も読めないかも!大丈夫だよね。読めるよね!?

『季節は段々変わっていって、貴女(アナタ)のことをヒンヤリさせる冬がくるけれど、いつだって側にいるからね』

正広は、一番上にあるコピーをじっと見る。大丈夫。貴女には、「あなた」ってフリ仮名がふってある。これで読めばいいんだから・・・!
「きっ、季節は、段々、か、わって、いって、あなたっのことを・・・っ、あ、すみませんー!」
ダメだー!できないー!とテーブルに正広が突っ伏した時だった。

『ダメダダメダダメダァァァーーー!!!』

「えっ!?」
その小さなスタジオにある、あらゆるスピーカーから、おかしな声が流れ出した。
「何だ?」
立ちあがった由紀夫は、続いての声に耳を澄ませ、いきなりソファに倒れ込む。

『ソンナコエジャダメダァーーー!!』
「・・・田村・・・!」
「えっ!?田村さんですか!?」
えっ!じゃあ、どこから!?野長瀬がキョロキョロしている間に、正広がブースから飛び出してくる。
「兄ちゃん!」
ひしっ!と兄にしがみつき、正広は声を上げた。
「田村さんに、ダメ出しされたぁーーーー!!」
「違うだろ!」
そんなことにショックを受けてる場合じゃなく、なんでこんなとこで、スピーカーから田村の声が流れてくんのかが重要だろ!
しっかりしろ正広!と兄は言い聞かせるが、やっぱり自分はナレーターなんかに向かない!とひたすらショックを受けつづける弟。

「あ、あの、こ、これは・・・!?」
担当者も怯えたように聞いてくる。
スピーカーからは、宇宙人めいたボイスチェンジャー装着の田村の声と、不気味なBGMが流れている。
「こら田村ぁ!」
どうせ、盗聴器だろうと、由紀夫が声を上げた。
「何やってんだ、おまえ!」
『オ〜ディションダヨ〜ン♪』
「え!なに、おまえ、ホントは受けたかった訳!?」
『チガウヨォ〜ン』
「って、わざわざ盗聴器まで仕掛けてきてんじゃん!どーやって仕掛けたんだよ!」

「あぁっ!!」

野長瀬が、自分のカバンについている謎のマシンにようやく気づく。
「ゆ、由紀夫ちゃん、これ!」
「なんで、こんなでかいもんに気づかねんだよ!」
アタッシュケースの半分くらいの面積を占めている、基盤のような物体だったが、それが、マイクであり、スピーカーでもあり、そして、スタジオの機材をも支配しているらしい。(うーん、SFチック(笑))

『パーティまで、後、2じかぁ〜〜ん♪でぇもぉ〜・・・、12時になってもっ!魔法はぁぁぁ〜〜〜!解けないよぉーーー!!解けないんだよぉぉぉぉーーーー!!!』

「た、田村さん・・・」

『可愛いエプロォ〜〜〜ン!可愛いキッチィ〜〜〜ン!可愛い料理にぃ〜〜、可愛い誘惑ぅぅぅぅぅ〜〜〜!!』

「田村・・・ノリノリすぎ・・・・・・・・・」

すでにそれは、ナレーションではなく、歌だった。
田村の歌声はスタジオに響き渡り、そして、もしかしたら、ある種の周波数が使われていたのかもしれない。
最初は怯えていた担当者たちの目の色が変わってきた。
「こ、これはいい・・・!」
「え!?」
「思ってたんです。これじゃあ、差別化が図れないって!」
これ!とコピーの書かれたプリントを叩かれ、由紀夫は、はぁ、と間の抜けた返事をする。
「これです・・・!この声!このシャウトだったんです!私たちに足りないのは!!」

『季節は段々変わっていってぇ〜〜〜、キジョをぉ〜〜、ヒンヤリさせる冬〜、でもぉ、大丈夫、大丈夫、大丈夫ぅ〜、いつだってぇぇぇぇ・・・・・・・・・側にっ、いるからねぇぇ〜〜えぃっ!』
「いい!このBGMがまたいいじゃないですか!」
メタルロックのような重低音に、田村の、尋常じゃない叫び。
これが、このカタログを元につくられたビデオにねぇ・・・・・・・・・・・・・。

由紀夫は、多分つかれてるんだろうな、この人たちと思っていたのだが、結局、それは実現した。
田村は、部屋から一歩も出ないままシャウトし、実際のそのビデオは、資料請求をしたお客様の手元に届けられた。
そして。
思いもよらぬほどの売上を上げたのだ。
「た、田村さん、すごぉい・・・」
正広は素直に感心したが、由紀夫は思っている。
絶対、音声の中に変な周波数をいれたままにして、注文させるようにしてるはずだ。
「奈緒美ぃ。なんか、えらいギャラもらってるだろ」
ぎく。
手から、真新しいケリーのクロコを取り落としそうになりながら、奈緒美は、え、いやいやっ!?と首を振る。
「安いわよ、田村のナレーションなんて」
「いやいや。貰ってるだろ。なぁ。なぁなぁ」
それを見ただけで注文したくなるビデオを作ったのだから。
「そんなことある訳ないじゃない?ただ、田村には、これからも、ねぇ。こういう仕事もいいんじゃないかなぁ〜って思うだけでぇ〜」

こうして、どんどんおかしな方面に入り込み、芸能プロダクションからは遠ざかってしまう腰越人材派遣センターだった。

「そーいや、兄ちゃんの好きなナレーターって誰なの」
「井上遥」
その人、声優さんです、由紀夫さん。


セイラさん役のね(笑)増山江威子さんにするか、池田昌子さんにするか、悩んだんですが(悩むな!)とりあえず、セイラさんに(笑)

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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