天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

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ギフト番外編113後編『ハムを届ける』

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「あ?」
届け物をいれたバックを斜めがけにして、自転車を走らせていた由紀夫は弟からの電話に眉をひそめた。
「なんだって?」
『だだだ、だからねっ!』
大して音質のよくない電話からも、正広のとっちらかりぶりはよく伝わってきている。
『とっ、智子ちゃんが!なんか!なんか食べちゃって!』
「別にあのうさぎが何食おうが勝手だろー?」
『だだだっ、だって!だって!!ほ、骨っ・・・!』
「骨ぇ〜?うわー、さっすがだな。あのウサギ、骨まで食うか!」
『ちがあうって!だからぁ!なんかぁ!!骨が見えててぇぇーー!』
「骨が見えてる・・・?」
由紀夫は、さらに眉を潜めた。
彼の中で、ミニウサギ(大)の野長瀬智子(オス)は、かなりな強暴ウサギであり、その智子が骨が見えているものを食べた、ということは。
・・・野良犬でも食い殺したか!?
それが、あながち冗談とは思えない由紀夫は、智子にある意味囚われてしまっているのかもしれない。
が。
所詮は、電話。
「なんか、よく解んねーけど、俺、まだ配達中なんだけど」
『あっ!あ、そ、そっか・・・!』
呆然としている正広に、いいから、一度うちに戻れと指示をして、由紀夫は届け先に急いだ。

「あら、草介さん、早かったですね」
急いで会社に戻り、慌てて軽トラから降りた草介を見て、つぼみが声をかける。
「あ、あ、うん・・・!」
上の空で返事をしながら、周囲を見まわす草介。しかし、例の段ボールの姿はない。
「あっれー・・・?」
「どしたんですか?」
つぼみは、サンマルコハムには珍しい親切なノーマルな人柄だ。きょろきょろしている草介を見て、手助けすることは?と近寄ってくる。
「あ、あの、えっとー」
「お!草介!」
「あ、所長」
「ちょうどよかった、配達行ってきてくれるか」
「えっ!?」
これは困った・・・!
「あの、所長。あのですね、さっき、ここらに段ボールって・・・」
「段ボール?」
「こ、ここに・・・」
「駐車場にかぁ?」
不思議そうに言われ、草介は、確かにおかしい状況だと思いがいたった。
2台分のスペースに、ちょこんと段ボールがあったら、それはもちろんおかしい。
「えー・・・ってことはぁ〜・・・」
倉庫に入っても、草介が用意した段ボールらしきものはない。
「あの、所長、牛山さんは」
「牛山くん?営業出てるけど?」
やってんだかどうかは解らないけどねぇ、と言いながら、配送伝票を草介に渡す。
「じゃあ、急いでな」
「えっ!所長!僕・・・っ!」
まだ行けないんです!と呼びとめようとした時。

軽やかな音とともに、サンマルコハムの駐車場に、自転車が入ってきた。
自転車といえど、どう見ても、サンマルコハムと文字の書かれた軽トラよりカッコいい。
そしてその自転車に乗っているのは。
「え・・・っ?」
草介には、つぼみが息を飲むのが解った。
草介も、ひょっとして芸能人?と思った。
「だ、誰・・・?」
事務所に入ろうとしていた所長も足を止めている。

「あの」
自転車をとめ、すちゃっと降り立った姿が、またよかった。
草介の月収では買えなさそうなスーツ。サラリと長い髪。やたらと整った顔立ち。
「いけない・・・!」
つぼみが絶望的な声で呟く。
「今日の口紅・・・!あってない・・・!」
そして、指先がすばやく動き、前髪を整えた。
「こちら、サンマルコハムですか?」
声もよかった。
ぼーっとしている3人を、不思議そうに見ながら、男は近寄ってくる。
間違いない。
3人は確信した。
絶対この人は、いい匂いがする!
「あのー・・・」
返事ができないまま、じーーっと自分を見ている3人に、さらに近寄り、もう一度男は尋ねた。
「小金井明さんは、こちらにおいでですか?」

「へっ!?」
「しょ、所長っ!?」
突如名指しされ、所長は声をひっくり返らせる。つぼみの声もひっくり返った。
「小金井さん?」
「そっ、そうですがっ!?」
草介たちの前を通って、男は所長の方に向かう。思わず、すーーはーー!と息を吸い込んでしまうような、少し甘い香りがした。
「だ、誰ですか・・・っ?」
つぼみが草介の腕をひっぱりながら尋ねる。
「だ、誰って、僕に聞かれてもぉ〜・・・」
ただ、その後姿を眺めているだけで、なんだか身動きがとれないというか、目が離せないというか。

「お届けものです」
「届け物!?」
こんな宅配便の人がいるのか!?自転車で!?スーツで宅配っ!?
「しょ、所長、なんか、変なもの頼んだんじゃないでしょうね!」
「な、なんだよ、変なものって!」
あわあわしているサンマルコハムの人たちに向かい、男はにっこりと笑った。
まるで、最上級の生ハムが、口の中で、とろけるような笑顔だ、と草介は思う。
「千花ちゃんというお嬢さんからです」
「えっ?千花からっ!?」
千花は、所長の娘だ。彼は離婚したため、一緒には暮らしてはいないが、確かに所長の娘。
「こちらです」
斜めがけしたバックから、リボンで丸められた画用紙が出てくる。
「これは・・・」
「学校で描かれたそうです」
『お父さん』と書かれた、父親である所長の絵だった。
「千花・・・!」
「千花ちゃん・・・!」
「所長・・・!よかったですねぇ!」
草介、つぼみももらい泣き。
届けてくれた男も、満足そうに微笑みながら、変わった形のカメラを取り出してきた。
「受け取りの代わりに、写真を撮ってるんですけど、いいですか?」
「あ!もう、どうぞどうぞ!」
「じゃあ、絵が見えたほうがいいですよ!」
つぼみが飛んでいって、絵を開いて、小金井の顔の横に持っていく。
「所長、そこ、制服がちょっと」
草介もいい、肩がおちかけてるのを直して。
「・・・映りたいのか?」
「「えっ!?」」
直した後も、戻らない二人に所長が声をかけ、二人はなんのことですか!?という顔をしたまま、離れない。
「あ、じゃあいいですよ。絵が見えるようにしといてくださいね」
男はそういい、シャッターを押した。

「どうもありがとうございました」
もう一度男は微笑み、軽く頭を下げていった。
「何か届け物がありましたら、ご連絡下さい」

『届け物』!

そうだった!
がしっ!
「えっ!?」
草介は、無意識のうちに、その男、届け屋の早坂由紀夫の腕をつかんでいた。
「そっ、草介!?」
「草介さんっ!?」
「お願いがありますっ!」

「ってこれ!ただの配達じゃねぇかよ!!」

奈緒美が見たら卒倒しそうだが、由紀夫は軽トラにハムを乗せ、配達に向かっていた。どうしても、自分はいけないんです!行かなきゃいけないところがあるんです!と草介に拝み倒され、仕方なく走りつづける由紀夫だった。

そして草介は、もう一度倉庫を隅々まで探して、自分が用意した段ボールはここにない!ということを再度確認する。
そして、奥に大事に鎮座ましましていた、最高級ハム、クラテッロをこっそり持ち出した。
もう、これを出すしかない・・・!
そのハムが入った袋を、由紀夫の自転車の荷台にくくりつけた。この自転車を借りて、高級スーパーへの道を、もう一度戻ってみようと草介は考えたのだ。
んっ、の、乗りにくいな・・・っ!
実家では、母親のママチャリを使っていた草介は、よたよたしながら走り出す。
「あの自転車・・・」
「高いんだろうな・・・」
「壊したら、草介さん、弁償なんか、できませんよね・・・」
娘が描いてくれたお父さんの絵、というよろこびを一瞬かきけされるほどの不安を覚える所長だった。

「段ボールー、段ボール・・・」
辺りに目を配りながら、草介は走った。
今日は天気がいい。11月だから、気温は低いとはいえ、直射日光に当ててしまっては、ハムがダメになってしまう!
急がなきゃ!
しかし、おばちゃんのママチャリに抜かれるほどのスピードしかだせず、よたよたと進む草介は、苦労しながら、土手を走っていた。
そういえば、さっき川に・・・。
と、思い出す。
あの人、大丈夫だったのかな。死んでないよな。・・・でも、最後に見たのが僕だったらどうしよう!
それで、今頃、どこか海にまで流されてて!僕がみた段階で死んでたらともかく、その時気づいたら、助かってたらってなったら、一体どうしたら!!

がんっ!!

「ぎゃっ!!」

色々考えながら走っていた草介は、土手に落ちていた大きな石につっこみ、自転車ごとふっとんだ。
いけない!自転車が壊れる!
とっさに自転車を庇わなくては!と、自転車をかかえたまま、土手を滑り落ちていく。
「うわっ!」
「いだだだだ!!」
「だっ!大丈夫ですかっ!?」

とにかく家に帰れ、といわれても、そんなことは正広にはできなかった。
じたばたする野長瀬智子(オス)を膝の上に抱き込んだまま、しょんぼりと座っていたのだ。
そしたら上から自転車と人が降ってきたではないか。
しぃちゃんは驚いて飛び立つし、智子は、ダッシュで逃げるし、正広も逃げたかったが、人と自転車は、正広を軽々と飛び越えて、下に落ちていく。
「うっそーー!」
助けなきゃ!と正広も土手を下っていった。
「だっ!大丈夫ですかっ!?」
「び、びっくりしたぁ〜・・・!」
「こっちのセリフです!どしたんですか!」
「あ、いや、ボートの人がどこに流されていったのかって思ってて」
「ぼ、ボートの人?」
大丈夫かしらっ?
正広は、一瞬、後ろに半歩下がった。
自転車ごと飛んできて、おでこから血を流しながら、ボートの人、なんて口走る人のそばにいて、大丈夫かしらっ?本当にっ!?

そうして、目を丸くしている正広を見て、草介も、あれ?と首を傾げる。
ボートの人、じゃないよな。
自分が今、気にするべきはボートの人じゃなくって・・・。
「ハム!」
「ハムっ!?」
ますますコワイ!と正広は、さらに一歩下がった。
血だらけで、ボートとハムなんて!コワイ!ホラー映画!?
「あ、あ、違うんです」
親切そうな笑顔になって、男は、手を振る。
手を振ると、首も動いて、おでこからゆっくり垂れてくる血の流れが変わるのが恐ろしい。微笑んでるだけに!恐ろしい!

この人と、さっきの、さっきまで生きていた、なにかの、なにかは、似合うかもしれない・・・!
この笑顔で、さっきまで生きていた、なにかを、なにか、しちゃったのかも!?僕発見者!?次は、僕がなにかにされるの!?うわぁぁぁ!!
と、思ったが、どんな映画でみても、こういう手合いを刺激してはいけない。正広は、硬直しつつ、軽く微笑みを浮かべた。
そして浮かべた直後、しまった!こういう手合いに、変に親しみをもたれてもまずいんだった!
ど、どぉすれば!!

正広が混乱の頂点に達した時、あれ!?と男が動いた。
やられる!?
と、体をかがめたところ、男はさらに土手の下に向かって走っていた。

「これ!」
まだおでこから流血していることに気づいていない草介は、その段ボールを見て呆然とした。
「ここに落ちたんだ!」
ひっくりかえった段ボールの中身は空で、ハムは、あたりに飛び散ったらしい。
日陰で、草の下になっていれば、まだいけるかもしれない!草介は辺りを探り、次々にハムを見つけていった。
チョットはなれた場所でその様子をうかがい、草介が段ボールに入れているものが、ハムの固まりだ!ということに正広はついに気がついた。
ハム・・・!
僕が普段みている、丸くて、薄いハムじゃなくて、お歳暮とか、お中元の時に、奈緒美さんがくれる、固まりのハム!
てことは、さっき智子ちゃんが、齧ってたのは!
急いで、正広は、例のさっきまで生きていた、なにかの、なにかだと思い込んでいたものに近づく。骨がついていた例のアレは。
「ほ、骨付きハム・・・!」
しっかりとウサギの歯型がついた、骨付きハムだった。
骨付きハムは、確かに、元々は命があったものの、なにかのなにかだけれど、その命は相当前に失われているものだし、ハム、好きだし・・・!
なんてことを兄に言ってしまったんだ、と思った正広は、あのー!と草介に声をかける。
「ここにもありますけどー!」
勢いでそういい、あ、と固まった。
「ありがとうございます!」
と、血を流しながら土手を上がってくる草介に、ウサギの歯型のことをどう説明していいのか、解らなかったからだ。

「あ、だ、大丈夫です!」
ウサギの歯型がついた、骨付きハムを見て、草介は、多少表情を曇らせたが、にっこりと笑った。
「カットすればいけるところもありますし!」
「す、すみません・・・」
それに、今日はクラテッロがある。あれがあれば、このハムがなくっても!
そして、草介は、自転車の元に戻ったのだが。
「あああああ!!!」
「えっ!?あっっ!とっ!智子ちゃんっ!!」
自転車がふっとんだ時、荷台の荷物も飛ばされてしまっていた。そしてそのバックの中に首をつっこんでいるのは、大ミニウサギ野長瀬智子(オス)。
「くっ!クラテッロがぁぁーー!!」
「智子ちゃん!!ダメだってぇぇーー!!」
慌てて正広が引きずりだした時には、すでに遅し。
人間様のお口にもめったに入らない最高級生ハム、クラテッロは、野長瀬智子(オス)様によって、3%程度とはいえ、しっかりと齧り取られていた。

呆然。

二人は、そのまま土手に座り込み、一体どうしたらいいのか考えていた。
弁償します、というのは簡単だし、どんなに高くたって、お金ですむことなら、どうにかなる。正広はそう思った。
でも、これがもう日本に1つしかないものだったりしたら、今、必要なんだとしたら!お金だけじゃあどうにもならない・・・!
草介も考えていた。
このクラテッロを固まりのまま、あのスーパーのショーケースにいれたら、どれだけ見栄えがいいだろうかと思っていたのに、この傷は・・・!見栄えがあまりに・・・!

「あれー。正広かー?」
どんよりした二人の頭の上から声がした。
「兄ちゃん!」
「届け屋さん!」
「え?サンマルコハムの中田さん??」

そして、事情を聞いた由紀夫は、なんかやりようはないのかと考えて、ふと、
「ハムといえば?」
と正広に聞いてみた。
「ハム?ハムカツ?」
「は、ハムカツって、トンカツも食えない家みたいに!」
「だって好きだもん!ハムカツも!後、ハムサンド!」

「え、今なんて言いました?」

草介が言った。
「え・・・っ?は、ハムサンド・・・?」
「ハムサンド!」
クラテッロを使ったサンドイッチは、恐ろしく美味しい!ハムをそのまま買うよりも、美味しいパンを使ってハムサンドとして売ってもらったらどうだろう!いける!これならいける!!
草介の脳裏を、美しきハムサンドが、あの高級スーパーのショーケースを飾る風景が横切った。
「ありがとうございます!」
二人に頭を下げ、急いで戻って、サンドイッチを作らなきゃ!!と帰ろうとした草介は、はた、と立ち止まる。
「あ、あの、自転車、は・・・?」
「ん?壊れてる」
由紀夫にあっさり言われ、草介は、世界が暗くなるのを感じた。
弁償できるだろうか。
あんな高そうな自転車を・・・!できるだろうか・・・!
どうしよう!と、頭に手を当て、ん?なんだこの感触?と手のひらを見た草介は。

手のひらが真っ赤になっていたりするものだから。

そのまま、意識を失った。

その後、早坂由紀夫は、自転車と、段ボールと、中田草介を軽トラの荷台に乗せ、助手席に正広と、しぃちゃんと、仕方なく大ミニウサギ野長瀬智子(オス)を乗せ、サンマルコハムに戻った。
彼的には、智子を乗せるくらいなら、ハムを乗せた方がマシだったが、そうはいかなかったのだ。
「どうするの?兄ちゃん」
「ハムサンド、作らなきゃいけないんだろ・・・?」
一応、知り合いのペットの不始末だ。サンマルコハムに戻った二人は、クラテッロのサンドイッチを作りあげ、草介が持っていくはずだった高級スーパーに、サンドイッチ+他のハムを持って行った。

「ね?美味しいんですよ、ハムって!」
草介は、力説していた。
美しい女性が目の前にいて、草介はひたすら喋っている。いかにハムが美味しいか、いかにたくさんの種類があるか、いかにたくさんの料理法があるか。
それを、彼女は黙って微笑みながら聞いている。
やっぱり、クラテッロのサンドイッチは最高だよなー、とろけるよなー。

そんな夢を見ている草介が目を覚ますのは、なんと翌日。
由紀夫の、バカ高い自転車の修理費が、頭にまかれた包帯の上にしっかり貼りつけられているのに気づくのも、その翌日になる。

そしてその夢も正夢に・・・?


やっぱりでなかったな、黒尽くめの人(笑)
あーーー!でも、生ハム大好きなのにーー!!高いーーー!!

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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