天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

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ギフト番外編114前編『お見舞いを届ける』

yukio
 

冬になると、風邪っぴきが増えるのが腰越人材派遣センター。
でも、ちょっと具合悪いけど、これくらい大丈夫、とかいうのが軽く流行り中。
なので、グスグスとか、ゴホゴホとか、言いながら仕事を進めている。
今日は体調が悪いから病院にはいけない、というおじーちゃん、おばーちゃんのように、ある意味ゲンキに。
しかし、正広だけは、ちょっとした不調が、あっと言う間に大不調!に陥ってしまう可能性が高いため、手洗い、うがいの励行、マスク着用が義務付けられていた。
「・・・なんかおかしいよぅ〜!」
そのおかげもあって、この冬未だ風邪知らず!の正広は、マスクの奥からくぐもった声を上げる。
「なんで、僕がマスクなんだよぅ〜!」
今日はちょっと熱があるのっ♪でも、仕事がんばるわっ!と事務所に来ていた典子がチッチッチッと指を振る。おでこには当然、冷えピタシートだ。
「ここはばい菌だらけなんだから、ひろちゃんは身を守らないと!」
「ぞうでずよ、ひろぢゃん」
ザ!鼻声!という声で同意する野長瀬は、鼻のかみ過ぎで、鼻の下があまりに赤い。

「だったら、みんながお休みしたらいいのに・・・」
自分一人で出切る仕事の量は大したことないにせよ、会社にこないで1日休めば早く治るんじゃないのかなぁと思う正広。
彼はまだ、「具合悪いけど仕事をしている自分に酔う」というバカバカしい快感とは無縁だ。
「んまぁ〜!そんなに?寝てらっしゃらない?あら、ダメですよ、そんな。あ、いい先生知ってるんですけど、ご紹介しましょうか?えぇ、マッサージの。ワタクシ?あぁ、でも、私は大したことありませんわぁ〜、えぇ。え?まぁ〜、でも、2・3時間ってとこですかしらぁ〜」
奈緒美はお客さんと、睡眠時間短い比べで楽しんでいる。

「ただーいまー」
由紀夫は、新しいコートを無造作に脱ぎながら、入ってきた。
「あ、お帰り兄ちゃん」
バカバカしいほど体力のある由紀夫は、今も別に風邪もひいていないし、うがい、手洗いの励行もしないし、マスクもしない。
「兄ちゃんばっか、ずるい・・・」
ぶつぶつ呟く正広だが、このマスクにも利点はある。ぶつくさ言っていても、聞きとがめられないってことだ。
が。
「別にずるくねぇだろ」
「地獄耳!!」
由紀夫は地獄耳なので、あまり言わないにこしたことはない。
こうして、腰越人材派遣センターは、いつも通りに動いていた。

「あのぉ・・・」
ドアがそっと開いたのは、3時を過ぎた頃だった。
若い女の子が、そっと顔を覗かせている。
野長瀬のハートに、0.02秒で火をつける、可愛い顔をした女性で、自分の鼻が赤鼻のトナカイに負けない状態になっていることを忘れた野長瀬がそそくさと立ちあがる。
「いらっぢゃいまで」
声もすっかり鼻声であるってことを忘れていた。
「あ、ずみまでん・・・」
「い、いえ・・・、だ、大丈夫ですか?そちらも、お風邪ですか?」
「そぢらもどおっぢゃいまずど」
「聞き苦しいですよ、野長瀬さん。移りますから、ちょっとちょっと・・・」
典子が冷えピタシートを貼りつけたまま二人の間に割り込んで、彼女を応接セットに誘導する。
彼女視線は、典子の冷えピタシートに釘漬けだ。
可愛らしい小柄な女性は、淡いピンクの制服にカーディガン、社名入り封筒と、小さなバック、という典型的なOLお使いファッションをしている。
「典子ちゃんも、熱あるんだから・・・」
きびきびとお茶を入れてきた正広は、自分がマスクをしている、ということをすっかり忘れていて、そこもマジマジと見つめられた。
「あっ!違います。僕は予防でしてるだけで、風邪ひいてません!」
「あ、あ、そうですか・・・」
そして彼女の視線や由紀夫に向かい、正直に、ちょっと頬を赤らめた。
あああ!まだ!まだ由紀夫ぢゃんに持っでいがれるぅぅ〜〜!
心の中でも鼻声の野長瀬。
「あの、届け屋の方って・・・」
由紀夫の方を見ながら彼女は言い、正広はうなずいた。
「はい、当事務所の届け屋です」
ほぅ、と、彼女はため息をついた。
「カッコいい人がいるって聞いてて・・・。でも、事務所の場所がよく解らなくって、ここで大丈夫なんですよね」
「そうですね」
にこ、とマスクを取った正広は微笑んだ。
「この近所で、これでけ男前の届け屋がいるところはないです」
というか、届け屋、という仕事をしている人間がいない。
けれど、彼女は、よかった、と胸を押さえた。
「あの、すごくちっぽけなことなんですけど・・・」
三浦聡子と名乗った女性は、お見舞いに行ってもらえないかと口にした。
「お見舞い?」
「はい」
「どなたの?」
正広の言葉に、ちょっとはにかんだ微笑を浮かべた聡子は、それは可愛らしく、野長瀬のハートを再びGET。きゅん♪と高鳴るこの胸は何っ!?と浮かれあがったが。
「あの、彼の・・・」
すぐさま叩き落とされた。
「彼?」
その言葉には、奈緒美も敏感だ。
睡眠時間不足自慢にも飽きて、奈緒美が応接セットにやってくる。
「そうなんですけど・・・」
「何か事情が?」
「彼のうちに、行ったことがなくて・・・」

「それってつきあってるって言うのっ?」
「そうでずよねっ」
こそこそと典子と野長瀬が囁きあう。

「あら。そう。来るなって?」
「いえ、そういう訳じゃないんですけど・・・」

聡子と、聡子の彼、和久一馬は、会社の同僚だ。一馬は和風男前。可愛らしい聡子と並んだ写真は、それはもうお似合いのカップルで、野長瀬は、そっとティッシュを目頭に当てた。
付き合い出してまだ一月。
清らかなお付き合い中なので、デートをして、家族と暮らす彼女の家に送っていって、さよならしている。
もちろん、彼の住所は知っているのだが。
「・・・一人暮しだし、あの・・・」
「ん?何か、女の影でもっ!?」
奈緒美はとても嬉しそうに声を上げる。
「えっ?いえ、そういうことは・・・。ただ、あの」
「どしました?」
奈緒美、典子、野長瀬が、あまりに興味津々過ぎるので、正広がそっと間に割って入る。
「・・・部屋の話を、したがらないんです」
「部屋の話」
「例えば、どれくらいの広さとか、部屋数とか、そういうことも教えてくれないんです」
「え?」
正広は首を傾げる。
「部屋数とかも?住所は解ってるんですよね」
「はい。多分、普通のマンションだと思うんですけど・・・」
これです、と渡された住所を見て、正広は由紀夫にメモを渡す。
「この住所には行ったことはないけどー・・・。まぁ、普通の住宅街だよ、ここ」
「その・・・。部屋においてあるものとか、こう、言いたくないものはあるかもしれないんですけど、部屋数とかって・・・」
「あ!ワンルームで、いうのが恥ずかしいとか?」
典子の言葉に、とりあえずみんな頷きはしたが。
「・・・別に恥ずかしいってことじゃない・・・?」
「大金持ちだとか言ってる人じゃないんでしょう?」
奈緒美の言葉に、聡子は頷く。
「でも、考えてみれば、彼、あまり自分の話はしないんです。私の話を聞いてくれて、お休みの日に遊びに行くのだって、私に付き合ってくれてばっかりで・・・」
「でも、彼も、それが楽しいんじゃないですか?」
「・・・男の人があみぐるみの材料とか買いに行って、楽しいですか・・・?」
「あみぐるみかぁ〜・・・!」

彼には何か秘密がある、らしい。

腰越人材派遣センターの人間は理解した。
何か、すべてをさらけ出せない何かがある。

「今日、風邪でお休みしますって連絡があって、一人暮しだから、なにかお手伝いって思うんですけど、急に私が出かけていったら、かえって迷惑かもと思って」
「男の一人暮しだものねー」
奈緒美が野長瀬を見る。
「野長瀬のとこは綺麗にしてあるけど、あーゆールックスで部屋が綺麗なのもイヤよねぇ」
ねぇ!と聡子は尋ねられ、え?え?と野長瀬と奈緒美を交互に見る。
「答えにぐいごどいばないでくだたい!」
「いいのよ、そうですよねって言ってくれて」
「多分、そうか、汚いんですよね」
典子も言う。
「ひっどい人いますよね!お見舞い行っても、部屋入りたくないし!ってゆーか、部屋入ったら、違う病気になるし!みたいな人!」
「典子の前彼だっけ?」
「前前彼!」
きっ!と由紀夫を睨みながら典子は言い、ほんっとに汚かった!土足で入ろうかと思った!!と騒いでいる。
「でもー・・・、この人の部屋がそんな汚いとはー・・・」
職場で何人かで撮った写真なので、一馬はスーツ姿だ。そのすっきりとした姿からは、汚れた部屋など想像できない。
「甘いな正広」
由紀夫が言った。
「世の中には、アルマーニのスーツを来ていても、部屋の中は、ゴミだらけなんて女はいくらでもいる」
「具体的に言わないでよ!」
「アルマーニのスーツに、ケリーを持っていても、部屋の中では、ゴミの入ったコンビニ袋の下に、シャネルが転がってるような女はいくらでも!」
「だから、具体的に言うなっての!」
「えっ!?まさかそれって奈緒美さんっ!?」

うっ!

急所を突かれた奈緒美は、明日は休もう。明日は休んで、部屋の掃除をしよう、と心に決めた。
忙しい女の部屋は、最前線基地・・・!乱れてることだってあるわよ!!

「だから、多分、部屋のことを聞かれたら、その後に当然、えー、見てみたーいって言葉が続くから、あえてその話はしないんでしょうね」
由紀夫の分析を、ふんふん、と聡子は頷きながら聞く。
「でも、汚いくらいなら・・・」
「あなたはホントの汚さを知らないのよ!外!?外の方がマシ!みたいな部屋を!」
「典子ちゃん、落ちついてっ!」
「ど、どうしよう・・・!」
「聡子さんっ?」
「お見舞いをお願いしただけでも、彼を傷つけることになっちゃったら・・・」
でも、どんなに汚くても・・・!それでも、私は彼が好き!と聡子はけなげだ。彼女には、まだその部屋を見ただけで100年の恋も冷めてしまうような部屋が存在することが理解できていない。
「で、でも・・・!」
彼女は、はっと顔を上げた。
「そんな部屋だったら余計に・・・!余計に具合悪くなるかも・・・!?」
「そうですね。もし、本当にそんな部屋だったら、そこでものを食べたら、余計なばい菌を口にすることになるかもしれませんね」
真顔で由紀夫が言った。
「ど、どぅしよう・・・!」
「とりあえずどうでしょう」
お仕事モードで正広が言う。
「会社からのお見舞いって形で、様子を見に行ってみましょうか?」
「あ、そっか。それで俺がそのすざましい部屋に行けばいいか」
「よろしいんですか・・・?」
軽い気持ちでやってきたのに、そんな汚い部屋に行かなきゃいけないなんて、大変なことになってしまった・・・!
聡子は、眉間に深くシワを寄せる。
子供が考え込んでいるようなあどけなさが、またもや野長瀬のハートをGET。GETしまくり。僕の部屋は和風でさっぱりしてて綺麗ですよ!智子ちゃん(ミニウサギ、彼はメスだと信じているが、はっきりとオス)もいて、可愛いですよ!
野長瀬心のアピールには気づかなかった聡子は、でも、お願いします、とはっきり言った。
「彼のことが心配ですから・・・!」
「解りました」
正広が請け負った。

彼女のセレクトしたお見舞いグッズ、カップおかゆ、プリン、ゼリー、ドリンク剤、みかん、パジャマを持ち、由紀夫は出かける準備をする。
「汚いって言うか」
「女じゃないの〜?」
部屋が汚いことを暴露されて機嫌の悪い奈緒美が言った。
「女の方が可能性高いよねー、男前だものー」
部屋が汚かった男には、部屋が汚かったくせに他にも女がいた。こんな部屋が汚い男にフタマタかけられたなんて!!と多いにプライドを傷つけられた典子も断言した。
「急に行ったらまずいよなー。ま、俺は関係ないけど」
全部荷物を持ち、それじゃあと由紀夫はドアを開けた。
「あ、正広!」
「はいっ!?」
「マスク」
「・・・は、はい・・・」

果たして一馬の部屋はどうなのか。汚いのか、女がいるのか、両方なのか、それ以外なのか!
北風に向かって、由紀夫の自転車は進む!

<つづく>


部屋が片付けられないのは病気なんです!!
でも、私レベルは、病気というより、単なるずぼらです。なんでなんでしょう。なんで平気なんでしょうね、私。ずぼらだから?よしえさんっていうマンガで、家事をしない奥さんがいて、だんなさんが、なぜこんなに散らかった部屋で平気なんだ!?と思い、実験として、テレビをつかなくしたら、仕方なく掃除を始めたらしく(笑)つまり私とよしえさんは、テレビの向こうに無限大の広々とした世界を見ているのです!!
私もテレビも、本もなかったら、仕方なく部屋の片付けをするかしら(笑)

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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