天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

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ギフト番外編114後編『お見舞いを届ける』

yukio
 

「さむー」
言っても仕方ないことながら、冬が近くなって自転車に乗っていると、出てくる言葉はそればかり。
由紀夫は指定された住所に自転車を走らせていた。
一応付き合ってる彼女がいるのに、家のことを一切喋らない男の部屋に、突然訪問するという仕事だ。
会社を休んでいるという彼のお見舞いに行きたいが、今まで家に行ったことがないし、急に自分が行っては迷惑かもしれないという控えめな彼女からの依頼だった。
ピンポン来ちゃった攻撃をしない、まことにノーマルな神経を持った彼女だが、腰越人材派遣センター内で、なぜ、家に彼女をいれないか、という話し合いが持たれた結果。
1.信じられないほど汚い。
2.女がいる。
3.両方。
4.その他。
となったのだが、由紀夫の肩には、どうだったか教えてねぇぇ〜〜、という事務所のワクワク感まで背負わされている。
由紀夫としては、あんまり自分のことを話さないというのも、ベラベラベラベラ喋り倒す男よりいいんじゃないの?と思ったりもするが、女心にはあまり関わらないようにしている。
なぜって、職場にいる人間の女心に関わると、ぐったり!!するからだ。
一度見た住所の場所へ正確に向かいながら、
「さっむー・・・!」
もう一度由紀夫は呟いていた。

「きっとこんなですよ!」
典子は力説していた。
部屋のおっそろしく汚い男にフタマタまでかけられた過去を持つ女として、部屋が汚い男を心から憎んでいる。
「の、典子・・・」
ミスコピーの裏紙に描かれたそれは、怨念に満ち溢れた汚い部屋。汚いというより、呪われていると言う言葉がふさわしい。
「恐怖マンガ家としてデビューできるよ!典子ちゃん!」
「うふふ!・・・誉め言葉?」
「う、うん・・・」
顔に縦線をいれた典子に迫られ、ちょっと目線そらしぎみに正広は頷く。
「うふふ、ここがね、ここんとこがね、すごかったんですよ、ここ、この床!」
ここ!!と典子はマーカーで、床をぐるぐるとマークした。
「ここね・・・」
「な、何・・・!?」
恐怖映画を見ているような気持ちで、正広は近づき、野長瀬は仰け反る。
「踏んだらね・・・」
「ふ、踏んだら・・・?」
「ぐにょって・・・!」
「ぐ、ぐにょ!?」
「ぐにょって感触が・・・!ストッキングの裏に・・・!」
「いやーーーー!!!」
奈緒美の悲鳴だけでびくぅ!!となる野長瀬。ビビリ王オリンピックがあれば、メダルを狙える男。
「何があったの!典子ちゃあああーーん!!」
「足の裏にぃぃーーーー!!!!かつてはごはんだったものがぁぁ〜〜!!」
「えーー!何それっ!」

部屋は散らかってても、生ゴミはないわよ!という奈緒美が叫ぶ。
「コンビニご飯がパックに入ったまま忘れ去られてたんですよ!!それはもう、何だか解らないことになっていて!!」
「匂いとかしないの!?」
「コロンふりまくりなのよ・・・!」
「・・・昔のフランス人か・・・!」
そんな男とは別れて正解!押しつけられたら迷惑至極!と腰越人材派遣センターの人間は一生懸命典子に告げ、典子もそうよね!!とうなずいたが。

「・・・でも、あの部屋を片付けるのは、面白かっただろうなぁ〜・・・って思って」
「典子」
そ、っと、奈緒美が典子の肩を抱いた。
「あんたも、結構、都合のいい女チームね・・・」
「社長・・・」
そっと、その肩に頬を寄せる典子。
「社員ど社長は似るんでずねぇ・・・」
しみじみ呟く野長瀬は。

「「あんたみたいに、都合のいい時にでも!呼ばれないような都合すらよくない男に言われたくないわよ!!」」

Wでツッコミを受けた。

「ここか」
軽く鼻の頭と、耳を赤くして、ひっそりキュートさをアピールしている由紀夫は、そのマンションを見上げた。
ちょっと親が金持ちな学生とか、一人暮しをエンジョイしている独身社会人が住んでそうな、小奇麗なマンション。
女だろうなぁ。
例の4パターンの中から無理やり選ぶとすれば女。
もしくは、ものすごい趣味、かのどっちかだろうと由紀夫は思う。
壁に貼り巡らされたDremaのポスターとか、キッチンは、ハム太郎だらけーとか、なんかそういうのはちょっと恥ずかしいかも、と思いながら、部屋の前に到着する。
何気なく、辺りを匂ってみたが、特に悪臭は感じられない。
少なくとも生ゴミ系じゃないな・・・
そう思いながら、由紀夫は、チャイムを押した。

「都合ずらよぐない男なんでぇぇーーー!!」
「ひろちゃん、あぁなっちゃダメよ?」
マスクをしている正広の両肩にぽんと両手を置き、奈緒美はしみじみと言った。
「そう。都合のいい女は、一生都合のいい女!」
「そんなぬかるみに、ひろちゃんには入って欲しくないの!」
「「悪い男になってぇぇぇ〜〜〜!!」」
悪い男担当は、すでに由紀夫がいるのに、いい人より、悪い男を愛してしまうのが、都合のいい女のサガなのだろうか。
「いや、多分、悪い男にはー・・・」
なれないだろうなぁ、と正広は思う。
魅力的な悪い男なんてのは、自分とは遠いところにいるから、将来どういう男になれるかってゆーとぉー・・・・

と自分が知っている男たちを頭の中に置いてみたとき。

「ん?」
ちょっと首を傾げる。
「・・・マニア・・・?」
「え?マニアって?」
「ひょっとして、部屋が汚い、女がいる、以外にも、マニアってのがあるんじゃないですかね」
「あぁ!」
奈緒美が手を叩く。
「マニアか!」
「例えば、ほら、田村さんとか!」
「田村は正真正銘、どこに出しても恥ずかしい変態だけども、あの内面で、仕事はできる程度の人間性があったら、そりゃ、部屋には呼べないわね」
「ロリ服のコレクターとか!?」
「いやー!野長瀬みたい!」
「なんででずが!!」
「モー娘の、でも新しく入った子の熱狂的なファンとか!?」
「マニアー!!」
急遽、マニア説が浮上し、マニアと言えば何!とやけに盛りあがる腰越人材派遣センターだった。

ぴんぽーん。

明るいチャイムの音をさせ、由紀夫は耳を済ませる。
真昼の住宅街は、やけに静かだった。
そして、部屋の中に、確かに人のいる気配がする。
すぐに出てこないのは、寝ているからなのか、来客を警戒しているのか解らない。
しばらく待って、もう一度チャイムを鳴らし、「お届けものです」と声をかける。
じっとその場で待っていると、気配が動いた。
玄関に近づいてきて、スコープでこちらを見ているのが解る。
「届け物・・・?」
由紀夫の姿は、宅急便屋には見えないから、不思議そうな声が中からするが、いるとはっきり解った以上、由紀夫に帰る気はない。
「はい。和久一馬さんですよね」
「そうですが・・・」
そうして、開かずの扉が、そっと開かれた。

そうして、由紀夫の綺麗な目は、大きく見開かれた。

「兄ちゃん大丈夫かなぁ〜」
マスクの奥で正広が呟く。
野長瀬が突然激しくせき込み、それが止まらなくなったため、マニア度ランキングは途中で終わっている。
今、もっともマニアックなものとして、全国の地元スーパーのスタンプ集め、がランキングのトップに来ているが、中にはもっとマニアックな人もいるだろう。
「変な人じゃないといいなぁ〜・・・」
目の前で苦しむ野長瀬より、遠くの兄を心配する正広は、まさしく兄思いの鏡だった。

「あの・・・」
「・・・はい」
綺麗な水色のパジャマを着ている一馬に、由紀夫は言った。
「眩しい、気がするんですが」
「・・・そうです、か・・・?」
そっと開けられたドアの隙間からでも、由紀夫の視線は、『それ』を捉えていた。
「これ・・・」
思わず玄関の中に入ってしまう。
「すっごいですね・・・」
心からの感嘆が、声や、表情に溢れ出ていた。
「どうされたんですか、この、『レース編み』」
一馬の玄関には、額にいれられた、壁一面サイズのレース編みが飾られていた。
黒い紙の上で、雪の結晶よりも精緻な、様々なパターンで作られたレース編みは、そのまま美術館に飾ってもいいだろうと思えるほどの作品だった。
「あ。あのー・・・。母親の、形見で」
「あ、そうですか・・・。じゃあ、これもですか?」
下駄箱の上には、もっとサイズは小さいが、やはり綺麗なレース編みの花瓶敷きがあり、その上におかれた花器には、白基調の花が生けられている。
「お母さんが生けた?」
「え?あー、んーー・・・」
由紀夫は、一馬が逡巡しているのを見てとった。
「えーーっと・・・」
「彼女とか?」
「えっ?あーー、んーーーとぉー・・・」
「ちなみに、届け物は、会社からのお見舞いなんですが」
「えっ?えぇっ!?」

ぽん、と、由紀夫は一馬の肩を叩いた。

「お母さんとも、彼女とも、言いにくいですよね」
「・・・」
「お母さんといえばマザコンっぽい。彼女といえば、聡子さんに申し訳が立たない。正直に言ってくださってもいいじゃないですか」
にっこりと由紀夫は微笑んだ。

「ご自分で生けたって」

「な、何を・・・!」
たじろぐ一馬に由紀夫は言う。
「このレース編。買うとなったら、相当な高値がつくこと間違いなし!の代物を、花瓶の下に引けてしまうその度胸!自分で作ったものじゃなければできないでしょう」
「うっ・・・!」
「それと、その指です」
え?と、一馬は自分の指を見た。
「その跡って、糸でこすった跡じゃないですか?」
指の途中に、赤い跡がうっすらと残っている。
「これ、聡子さんからの風邪のお見舞いですけど・・・、大したことはなさそうですね」
袋を受け取り、一馬は、困ったように微笑んだ。

どうぞ、と案内された部屋は、レース編み、レース編み、あみぐるみ、あみぐるみ、ドライフラワー、リース、ステンシルのスパイスラック、その他その他その他、の、手作りの嵐だった。
「朝、結構熱があったんですけど、もうひいちゃったものですから・・・」
一馬は、編みぐるみを作っていたという。
身長30cmの大モノを。
「うわ〜」
キョロキョロと辺りを見まわす。
「すごいですね。こんなに綺麗だったら、聡子さんに隠しとくことないじゃないですか」
「いや、だって・・・」
寂しそうに一馬は首を振る。
「こんな手作りだらけはイヤでしょう?こんなのが好きって・・・」
「似合うと思いますけどね」
ソファに座っている一馬を見て由紀夫は言った。
「そのソファカバーも手作りですか?」
「え?あぁそうです」
上品なパッチワークになっていて、おそろいのクッションがおいてある。
「そこに座っているお二人は、絵のようだと思いますけど」
あ、もうちょっと右に、とポラロイドを持って由紀夫は言った。
「何するんですか?」
渡された袋を膝においたまま、一馬はソファの端に行く。
「これ、受け取りの代わりなんです」
「えっ!いや、それは!」
「まぁ、ちょっと待ってくださいって」
座ってください、ともう一度いい、由紀夫はシャッターを切る。
「ここにね」
ぼんやり浮かんでくる写真をみながら、開いているソファの空間を指差した。
「ここに、聡子さんが座って、二人であみぐるみとか、随分と可愛い空間だと思いますけどね」
一馬も、ちょっと想像してみる。
あみぐるみ作ってみたいのーと、一緒に買い物をしていた時の聡子を。
出来たー!と見せてくれた、そのちょっとバランスの悪いクマが、とても可愛かったことを。
なので、今まで作ったことがなかったあみぐるみに手を出したら、あっという間に30cm大のものでも作れてしまったことを。
「・・・イヤじゃ、ないですかね・・・」
「多分、あの人だったら、教えて?と言ってくれると思いますけどね」
そうかなぁ。
だったらいいなぁ。
と、一馬は呟いた。

この写真を見せて聡子がどういう反応をするか解らないが、きっとうまく行くに違いないと由紀夫は思っている。
そして腰越人材派遣センターでは、野長瀬の咳が止まった上、全然電話も、FAXもこないものだから、どんどんどんどんマニアック度が上がっていっていた。
それがなんとなく解っている由紀夫は、どんなウソ話をすれば、あの連中が喜ぶのかと考えてもいる。


聡子と一馬という名前は、私が好きなマンガから持ってきました。
果たしてそのマンガは何(笑)!そのままじゃないですし、別に全然イメージでもありませんが、ともかく、カップルとなると、この二人が好き、と持ってきました(笑)うふ♪

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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