天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

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ギフト番外編115前編『釣り師を届ける』

yukio
 

そろそろ忘年会の季節。
そんな訳で、腰越人材派遣センター一同は、『忘年会の下見』のため、夜の街に繰り出していた。
「やっぱりいい店じゃないとね」
「そうですね!社長!」
ただの酒好き集団のヘッド、腰越奈緒美は両手を腰に当て、ふん!とふんぞり返るようにしながら、あちこちの店の看板を眺めている。
今回は下見のため、今まで行ったことがない店に、勘オンリーで入るということにしてあった。
「んーー・・・」
奈緒美は、右から左に看板を流して見て、あれ!と指差した。
「あそこね!」
「ん?」
その指の先を見て、由紀夫が眉を潜める。
「・・・韓国式マッサージ・・・?」
「違うわよ!!」
びしぃ!とその指で由紀夫の後頭部を突き、奈緒美は再度指を指す。
「あ・そ・こ!!」
「純喫茶セシボン」
「喫茶行ってどーすんのよ!!」
こらこらこら!!と、奈緒美は正広のほっぺたをぎゅうぎゅう両手で挟み倒した。
「あそこ!ラク!」
「ラク?」
「ガクかも」
「ラクでしょ」
「タノかも」
「正広・・・、タノって・・・」
奈緒美が見ていたのは、『楽』という看板だった。木の板に、一文字だけ書かれた楽という墨字が雰囲気があって、感じの良さそうな店だった。
「じゃ、行くわよ」
と、奈緒美が先頭切って歩き出したところで。

「あ!森先生だ」
「あ!正広くんだ!」
すれ違った背の高い男に、正広が声をかけた。
「こんばんは」
由紀夫も軽く頭を下げる。正広の主治医である、森医師だった。
「あ!お兄さんだ!」
「・・・いい調子ですね」
明るく言われ、そのテンションの高さは何?と由紀夫が尋ねたら。
「森先生、いつもこうだよね?」
「そうでーす!」
飲み屋街でそのテンション=アルコール入ってる、と思われがちだが、森医師は、仕事が終わったから家に帰ろうとしているところなだけだった。
「あら、先生、今日はあの子いないんですか?あのおっきい子」
「僕もおっきいですよ?」
奈緒美の言葉にニコニコと森医師は答え、おっきいって、慎吾?と首を傾げる。
香取慎吾は、森医師の勤めてる病院のインターンで、正広もよく知っていた。
「あ、今日、お昼も会わなかったや」
今日の昼間に病院で定期検診を受けていた正広だが、その時も病院で見かけなかったという。
「試験があるんで、篭って勉強中なの」
「そーなんだぁ」
ふむふむ。と一同納得したところで。

「で、森先生はおひまなんですか?」
奈緒美が聞いた。
「俺ですか?」
「あの店に行こうと思ってるんですけど」
奈緒美が指差した看板を見て、森は頷いた。
「あぁ、たの」
「・・・たの!?」
「あの店、『たの』って言うんですよ」
「うっそぉーーー!」
店名正解者正広が目をむいた。
「あれ、たの、ですか?」
「そう、たの。うちの看護婦さんたち、お気に入り」

「は・・・っ!」

野長瀬の表情が輝いた。
「いいじゃないですか・・・!看護婦さんお気に入りの店・・・!」
彼の脳裏には、看護婦さんがうじゃうじゃいる店内が繰り広げられているらしい。
「って、あんた!イメクラじゃないんだから、看護婦うじゃうじゃしてたら怖いでしょう!」
「さすが野長瀬さん。解りやすい変態度ですね」
典子にもびしいと言われ、え、だって、だって、看護婦さん・・・!と哀しそうな顔をする野長瀬。
「あ、俺こないだ見た」

由紀夫が手を上げる。
「リストラ・スチューワーデスの働く店って看板」
「キッツー!」

「は・・・っ!」

野長瀬の表情が再び輝いた。
「スチューワーデスがうじゃうじゃ・・・!」
「そっちの店は、スチューワーデスじゃなきゃ意味ないから、ホントにうじゃうじゃいるんでしょうね」
「制服着てるだけだと思うけど」
などと下らない話をしながら、自然に仲間入りした森医師ともども、一同は、「楽(たの)」に向かう。看護婦にも人気で、OLにも人気で、多分、スチュワーデスでも気に入るだろうという楽は、結構な混み具合だった。
「ちょうど座れて良かったわね」
「おいしそー!」
入れ替わりに出ていったグループがあって、由紀夫たちは席に座ることができたが、すでに正広の目は、壁に貼られた今日のお勧めメニューに釘付け。
「うわー!どうする?何食べる?」
「あら、お酒もいいじゃない?森先生、日本酒は?」
「あぁ、僕はなんでも飲みますね」
「強そうだものね」
「そんなことないですけど、あ、魚も美味しそうだなぁ〜」
森医師の言葉に、そうだったと、壁のメニューから目線を引き剥がし、前を向いた正広が言った。
「兄ちゃん、森先生、最近、釣り行ってるんだって」
「そうなんですか?」
「あ、そうそう。時々ね。海に」
「海釣りかぁ」
「お兄さんもします?」
「子供の頃にはやってましたけど。でも、川くらいだったな」
「正広くんはやったことないって言ってたよね」
「ないですー。でも、森先生と行くの、楽しそう」
きらっ!と目を輝かせて正広は言った。
「だって、その場で食べるんでしょう?」
「ふふ」
きらっ!と森は白い歯を輝かせながら微笑んだ。
「料理は得意ですから!」
「すごーい!じゃあ、釣った魚をその場で?」
「そうです。キャッチ&リリースとかはいたしません。食べられる魚を釣り、その場で食べる!もしくは、持って帰って食べる!ってのが、僕の釣りなので!」
「すってき〜・・・」
ほわほわほわん・・・。典子の目は、ハァトになっている。
「海釣りか・・・」
そして奈緒美が言った。
「カジキとか?」

「松方弘樹じゃねんだからよ!!」

由紀夫は奈緒美につっこんだが、森医師は、クルーザーなんかで外洋に出て、森且行世界を釣る!とかができるもんなら、やってみたいもんだと思っている。

頼んだお酒は料理が来て、それが美味しいとなると、会話もどんどん弾む。
今年の風邪の傾向から始まって、ドリンク剤の効き目度合いと、味の間に、比例、もしくは、反比例の関係はあるかという話題になり、今年のいいとも年末SPでは、誰が何の物真似をするのかで賭けが行われ、ジンジャーに乗りたいか乗りたくないかから、しょうがって体にいいよねと話が戻り、実際のところ、卵酒ってのを飲んだことある人間はいるのか?と、典子が口走り。
「実際のところ、どれくらい飲めるんですか?」
と、そのまま、森医師に質問した。
「卵酒を?」
「そうそう。卵酒だったら、何合ぐらい飲めるんですかって、飲まないだろう、普通!」
見事な天然ボケに、裏拳でつっこむ。
「卵酒はそんな飲んだことないけど、どれくらいかなぁ」
「森先生って、酔ったらどうなるんですか?」
正広も聞いてみた。店に入る前も、今も、森のテンションは、高め設定で、動いていないように感じられる。でも、日本酒を、すでに結構飲んでいるはずだった。
「酔ったら?」
うーん、と、お猪口を傾けつつ、森医師は考えこんだ。
「あ、釣りに行くかな」
「釣り?」
また、おかしなことを、と、全員が森医師を見つめる。
その視線を一身に浴びながら、森医師は、ふわりと微笑んで。
「獲物はちょっと大きめだけど」
と答えた。

女か。
なーんだ。女。
え!おねーちゃんのこと!?
釣られてみたい・・・!
大きめって、やっぱりカジキとか釣りたくなるのかな。

腰越人材派遣センター一同が、それぞれの思惑を持ったまま頷き、森医師もうなずき、ふふふ、と、一同納得の上の微笑みがテーブルに満ち満ちて、そしてなおも宴席は続いた。

そして。

「・・・あれ・・・?」
まず気づいたのは正広だった。
「・・・森先生、遅くない・・・?」
「え?あ」
6人で座っていた席は、角を挟んで、3人、3人が90度に並ぶ形になっていた。
森医師は、奈緒美ともども、一番奥のところにいて、そこから、正広、由紀夫と続き、奈緒美側に、典子、野長瀬がいた。
森が席をたったのは、10分ほど前で、ちょっと、と、由紀夫たちの前を通っていった時、誰も不思議に思わなかった。
ただ、トイレにでも行くくらいの気軽さで、当然カバンも何も持っていない。
「気分悪くなったのかな」
そうは見えなかったが、オン・オフの2つしかスイッチがないタイプかもしれないからと、由紀夫はトイレに様子を見に言って、すぐに戻ってきた。
「誰もいない」
「え?」

「・・・釣りに行った、の・・・?」
典子の言葉に、全員で、店内をざっ!と見渡したが、女の子のテーブルにいる、やたらとスタイルのいい男の姿は発見できなかった。
「店から出たってこと!?」
「え!?だって、荷物ここにあるし!」

果たしてどこにいってしまったのか、平成の釣り師、森且行!

<つづく>


初めてのメンツで職場の忘年会に行ったら、面白い人がいて、むー、一緒に飲むというのは楽しいもんじゃのぅーと思った次第です。
リストラスチュワーデスの店って言うのを見たのは、その日の帰り道でした(笑)なんじゃあそりゃーー!!

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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