天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

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ギフト番外編119前編『帰ってきた男』

まだまだお正月気分っちゅーことで♪

yukio
 

稲垣アニマルクリニックは、こう見えて良心的な動物病院だ。
年末年始も、通常営業をしている。
だからといって。
「お、お疲れ、様、です・・・」
「ふふ、お疲れ様」
にっこり。
軽く微笑みながら、稲垣獣医が振り帰る。
草g助手は、あぁ・・・!と軽い絶望感に襲われた。
笑っていない。
目が笑っていない・・・!
そりゃあ、大晦日(火曜日なので営業中)になって、うちのにゃんこちゃんが、お手々にトゲをさしちゃって!なんて、ざぁますな奥様にこられては!
しかも、『なんだよお手々ってよ!』っていうような、ふっとい前足で。
年末最終日も、稲垣アニマルクリニックにくる患畜はいた。多くはないがいた。多くない、くらいだったら、来るな!と正直思ってしまう稲垣獣医は、『いつか、すべての動物たちが、健康で、幸せでいられる時代がくれば、僕たち獣医の仕事なんてなくなってしまうんだろうね。素晴らしい事だよね』などと時折ゆってしまうような獣医だった。

仕事がイヤになると、だが。

「あぁ〜、いつになったら終わるんだろうねぇ〜」
稲垣獣医が遠い目をするのは、未だ終わっていない大掃除のことだった。
クリニックの方は、有能な看護婦さんたちが日頃からキチンと掃除をしてくれているし、大掃除だって分担してやってくれたので、今日一日分の汚れ以外は問題ない。
問題なのは、クリニックではなく、稲垣獣医の居住スペースだった。
そんなもん!自分でやったらいいじゃないか!!と草g助手は思うのだが。
「また予定変更になっちゃったよ。もう、窓拭きと、換気扇掃除と、天井のあたりと、全部すんでるはずだったのにねぇ」
「・・・」
「ねぇ、草gくん!」
「あ、あの、えー・・・っと」
「どうする!?今日一日でできる!?草g剛くんっ!」
「あー・・・んーー・・・」
「まったく、まいっちゃうなぁ〜」
机に向かった稲垣獣医は、用紙に定規をあて、線を引いてみたり、消しゴムで消してみたり、色をつけてみたりと、色々な作業を繰り返す。
「あ、大変だね」
ふふと、今度は本当に微笑みながら振り向いて、稲垣獣医はその用紙を草g助手に手渡す。
「ほら、もうこんな感じのスケジュールになるよ」
「・・・む、無理ですって!」
今、大晦日の午後2時。このスケジュールによると、後3時間の間に、窓拭き、換気扇掃除、天井の掃除が草g助手に割り振られていた。
「そ、それに!稲垣先生のお宅じゃないですか!」
「それが?」
真顔で聞き返され、草g助手は、いいえ、と首をふるしかできなかった。
散らかり放題の自分の部屋が、脳裏を掠めたが、仕方なく、窓拭きのため2階に上がるのだ。
その途中、
「んっ!?稲垣先生ッ?先生は、何されるんですかっ!?」
「雑誌の整理だよ」
いつ患畜が来てもいいように診察室の中で、犬やら、猫やら、小動物やら、爬虫類やら、鳥やら、魚やらの雑誌を眺めては、これは、と思うページを丁寧に、しかし、不器用に切りとっていく稲垣獣医であった。

稲垣獣医は、予定を立てることが好きだ。
学生自体は、試験前準備の半分が、予定表作成といっても過言ではない。
完璧な予定を立て、それをこなしていく。
それが、ちょっと快感♪な稲垣獣医のため、大掃除の予定も、ばっちり立てていた。
ただ、その予定通りに診療がいかなかったため、掃除が進まない。
例えば、
『10時〜10時半。玄関、靴箱など』
という予定があったとする。しかし、その10時に、うちの犬がぐったりしてるんです!なんていう患畜がやってきたりすると。治療に30分かかったとして、
「10時半からやったらいいじゃないですか!」
と言うのが、素人の草g助手。
それなら、と、この後の予定を変更して、再び予定表を作り始めるのが、プロの稲垣獣医だ(なんのプロ?)。
たとえ、再び作り出した予定表の完成が、11時半になっていようとも。10時開始予定が、2時間遅れの12時になっていようとも!
もちろん、今やってる大切な雑誌の整理も、予定にきちんと組み込まれている。他のところなら時間を縮小するところだが、ここの時間は一切削らなかった。大事だからだ。
稲垣獣医の趣味として。

こうして、幸いにも、これ以上患畜のこなかった大晦日、稲垣獣医、草g助手ともに、予定通りに大掃除を進めることがようやくできた。
「お、終わりました・・・っ!」
「剛、大変!」
と、稲垣獣医が言い出すまでは。
「はっ!?」
「ワックスかけてない」
「わ、ワックス・・・?」
「わ、ワックスって言うのはね、元々は蜜蝋のことだったんだけど、今はまぁ、蝋、かな。でも、この場合のワックスっていうのは」
「いやいや!ワックスは知ってます!」
「知ってる?組成まで?」
「え?いや、そこまでは・・・」
「あのね、ワックスの成分は」
「いやいや、いいです!それはどうでもいいんですけど、ワックスって!?」
「だから、知らないんでしょ?」
こうして、しばしワックスとはの講義を、それを遮る草g助手の遮りが繰り返された後、ようやく草g助手は言えた。
「今から、ワックスかけるんですか!?」
もう6時なのに!?大晦日の6時なのに!?今からワックス!?
そんな心の叫びは、稲垣獣医に届かない。届いても無視される。
「だって、ワックス買ってあるんだよ。使わないと。やっぱりワックスはかけないと。せめて階段と、リビングくらいはかけないと。
「え、でも、あの・・・」
草g助手の脳裏を、再び自室の様子がよぎった。
大晦日の匂いなんか、何もない散らかった部屋が。
「まずは、今のワックスをはがさないといけないから、時間ないよ。紅白始まっちゃうよ?」
「こ、こおはく!?」
確実に始まるはずだった。紅白のスタート時間は、ものすごく早くなっているのだから。
「り、リビングですね・・・」
「後まぁ、最悪、僕の部屋は」
「・・・やるんですね・・・?」
「うん」
にっこり。
「で、稲垣先生、は・・・?」
「雑誌の整理もどうにか目処がたったから、あそこをしようかと」
あそこ、と指差されたのは、リビングのコーナーにある、宝物置き場。
稲垣獣医のセンスで集められた品々が、美しくディスプレイされている。エジプトの猫の置物であったり、美しい古代のはぎれで作られたきんちゃくであったり、研磨される前の宝石であったり、成功なミニカーであったり。
それの一つ一つからほこりを払い、場所を考えて、ディスプレイしなおすのが稲垣獣医の趣味だ。
「そんなこと今しなくたってぇ・・・!」
草g助手は、えぐえぐいいながら、階段のワックスを取り去り、綺麗に拭いて、ワックスをかけ、リビングでも同じ作業をして、最後に稲垣獣医の寝室にもワックスかけをして!
ようやく、今年の仕事を終えた。
そろそろ、年が変わろうとしていた。

「あぁ、お疲れ様」
「はい、疲れました」
「じゃあ、また来年よろしくね」
「はい。もう、すぐ来年ですけど」
「あれっ!ほんとだ。いけないいけない。じゃあ、これあげるから!じゃあね!」
と渡されたのは、スーパーで売っていそうな、年越しそばセット(エビ天つき)。
今日やってきた患畜の飼い主からもらったものだ。見ていたから、草g助手も知っている。
「美味しいよ」
にこ。
と、微笑まれても、身よりも、確実に衣が厚いエビ天を見た時の稲垣獣医のあの!顔を、草g助手は忘れることができない。
「あ、ありがとうございます・・・」
もそもそといって、帰り支度をした草g助手が、稲垣アニマルクリニックを出たのは、そろそろゆく年くる年の時間。

帰り道で、一人、新年を迎えた草g助手だった。

明けて2002年。
1月1日は、さすがの稲垣アニマルクリニックもお休みだ。
なぜって、カレンダーの日付が赤いから。赤い日は休む、というのが稲垣アニマルクリニックのスタンス。

草g助手は、きったない部屋に一人で帰り、そーいやおなかすいたと、食べる前から想像のつく年越しそばを食べ、テレビをみた。
そのまま寝てしまって、元旦も、淡々と過ごして、すでに明日から仕事だ。
おせち食べたかったなー。せめてお雑煮。
そんなことを思いながら到着した稲垣アニマルクリニックには、怪しい人影があった。
振袖を着て、髪を綺麗にアップにしている女性が、ものすごく腰をかがめながらクリニックの入り口にへばりついている。
「あ、あのぉ〜・・・」
新年早々なんなんだよぉぅーー!!
ビクビクしながら声をかけると、はっ!と振り向いたその女性が!

「あれ、千佳さん」
「あっ!草g先生っ!」
看護婦の一人、千佳だった。
いつも、しゃきしゃきしている彼女のしとやかな振袖姿というのは珍しくて、へー、こういうのを『孫にも衣装』って言うんだろうなぁ〜、と草g助手は思う。
(注:孫にも衣装とは、裕福だろうが、裕福じゃなかろうが、おじいちゃん、おばあちゃんは、孫に衣装を買ってあげたいものだ、という草g助手語。口にしなくて幸い)
「あ!明けましておめでとうございます」
丁寧に草g助手は頭を下げた。その丁寧さにつられて、おめでとうございます、と言いそうになった千佳は、違うんです!!と両手を振りまわす。
長い袖も一緒に振りまわされた。
「いた、いたたっ、な、何っ?」
「しっ、知らない人がいるんですっ!」
「知らない人!?」
昨日は、稲垣先生も、ご実家に戻られたりしているはずで・・・!
「ってことは泥棒とか!?」
「泥棒っていうか、あの、知ってるはずなのに知らないっていうか、知らないはずなのに知ってるっていうか・・・!」
「え?え?あ、それで、千佳さん、今日、出だっけ」
「いえ、ご挨拶だけと思って中に入ったんですけど、知らない人がいて!」
「しゃ!喋ったの!」
「はいぃー!」
「そ、それで、その人は・・・?」
思わず小声になる草g助手に、千佳は、中です・・・とジェスチャーで示した。

正月早々、なんて大変なことに・・・!
早く帰って来てください!稲垣先生!!
心の底から草g助手は祈った。

しかし、こんなピンチに役に立つんですか?稲垣獣医って??

<つづく>


吾郎様復帰が嬉しかったので、しつこく稲垣獣医に登場してもらっちゃったわぁ〜。うふぅ〜。

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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