天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

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ギフト番外編121話後編『激しく届けられた』

あの夜ベランダに出てしまったがために、違う世界にずれ込んでしまった香取慎吾!?
どうなる香取慎吾!

yukio
 

とにかく、家に帰りたい。
慎吾は強く願った。
あのベランダからもう一度出て、正しい自分の世界に戻りたい・・・!
あぁ、まるで漂流教室・・・!あれは、学校の外が砂漠、というとても解りやすい次元の移動だけど、自分の場合は、とても微妙で!
「慎吾」
でも、自分の世界のすぐ隣に、こういう世界があるんだなぁ・・・。どうしよう。ベランダをあけて、また少し違う世界だったら。
「慎吾、ちょっとこれ」
つまり、世界は、薄い膜が何層にも重なったものであり、ほんのちょっとしたきっかけで、次の膜に映ってしまった自分が正しく元の世界に戻れる可能性は・・・。
「持ってくれてもいいじゃんよぉぉ!!」
「えっ!?」
(慎吾にとっては)突然の大声に驚いて振り向くと、医学部の友達が段ボールを抱えて苦しんでいた。
「あっ、ごめん、何?」
「何って、見て解らねぇか・・・?」
「あぁ、そっかそっか」
手を貸すと、段ボールはずっしりと重い。
「どこ運ぶんだ?」
「ナースセンター」
普通に答えられて慎吾は少しホっとする。
こいつは、今まで通りなのかも・・・。

いや、待てよ?

それほどまでに、わずかな違いだということじゃないのか?
だって人には、色んな顔があるじゃないか。誰にだって、家族に見せる顔、友達に見せる顔、恋人に見せる顔。こいつは、今、友達である自分には、昨日までと同じ顔を見せているけれど・・・。
家に帰ったら、ペットが、猫から、トカゲに変わっていたりするんじゃないか!?
「あ、あのさぁ・・・」
「んー?」
ナースセンターまでの道は遠い。慎吾は、おずおずと切り出した。
「ぺ、ペット・・、元気・・・?」
「え?元気だよ。可愛いよぉ〜。冬だから、ゴロゴロしてること多いけどさぁ」

冬だからゴロゴロ・・・!!
それは、トカゲだってそうなんじゃないだろうか!猫だって言い切れるだろうか!?
それに、冬『だから』って言うのも怪しい・・・!猫なら年中ゴロゴロしてる。わざわざ冬だからって言うのは、何か、こう、『冬眠』という言葉を連想させられる・・・!
やっぱり、こいつも!?こいつも違うのか!?
いいなぁ、漂流教室。22人も一緒にいるんじゃん・・・。
しょんぼりしながら、ナースステーションに向かった慎吾だった。

結局1日中、違和感を纏わせていた慎吾が病院を出たのは、5時過ぎだった。
日は長くなっているけれど、部屋に帰りつく頃には暗くなっている。そして、ドアには、例の縦長の傷がある・・・。
ロッカーで着替える時も、一体この傷なんなんだよ!と思った慎吾だったが、誰にも、何も聞けなかった。
その傷は、自分、香取慎吾が気付いたのは今朝だったかもしれないが、この世界に本来いるべき香取慎吾(B)にとっては、見知ったものかもしれないからだ。
慎吾は心根の優しい男なので、自分があのベランダを開けたために、本来の次元から跳ね飛ばされたに違いない、慎吾(B)のことを心配していた。
『なんだよ、慎吾(B)、おまえ何言ってんだ?』
なんて不審に思われてはいけない。慎吾(B)には迷惑をかけてはいけないのだ!
だから、扉の傷も見なかったことにして、部屋に入る。
部屋は。
もちろん、なんの代わりもなかった。
あぁ、そうなのかな・・・。慎吾は、思う。
漂流教室のように、この部屋ごと漂流してるのかもしれない。

ポップでキッチュで、しかしクール。簡単なカタナカ語で言えば、慎吾の部屋はそういう感じだ。
慎吾(B)もそうなんだろうか。
「いやいや!」
はっ!と気付いた慎吾は、それどころじゃねぇ!と急いでベランダに向かう。ガラス戸を開け、外に出て、部屋に入る。

「・・・・・・・・・・・・・」

ことさら何かが変わった、という感じはない。

もう一度出て、もう一度戻り、あっ!と頭を抱えた。
もしかして!このベランダが別の世界への出入り口になっているとしたら、せっかく戻ったのに、また別の世界になっちゃったんじゃ!?
大体、この部屋ごと移動しているのであれば、部屋の中にいたって解らないに決まってるじゃんか!
バカだー!!俺ぇーーー!!!
しかも、薄い世界が無数の層になっている世界であれば、どんどん別の世界に、別の世界にとスリップしていくだけなんじゃあ???
これは困ったぞぉー・・・!下手すりゃ、今の出入りで、香取慎吾(C)までが大変なことになってるかも・・・!
香取慎吾かっこシーって、なんか、登録商標みたいでいいな。
あ、そじゃなくって・・・。

子供の頃から、アニメやマンガが大好きだった慎吾は、そこから得られた知識(?)をフル活動させる。
そうか・・・!
時間だ・・・!
同じ時間で、つまり、同じ条件で実験してみなければ、その結果には意味がない。
ただベランダに出る、というのではなくて、昨日と同じ時間じゃないとダメなのかも!
ん?そうすると、月齢とかそういうのも関係ありかな。潮の満ち引きの関係もあるから、そうなると、昨日の今日じゃなくて、一月後とか、下手すりゃ1年後とか!?
え!そんな長い間、慎吾(B)や、慎吾(C)をよその世界で苦しめる権利が俺にあるのか!?
ともかく、昨日の月齢を調べてみよう。後、気圧配置とか・・・、低周波地震があったかどうかも必要かな。
パソコンを立ち上げて、前夜、自分がベランダに出た時間に起こったことについて慎吾は調べ始めた。
調べ始めたら、メールのチェックやら、返事を書いたりやら、いつも見てるサイトを見にいったりやらが止まらなくなり、何時間も時間がたっていた。

がさ。

そして、その音がしたのだ。
昨日と、寸分たがわない、その音。
慎吾は顔を上げた。部屋の中は真っ暗で、21インチのディスプレイからの明かりだけがついている。慎吾は、コートを着て、バックを斜めがけしたままの状態だ。
来た・・・!
この音だ・・・!
1日で元に戻れる・・・!かもしれない!待っててくれ、慎吾(B)!慎吾(C)!今度こそ、先にベランダに出る!
ん?ちょと待って?
昨日と同じ状況を作るためには、えーっとえーっと。昨日はこの『がさ』って音を聞いてから何したんだ?・・・武器か。武器を探して、何もなかったから、クッションを持って・・・。
それで、カーテンを開けたら誰もいなかった・・・!
昨日と同じようにクッションを持ち、慎吾はカーテンを開け。

「ぎゃーーーー!!!!!!!!!」

その瞬間、近所に響き渡る悲鳴が上がった。
「なっ!何!?なんだっ!?」
「たーすけぇぇてぇーー!!」
ベランダから、何かが落ちそうになっている。長いものを背負った、赤い、何かが。
「森先生ー!大丈夫ですかぁーー!!」
マンションの下からは、聞き覚えのある声。
「森先生?も、森先生っ!?」
「慎吾っ!手!手っ!!」
「テ?テ・・・??フランス語でお茶?あ、手!」
ベランダに飛び出して、森医師の腕を引っ張り上げた慎吾は、混乱し切った頭の中で、一番手前にあった疑問を口にする。
「なんでサンタクロースのカッコしてんですか!?1月ですよ!?」
「え。プレゼントを届けにくるといったら、サンタクロースだろ?」
「プレゼント?」
「誕生日だろ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい。・・・・・・・はい?」

今日、1月31日は、確かに慎吾の誕生日だ。
誕生日だったが、そのために、この騒ぎか?ベランダから入り込もうとして、落ちかけて、サンタのカッコをして、そして。
「そ、それは!?」
背中に背負っているものは!?
「スキー!」
「やっぱりスキー板ですか!?」
長身の森でも持て余す長さのそれは、スキー板。鮮やかなデザインのスキー板。
「冬だし、スキーかなって思って」
今まで、スキーをしたのは数えるほどで、別に特別したいと思っている訳でもない慎吾は、目を丸く丸くする。
「あ・・・・・あの・・・・・・・・・・、もしかして、き、昨日も・・・・・・・・・・?」
「昨日?あ、そうそう、昨日はリハーサルでね。こそっとだったから、気付かなかったと思ったんだけど」
「あ・・・確かに、こそっと、でした・・・。ひょっとして、木から・・・?」
「一番インパクトあるなーと思って」
背中からスキー板を下ろし、はい、お誕生日おめでとう、と慎吾に手渡す。
「あー、重たかった。大変だったんだからなぁ〜?」
「そ、そうでしたか・・・」
はい、と手渡された長い長いスキー板を抱えて、慎吾はなおも呆然とベランダに座り込む。

ピンポーン

「はーい」
チャイムに答えたのは、とっとと中に入った森医師だ。
「どうもありがとねー!」
「いえー!あ、慎吾くん!お誕生日おめでとー!」
早坂兄弟だった。
「き、今日、病院に・・・」
「あ。気付かれちゃってたのか・・・。打ち合わせだったから内緒だったんですけど。これ、プレゼントです」
ニコニコと、正広が渡してくれたのは、もちろんストック。
「おめでとうございます」
少々疲れた顔の由紀夫がくれたのは、当然ブーツ。
「これでいつでもスキーにいけるね」
ニコっと森医師が微笑んだ。
サンタのカッコのままで。
「そろそろ来る頃なんだけど」
そして、時計を見る。
「そろそろ?」
ほらほら!と部屋の中で、ブーツを履け!スキーにセットしろ!ストックを持て!と命令する森医師の言葉通り、またチャイムがなる。
「慎吾ぉー!おめでとぉーー!!」
そして、病院の仲間たちが続々と入ってきた。
「あ、あ?あ!猫!」
「そうだよーん!ほら、今日さ、元気っておまえ言ってたから、合わせてやろうと思って!かぁわいいだろぉ〜〜!」
友達のペットは、トカゲではなく、猫だった。写真で見せてもらった通りの、がっちりとした骨太の三毛猫・・・!
てことは・・・。
「ここは・・・慎吾(B)や、慎吾(C)の、世界じゃ・・・、ない・・・・・・・・・?」
「はぁ?」
パーティーパーティー!と慎吾に三角帽子をかぶせようとしていた森医師が首を傾げる。
「慎吾かっこしーって、そんなカッコよくないよ、慎吾。あ、カッコEより手前って意味?」
ケラケラ笑いながら、スキーの板の上に固定されたままの慎吾を飾りつけていく。
看護婦さんたちもやってきて、しみじみスキー板を眺めた。
「もー、大変だったんだからねー、森先生が、これロッカーにいれるかって無理矢理いれようとして!」
「ろ、ロッカーに!?」
慎吾たちのロッカールームにあるロッカーは、古いタイプのもので背が低い。スキー板をいれられるような高さがないのは見たらすぐ解るはずなのに、斜めにしたらもしかして?といれようとしていたらしい。
「だからあの傷・・・?」
「それに、慎吾をびっくりさせたいから、誕生日の話はしないでって言われてて、誕生日の話はしないでって言われても、NGワードがあったら、会話って難しいじゃない?」
ま、私たち、そういうのはなれてるけどもね、患者さんで!と、看護婦たちは、持ってきたお料理を並べはじめる。
森医師のおごりで、結構豪勢なデリバリーだ。
「も、森先生・・・」
動けないまま、慎吾は森医師に聞いてみた。
「あの、ドアの傷も、これですか?」
「ドア?あ、入れるかなーと思ったらうまく入れなくって。だからベランダにしようって決めたんですよね、お兄さん」
「あ。あぁ・・・」
軽く引きつった笑顔を見せる由紀夫は、ただ、『届け屋』だから、ノウハウを教えて!と呼びつけられたに違いない。

すみません。こんなことに・・・・・・・と思う慎吾は。
「誕生日おめでとうー!かんぱーい!!」
と、継がれたビールを一気したところで、気持ちが切り替わった。
誕生日を!こんなにたくさんの人が!祝ってくれている!
自分は、スキーに乗ったままだけど!
楽しい!!楽しいよ!!みんなありがとぅーーー!!!!!

そして翌朝。
あったまいてーー・・・とブーツを履いたままの状態で目を覚ました慎吾は、死体のような森医師。死体のような友達。死体のような看護婦。爆破されたような部屋を見る。
ドアの傷を直したりとかしなきゃいけないんだろうな・・・。
この人たちを起こして、この部屋を片付けたりとかも・・・?
あぁ、あそこでケーキの上に転がっているのは、オークションで手にいれた、年代ものビクターの犬?
なんだかうるさいのは、なぜか大音量でなっているステレオ。
あぁ、ドアが叩かれている・・・。ご近所さんだ・・・。

香取慎吾(B)、そして、香取慎吾(C)。
君たちの世界に、今こそ行きたいと思うよ・・・。
この頭痛と、部屋を捨てて・・・。


こんな誕生日は、怖いですね・・・。でも、サプライズパーティーって憧れるわ!自分で計画はできへんけどね!

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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