天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

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ギフト番外編124話前編『人形作家を届ける』

yukio
 

もうすぐ3月。
腰越人材派遣センターでは、ひな人形が飾られた。
それも、8組。
「え!なにこれ!」
大きいのから、小さいのから、種類は様々。最大のものは、こんなの見たことないぞ!という16段飾りで、天井につっかえそうになっている。
「正広っ?」
朝、届け屋の仕事に直行していた由紀夫は、午後になって事務所に帰ってきて、目をむいた。
「ああ、兄ちゃん・・・」
「なんだこれ!展示場か!?」

「正解!!」

「えーーー!!!」

16段飾りの裏から出てきた奈緒美は、着物姿だった。
「今日のお着物は、可憐な桃の花をあしらった小紋でございます。もーちーろーん!作家物」
「今日の置物?」
「誰が置物よ!」
「可憐な桃だか、なんだか知らないけど、なんつー派手な色!」
「ん。たまにはね。いつも、ほら、渋めに決めてるから、あたし」
「正広、知ってるか?人は、年をとったら、いつか子供に帰っていくんだぞ?」
「どーゆー意味よぉー!女はねぇ〜、いつだって可愛いものが好きなのよぉぉーーー!!」

まぁまぁまぁと正広から宥められ、奈緒美は息を荒くしつつも社長席につく。
「まったく、この忙しいのに、血圧上げさせないでよねぇ〜」
「いや、俺も上がるし・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」

「えっ!?で、もう話終りな訳!?この雛人形の展示場状態を説明はしない訳っ?」
「さっきから、一人一人に説明して、もう飽き飽きなのよっ!あたしはっ!」
「兄ちゃん、兄ちゃんっ!」
正広が兄の腕をとって、引っ張る。
「この件につきましては、責任者の、ワタクシからご説明いたします・・・」
「おまえ責任者なの!?」
「責任者?んーと、いや、えーっと。つまりあの。僕のせいだ、って意味なんだけど・・・」
「おまえが雛人形の展示をうちの事務所でしませんか?って仕事を引っ張ってきたってこと?」
「んー、いやー、やむにやまれぬってゆーかぁ〜・・・」
ぼしょぼしょと哀しそうに正広が呟く。
「電話の聞き間違い、でぇ〜・・・」
腰越人材派遣センターは、人材派遣なので、展示会をするからコンパニオンを出してくれ、と言われることは珍しくない。
しかし、展示会の会場までを一緒に頼まれることは珍しい。
そこでのやり取りの失敗から、正広は、コンパニオンの依頼ですと野長瀬に伝えたが、会場も、という部分が落ちてしまったのだ。
「それで、奈緒美さんが、じゃあうちを使えばいいって・・・」
「使えばいいって、どーなの。これ・・・。お客さん入らないだろ、この規模じゃ・・・」
「ああ、それは大丈夫。コンパニオンは主催のおっちゃんが、若い綺麗な女の子と知り合いたいってだけだから」
奈緒美がキッパリ言った。
「今回は、業者がくる展示会だから、これくらいの規模でもいいのよ」
「業者って、もう3月くるのに遅ぇじゃん」
「何いってんの!もう雛人形商戦は始まっているのよ!2003年のっ!!」
「はやっ!!」

「・・・華やかですねぇ〜・・・」
野長瀬がウットリと呟く。
腰越人材派遣センターは、すっかりひな祭りの様子を呈していた。
華やかさの根源は、もちろん、集められていたコンパニオンたち。着なれない着物を来て、苦しさを押し殺しつつにっこり微笑んでいる。
「典子ちゃんも・・・。こういうのをマゴにも衣装って言うんですねぇ〜・・・」
口調はうっとりだったが、典子に聞かれたらぶん殴られるぞ由紀夫は思う。
しかしもちろん、野長瀬の中で、「マゴ」とは「孫」だ。孫にも衣装は、彼的には誉め言葉。可愛い孫が可愛い衣装を着て、なお可愛いという意味らしい。
そして、腰越人材派遣センターの男どもは、ついたてで仕切られた部屋の片隅で通常業務をさせられていた。それぞれの理由で。
早坂兄弟は、姿をあらわすとコンパニオンたちが浮き足立つから。
野長瀬は、姿をあらわすとコンパニオンたちの士気に関わるから。

今回の展示会は、人形作家や、人形製作会社などなどが、来年度、これはどうでしょう!と問屋や、小売点に対してアピールをするもの。
ただ、とてもこじんまりしている集まりだった。場所が決まってなかった、などという状況でも、リカバリーがきくというくらいこじんまり。
「アマチュアの人形作家さんもいるんだよ」
「へー。あ、あれか。色紙になってるやつ」
「ううん。あの16段飾り」
「どんな素人だ!それ!!」
もちろん、今回の目玉は、脅威の16段飾り。見上げると、お雛様、お内裏様の、顔が見えない!ほどの高さを誇っている。
「大体、何を考えて16段にもなってんだよ。普通、雛人形って・・・、何段?」
「七段くらいなんだって」
「倍以上じゃねぇか!」
「そこがアマチュアってゆーかぁ〜・・・」
ついたての隙間からこそっと覗くと、スペースの半分を潰しているかのように、堂々たる雛段がそびえている。
しかし、この雛段は、面積だけは狭いのだ。高いが、面積は狭い。高さが必要なだけで、一般的な七段飾りよりも狭い場所に飾れるようになっていた。
「玄関が吹き抜けになってるとことかがいいですよって」
「どいつどいつ?どいつが作者?」
「あれ。まだ来てないみたい・・・」
スーツをびしっと着込んだ営業マンが、お客さんを相手にセールストークを繰り広げている。こっちはガラスケースに入った、お内裏様、お雛様セット。人形は顔が命だよな!と思わせる美しいお人形だ。
住宅事情にあってると思う。
この16段飾りの最低80倍は。
「でも、あの16段飾りのお人形、どれもすごく可愛いんだよ?」
設置を手伝った正広は、気に入っているらしい。
よかった、と由紀夫は思う。
いくら正広が欲しいと思っても、この16段飾りを飾れる高さは、早坂家にはない。
「設置もね、簡単なんだよ。すっごいの。リフトみたいになってて、がちゃーんがちゃーんって伸びていくんだよね!足元がしっかりしてるから、狭いとこでも、高く上げられるし、もし段さがあるとこでも大丈夫なの。こう、足の高さがそれぞれ変えられるようになっていて!」
正広も思っていた。
ビデオ屋から部屋に上がる階段。
あそこにこの16段飾りを飾ることは、不可能じゃないかも!と。

「ちょっと・・・!ひろちゃん・・・!」
値段的には間違いなく一番いい着物を着て、一番髪型も、メイクも派手にしている頑張り屋、腰越奈緒美が地味ーー、なついたての中にやってきた。
「あの、16段飾りの人は?」
「遅れるって連絡はないんですけど・・・」
「買わないとは思うけど、話は聞きたいって人が多いのよねぇ〜」
「電話してみます」
正広は、連絡先の携帯に電話をいれるのだが、相手がでない。
「呼んでるんだけどー・・・」
ひたすら呼び出し音がしているだけだ。
「あれー?どしちゃったんだろう」
「出ないの?」
奈緒美の言葉に、正広は困った顔でうなずく。
「俺、見てこようか?」
由紀夫は気軽に立ちあがった。
そりゃもう、素敵な桃の香りで充満している事務所にいるより、涼しい外の空気が吸いたい気持ちで一杯だったのだから。

<つづく>


きょっ!みじかいっす!すんませんっす!
雛人形は、うちにありませんっ!玄関には、まだ、可愛いガラス製鏡餅が置いてあるっす!人としてだめっす!!

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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