天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

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ギフト番外編125話後編『おかしな家を訪ねる』

先週までのお話。
典子の近所にある謎の家は、どうやら週末婚カップルの住処らしい!?しかも、その家をじっと見つめていた女もいたらしい!?
血の雨か!?とついワクワクする腰越人材派遣センター一同だったが・・・!?

yukio
 

引きつった笑顔の正広の前で、腰越人材派遣センター内名『まなみ』であるところの美少女で、届け先の住所を書く。
見知った典子の住所と、番地がちょこっと違うだけのもの。
「それでーですね」
不穏な空気に気がつかないようで、『まなみ』は、テーブルの上に、でん!と段ボールを乗せる。
「これを運んで欲しいんです」
ぱかっと蓋があいたままの段ボールは空っぽ。
「これ、ですか・・・?」
「はい」
きっぱりと彼女は言った。
「箱を、ですか?」
「このデザインが重要なんです」
「フェリシモの・・・」
それは、通販会社、フェリシモの荷物が届くという、知ってる人は知ってるデザインの箱だった。
「これを、こう、綺麗に閉じていただいて、このまま、運んでいただければ。あ、中身は入ってると重いでしょう?」

どういうことなんだ・・・。
その空っぽの箱を運ばされることになっている由紀夫は考えた。
フェリシモの空箱を運ばされる自分って一体・・・?
いや、しかし、あえてこの箱を持ってきたということは・・・。

「それで、金曜日の、夜9時ジャストに届けていただく、っていう指定はできますか?」
「はい。日付、時間の指定は、ご希望通りにできますが」
「そうですか・・・」
ホっとした様子で、住所と、名前を書ききった。
名前は、女性名。
むむ・・・!正広は戦慄を覚える。
相手の名前まで把握しているとは・・・!

これは・・・!まさに血の雨が降るんじゃあ!!

ワクワク、あ、いやいや、ドキドキしてしまう正広だった。

「それで、どーするよ」
本物らしく、ビニールのテープで梱包された、しかし空のフェリシモ段ボールが、テーブルの上にある。
「どーするって持って行くしかないでしょ?」
もう、前金で貰っちゃったんだしと、社長らしく奈緒美が言う。
「だって、空箱だぞ?」
「空箱運ぶのに、あの値段を出すってのがおかしいよね・・・」
料金は、サイズや、重さ、また、指定時間なんかによって、値段が変わる。重さはないけど、体積はあるってことで、宅急便なんかよりも高い値段を取っていた。
「そうよねぇ〜・・・、これ、オトリよねぇ〜・・・」
ほわんほわんと、面々は想像する。
相手が通販好きであることさえ知っている女が、通販の段ボールで相手をおびき寄せ、そして・・・!
「きゃーーー!!!!」
「怖い怖いっ!」
「どーするんです、そんなことになったらぁーーー!!」

「って、嬉しそうに言うなぁーーー!!!」

運ばされる由紀夫が怒鳴ったように、社長以下、社員たちは、とってもわくわくした顔で段ボールを見つめている。
「いや、ワクワクするとこじゃないから・・・」
「してないよぅ、ワクワクなんかぁ〜」
「明日の9時ね。仕事ちゃんと終わらせておかなきゃ♪」
典子は、そそくさと、仕事にかかる。野長瀬も、金曜日の予定予定と確認を急ぎ、奈緒美は接待時間を後ろにずらすように電話をしている。
「おまえら・・・」
由紀夫は激しい頭痛を感じたが、明日はこんなもんじゃないと覚悟を決めた。

そうしてやってきた金曜日、8時48分。
由紀夫は、典子のうちから出た。
当然、全員が典子のうちに待機し、窓から覗いている。9時ジャスト、という依頼なので、時間厳守を旨とする由紀夫は、例の週末婚(?)家屋から少し離れた場所で、待機。
なぜかインカムをセットされていた。
『兄ちゃん、聞こえますか?聞こえたら、片手を上げてー。・・・上げてー!上げてったらぁーー!』
「・・・聞こえてないとは思わねぇのか・・・」
『聞こえてんでしょー!』
これ以上耳元で叫ばれたら鼓膜の危機と、由紀夫はしかたなく、ちょっと右手を上げる。
『よかった、聞こえてるよね』
満足そうな正広は、台所の窓に貼りついているはずだった。見るのも恐ろしいから見上げないけれども。
『『まなみ』さんは見えませーん、どぉぞぉー』
「・・・」
『見えませんよー!ねぇー!解ったら片手挙げてってばぁ〜!』
「ねぇー!」
窓をあけてまで声を上げる正広に、解った!と、さっ!と手を上げる。
『これ、あんま性能よくないみたい。兄ちゃん、聞こえづらいみたいだもん』
『困ったもんねぇ、犯罪マニアだって言うのに』
いや、全部聞こえてます・・・。もちろん、このインカムは田村特製のもので、音声は恐ろしくクリアなのだから。
しかし、由紀夫自身も、辺りを見守っている。
ダッシュで仕事を、終わらせて6時半には典子の家までやってきた由紀夫たちだったが、すでに黒いカバーをかけられた車はガレージに入っていて、部屋の明かりはやはりついていなかった。
「あー!野長瀬でも、配置させときゃよかったー!」
と、奈緒美は悔しがったが、すでに来てるものはしょうがない。
それから2時間、じっと様子をうかがったが、まるで気配がない。これで二人の人間がいるというのは、かなりすごいことなのかもと由紀夫は思っている。
いや、そもそも本当にいるのか・・・?
時計を見ると、8時59分。
もういいだろうと、家に近寄った由紀夫は、静かにインターフォンを押した。

当然、反応はない。
ここらあたりは、予想済みだ。
しかし、そこらの宅急便と、届け屋は訳が違う。なんとしても、今渡す!それが、届け屋としての由紀夫の心意気だった。
「すみませーん!」
きっちり締められたドアの外から声をかける。
「すみませーん、香田さーん!お届けものですー!香田さーん??」
門扉をあけて、ドアの前まで来て、ドアもノックする。
「お届け物ですけどー!」
声をかけながらドアに身を寄せると、中の様子がなんとなく伝わってきた。
・・・誰か、いる・・・。
中に、人がいることは確実だと、由紀夫には解った。
「香田さーん!フェリシモさんからですけどー!」
「・・・フェシリモ・・・?」

小さな声が、ドアの中でした。
心当たりがあるのか、そっとドアノブを回している音がする。
「うち・・・ですか・・・?」
そして、薄く薄くドアが開けられた時。

「やっぱりお姉ちゃんだぁーーーっっ!!!」

「きゃーーーー!!!!」

門扉と建物の間に隠れていた、『まなみ』が飛び出してきて、ドアを大きくあけた。
「あ、あんた・・・っ!」
「隠れたって無駄だからねっ!」
「お姉ちゃん・・・?」
割って入られた由紀夫が呟くと、インカムの向こうでは悲鳴が上がった。
『姉と妹!』
『一人の男を取り合う骨肉の争い!』
『禁断だわ!禁断!!』
『妹の思いがあまりに深すぎ、本当は愛し合っている姉と男は、ついに逃げ出して・・・!』
『きゃーー!!!血をみないと収まらないぃーー!!』

「うるっさい!!」
インカムに怒鳴り返し、さっさと外した由紀夫は、青ざめてる姉と、満面の笑顔の妹を見つめる。
その笑顔は、キラキラと輝き、とてもこれから姉を刺そうとしているとは思えなかったが、感情が突っ走りすぎた恐るべき笑顔なのだろうか。
「お姉ちゃん・・・」
「・・・黙って・・・!」
「ふふ・・・。そうはいかないのよ・・・!お兄さんも、出てらっしゃーい!」
「あー!ダメー!!」
しかし、男も出てきた。どこか気弱そうなサラリーマンである彼は、がっくりと肩を落としている。
「気をつけていたのに・・・!」
「あなた・・・!」
「おまえ・・・っ!」
ひし!と抱き合う二人。ふふふふ!とさらに得意そうに笑う妹。
「あ、あの・・・」
黙っているのも怖かったので、由紀夫も声をかけてみた。
「あっ!届け屋さん、どうもありがとうございますっ!」
朗らかに妹は言った。朗らかにブスッ!と行くつもりなのか・・・。
「さ、お姉ちゃんも、お兄さんも、帰るよ」
「帰るわよ!帰るけど、いいじゃないの!今晩くらい!」
「ダメよー。今晩はダメ!だって、おばちゃんの誕生日会やってるんだから」
「えー・・・?おばちゃんの誕生日、先月だったじゃないよ!」
「違うよ、久美おばちゃん」
「それ、お向かいのおばちゃんじゃない!」
「そうだよー?身内じゃないんだから、ちゃんとお祝いの席には出ないと。失礼だよ、お姉ちゃん」
「え?え?ええ??」
「あのですね」
何が何?と混乱している由紀夫に、妹『まなみ』が言った。
「二人は、実家から逃げようとしたんです・・・!」
「逃げるって、オオゲサじゃないよ!」
「最近、こそこそこそこそ、ふっと夜になったらいなくなると思ったら、こそこそと引越し準備をしてたでしょ!」
「いや、そういうオオゲサなものじゃなくって、ね、まみちゃん」
「お兄さん・・・!」
どうやら、本名は『まみ』の『まなみ』は、両手をギュっと握り合わせ、義理の兄(多分)を潤んだ瞳で見つめる。
「そりゃあ、うちは代々女系で、しかも町内会長のお家柄・・・!お兄さんが窮屈に思うのはしょうがないけれど、それが、長女の婿の態度なのかしら・・・!」
「辞めなさいよー!その小姑根性ーー!!」
「婿いびりほど楽しいことが他にあるのぅー!?」

彼女らは、祖母が町内会長の家に産まれた、四人姉妹の長女と末っ子。家には、祖母、祖父、祖母の妹2人、養子の父・母、叔母2人、叔父2人、従兄弟1人に、従姉妹5人、その他、場合によっては、それぞれのパートナーなどが入り乱れているらしい。
9割方、にぎやかなのっていいよねー!という人たちだが、この長女と、長女の夫だけが、静寂を好んでしまったのだ。
だから2人は、そっと家を探し、そっと週末だけでも、そこで静かに過ごした。
とても、とても静かに。
カーテンを全部閉め、雨戸を閉め、照明を落とした室内には、アロマキャンドルを灯し、ワインとチーズを肴に、ただ、静かに語り合う。
2人は、ただ、それがしたかっただけなのに・・・!
「いやーー!!あんなうるさいパーティー嫌いぃーー!!」
「でもね、今日はご近所さんのことなんだし、自慢の婿を見せたいわけよ、おばあちゃんは」
あ!
と、まみは、由紀夫を見上げた。
「ご一緒にいかがです?」

どうせうるさいなら、人数が多い方がまだいいだろうと思ったのは由紀夫の優しさだった。
人数の多いパーティーは、誰かが抜けても気づかれない。
そうして、血の雨が!血の雨が!!とうわごとのように繰り返す腰越人材派遣センター一同と、嫌がる長女夫婦とともに、よく知らない人の誕生日パーティーにやってきた由紀夫は。

「・・・そりゃ、あの家に住みたくなりますよね・・・」
と、長女に言う。
「そうでしょう・・・?」
往年のどたばたファミリードラマのような風景が、目の前で展開されている。
娘が口答えし、母が怒り、祖母が笑う。誰が家族か解らないほど、出たり入ったりが激しい。
そして、その口答えに、母以上に怒るのが奈緒美であり、祖母以上に笑うのが正広であり、野長瀬は、なぜか出たり入ったりを繰り返している。廊下にある鳥かごが気になってしょうがないらしい。
「あのー・・・」
由紀夫は、長女と夫をそっと手招きし、薄暗い廊下に出た。小脇には、まだ空っぽのフェリシモの段ボールがある。
「これ・・・。一応、仕事なんで・・・」
2人に段ボールを渡し、写真を取ろうとした。
「え?これ?」
しかし、どうやら本気で通販好き。あの時も、もしかして、住所を変更しちゃったか?私?と思ってのこのこ出てきてしまった長女は、反射的に箱を開ける。
「あ、でもそれ・・・」
中身はなくって、といおうとした由紀夫だったが、箱の底に、1枚のカードが貼りつけられているのが見えた。
「あ・・・」
彼女と、夫と、由紀夫で見てみたそのカードは、家族全員の名前だけで一杯になっている、『引越しおめでとう』というカードだった。
「ウソ・・・」
うる。
長女の目が潤み、夫が、そっと肩を抱く。
なんだよ、いいファミリーじゃん、と由紀夫も思い、その写真を撮った。
「イヤな訳じゃないんです、この家が・・・」
ふわりと微笑んで、長女は言う。
「ただ、ちょっと、私たちみたいに地味な2人には、テンションが高すぎて」
「たまにちょっと息抜きしたくなるだよね」
えぇ、と、夫の言葉に頷き、嬉しそうにカードを眺めていた、その時。

「あーー!写真撮ってる写真ーー!」
もう、ないんです!ポラロイドだから、もうないんですっ!というまで、長女夫婦との写真撮影は続いた。
一番の引越し祝いですと喜んだ二人だったが。

その静かな家に、結局毎日のように、家族の半分がやってくるようになる未来を。
知る余地もなかった。


まぁ、どこがおかしな家かってゆーと、どこもかしこも(笑)?

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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