天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

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ギフト番外編126話前編『入学式に届ける』

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「ぴっかぴっかの♪いっちねっんせっ♪」
もう、桜は散ってしまったけれど、綺麗に晴れた空の下、正広が口ずさむ。
「ぴっかぴかだねぇ」
そして、感心したように、正広は隣に立つ兄の由紀夫に言った。
「ランドセルがでっかくて、可愛いぃ〜」
二人の前を、ぴっかぴかの1年生が通っていく。綺麗に着飾ったお母さんや、カメラ、ビデオを持ったお父さんも一緒だ。
「でも、あんな色のランドセル、あるんだね」
正広が指差したところにあるランドセルは、スモーキーなピンク。他にも、水色や、黄色など、黒と赤しかなかった時代とは違うようだ。
「すんごいカラフルだなぁ〜。ねぇ、兄ちゃん?」
「それで」
由紀夫は、静かに言った。
「この人ごみの中から、ゆかりちゃんをどうやって探すんだ?早坂由紀夫担当課長」

それは、つまり、4月だし!と腰越人材派遣センター一同がやる気を出してしまったがための悲劇だった。
4月一発目に、心機一転、大掃除をした。
大掃除をして、一度綺麗にすると、人は、その状態を維持したくなる。
なので、こまめにゴミを仕分けし、せっせせっせと捨てていたのだ。
例えば、奈緒美が通販したものの段ボールとか、典子が通販したものの段ボールとか、野長瀬が通販したものの段ボールとか、正広が通販した段ボールとかは、とっとと潰して捨てるのがお約束だ。
毎日気分よく段ボールを潰し、きゅきゅっ!とまとめて、廃棄業者にポン♪きゅきゅっ!ポン♪
この感じがいい!と社員たちは思っていた。
「お届けものですー」
日本一男前の届け屋を抱える腰越人材派遣センターにも、荷物は届く。
正広が受け取ったその段ボールは、由紀夫への依頼の品物だった。
「小学校に入学する孫に届けてください。うわー、いい話だ!」
品物は、可愛い麦わら帽子と、コサージュ。麦わら帽子には、コサージュとおそろいの花がつけられていた。
「うわー、可愛い〜」
「小学生はいいわねぇ、こういうの似合うし」
「え、社長、こういうの、かぶりたいんですか・・・っ!?」
驚愕した野長瀬は、奈緒美にキツく、キツく、睨みつけられる。
しかし、誰もその姿は想像したくない、メルヘンでファンタジーな麦わら帽子だった。
カードも添えられており、孫を思うおばあちゃんの手作りであることが見てとれる。
「帽子まで!?」
「すごい!大草原の小さな家みたいですね!」
野長瀬の愛読書の一つだ。
「入学式の時に、このコサージュをつけて・・・!」
「おばあちゃん、来られないの?」
典子がそう言いながら送り状を見る。
「あっ、海外!」
「そうなんですよー。おじいちゃん、おばあちゃんは海外で、孫のゆかりちゃんの入学式には帰ってこれないんだって。だから、入学式の時に持ってって欲しいって」
「あぁ、いいわね。由紀夫は写真も撮るんだし」
ほのぼの。
可愛いお孫さんの入学式を、遠いアメリカから見守っているおじいちゃん、おばあちゃん。
腰越人材派遣センター一同のハートが、ほっこりとなった。

それが、4月の3日。
そして入学式が、4月の11日。
前日の、4月10日に、正広は、由紀夫にそのコサージュと、麦わら帽子を預けた。
「えっと、明日なんだけど」
「入学式な。どこの小学校だっけ」
「えっとね」
正広は、カードを見る。
「さくら台小学校。入学式は9時からだから・・・8時半くらいから待機してれば大丈夫かな」
「OK・・・。で、ゆかりちゃんの名字とか、写真は?」
「え?」
「・・・写真。せめて、名字」
「・・・えっと・・・」
正広の頭は真っ白になった。このコサージュと帽子、それに心のこもったカードを受けとってから、正広は、日々ゆかりちゃんのことを考えていた。
考えていたが、いつもなら当たり前のように調べることに思いがいたっていなかった。
「じいちゃん、ばあちゃんの名前は?」
「え?え?あ、でもカードには書いてない」
このカードも曲者だ。

『ゆかりちゃん。さくらだいしょうがっこう、にゅうがくおめでとう。ゆかりちゃんもおおきくなったでしょうね。ママにたのんで、おじいちゃん、おばあちゃんに、しゃしんをおくってくださいね。ゆかりちゃんがすきだっていってくれた、おじいちゃんがつくったぼうしをおくります。おはなは、うちのおにわでとれたのを、おばあちゃんがドライフラワーにしたものですよ。ゆかりちゃんのかみのけはパパににてきれいだから、よくにあうとおもいます。たのしいまいにちをおくってください。げんきでね。おじいちゃん、おばあちゃんより』

「・・・名字書いてねーじゃん・・・」
「・・・あ!あの時の段ボール・・・!ってもう無いのかぁ〜!」
あの日のお片付け当番は、野長瀬だった。何がそんなに辛かったの?というほど、彼が段ボールを壊している様は、鬼気迫るものがある。
世の中には、段ボール早潰しが得意な業種というものがある。例えばスーパーの人。そういう業種の人たちと闘っても負けないくらいの勢いで、潰してはたたみ、潰してはたたみ、している。
段ボールの中に何か残っていようと気にしない気迫なので、中に入っていた書類ごと廃棄された恐れもある。
「写真もない訳、ないもんねぇー!」
「それに、料金のこともあるだろ。連絡先とかは?」
「あ、それはもうね、振り込みされてて・・・!あそっか!振り込み元!」
そうだそうだ!と書類を引っ張り出して、あった!と正広は表情を輝かせる。
「野田さん!だから、野田ゆかりちゃん!」
「野田ね。それで、髪が綺麗・・・たって、入学式前に切られてたらそれまでだしなぁ・・・」
「えー!そんな怖いこと言わないでよぅー!」
「それと」
さらに、由紀夫は怖いことを言った。
「その、野田が、例えばお母さんの実家で、結婚して姓が変わったりしてると、もう解んねぇぞ」

「ひぃーーーーー!!!!!!」

早坂由紀夫担当課長、溝口正広!痛恨のミス!!
「正広・・・?」
がっくりと机に倒れた正広をつついて、由紀夫は呟いた。
「『返事がない。死んでいるようだ』」
「回復の呪文をくだたい・・・・・・・・・」

そして、由紀夫は回復の呪文を唱えた。

「国際電話」

その手があったか!と、正広は時差も考えないまま、書類に書かれている住所に電話をかけた。
大丈夫、大丈夫、国際電話なんて、今は簡単なんだから!交換手とかいないんだからっ!とかけて、必死の形相で受話器を耳に押し付ける。
そして、うっ!と死にそうな顔をした。
「あーあー、えーー、みすたーのだー、えーーーー・・・・・・・・・すみませんっ!」
がちゃっっ!と受話器を置き、ぜいぜい肩で息をしている。
「どした?」
「こっ、交換手が出た・・・!」
「ん?でも、全部ダイヤルしたんだろ?」
「だって英語で喋ってた!うわー!どうしよぅー!兄ちゃんっ?」
正広は首を傾げ、お願い、お願いっ!と手を合わせる。脅威の記憶力男、早坂由紀夫は、スマステーション、べらべら本のすべてをすでに記憶してある。
「俺ぇ〜?」
だって、日本人なのに。大体、なんで、交換手が出るんだ?この番号、本当に家か?
そんな疑惑をかかえたまま、今度は由紀夫が電話をする。
そして、正広と同じように英語が聞こえてきたのだが。
「ね!ね!交換手の人じゃない?英語でしょっ?」
正広は、受話器の外側に耳とくっつけて、必死に言い募る。そして由紀夫は、静かに受話器を置いた。
「に、兄ちゃん・・・!」
由紀夫でも解らないなんて・・・!
もうダメだ!
もう、絶対連絡なんてつかない・・・!
と、思ったところで、由紀夫に頭を叩かれた。

「留守番電話!!!」

「ありー?」

にしても、録音メッセージが、バカンスに出かけていますである以上、手の出しようがないのは一緒だった。
「どーするかなぁ〜・・・。段ボールを持ってった業者に連絡・・・」
「するっ!」
再び死体になりそうだった正広が、がばっ!と置きあがり、電話に飛びついた。
しかし、業者では、1週間も前の段ボールは、すでにどこにあるか解らない状態だと言う。倉庫を見に行くという手段もとれたが、現実的とは思えなかった。
オフィスから出る紙ゴミは、恐ろしい量に決まっている。
あぁ、こんなところにゴミ問題が・・・!
正広は涙にくれた。

そうして、急遽人海戦術がとられることとなり、小学校正門前に、由紀夫と正広が。裏門に野長瀬と典子が待機することになったのだ。
「ゆかりちゃん、ゆかりちゃん・・・」
正広は、どうにか気分を浮き立たせようとしていたのだが、どんどんやってくる小学生を見ているうちに、顔色が悪くなってきた。
「なんでぇ・・・?」
と兄を見上げる。
「何が」
由紀夫の表情も硬い。
さくら台小学校は、どでかい小学校だった。子供の数も半端じゃない。そして頼りの綱だった名札には、名前がない。
「野田ー、野田ー・・・」
「髪の綺麗なおやじー、おやじー・・・、って大体、髪の綺麗なパパってどうなんだよ」
「だって、小学生のお父さんなんて、うまいことしたら、24・5でもなれちゃんだよ?若いお父さんってことなんじゃないの?」
「若くて髪の綺麗なオヤジで、名前が野田である可能性が半分・・・」
必死になって、子供たちを見ていると、正広のPHSが鳴った。
「もしもしっ!」
典子からの着信に、正広は慌てて出たのだ。
『こっちもう、人こないよ、ひろちゃん』
「えっ」
『やっぱり、正門からがほとんどみたい。人気全然なくなっちゃった』
「あー・・・。じゃ、じゃあ、こっち回ってもらえますか・・・?」
『おっけー、すぐ行くね!』
電話を切って、正広は、ため息をついた。
「裏門の方は人いなくなったって」
「よほど近いとかじゃなきゃ、わざわざ裏門から入りたいなんてことないだろうしなぁ・・・」
正門の方は、途切れることなく、子供たちが流れてきている。
今までも、何人かの子供に、ゆかりちゃん?と声をかけてきたが、どの子もゆかりちゃんではなかった。
綺麗なロングの黒髪に、リボンをつけ、大変可愛らしいワンピース姿の「ゆか」ちゃんはいたが、惜しいとか言うレベルの話でもない。
「野田(仮名)ゆかりちゃん・・・、野田(仮名)ゆかりちゃん・・・」
うわごとのように呟きながら、正広は、ぴっかぴっかの一年生を見つめ続けた。

<つづく>


まぁ、どこがおかしな家かってゆーと、どこもかしこも(笑)?

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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