天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

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ギフト番外編127話前編『ゴールデンウィーク合戦』

yukio
 

人は、やや長期の休暇を貰った時、どういう過ごし方をするのか。
ここで、ある一つの家族について、検証してみよう。

「おっはよぅー!!」
「・・・・・・・・・・・」
早坂由紀夫は、目を極限まで細く開き、さっきまで自分の上にかけてあった毛布を両手で振りまわしながらおっはよーダンスを踊っている物体を見た。
あんな物体は見たことがない。
ということはこれは夢だ。
寝よう。
彼的には至極真っ当な結論に達し、そのまま目を閉じる。
「あー!もういつまで寝てるんだよぅー!」
目を閉じていても、足元がじたばたしているのが伝わってくる。この落ちつきのなさ。この声。
もしかして。
「・・・・・・・・・正広・・・?」
「ほらー、起きてよー、起きようよぅーー」
信じられないことに、それはどうやら弟の正広の声のようだった。
なぜ、起こされなくてはいけないのか、由紀夫には解らない。
大体会社だって休みだ。由紀夫が休みなら、正広だって休みだ。いつまで寝てても構わないところを、なぜ起こされなくてはいけない!?
そう思いながら、寝返りをうち、弟に背中を向けた由紀夫は、再び極限まで薄く目を開けて、時計を探す。

恐ろしいことに。
時計は、毎朝、仕事に行くために起きる時間を示していた。
まさか、会社が休みだってことを忘れてるんじゃないだろうな?
ちらりと、そんなことを思ったが、そんな訳はないと由紀夫は小さく首を振った。正広は、前の日から浮かれかえっていた。
腰越人材派遣センターは、コンパニオンも擁する人材派遣会社だ。当然、ゴールデンウィークのようなイベントが多い時期は稼ぎ時、そのため、会社を完全に閉めてしまうことはない。
ところが今年は、「あたしは働くのよ!」と奈緒美が宣言した。
どうやら、厳冬に始まった淡い恋が、春の訪れを迎えて、溶けて流れて蒸発したらしい。

やっぱり女は仕事よ!仕事に生きるのよ!と燃えあがった奈緒美を見て、今年の休みはねぇな、と社員一堂は思ったのだが。
意外や、意外。
そこそこ普通に休みになった。
あぁー!人手がたりないー!でも、あたしはそもそも一人で!一人でこの会社をやってきたのよぅー!と、かつての自分を追体験したいらしい。
カレンダー通りの人あり、30日、1日、2日も休みで、いわゆる一つの大型連休になった人あり。
その中で、はっきりとヒイキされて、いわゆる一つの大型連休になったのが、早坂兄弟だった。

社内では、野長瀬、典子に気を遣い、でも、なんかあったら呼んでくださいねと微笑んだ正広も、自分に関係する仕事はすべて終わらせ、兄への依頼が突然入りませんようにと天に祈っていた。
お休みだ。
10連休だ・・・!
10連休なんて、しやわせぇ〜〜!
家に帰ってからは、遠慮会釈なく騒いだ正広だ。

そして、その10連休初日。
由紀夫は、いつもと同じ時間に起こされていた。
ありえないことだ。
正広は、寝起きが悪い。いつも、弟を起こすのが兄の仕事だった。その正広が、いきなり起きているとわ!
そこまで、休みに浮かれているとわ!!
恐ろしい・・・と、由紀夫は、強く目を閉じた。起きてたまるかと、そのままの姿勢を崩さない。
「ねー!兄ちゃーん!いつまで寝てんだよー!早く起きてよぉー!もぉー!」
じたばたしていた正広は、そのうち、ひっぺがした毛布で兄を叩きはじめた。
大して痛いものでもないから、無視だ、無視と思っていた由紀夫だったが・・・。

「痛いわ!ぼけぇ!」
「あっ、起きたっ!」
朝一発目から関西弁で怒鳴ってみたが、正広は、嬉しそうな顔で起きたっ!起きたっ!と起きたよダンスを踊っている。
見てみると、頭の上では、白文鳥のしぃちゃん(春から始まった木村拓哉のドラマに出てくる鳥が文鳥ではにことに一安心しているらしい。もし、これが文鳥だったら、なぜ自分を使わない!と悔しくて夜も眠れなかった可能性大)も飛びまわっていた。
「どこ行く!?」
「・・・何が・・・」
毛布を引き寄せ、被ろうとした由紀夫は、激しい抵抗を感じる。
正広がキラキラした目で自分を見ながら、その両足で毛布を踏んづけ、両手で毛布を引っ張っている。
「何・・・!」
「どこ行く・・・!?」
「どこって・・・?」
本気の本気を出せば、その正広をひっくり返すくらいの力で毛布を引きぬける由紀夫だったが、ついつい怯えてしまい本気が出せない。
よく見るとしぃちゃん(にしても、あのドラマで鳥のオーディションはあったんだろうか。自分なら、もっともっとキュートに指に止まれたのにっっ!と思うと、悔しくてならない)までも、どうにか毛布をひっぱろうとしている。
「ねー!お休みなんだよー!?せっかくのお休みなのに、おでかけしなきゃ意味ないじゃーん!せっかくのお休みぃー!」
ぎゃー!ぎゃー!と正広は騒いでいるが、実際のところ、週休2日で働いている正広には、月に10日の休みは当然のことだということに気付いていない。
その上、さらに10連休となると、彼は、月に10日しか働かないことになっていた。
だから、今月に限っていえば、仕事をする日数の方が、せっかく仕事があるんだから、になるので、何もそんなに必死に休みに打ち込むこともないと思うのだが・・・。
「海外は無理だよねぇ〜・・・」
「無理に決まってんだろ!!」
由紀夫の目を覚ますようなことを平気で言う正広だった。

「いや、でも、無理じゃないよ!無理じゃないって!韓国とかいけるよ!てゆーか、ヨーロッパだっていけるよ!10日だもん!10日!」
しっかり目を覚ました由紀夫に、正広は畳み掛けるように言う。
「日程なら問題ないじゃん!いけるよ!どこだっていけるよ!そりゃ、アフリカの奥地とかゆったら無理だけどさぁ〜」
うふふ〜と嬉しそうに回ってみたりする正広としぃちゃん(このドラマでインコ大ブレイク!?それはそれでむかちゅく!)だったが。
「それだと、しぃちゃんは置いていかないと」
「えぇっ!?」
驚く正広に、しぃちゃんは、ひしっ!とすがりつく。
いや、肩に止まって、首まで横移動する。
「置いてかないよ!しぃちゃんは!」
『おいてかないで!わたしを!』
「だって、飛行機に動物とか乗せんの大変じゃん。まして海外とかだったら、検疫とかあって大変なんじゃねぇの?」
「むぅー!」
ぷくーとほっぺたを膨らませた正広は、しぃちゃんにそんなひどいことをするなんて!と由紀夫を睨んだ。
いや、自分がやる訳じゃ、と理不尽な怒りにさらされた由紀夫は、いいや、やっぱり寝ようとして。

「もぉーっ!いい加減におきなさーい!」
と、毛布を引っこ抜かれた。
正広も、本気の本気になったら、兄の体を宙に浮かすくらいのことはできるのだった。

由紀夫は顔中に不機嫌です、と描いた状態で、朝食のテーブルについた。
といっても、そこにあるのは、ロールパン(コンビニ)、バター(上等、もらい物)、ジャム(上等、もらいもの)、牛乳(スーパー)、イチゴ(スーパー)だけである。
「火を使う気にはならなかったのか・・・?」
「だって、早くでかけなきゃと思ったから」
「どこに」
ロールパンにジャムなどつけながら、由紀夫は尋ねた。出かけるんなら、ほっといて出かけてくれてもよかったのにと思ったら。
「まだ、決まってないじゃん!」
と怒られた。
「えぇっ?」
「GWの計画が全然たってないなんて、きっとうちだけだよ。日本中でうちだけだよっ?」
そんなことあるか!という意見を、丸っきり当たり前のように吐いて、正広は怒った顔で兄を見つめる。
「どうするの?どこいくの?」
「ど、どこって・・・」

由紀夫のぼんやりとした予定。
10日間、基本的にぶらぶらする。
映画を見る。
DVDを見る。
本を読む。
昼寝をする。

こんな由紀夫に、GWの計画、と言われても困る。
せいぜい、ぴあでも買って、都内映画館でマニアックな映画でもかかってないかを調べるくらいだ。

「やっぱり、でも、旅行くらいしないと申し訳がないってゆーかぁ〜・・・」
「GWの旅行なんて、混んでて大変だぞ」
「でも、やっぱり、渋滞にははまっとくべきじゃない?」
「なんでだよ!」
「GWの渋滞、どこそこを先頭に、30kmとかって、はまっとくべきじゃない?」
「じゃないじゃない!絶対そうじゃない!」
「んー・・・。でも、混んでないとこは、つまんなくない?」
「だから、旅行とかしなきゃいいじゃん」
「でも10日もあるのに旅行もしなかったら、休み開けにどーしたらいいの?」
「何を」
「お土産もなかったら、どーすんの?学校、あ、会社で」
「あのな・・・」
どこか、夏休み気分になっていたらしい。休み中の思い出を、友達と語り合わなきゃ!と正広は思ってしまっている。
「でも、ほんと、どこも混んでるって」
「平気だよー、混んでるのなんかぁ〜」
ねーー、いこうよー、どっかいこうよぉーー!!だだっこモードの正広は、行こうー、行こうー、とただ騒ぐ。
「って、どっか行きたいとこ、あんのかよ!」
そのうるささに耐えかねて由紀夫が聞いたところ。

「うんっ!」

キラキラっ!

正広の顔が輝いた。

「あのね、あのね、やっぱり旅行は行こうと思うじゃない?泊りがけの旅行がしたいじゃない?まぁ、今からだと予約もしてないから、あれだけど、4月30日から、5月2日って、働いてる人もいるから、そこが一応狙い目じゃない?そこで旅行いくじゃない?それで、今日とかは、まず買い物とかするでしょう?行ったことがないような店に行ったりするでしょー?それで、ピクニックとかもいくでしょー?兄ちゃん映画好きだから、映画とかも行くでしょー?モンスターズインクとか見るでしょー?」
「吹き替え版だろ?」
「そりゃその方が解りやすいもんーー!」
辞書でも覚えられる男、早坂由紀夫は、字幕版でも十分解る。
「それとー、あ、子供の日は、プレゼント買ってもらってー」
「待て待てー!」
「何っ!」
「なんで、プレゼント買わなきゃいけないんだよ!」
「子供の日だよ!?」
「子供の日って、お前は俺の子供か!?」

「・・・・・・・・・・?」

首を傾げた正広は、あぁ、と手を叩く。そして。

「だから、父の日にはプレゼントするし!」
「そーじゃねぇだろ!」
「えっ!?じゃあ、母の日の方がいいっ!?」
「そうそう。どーせなら、綺麗なカーネーションが、いるかーーー!!」
「ま、それはそれとして、後、かしわもち食べなきゃダメでしょー?こいのぼりは・・・、立てるところないから小さいのを作ってー。あ、かしわもち、作る?」
「作るって・・・」
「せっかくだし、作ろうよー、かしわもちー!」
ん!?と正広は難しい顔をする。
「かしわもちの葉っぱってどっかに生えてるのかな。それ使った方がほんものっぽいから、ピクニックっていうより、ハイキングにした方がいいのかな!兄ちゃんの作ったお弁当もって!
「俺が作るのか!?」
「だって、僕が作ったら、おにぎりオンリーだよ?それでもいい?」

恐ろしい。
なんと恐ろしいのか。
世の中のお父さんが、会社に行きたいという気持ちがよく解る。
小学生じゃあるまいし、何もそこまでアクティブに動かなくても!
しかし、計画を立てていなかった由紀夫は圧倒的に不利だった。

どうなる早坂由紀夫!

どうするゴールデンウィーク!

それはまだ始まったばかりだ!!

<つづく>


GWに10連休する人は、月に10日しか働かないというのは、自分でもびっくりでした。私はお休みがないので普通に仕事しちょります。ち・・・っ!

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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