天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

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ギフト番外編127話後編『ゴールデンウィーク合戦』

ナレーション(八嶋智人)『人は、やや長期の休暇を貰った時、どういう過ごし方をするのか。ここで、ある一つの家族について、検証してみよう』

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5月3日、早坂兄弟は群馬に向けてスタートを切った。
温泉にも行きましょうかと伊香保温泉も視野にいれ、目指すは渋川伊香保インター。
何でもない時に走れば、1・2時間で到着のはずの道程だ。
「兄ちゃん、そんな心配しなくったっていいじゃーん」
正広はあくまでもノンキだ。
二人分とは思えない荷物をレンタカーの後部座席に積み込み、CDは何聞こうかなぁ〜なんて考えていて。
「えっ!!」
助手席で硬直した。
「そ、そっか・・・!」
「そうだなぁ」
レンタカーについていたカーナビは、CD−ROM版。
別にCDを聞いても構わないが、その間のナビはできない。
「そっかぁ・・・」
しょんぼりと助手席に座った正広だが、いや、テープなら!と思い返す。
「テープなんか持ってないだろー」
「いや、実はもっているものがあります」
「何」
レンタカーは、営業所から借りた後、由紀夫が家の前まで持ってきている。助手席から降りた正広は、大急ぎで家に飛び込み。

しばらく出てこなかった。

「テープって・・・。ま、まさか・・・!」
由紀夫は青ざめた。
何年何月何日の、巨人戦のラジオ中継!とか言うんじゃねぇだろうな!
そんなバカな!と断言できないところが由紀夫の悲しいところだ。正広は、そのくらいのことはやりかねない。
「お待たせー!」
イソイソと戻ってきた正広の手には、2本のカセットテープがあった。それも、今時売ってなさそうな分厚いケースに入った古いもの。
「なんだそれぇ〜」
「えっとねぇ」
うふふ、と笑顔を浮かべながら、正広はカセットをセットする。
ざー・・・と、荒い音の向こうに聞こえてきたのは。

「なんじゃこりゃーーー!!!!!」

「兄ちゃんが昔、ニルスの不思議の旅を録音しようとしていたら、お母さんが掃除機をかけはじめちゃって、兄ちゃんが泣きながら怒っているテープ」
「捨てろーーー!!」

「いだい・・・」
走り出した車の中、ぎゅうぎゅうに締めつけたシートベルトで助手席に縛りつけられた形の正広は、頭頂部をぎゅうと押さえている。
もちろん、拳骨をくらった。
「面白いと思ったのに・・・」
白文鳥のしーちゃんは、大丈夫?と、正広の手の上に止まっている。
「面白いじゃねぇだろ!」
そのテープは、由紀夫が速攻取りだし、窓から捨てようとしたところを、そんなことをしちゃいけない!と止められたもんだから、伊香保温泉に沈めてやると足元に転がしている。
もう一つのテープも、ガンダムを録音しようとしてたら、父親から話し掛けられて憮然としている由紀夫の声が入っていたりなんかして、これも、伊香保に沈められる運命だ。
しかし、ダビングしてあるもんね・・・っ!と正広も負けてはいない。
「それより、せっかくついてんだから、ナビ使わなきゃだよ!」
元気よく正広はいい、操作するねと極限まで締めつけられていたシートベルトから逃れようとした。
「いや、いいや」
しかし、由紀夫はあっさりと断り、カーナビのCDを、持ってきたCDと交換した。
「はっ!これは!」
「そう!これは!」
深夜の通販でも売っている、60年代、70年代、80年代の、海外ポップシーンの集大成みたいな4枚組CD。
「買うだけ買ったけど、聞いてなかったから」
「あーー!!でも、なんかこの曲聞いたことあるぅーー!!」
腰越人材派遣センターに勤め出してから、年配の方々とのお付き合いが増えた正広は、その年代の音楽にも詳しくなってしまっていた。

由紀夫には、高速に乗っちゃったら、多少渋滞しようとそのまま乗ってりゃいいやという考えしかなかった。
最短距離が一番早く行けるだろうし、急いでもいない。
大体、正広が渋滞にはまりたがっているんだから、はまってやるのが親切ってもんだろう。
「なんか、あれだね」
CD3枚目が楽しく流れる車内で、正広が言った。
「渋滞って、やっぱ夜の方が盛りあがるね」
「・・・も、盛りあがるって・・・」
「こう、夜でさ、ずーーーっとヘッドライトの光で川みたいになっててさ!」
「それはおまえ、家でヘリからの映像をみてたら面白いってことで。乗ってる方にしたら、風景見えるだけ、昼の方がマシじゃねぇか?」
由紀夫は、時速10km程度で走る車から、当たりを眺める。
隣の車だったり、遠くに見える山だったり。天気もいいから、ゆっくりでもあまりイラつきはしなかった。
「でも・・・」
正広は、じーーっと前を見つめる。
「兄ちゃんには見えるんでしょう?」
「何が」
「この」
と言いながら、正広は前を指差す。さすがにシートベルトの呪縛は緩まっていた。
「先にずっと車が続いていることが」
「・・・まぁな」
かなり遠くで緩やかなカーブを描いている高速だったが、少なくとも、そのカーブまでは、車が切れる様子はない。
「でも、夜だってずーっとテールランプが続くんだから、一緒だぞ」
「そぉだけどぅーー!」
うずうずうず。
正広も辛抱が足りないタイプなので、そろそろどうにかしたくなっているようだった。
こんな時は、これに限る。
「次のパーキングエリアって、そこしかない変わったソフトクリームがあるらしいぞ」
「ソフトクリーム!?」
きらん☆
これでここから、次のパーキングエリアの途中にあるICは無視するはずの正広だった。

「なんかー、なんかぁ〜、消化不良だなぁ〜」
「そりゃ食いすぎだからだろ」
「ちっがーう!そーゆー意味じゃなーい!」
パーキングエリアごとに、ソフトクリームだの、たこ焼きだの、五平餅だの、ラーメンだの、地域限定おっとっとだのを食べた正広は、違う違うと激しく頭を横に振る。
「こー、もっとさー。パーキングに入れなーい!とか、もうエンジン切っちゃうー?とかさぁ〜」
渋滞グッズも使わずにすんじゃったじゃん、と、伊香保温泉の旅館に入った途端、ぶーぶー文句を言う。
「それでー、へとへとになったところで、ようやく辿りついた温泉で、ふぅ〜〜って言うのが醍醐味じゃん!醍醐味だよね、って、兄ちゃんどこーー!!!」

辿りついた温泉で、温泉の正しい入り方もへったくれもなく、まずはひとっ風呂と露天風呂に浸かりにいった由紀夫だった。
「あ、テープ持ってくるの忘れた」
足元に転がしていた、若かりし頃の恥かきテープは、すでに由紀夫に何度か踏まれている。
「・・・ま、いっか。どっかで適当に捨てよ・・・」
好きだったなぁ〜、ニルス・・・。
オー、カモナップ・ニルス♪なんて、ちょっと口ずさんでみたりした由紀夫だった。

あー、さっぱりしたと部屋に帰った由紀夫は、部屋にしーちゃんしかいないのを見て驚いた。
「ん?正広?」
どこかに出かけたのなら、しーちゃんを連れていくはずなのに、しーちゃんはいる。
「しーちゃん、正広は?」
そんな言葉に、しーちゃんは困ったような表情をして、ぱたぱたと飛んだ。そして、着地した先は。
「あ、トイレね」
部屋には、内風呂もトイレもある。特に気にせずお茶でも飲もうと準備をし、お茶とお菓子を平らげて。
「・・・大丈夫か?」
とさすがに気になった。
「正広ー?」
「おなかいだぁーーい・・・・・・・・・」

本当に消化不良だったらしい。

豪勢な夕食の予定だったが、病人用に急遽シフトしてもらい、早坂兄弟のその夜の食卓は簡素だった。
どこからどうみても体に良さそうではあったが。
「兄ちゃん、ごめんー・・・」
「いいけど、食える?雑炊とかすっごい美味そうだけど」
「うん、大丈夫・・・」
よろよろと布団から起きあがってくる正広は、もうダメ・・・、もう倒れちゃう・・・!といった空気を全身に纏わせ、しいちゃんもとても心配そう。
「はぁ〜・・・」
見た目が華奢なので、宿の女将さんも、渋滞でつかれてしまったのね、と大変心配してくれた。
まさか、入るパーキング入るパーキングで、アホか!ゆーほど食べていたとは口にできない。
明日には治ると思いますから、すみませんーと、心づけも多めに出してみたりなんかした由紀夫だ。女将さんや、仲居さんの夢は守らなくてはいけない。
「美味しそう〜・・・」
「美味いよ。マジで」
「兄ちゃん・・・」
向かい合わせに座った早坂兄弟だったが、正広は、すっかり弱い子モードなので、レンゲも持てませんと思い込み、ぱかっと口をあける。
「はい?」
「食べられない・・・」
「んな訳ねぇーだろ!」
それくらい一人で食え!と怒ろうとした由紀夫は、信じられないものを見た。
正広の肩に止まったしーちゃんまでが。
口をあけている。

・・・あれ?鳥ってそーゆーこと、するもの?子供でもないのに?あれ??

驚いたので、まずは、小さく千切った小松菜をしーちゃんの口元に持っていくと、ちみっと齧った。
「食うし・・・」
「あーーーんあぁーーーーん!!」
「解ったって!」
今度は正広の口元に雑炊入りれんげを。こちらは食べて当たり前とは言え、病人らしからぬ一口の多さがバカバカしさを助長させる。
「あのさぁ」
正広、しーちゃん、自分、正広、しーちゃん、自分、と食べながら、由紀夫は言った。
「もうちょっと病人らしさを出してみたら?しーちゃんの方が上手いぞ」
「えっ。だ、だって・・・!」
空っぽになった胃に、美味しい、優しいものが入ったら、またまた食欲をそそられてしまい、兄がくれるちみちみした量では満足行かなくなり。
「・・・自分で食べる」
「そーしなさい」
わしわしっ!と元気よく雑炊をいただく正広だった。

翌日の朝には、正広は完全復活を果たした。
旅館の美味しい朝ご飯をぺろりといただいた後は、昨日の夜入れなかった露天風呂に入り、その後、榛名山をレンタカーで攻め、赤城山にも行きたい!と足を伸ばし、イニシャルDを堪能。
「やっぱり、車欲しいー!」
と宿に帰ってきた正広は言った。
「でも、都内で車持ってても、あんま乗ることないぞ」
「えー、でもー、でもー」
車っていいなぁ〜。楽しいなぁ〜。車自体もカッコいいし、ドライブだって楽しいし。いいことばっかじゃん!と正広は思った。
車って素晴らしい。
VIVA!車!
しかも、まだ楽しみはある。
帰り道は、絶対渋滞だ!その渋滞を、今度こそ擦りぬけて帰るのさ!だってカーナビがあるんだもん!

「お体よくなってよかったですね」
優しい女将さんに言われ、正広は、恥ずかしそうな微笑みを浮かべた。
ニ泊目の料理は、綺麗にに平らげてしまっていたので。
「ご面倒おかけしました」
「いいえ。でも、帰りもお気をつけて下さいね。もう渋滞もひどいようですから」
「大丈夫ですー」
だってカーナビがあるんですー。
5月5日。夕方4時。
早坂兄弟は、宿を出発した。
間違いなく、ヘリからの映像の一つになるに違いない時間だったが、正広は浮かれていた。
「だって、カーナビあるもんね♪」
「カーナビあるからってなんだって?」
「だって、カーナビには、渋滞情報が出るんだよ♪」
「出ないよ?」
「出るよぉ〜。あっ、もー、兄ちゃん、あんま車運転しないから知らないんでしょー。渋滞情報がでるから、それを見て・・・」
「いや、でないって」
「・・・あれ?なんで?んー??」
レンタカーについてきていたカーナビの操作説明書を見ながら、正広は、あーでもない、こーでもないとカーナビを操作しつづける。
「だって、このカーナビ古いもんよ」
「・・・え?」
カキン。
正広は固まった。
「奈緒美の車に乗ってるヤツは、最新情報が常に入ってくるけど、これはただの地図みたいなもんだから。混んでようが何しようが、こいつの思う最短距離を指示するだけだぞ」
「うっそぉ」
「だから、例えば、都内までって指示したら」
由紀夫が手早くセットしてルート検索させる。
「な?」
「うわ!オール高速!」
むむ・・・!それは困ると正広は思った。渋滞を擦りぬけることが楽しいのであって、渋滞にはまるなんて経験はちょっとあれば十分だ。
「だったら、ナビする!」
「え?」
「地図みて、横道とか入ったらいけそうなとこを通ったらいいんでしょ?地図はあるし!」
「えっ!?」
そして、それが地獄の始まりだった。

「んー・・・、やっぱりねー、高速降りよう」
「え。降りるのか?でも、これ、料金所の渋滞だから、抜ければ多少は・・・」
「でもね、ここで降りたら、結構いい道があるみたいだから、その方がよくない?」
実際のところ、いい、とも、悪い、とも断言できない状況だった。
じゃあ、試しにと降りてみたところ、出口の料金所でも大渋滞。ETC専用レーンはすいているけれど、そこまで到達できない状態だ。
早坂兄弟はそれぞれ黙ったが、想いは遠く隔たっていた。
常識派の由紀夫は、これだけここで降りるということは、下も渋滞間違いなしと思い、正広は、
この辺りに住んでる人って、こんなに多いんだぁ」
と口にした。
「んな訳ねーだろ!こんなとこで!」
まだまだそこは山の中。新しい道がついているとは言え、迂回路はない。
「えっ?だって、こんなにたくさん降りて、ぎゃーー!!!」
降り口から先が、ぎっちり車で埋め尽されていた。
「ば、バックする!?」
「無理だろ、これは・・・」
無理だった。Uターンもしたかったが、当分は中央分離帯に阻まれて難しそうだ。
「中途半端にいい道つけやがって・・・!」
「綺麗な道だよねぇ〜・・・」
その道からどうにか抜けた後、正広は、地図を首っ引きで細い道を探した。が。
「一方通行ー!」
「こんな狭いのにー!?」
「狭いからだろ!」
「だったらー!えっとーー!!もうちょっと真っ直ぐ行ってー、んーー!!あれーっ!?」
次のICが見えてきたりなんかして。
「の、乗る・・・!?」
「乗ってみるか!」
と、暗くなった高速道路に上がってみたら、こらまた、綺麗だねー、テールランプ状態だったり。また降りてー、また上がってー、また降りてー。

「ホントによかったな・・・」
深夜になってうちまで戻ってきた時、由紀夫は呟いた。
「満喫しただろ。渋滞・・・」
「うん・・・」
よれよれと車から降りた正広は、しーちゃんを肩に止まらせたまま、よれよれと部屋に上がる。
転げ落ちないように後からついてあがった由紀夫は、そこで信じられない言葉を聞いた。
正広は、ふらふらしながらベッドにダイビングし、嬉しそうに言ったのだ。
「あーーー!!やっぱりおうちが一番!!!」

だったらでかけようとすんじゃねぇぇ!!

由紀夫の手の中で、2本のカセットテープが、べきゃ、と命を終えた。
そんなGWだった。


カーナビで渋滞情報をチェックしながら、ない車との競争!ってのを見ました。高速をずっといくより、渋滞情報をチェックして、下を通った車の方が早かったんですよ!
15分も!!
・・・あんまかわんねぇな・・・(笑)

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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