天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

このページの画像は、すべてyen@gallery様から使わさせていただいております!皆様も遊びにいらしてくださいね!

ギフト番外編128話『不運な女(の話)を届ける』

yukio
 

「兄ちゃん。哀しい話をしてあげようか」
「あ?」
水曜日の夜。正広が言った。水曜日の夜ともなると、正広はテレビの前で大変苦しむ。9時からは、はぐれ刑事を見るべきか、ウェディングプランナーを見るべきか。10時からは水10をみるべきか、ごくせんを見るべきか。8時からはためしてガッテンに決まっている。
どうせ裏番組はビデオで録画しているので、別に悩む必要もないはずなのに、どうしようかなぁ〜と新聞を眺めては首を捻るのが好きらしい。
「なんだ、哀しい話って」
「哀しい女の人の話なんだよ」
「そんな話は聞き飽きてるぞ?奈緒美とか、奈緒美とか、奈緒美とかから」
「まぁまぁ、そう言わずに」
松本紳介まで見てしまえば、ほぼ満足する正広は、ちっちっちと指を振る。
「え?それは常に哀しく生きてる女の話じゃなくて?」
「・・・兄ちゃん・・・」
もう。ほんとは仲良しのくせにぃ、と思いながら、奈緒美には聞かせられないと正広は思い、話を続けた。
「その人は車を持ってるんだよ。結構変わったデザインの」
「車?」
「それに、カーナビをつけた」
「うん」
「そのカーナビは、『ツヨナビ』と呼ばれていたんだねぇ・・・」
「は?」
「『ツヨナビ』。機械の中に、小さな草g剛くんが入っていて、必死に道路地図を見ているようなナビをするっていう恐ろしいナビなんだ」
「・・・」
「だって!高速道路を走ってるのに、この先のコンビニの角を曲がれなんて指示を出すんだよ!?」
「なんでそんなのつけんだよ!!」
「その人はね・・・」
正広は哀しそうに首を振る。
「別に方向音痴ではないはずなんだけど、道を間違えてしまうその人に、お友達が恵んでくれたんだよ。お友達は、ザ!カーナビ!っていう立派で高性能なナビを買ったから」
「はぁ〜・・・」
ソファに寝そべって、なぜか事務所にあった薬局新聞なんていう業界紙を隅から隅まで読んでいた由紀夫は置きあがり冷蔵庫に向かう。
「あ!どこ行くの!」
「・・・話長そうだから」
「アイスあるよ!アイス!」
自分用にビールを、正広用にアイスを持ってきて、さぁ、話せと思った由紀夫だったが。
「おーいちー!」
新作アイスでご満悦の正広は、アイスを食べ終えるまで話を再開させなかった。
別にちみちみ飲むものでもないので、由紀夫のビールも、一気になくなった。
「・・・」
2本目を取りに行くしかなかった。

「そんで、そのナビがどうしたって?」
やっぱりプリンとかも欲しかったなぁ〜。プリン冷凍庫で凍らせると美味しいんだぁ〜、などと考えていた正広は、ナビって何?と一瞬思い、あぁ!と手を叩く。
「そうそう。あ、でね、そのナビをつけて、喜んでたんだよ。そんで、今日、その人は、そのツヨナビ搭載カーに乗って、免許センター経由で、デオデオに行く予定にしてたの」
「・・・は?」
「免許センター経由、デオデオ」
「なんだそれ」
「免許センターで、住所変更をして、デオデオで、買い物をするんだよ」
「デオデオじゃなきゃダメなのか?」
「デオデオのカードを持ってるんだよね、その人」
「はぁ・・・」
「免許証の住所をその人がどれくらい変更してなかったかっていうと、免許証の住所になってるところから、すでに2回引越ししてるのに変えてないくらい変更してなかった。だって、その人は、平日の夕方でも免許センターがやってるってことを知らなかったから」
「頭悪いんだ」
「悪いんだね」
正広は気の毒そうな顔をして首を振る。
「でも、やっとそれに気がついて、免許の住所変更をしてから、えーでぃーえすえる用のらんかーどを買いたかったんだって」
「解ってないだろ。ADSL用のLANカード」
「うるっさいな!と、とにかく!用があったんだってば!」
そこのところは、綺麗に理解できてなかった正広は赤い顔で声を上げる。もちろん、今でもなんのことやら解っていない。
「それで、会社帰りに駐車場まで行ったんだ。その人、おうちと駐車場が遠いから」
「ふーん」
「それでね、駐車場について、キーレスエントリーで鍵を開けようとしたんだけど、開かなかったんだって」
「ん?」
「あれ?ってその人も思って、キーを見たら、なんか点滅してるボタンがあって、あぁ、キーの電池が切れたんだなって思ったの。だから、普通に鍵をさしてあけて、エンジンをかけようとしたら」
「かからなかった」
「ピンポン!!」
びしぃ!と正広は兄を指差した。ホッペには、アイスの上にえへえへとかけた、チョコスプレッドがひっついている。
「バッテリー」
「ピンポンピンポン!!バッテリーが上がってたんだ!」
「だっせー!」
「でも、その人にはその理由が解らなかった。ライトはつけていなかったし、他に考えられることがない。でも、うんともすんとも言わない車をどうにかしなくちゃいけなかった。その人は、JAFに会費を払っていて本当によかったと思ったんだ。だって、前の車でも1度バッテリーを上げちゃったことがあるけど、その時はJAFに入ってなかったから、お父さんや、お友達に、助けてもらったんだって。今回は!ついにJAFを呼べる!と携帯から電話した。兄ちゃん、JAFに電話したことある?」
「ねぇよ。会員じゃねぇし」
「あそっか。あのね、割と、フレンドリーなお姉さんが出たんだって。最初は丁寧だったんだけど、徐々に、あ!あそこですね!はいはい!解ります!みたいな感じで。変な場所にある駐車場だったんだけど、すぐに解ってくれて、その人はすごく助かったんだけど、3・40分かかるって言われて・・・」
「まぁ、でもそれくらはかかるんじゃねぇの?」
「だよねぇ。だって、どこかのJAFから急行したって、それくらいかかっても当然じゃない?だから、その人も大人しく待とうとしたんだよね。携帯があったから、友達にメールでもしてたらいいやって。たくさんメールも打って、励ましのメールももらってたんだけど。その駐車場、蚊がいて!」
かゆいかゆい!というジェスチャーを正広はした。
「暑かったから窓をあけようにも、困ったもんだよね。あかないじゃん。バッテリー上がっててパワーウィンドーって。だから、ドアを開けて携帯打ってたんだけど、蚊がどんどん入ってきて、どんどんくわれちゃって!もう暑くないっ!と思ってドアを閉めても、中にいるんだって!1匹くらい!最悪じゃない!?」
「最悪だなよなぁ」
「いかにも美味しそうな体をしてる人なんだよ。ぷくぷくして。でも、思ったよりも早くJAFの人が来てくれて、しかも、眼鏡をかけて、ちょっとカッコいい人だったらしいよ」
「そりゃときめくなぁ。ピンチを助けに来てくれたってだけでも嬉しいのに」
「その上カッコいいときちゃあ、ガッツのある人なら、恋愛に発展させてもいいくらいだけども、その人にはそんなガッツもなけりゃ、魅力もないもんだから」
「・・・おまえも時々失礼だよな」
ケラケラ笑っている正広を見つつ、小さく兄が呟く。
「結局、バッテリーは、完全放電されてて、エンジンとめたら動かないってJAFのお兄さんは言った。取る方法としては、ガソリンスタンドで1、2時間充電してもらうか、バッテリーそのものを交換するか。手っ取り早いのはバッテリーを交換するってものなんだけど、1万円くらいかかって、充電でも2000円くらい」
「微妙な選択だなぁ〜」
「その人は、じゃあ、バッテリーを交換しますって言ったんだよね。太っ腹なとこを見せたかったみたいで。散々気をつけてくださいね。気をつけてくださいねって言われて、それじゃあ出発ってなった時に、音がしたんだって・・・!」
「音・・・?」
「なんかね・・・。シャシャシャシャ・・・って音がしてたんだって。何かの回転に合わせるかのように、そんな音が!」
「えーー!」
「やでしょーー!!!
なんかやだぞーー!!と震える早坂兄弟。
「それで、オートバックスが近くにあるって言われていたけど、同じように、車を買った店も近いはずだからそっちで直してもらおうか!って思ったの。でも、担当者の人がいないって言われていたし、何時までやってくれてるのか解らないし、ディーラーだから、少なくとも車を預けてになっちゃうし・・・。悩みながら走っていたら、徐々に音はしなくなってきたから、また色々考えてみたんだって。ガソリンスタンドで2時間2千円と、オートバックスで、バッテリー交換1万円。その人貧乏だから、今すぐバッテリーはなぁ〜・・・ってなっちゃって・・・。だから、ガソリンスタンドにしたんだよね。それも、家の近くのガソリンスタンドに。それなら、家で待ってればいいし、らんかーどは、他のお店でも買えるしと思って。でもね」
「充電できなかった?」
「ううん。できたんだけど・・・。ガソリンスタンドの女の子は、1時間くらいかかりますって言ったんだって」
「・・・うん・・・。ん?」
「その人は、1時間くらいなら、ガソリンスタンドで待ってようかなって思っちゃったんだよね」
「あ、そうなの?」
雑誌の代わりに、なぜか通販カタログがたくさんおかれてるガソリンスタンドで、じーーっとカタログを見ながら待ってた。ガソリンスタンドの女の子が、ほんとに背がちっちゃくて、タイヤの上に足をかけてまで、車の窓をふいてくれてるのを見ながら。それで、もう1時間たっただろう!って頃に、スタンドの男の人がいったんだって。『バッテリーの力が弱くなってるから、そろそろ替えた方がいいのはいいです』って」
「・・・あ。じゃあ、電気つけっぱなしだったとかじゃなくって、もうバッテリー自体が弱ってたってことか」
「そうなのかもしれない。事実、その人が車に乗るのは久しぶりのことだったから」
ふぅ、と正広はため息をつく。
「だったら、バッテリー交換すりゃあよかったよ!って、思ったんだよね。どうせ替えなきゃいけないなら、今の時間とお金が無駄じゃん!って・・・」
「なるほどなぁ〜・・・」
しばし、しょんぼりした空気が二人の間に流れた。

ビールとアイスの次は、日本酒とプリンを間において、なおも話は続く。
「だからって、じゃあバッテリー替えろや!っていうことも出来ず、その人はもう暫く充電できるのを待って、スタンドを離れた。向かうのは、ヤマダ電気」
「デオデオは?」
「もう8時を過ぎてて、閉まってるはずだったんだよね。でも、ヤマダは9時までやってるお店があるからってそっちに行ったんだって。もう、ヤケになってたんだよ。免許はダメでも、らんかーどは!って思ったみたい。でも、電気屋さんにいけば、木村くんの新しいパンフがあるから、それはそれで嬉しいじゃない?すごく可愛いんだよねー。ミニチュアダックスを抱っこしてるの!もう一つあって、それも欲しいって思ったんだけど、上にモノが置いてあって取りにくい。どうしようかなーって思ったら、お店の人が、「パソコンをお考えですか?」ってやってきたんだって」
「丁寧じゃん」
「でも、その人はびっくりしちゃって、ノートパソコンを考えてるんですぅーなんて適当なことを言いながら、らんかーどはどこですか?って聞いた。聞かれたお兄ちゃんは、必死に敬語を操って場所を教えてくれたらしいよ」
「必死にって・・・」
「なんか、必死に丁寧にしようとしてる!って感じだったっんだって」
若い店員の必死さを想像し、二人はくすくすと笑う。
「それで、僕はよくわかんないんだけど、その、らんかーどっていうのは、えと、種類が色々あるんでしょ?」
「・・・あるんじゃね?」
ITからは遠い位置にある二人は、ぼんやりとしたイメージで話をする。
「その人が必要としている条件は、どのかーどでも満たしてくれるんだけど、値段は、2000円代〜5000円代まで色々あったの。そりゃ2000円代を選ぶよね。他の店員さんもきてくれて、その人が持ってるカードで大丈夫ですよって言ってくれたから、2180円とかのカードを持って、今度はケーブルのとこまで連れてってもらったの」
「カードとケーブル」
「・・・なんか、いるんだって。その時も店員さんが、その人がちゃんとメモしてきた条件を見て、それはこの辺りです。後は、ケーブルの長さと色で選んでもらえればってゆって」
「うん」
「その人も、600円とかってやつを買った。まぁ、3000円くらいだろうって思ってレジに持ってってら、4000円っていわれて!え!?って思ったんだよね。だって、充電やらガソリン満タンやらで、現金があまりなかったんだよ。4000円円もないってどう!?って思うんだけど、ないものはしょうがあいじゃん?カードでも大丈夫ですか?ってゆったら、お店の女の子が、ポイントがないから使えませんって言うの」
「・・・ポイント?」
「でも、その女の子が言ってるのは、ヤマダ電気のポイントカードってヤツで、その人はクレジットカードのことだったから、もちろん使えて、よかったーと思った。それでも金額がおかしいなと思って、レシートを見たら、2180円って値札の上にはあったけど、それ、どうやら隣の3280円のヤツが移動してきてたらしくって!」
「ついてねぇーー!!!」
「・・・その人さぁ・・・、羊みたいな性格してるから、羊毛とられたら取られっぱなしなんだよねぇ〜・・・」
日本酒をぐびり、プリン(冷凍庫にいれてちょっとしゃりっ!)をぱくり。
二人は、その気の毒で羊のような女に思いを馳せた。2秒ほど。

「時間は8時半。その人のうちに帰ると9時になるくらいだった。9時に帰ればウェディングプランナーが見られるって思ったその人は、ヤマダ電気とくっついてるダイエーで、安くなってるお弁当を買った」
「哀しいな・・・」
「哀しいよね・・・。豚ショウガ焼き丼498円が半額だったらしい・・・。もし、ウェディングプランナーがなかったら、そのお店から、数百メートルのところに、素敵な餃子屋さんがあったんだよ。スター餃子っていう」
「スター餃子!?」
「すごく素敵なお店なんだって。常連さんに、佐藤浩市の顔に、陣内孝則の魂をいれたような人がいて」
「お、結構カッコいい」
「うん。でも、本当は板尾いつじに似てるんだけどね」
「板尾かよ!」
「それもすごくね!すごく似てる。話し方とか、話す内容まで似てる」
「・・・話す内容まで・・・」
「なんて言うのかなぁ。いい服を着せれば着せるほど、服が安っぽく見える感じの人なんだって。兄ちゃんときは、なんか、スーパーのTシャツ着てても、どこのブランド?って思われがちだけど」
「お、プリン食え、プリン」
「えへへぇ〜。プリン〜。あっ!それで、その店は、餃子はもちろん、ナスのからし漬けとか、親鳥のニンニクいためとか、すごく美味しいとこなんだって」
「行けばよかったのに」
「そうだよね。でも、その人。テレビ依存症で、支配されちゃってるから。結婚式をすっぽかされた木村佳乃がどうなるのか!とか気になってしょうがなかったから帰った。でもね、帰り道でも、すっごく信号にひっかかっちゃって、ようやく9時2分。おうちに到着」
「ちょっと間に合わなかったか」
「でも、2分だからね。まいいやって、豚しょうが焼き丼に、梅干しやら、焼きらっきょうやらをトッピングしながら食べていて、気がついたんだよ」
「何に?」

「お金を払っただけで、らんかーどとらんけーぶるを受けとってないってことに」

がっくり・・・・・・・・・・・・。
早坂兄弟は倒れ付した。

翌朝、正広は兄に言った。
「でも僕はね」
「で、でもって」
前の繋がりがない会話に、由紀夫はたじろぐ。
「その人の車のバッテリーが上がった理由」
「あぁ。だから、弱ってたんだろ?」
「ううん。僕はね・・・」
「うん」
「『ツヨナビ』が、考え事でもしてたんじゃないかって思うんだ・・・!」

車のバッテリーを上げてしまう考え事をするカーナビ!?

まだまだ世の中には不思議なことがある、ということで。


そんな訳で、これは、2002年5月22日の私の3時間半です。
哀しかった・・・。
あぁ、哀しかった・・・。ちきしょお!ツヨナビめ(笑)!

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

今までのGift番外編へ

What's newへ

SMAPレポートへ

SMAPメニューへ

トップへ