天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

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ギフト番外編129話前編『プラチナチケットを届ける』

yukio
 

ワールドカップイヤーである。
正広は巨人ファンの魂を持つ野球ファン。野球であれば、下は草野球から上は大リーグまで、なんでも好きだ。
しかしそんな正広であっても、ワールドカップまでなれば興味はある。
カメルーンはいつ来るんだと中津江村の人の気分でハラハラもしたし、ベッカムの怪我も心配だ。もちろん、日本代表が決まった時にも喜びやら衝撃やらがあったし、アズーリって何!?と思っていたりもする。
フーリガンってほんとに暴れるの!?とかも。

「だから、心配なんだよねぇ・・・」
腰越人材派遣センターの午後3時。おやつタイムに正広が呟く。
「何が心配なの?」
今日のおやつは、なぜか柏餅。美味しいお茶をいれての和な時間だ。
「だって、頼まれるかもしれないじゃないですか」
「何を?」
野長瀬は、精神に乙女のような部分があるが、食べ方はワイルドだ。生まれた時から食べていたんじゃないか?というワイルドさで、柏餅をむしゃむしゃ食べている。
「ちょ、ちょっと!あんこ飛んでますって!」
いやーん!と典子が髪を払った。それほどまでに、野長瀬の食べ方はワイルドだ。
「あぁ、あぁ、汚しちゃって・・・」
ふきふきと台拭きでテーブルの上を拭いた正広は、しばし自分の柏餅に没頭した。有名なお店ではないけれど、近所の和菓子屋さんの人気メニューだ。
「和むわねぇ〜」
「和むよねぇ〜・・・」
のんびり。
今日の腰越人材派遣センターはヒマだった。

「それで、何が心配だって?」
一人、仕事をしていたのは早坂由紀夫だった。
彼は、受け取りとして撮影してきた写真たちを、アルバムに貼りつけていた。由紀夫は結構こういうのが好きで、センスのいいアルバムになっているのだが・・・。
「え?何?」
振り向いた正広が、ほっぺにあんこをつけていた時には、サザエさんか!と仰け反った。
「兄ちゃんの分もあるよ?心配しなくても」
「誰も柏餅のことなんか心配してねぇよ!」
「えっ!いいんですか!?」
「だからっておまえにやるとも言ってねぇ!」
なぜか柏餅で野生を掻きたてられてしまうらしい野長瀬を叱りつけ、由紀夫は正広の方を向く。
「おまえが、何を、頼まれるのが、心配、なのか」
一言一言区切って言うと、一瞬きょとん?とした顔をした正広が、あぁ!と手を叩く。
「そうそう!」
「あ!そうよ!何が心配なのよひろちゃん!」
「さっさと喋っとけ!」
会話が中途半端に終わることが許せない男、それが早坂由紀夫だった。

「そうそう。だから、だから。心配なんだって」
2杯目のお茶を飲みながら正広はよくやく口を開いた。
「もし、チケットを運ぶように言われたらどうしようかって」
「チケット?」
「ワールドカップのチケット」
「あぁ!」
典子が、そうねそうね!と頷いた。
「もし、日本戦のチケットをどこかに届けてとか言われたりしたら、怖いよね」
「なんで」
由紀夫が納得いかない顔になる。
「だってワールドカップのチケットだよ!?」
その危機感のなさに激昂したのが正広だった。
「みんな欲しがってるんだよ!?そのチケットを兄ちゃんが持って、自転車で運んでるなんてバレたら襲われちゃうよ!?」
「襲われるか!」
大体、なんで、自分がチケットを持ってるって回りの人間に解るんだと由紀夫は呟く。
「だって!」
しかし、それが更に正広を激昂させた。
「情報はどう漏れるか解らないんだよ!今は!!」
例えば!とシミュレートしてみせる。
「日本対ロシアのカテ1チケットを2枚持っているAさんがいる」
「カテ1なんですか!」
野長瀬仰け反る。典子頭を抱える。
「カテゴリー1って・・・」
「メインスタンドかバックスタンドに座れる、一番高いチケット、カテゴリー1!」
兄に対して、なぜか得意げな正広だ。
「その2枚のチケットで彼女と横浜に行くつもりだったAさん。しかし、ついこの間、彼女とは別れてしまったのだ。サッカーサッカーって、あたしとサッカーとどっちが大事なのよ!っていうセリフとともに・・・!」
「なんて女だ!」
「でも、解るわ!彼女の気持ちも!」
「だって典子ちゃん、ワールドカップなんだよ?」
「ワールドカップだって言っても、興味がない人にはどーでもいいことなのよ。野長瀬さんの切手収集と同じで」
「えぇ!?切手は楽しいよ!?」
「野長瀬と切手・・・」
大きな男が、ちまちました作業をしているのか・・・。由紀夫は、少々目頭が熱くなってしまう。
「でも、Aさんはまだ安心してた」
正広の話は続く。
「だって、彼の手にはワールドカップのチケットがあったんだから!当たったことは、彼女にはまだ内緒にしてて、びっくりプレゼントにするつもりだったら、日本VSロシア、カテ1チケット・・・!」
「いやーん!欲しいぃ〜!」
「だから、Aさんは、彼女に言ったんだね。そんなこと言わないで、ほら、日本VSロシアのチケットが・・・!」
「彼女もさぞ喜んだでしょうねぇ・・・」
うん、うん、と野長瀬もウットリしていたのだが。
「なのに!Aさんを待っていたのは、彼女の平手打ちだった!」
「えぇっ!?」
「なんでなの!ひろちゃん!」
「『何でもかんでもサッカーって!世の中には、サッカーなんてこの世から消滅したって気がつかない人種がいるのよっ!』」
「そんな言い方って・・・!」
あまりのショックの野長瀬は号泣寸前だ。彼は、流行りものには取りあえず乗っとくお人柄である。
「そして彼女はAさんに背中を向けて去っていく・・・」
「いくら自分が好きだからって、それを押しつけられるのは我慢できない・・・ってことなのね・・・」
典子もしんみりしている。彼女にも、そんな経験があった。何度か。いや、何度も。押しつけられたこともあれば、押しつけたことも。
あぁ。
あの時、なぜもう1歩引けなかったのか。
あたしも、あいつも。
どこか遠くを見つめている典子に耳に、正広の言葉が聞こえてきた。

「『イタリア戦なら行ったのに!』」
「ミーハーじゃん!」
「男前が見たいだけじゃないですか!」
「そんな訳で、Aさんのチケットは1枚、宙に浮いてしまった。もちろん、愛しかった彼女の名前が入っている、真っ当なチケットだ。でも、それはたった1枚。果たして誰にどう譲ればいいのか、Aさんは悩んだ。サッカー友達には言えない。逆に言えない。みんな仲間たちだから、一人だけ、誰かを呼ぶことはできない。だからといって、サッカーに大して興味のない会社の人というのもイヤだ。一体どうすれば・・・!」
「それで、どうしたんです、Aさんは!」
「だから、Aさんは、新しい友達を作ろうとしたんだな。サッカーが本当に好きで、それが例えば、エクアドルVSクロアチアでも、見たいなーーっていう人を!」
「なんで、そのカード・・・」
「・・・いや、あんまり聞いたことがないから・・・」
ファンに聞かれたらまずいんじゃねぇの、という顔の由紀夫に、もごもごと言い訳をしたりする。もごもご・・・。
「と、ともかく!」
しかし、気を取りなおし、正広は話を進める。ここからが、重要なところなのだから。
「ついにAさんは、理想的な友達と知り合った。そしてそのBさんへチケットを渡したいんだけども、時間の都合でどうしても直接会うことができない。それに、チケット代のこともあるし、確実に受け渡しをし、正しくチケット代をもらうために・・・!ってことで、うちに頼みに来るんだよ!!」
「えーー!!じゃあ、ロシア戦のチケットがあるってこと!?」
「え!うちの事務所に!?」
がったん!とけたたましい音を立てて、典子と野長瀬が立ちあがる。さすがに目の色が変わっていた。

「いやいや」

疲れた声が由紀夫から零れる。

「ある訳ないだろ・・・」
「まだ来てないよ。ラッキーにも」
正広はケロっとして言い、あー、そんなの来たら困るなぁ〜と、再度呟いた。
「でも、きっとね。Aさんがチケットを持ってるってことを知ってる人がいると思うんだよ。やっぱり、人の子だから、嬉しくて、会社の人とかには言ったんじゃないかって思うんだ。それで、彼女と別れたっていうか、捨てられたことを知ってる人もいるだろうから、チケットが1枚余るってことは、知られてるって思うんだよね」
「そうなると、由紀夫ちゃんが危ない・・・!?」
「そーなんだよー!襲われたらどーしよーと思ってー!」
「襲われるか!!」
「だって、サッカーファンって怖いんだよ!トルコのサッカーファンは、海外のチームが自分とこに来たら、空港で出迎えて投石とかすんだよ!ホテルの外で、一晩中歌を歌って、眠らせなくしたりするんだよ!ジャンクスポーツでゆってたもん!」
「アフリカとかだったら、呪術士が呪うとか言ってなかったっけ」
「うそぉ!そうなの、兄ちゃん!?」
「効き目があるかないかはともかく、呪われたらヤな感じだから、禁止とかって聞いたことがあるようなないような・・・」
「兄ちゃん、ピンチじゃん!!」
「だから呪われないから!」
「断ろう!やっぱり!やっぱり断るね!」
「何を!」
「チケットを運んでくださいなんて依頼は断る!怖いもん!」

「あのー、すみませーん」

ドアが開き、日の光を背中から浴びて逆光になっている男が、腰越人材派遣センターに入ってきた。
スーツをきた、30代前半くらいのサラリーマンだ。
まだ顔ははっきり見えない。
「届け物をお願いしたいのですが・・・」
「あ、はい・・・」
立ちあがった正広は確信していた。
この人の依頼は、『チケットを届けろ』だ。
そうじゃなかったら、ここまでの長い長い前フリが無駄になってしまう!
「どうぞ、こちらに」
震える声を押さえ、正広は、接客スペースへと、そのサラリーマンを案内した。

<続く>


私の気持ちを読まんでもええんじゃ!ひろちゃんめ!

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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