天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

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ギフト番外編129話後編『プラチナチケットを届ける』

ワールドカップのチケット騒動は、1週間前とまるで違ってきている。
果たしてどうなるこのネタ(笑)!

yukio
 

おやつタイムの腰越人材派遣センターにやってきたサラリーマンは、特に不審なところのない人物だった。
これといった特徴のないスーツ。
縁なし眼鏡。
書類ケース。
机に向かって、名前や住所などを書類に記入してもらいながら、正広はさりげなく観察をしていた。
「あの」
「は、はいっ」
じっと見つめていたところで、突然声をかけられ、少々慌てて笑顔を作る。
「こちらはー・・・、携帯の番号とかの方がいいですか?」
サラリーマンが指差していたのは、『連絡先』という枠内だった。
「あ?あぁ、はい。あ、よろしければ」
これらの書類は、形式上書いてもらっているもので、社内で重要視されている訳ではない。本当のことを書いているかどうかは判別できないし、実際に問題が起こった場合は、あまり表沙汰にはできない方法で、依頼者のことは調べ上げられる。
書く方も、結構適当に書いているようだが、このサラリーマンはきっちりしている人らしい。
「これでよろしいですかね」
「結構です。ありがとうございます。それで・・・、ご依頼品は・・・」
正広の言葉に、サラリーマンがカバンを開けた。薄い書類ケースだ。

「・・・やっぱり・・・!?」
典子が息を飲む。
「ロシア戦ですか・・・!?」
野長瀬は手に汗握る。

「こちらなんですが・・」

「ひぃ・・・!」
息を飲み、手に汗握っていた二人がひし!と手を取り合う。
サラリーマンが手にしていたのは、封筒だった。A4サイズが3つ折りで入る長3号と呼ばれているもの!
「や、やっぱり・・・!」
「ロシア戦カテ1・・・!」
びし、びしっ。
「決めつけんな」
後から二人をはたいた由紀夫は、不審に思われる!と二人を引っ張っていく。
けれど、少々引きつった正広の横顔と、封筒には目をやっていた。

「こちら、ですか」
「はい、あのー・・・、チケット、なんですが」

チケット・・・!
やっぱりやっぱりやっぱりチケットなんだ!そうなんだ!ひぃ!
「はい」
落ちついた声を出しながら、頭の中はぐるんぐるんと回っている。あぁ、Aさん!彼女とのデートは無しになったんだね!そんなにサッカーが好きだったの!?
「これを、届けていただきたいんです。あの、大事なチケットで・・・」
「あ、はい」
重々しく正広は頷く。解りますとも!と。
「本当なら直接手渡しをするつもりだったんですが、私これから、急に仕事で地方に行くことになりまして・・・」

えぇっ!?
由紀夫までもが驚いた。
せっかくのロシア戦カテ1なのに、見られないの!?マジで!?
「え、じゃ、じゃあ・・・」
「このチケットは人に渡さなくてはいけないものなんですが、それができそうもないんです。当日では不安ですし」
「あ、あ・・・、明石さんは、見にいけるんですね?」
彼は、本当にAさん(明石さん)だった。
「あ、自分のですか。えぇ。自分のは持っていて、まぁ、なんとか帰ってこられるとは思うんですが・・・」
「そうですよねぇ。それはねぇ、帰ってこないと」
「そうなんですよぉ」
明石は生真面目な顔で頷く。きっと、昔はサッカー少年だったに違いないと、勝手に正広は思う。
「じゃあ、お届け先は・・・。あ、横浜の方ですか」
「そうなんです」
「こちらにお届けすればいいんですね」
「はい。できれば急いで」
「解りました」
渡された封筒には、きちんと封がしてあり、表書きには、相手の名前が入っていた。女性名だ。
Aさんったら・・・。
丁寧に受け取った正広は、よかったと安堵したように見える明石の顔を見る。
サッカー好きの女性と、知り合えたんだね。
よかったね・・・!

そして、明石は腰越人材派遣センターを後にした。
ありがとうございました、と、全員が丁寧に頭を下げ、ドアが閉まった音を確認した瞬間。
「ど、どーするっ!?」
「うわー!うわー!見せてー!」
「だっ、ダメですよ、典子ちゃん!封してあるんだから!」
「だってだってこんなの!」
ぴしっ!と封筒を取り上げた典子は、もうすっかり覚めきったお湯のみの上にかざす。
「こうやって湯気で湿らせたら解らなくあくもんじゃないの?」
「少年探偵団の時代だな、それは」
「大丈夫よー!絶対ー!」
「すかしたら?すかしたらっ?」
開けるのはマズイ、と正広も思っているが、シルエットくらいは構わないだろうと典子の手から取り戻したチケットを、明るい日差しにかざす。
「み、見えます!?」
野長瀬もなぜか必死だ。
「あっ!ち、ちくしょ・・・っ!」
封筒の中にあるのは、封筒と変わらないサイズの紙のようだった。
「ちゃんと包んである・・・!」
「やるわねぇ!」
「やっぱり、大事なチケットだから、あぁっ!」
それでも、なお、紙をすかしてまでも中身を見ようとしていたのに、その封筒は、正広の手から由紀夫の手に移る。
「なんか、いい方法あるの!?」
あの兄のことだから!と、期待に瞳をキラキラさせている弟を、由紀夫は深く、重々しく頷いた。
「何っ?どーすんの?どーすんの!」
「あ!封筒の偽造でしょ!由紀夫さん!だって、これ社名入りとかじゃないもん!」
「すっごい!兄ちゃん、あったまいー!」
同じサイズの封筒封筒!と正広は探してみるが、残念ながら事務所にある封筒は、すべて社名入り。
「あー!こっちが無理かー!じゃあ、買ってくる!同じの!」
お財布を手に、すくっ!と立ちあがった正広は、自分より先に事務所を出ようとしている男の姿を見咎めた。
「兄ちゃん?」
それは由紀夫の後ろ姿。くそ暑いのに、スーツを着て、メッセンジャーバックを斜め掛けにした早坂由紀夫の後姿だった。
「どこ行くの?」
「横浜」
「なんで?」
「なんで?」
驚いたように由紀夫は振り向いた。
「届けにだよ」
「何を!?」
「は!?これ!このチケット!」
「えー!うっそぉー!」
正広は倒れそうなほど驚いた。

「まだ見てないじゃん!」
「見ないだろ!普通荷物は!」
「だってー!ロシア戦のチケットぉー!」
「由紀夫さん!とりあえず!大丈夫ですって!私、その封筒の筆跡練習しときますし!」
「それに由紀夫ちゃん、まだ柏餅食べてないじゃないですか!」
「別にいらねぇって!」
「じゃ、食べちゃいますよ!私食べちゃいますけど、いいんですかっ?」
「兄ちゃん!すっごく美味しいんだよ!この柏餅!」
正広は、ひしっ!と兄の腕をつかんでいた。
離してたまるか!と必死だった。
あぁ、この手は離さない!この手を離してしまったら僕の魂ごと離してしまう記がするから!!

・・・あり?
これって、ICOのCMだっけ。

そう、正広の気持ちが、とあるプレイステーションソフトに移った瞬間、由紀夫は正広の手を振りきり、事務所の外に出ていた。
「あぁっ!」
振り切られた正広は、急いでドアを開ける。
「兄ちゃーん!」
そして、自転車で逃げるように出ていく兄の背中に向かって叫んだ。
「兄ちゃんは、ロシア戦のチケットなんて持ってないよねー!」
「持ってません!由紀夫ちゃんは持ってませんよー!」

あ・・・!アホか、あいつら・・・!

昼下がりの住宅地を走りぬけながら、奥歯が潰れるほど噛み締めた由紀夫だった。

その怒りのまま自転車で横浜にいけるほど、由紀夫も無邪気ではない。
最寄駅の有料駐輪場にまっしーんを預け、電車に乗った。
平日昼間の電車は、結構すいている。いい天気の中、電車に揺られていた由紀夫の気持ちは、徐々に落ちついてきていた。
受け取りの写真を取らなくてはいけないから、その時、チケットを出してもらって、一緒に取らせてもらえばそれでいいか、と思う。
アップで撮れば、見たいって気持ちはどうにか収まるだろう。

つまり、由紀夫も、思い込んでしまっていたのだ。
自分が届けようとしているチケットが、ワールドカップのものだと。

「はい?」
届け先のマンションのチャイムを鳴らすと、まだ若い女の子が出てきた。平日昼間に家にいるということは、ノンキな大学生といったところだろう。
「お届け物です」
「届け物?」
「はい、明石さんか・・・っ!」
依頼者の名前を告げながら、バックから封筒を取り出した由紀夫は、その封筒をひったくられ目を丸くする。
「あー!明石さんだー!わーい!」
「あ、あ、そ、そうです。明石さんから、チケットを・・・」
「嬉しいィー!」
ぎゅう!と封筒を抱き締める彼女は、心から嬉しそうだった。キラキラしていた。
「ありがとうございますー!でも、明石さん、どうしたんですか?直接受け取りに行こうと思ってたんですけど!」
「急なお仕事で身動きが取れなくなったらしくって」
「え!じゃあ、当日は・・・!?」
彼女の表情が曇った。
「いや、当日はどうにか大丈夫そうですが」
「あ、よかったぁ〜・・・!」
よかった、よかったと言いながら、彼女は封筒を開ける。確認してもらわないといけないし、写真も取らないと、とバッグからポラロイドを出した由紀夫は、顔を上げて、目が点になった。

「・・・・・・・それは、なんですか・・・・・・?」
「すごいでしょー!これ、関係者用のチケットなんですぅーー!!」
「・・・関係者用・・・」
それは、由紀夫が想像していたものと、まるで違うチケットだった。
由紀夫が知っているワールドカップのチケットは、横長だ。
しかし、彼女が持っているチケットは縦長であり、由紀夫の知るワールドカップのチケットより、かなり横幅が狭い。
FIFAのマークだとか、そういったものもなにもなく、書いてある文字は。

『摸倣犯』

「摸倣犯・・・・・・・?」
「そーなんですー!これね、初日のチケットなんですけどぉ、関係者用のものでぇ!明石さんって、私の従姉妹がお嫁にいった先のおうちの遠縁の人なんですけどっ!遠縁って、そこのお姑さんの、妹さんの、だんなさん側の甥っ子さんなんですけどっ!スポンサー企業の方らしくって!」
「あ、あぁ・・・」
「だから、初日の舞台挨拶も並ばなくてもいいんですぅー!いや、そんな前の方の席じゃないとは思うんですけど、舞台挨拶見られるんですぅーー!!」
あぁ・・・。
中居正広のファンなのね・・・。
ぐったり気分の由紀夫は、じゃあ、そのチケットを見せて、にっこりと・・・と営業トークを脊髄反射でしていたところ。
「藤井くん、くるかなぁ〜〜!!」
あ、あ、そうだよな。摸倣犯を楽しみにしているからといって、100人が100人、中居ファンなはずないな。そうだな。映画ってそーゆーもんじゃないよな・・・。
映画好きの端くれとして、深い反省をしながら、写真撮影をした由紀夫だった。

溝口正広が、もしかしたら電話で手に入るかもしれない!?状況になったロシア戦のチケットよりも、その摸倣犯のチケットを羨ましがったことは言うまでもない。


初日にそんなチケットがあるかどうかなんか知りませんよ。田舎に住んでる人間は、幸か不幸か、舞台挨拶とか関係ないですからね。いや、全国から行く人はいるんですけどね。知ってるんですけどね(笑)あの人も、あの人も、徹夜するらしいんですけどね(笑)

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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