天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

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ギフト番外編131話『正広、人生最良の時』

yukio
 

「かーいーもーのーいーこーおぉー」
お休みの日に、がーがー寝ていた由紀夫は、正広から起こされた。
「買い物ー・・・?」
「買い物ー。行こうよー。遊びに行こうよー」
「行ってきたらいいじゃん・・・」
「お台場いこうよぅ〜」
「お台場って・・・、そんなおのぼりさんみたいに・・・」
「でも兄ちゃん、シネマメディアージュで、少林サッカーやってるよ」
「おっとぅ」
人形のように、由紀夫の上半身が90度起きあがった。
「それじゃ、お台場いこうか、お台場」
由紀夫は先週から、やたらと映画を見たがっているのだ。映画館で見る映画っていいよなーと通いたがっている。
正広も、少林サッカーなら見たいと思っていたので、これで由紀夫と買い物にいけるならラッキー気分。

正広にとって、由紀夫はストッパーだった。
女子高生か!というほど買い物好きの正広は、ユニクロのフリースを全色揃えてしまいたくなるような困ったちゃん。
正広だって、こんなに買っちゃダメだ!っていうのは解っている。
でも、可愛いものとか、面白いものを見るのは大好きだし、店員さんとお喋りするのも好きだ。
店員さんと親しくなれば、やっぱり何か買いたくなってしまう。
なので、今日は見るだけー!見るだけだからー!って時には、由紀夫に来てもらうのだ。(当然、今日は買うぜ!って気分の時は黙って出かける。そして後で叱られる)

今日は、お財布の中にもあんまりいれてないし、買わないぞ!
でも、見るぞ!見倒すぞ!こういうの、「こらしめる」って言うんだ。見るだけ見て買わない!今日こそは「こらしめられない」ぞぅ!

「はう・・・っ!」
「やめとけ」
「だ、だって・・・!」
しかし、お台場はアクアシティ、1軒目の雑貨屋で、正広の足はがっつり止まってしまった。
「でもぅ、でもぅ、この犬めちゃめちゃ可愛いよぅ、この犬のぬいぐるみぃぃぃ」
「あー、かわいー、かわいー、でも、まさひろのほうが、もぉっとかわいいぞー(棒読み)」
「えぇ〜、ほんとにぃ〜(棒読み)?・・・んな訳ないじゃん!うぉー!くたくただー!可愛いー!」
それは、大きな犬のぬいぐるみだったが、柔らかい生地でできていて、とにかくくたくた。

「抱き心地いぃーー!」
ぎゅう!と抱き締めて降りまわすと、足やら、耳やらがくたくたとゆれるのが大層可愛い。
「あー、ほんとだー、かわいーかわいー。でも、兄ちゃんの方がもっとかわいいぞー(棒読み)」
「えぇ〜、ほんとにぃ〜(棒読み。そして兄にぎゅうとだきついて)ほんとだぁ〜、って、めちゃめちゃ固いよ!抱き心地悪いよ!」
由紀夫は、平均以上にいいガタイをしているのだった。
体脂肪率も大変低い。
「はいはい、いくぞ。俺も、夜中に目が覚めて、ふとみたら弟が犬のぬいぐるみを抱き締めて寝てるってゆーのもどうかと思うし」
「なーんでー、かーわいーじゃーん(棒読み)」
「そーそー、かーわいーぞぉー、まさひろは、ぬいぐるみなんかなくっても、じゅーぶん、かーわいーぞぉー(棒読み)」
こうして、1軒目から、ばっちりこらしめられそうになった正広だが、2軒目の洋服屋でも、3軒目のインテリアショップでも、確実にこらしめられそうになっていた。
「いくら気に入ったからってなんでこの時期にコート買おうとするよ!」
「でも、冬になったらないかもしんないじゃん」
「冬になったら、もっといいのが出てんだよ!」
「兄ちゃん一期一会という言葉を知ってる?」
「知ってるよ。収納スペースは有限って言葉もな」
「あうっ」
言葉でビンタされ、正広はほっぺを押さえる。
しかし、この強力な、強力すぎるストッパーを背後に控えさせ、正広は楽しくお店をこらしめて回った。店員さんもあまりよってこないのだ。由紀夫のほうに行ってしまうから。
少林サッカーは予約をしてあった。
遅めのランチを食べて、三時台の映画を見る。そういう予定になっていたから、じゃあ、そろそろどっかで食事でも、と思った時、突然正広が立ち止まった。
「あれ・・・」
建物の外を見ている。
やってきているのはお台場で、建物からは海が見える。レインボーブリッジも見える。夜になったらカップルがわんさかだ。
今日は、天気もいいが、平日だから人は少ない(腰越人材派遣センターは特別休日。特別休日とは、社内に激しくバルサンが焚かれる日のこと)。
「どした」
知ってる顔でもいたのか?と思ったら、正広がダッシュ!
「正広!?」
つられてダッシュ!の由紀夫は、建物の外、ホテルに続くオープンスペースで、テレビの撮影が行われていた。
「おまえ、そんなダッシュまでしなくても・・・」
東京にいるからといって、そうそう見る光景でもないが、走ってまで見に行くというのはいかがなものか。
そう弟に注意しようとしたのだが、正広の目が、キッラキラキラキラ輝いているのを見て、ん!?一体なんの撮影だ!?と、人々の視線が集まっているところを見たら。

「こ、これは・・・!」
「絵心バトルだよ・・・・!兄ちゃん・・・!!」

<解説しよう>
絵心バトルとは、テレビ朝日『ぷっすま』の人気コーナーである。
天才草g画伯の絵心が炸裂するコーナーのファンは多い。

「兄ちゃん・・・!」
「解ったから、解ったから泣くな!」
「だって、生絵心だよ、生絵心!ど、どぉしよお!あ、か、カメラ・・・!」
「撮影はまずいだろ!」
「でも、でも、あの素敵な作品が!」
「そっちを撮るのか!」
正広も、もちろん絵心ファンだ。絵心というか、ぷっすまファンだ。中でも、絵心、びびり王が大のお気に入りで、彼女が水着に、とかだと、ちょっとがっかりしてしまう。(草g剛がぼさっとしていることが多いので)
正広の夢は、もちろん、この絵心で、一般の方に判定してもらいましょー!の『一般の方』になること。
「なれないかな。俺判定できないかな。できないかな。できなきかなぁ!」
「できないかなぁって言っても・・・」
由紀夫があたりを見まわすが、平日なだけに人は少ない。でも、何を基準に選ばれるのかも解らないし、あまりやりたいやりたいと言ってもイヤがられるだろう。
「んー・・・」
と、スタッフの様子を見ていた由紀夫は、ぴた、っと一人のスタッフの上で視線を止めた。
バタバタと忙しそうにせず、周囲を見ている女性スタッフ。若いスタッフが彼女に指示を求めにいくところから見ても、この現場で力があるのは確実だろう。
「正広」
由紀夫は弟を呼ぶ。
「え、なに、なにっ?」
番組は、オープニングの部分を撮影しているところで、まだ、お題は出ていない。しかし、まさに食い入るように正広はその様子を見ていた。
「あの人」
「え?」
横を向くのもイヤなのにぃ、という顔をしながら、由紀夫に言われた場所を見る。そこには、指示を出している女性がいた。
「誰?」
「多分、偉いスタッフ。おまえ、ちょっと服買って着替えてこい」
「え、なんでなんでっ?やだよ、ここ離れるのー!」
「あんだけ騒いだら、スタッフの目についてるだろうから、服でイメージかえて。後、帽子とって」
「えー、でもー」
「まだゲストも出てないんだから、大丈夫だって」
「じゃあ、さっきの店でコート買ってもいいぃ〜?」
「変態はテレビに出してもらえないだろ」
「コート買ったら変態なのぉー!?」
「いいから急げって!そうだな」
由紀夫は、さっと正広の全身を眺める。ジーンズにTシャツに帽子というありふれた服装だ。
「サッカーのユニフォームを着ろ」
「もう終わったよ!ワールドカップ!」
「日本のユニフォームとか着るなよ。どっかよく知らないような、でもデザインはいいじゃんって国のユニフォームで、サンダルと短パンな感じで」
なんでだよぅーー!!と言いながら、正広はダッシュで買い物に行き、ダッシュで戻ってきたが、その時由紀夫が見つけられなかった。
「あれ・・・?」
由紀夫は、髪をそのままおろして、やっぱりTシャツとジーンズというラフな格好だったのだが、あの長い髪が見当たらない。黒のTシャツも見当たらない。
あれ?あれ?と思っていると、背中をつつかれた。
「えっ?うわ!」
「やっぱり印象変わるな。OK。こっち」
「ありー、兄ちゃんカッコいいー」
「そうか?」
遊び着の匂い漂うスーツ姿になっていた由紀夫は、あえて髪を一つにくくっていた。
「ど、どうすんの」
女性スタッフに近寄る兄についていきながら、こんなちぐはぐな兄弟ってどう?と正広は思う。
「ちょっとお願いしてみようかと思って」
「だ、だったら、多分、髪ほどいた方がいいんじゃない?」
その言葉に、振り向いた由紀夫は、にっ、と笑顔になった。
「俺も伊達に遊んでた訳じゃないからね」

兄ちゃん・・・!
正広は、番組を見るか、兄を見るか、葛藤した。
女性スタッフに後ろから声をかけた由紀夫は、すいません、これってなんの撮影ですか?と尋ねた。
振り向いた女性スタッフは、まず由紀夫の顔に驚く。
「あ、あの・・・」
となったところで、あ、髪なんかひっぱってる?とゴムが邪魔のような小芝居をして、それをぱっとはずすと、長い髪がさらりと降りてきる。
そこでにっこり笑顔を浮かべたりすると、女性スタッフの判断力は、日常の7割までおっこちる。
「バラエティです、あの、ぷっすまっていう・・・」
日頃より、声も高くなっているのだろう。少々上ずった声が可愛らしい。
「え、ぷっすま?」
由紀夫は驚いたように声をあげ、喜びに顔を輝かせる。
「正広、やっぱりぷっすまだって!」
と、サッカーのユニフォーム姿の弟を呼ぶ。
「弟なんですけど」
彼の弟は、前髪をさらりと下した、可愛い小さな顔をしている。ユニフォームも、有名国ではなく、デザインが好きだから着てるという感じがいい、と、彼女は思った。
「僕もなんですけど、弟が好きなんですよねー。このコーナーってもしかして絵心ですか?」
「そ、そうです」
「うわー、お題楽しみだな。見てていいですか?」
「えぇ、どうぞ」
「ありがとうございます」
弟もにっこりと笑顔でお礼を言ってくる。さらに判断力が落ちていった。今日常の4割程度。
「すごいよねー、草g画伯ー」
「おまえ、いっつも言ってたもんな、判定したいって」
「したいよー」
そんな和気藹々とした兄弟の会話を聞きながら、
「あ、じゃあ、やります?」
現場責任者である彼女は、ぽろっとゆってしまっていた。

他のスタッフは。
なぎすけと、この兄弟。
ちょっとオーラの出方が違いすぎるんじゃあ、と、心配した。

「それでは、選んでいただきましょう。この中で、一番お題に近いと思うのは、どの作品ですか?」
正広は、アナウンサーの声がよく聞こえないほど緊張して、カメラの前にいた。
兄はついてきてくれなかった。
「え、えっと・・・」
誰の名前を言っていいのか解らないほど、正広の視線は、天才草g画伯の絵に釘付けだ。
なんて素敵な顔なしなんだ。
どうして、顔なしの足が見えているんだ。ハーフコートの顔なしなんて素敵すぎる!あの絵をひっつかんで走って逃げたいほどだ!
やっぱりすごい!!

そんな訳で、もちろん、自腹でおごるは草g剛になった。
剛がとても不服そうだったのが、正広にはおかしくてしょうがない。
あぁ。こんな幸運があるなんて・・・!
それから後、撮影のジャマにならないよう、ずーーーーーーーーーーーっと。正広は撮影を見続けた。由紀夫パワーにより、席まで用意してもらって見続けた。
こんな幸せなことがあるなんて・・・!
まさに、正広の人生において、最良の日といえる1日だった。
さすがの由紀夫パワーでも、作品まではいただけなかったが。

「そうだよねー。あれはねー、簡単に人がもらっていいものじゃないよねー。宝だもんねー」
帰る道すがらも、いかにあの絵が素晴らしいか。なぜあの絵が描けるのか!と、正広は熱く語った。

そして家に入った時、二人は同時に思い出してしまった。
「「・・・少林サッカーは!?」」
予約までしていたというのに・・・。
がっくりする由紀夫だったが、正広は、「でもきっとぷっすまの方が面白いよ」と心で呟いた。
これを口にしないあたり、正広もお利口になったと言えるだろう。
そんな正広のバックの中に、くたくたぬいぐるみの小型版が入っていることを由紀夫はまだ知らない。


あの時のぷっすまは、お台場じゃなかったなー。誰が出てたか思い出せないのだよぅー。うぅー!適当ですぅー。うぅーー。
少林サッカーとぷっすまのどっちが面白いかも不明ですーーって(笑)不明か!?

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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