天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

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ギフト番外編132話後編『誕生日プレゼントを届ける』

<これまでのお話>
稲垣アニマルクリニックの永遠の助手、草g剛の誕生日から、2日過ぎた。いけない!とプレゼントを持って稲垣アニマルクリニックに急いだ早坂兄弟だったが、そこには不穏な空気が漂っていたのだった!

yukio
 

「あ、あのお、稲垣先生・・・」
おぉ。
なんという勇気!
正広は、思い切って稲垣医師に話し掛けていた。
「ど、どぉかされたんですか・・・?」
「え?」

くりっ。

稲垣医師の首が、綺麗に90度曲がった。
ふくろう!?と、早坂兄弟はびびったが、稲垣医師の顔に浮かんでいるものは、柔かな微笑みだ。
「どうかって、どういうこと?」
「え、あのー、なんか、えっとー」
表情は柔らかで、口調もいつも通り。おかしいのは、体がまっすぐ前を向いているのに対して、首が、かっきり90度曲がっていることだ。
「あの、ちょっと、ご機嫌、悪い、みたい・・・だから・・・」
ごにょごにょと、正広の言葉は、どんどん小さくなる。
「そんなことないよ」
にこっと90度首を曲げたまま稲垣医師は答えた。その答えに、一点のウソも感じられない。
「正広くんたちにはなんの問題もないじゃない?」

そして、また、くりっ!と首を動き、真正面にいる草g助手に向いた。
それはもう、くりっ!ばいいーーん!とゴム仕掛けの人形の首が元に戻ったような振動が感じられるほどのスピーディーな戻りっぷりだった。
「ぼ、僕・・・!?」
分かっちゃいたけど、驚かざるをえない草g助手。
一体自分が何をしたのか思い出そうとしても、それは、一昨日の朝、駅で最初に会った人は、どんな人だったか、を聞かれているくらい難しいことだった。
しかも、草g助手は、駅を使っていない。
「んー、んー・・・!」
「あ、あのっ!」
正広はしゅたっ!と手を上げた。しぃちゃんも、しゅたっ!と勢いで羽を上げた。
「ご、ご飯、食べにいったりしませんかっ?」
「ご飯?」
また、くりっ!と首を90度に曲げた稲垣医師は、その状態で器用に首を傾げる。
「えぇ、あのー」
と、正広の前に由紀夫が割って入った。
「うちの近所に、映画喫茶ができたんですよ」
「映画喫茶?」
「確か今日がウクライナ映画の夕べなんです」
「ウクライナ映画!?」
さすがの稲垣医師も驚いた。首の角度が、由紀夫を正面に見ようとしているため、90度から、120度くらいになっている。
まさか、このまま一回転するんじゃあ!?という恐怖に襲われたので、由紀夫は、そそくさと稲垣医師の、『体の』正面に回った。
「どういう映画か知らないんですけどね、ウクライナ映画」
「ウクライナ映画・・・」
「それと、ウクライナの地酒を飲もうっていうイベントなんですよ。ただし、食事は普通。あのー、喫茶なんで、ナポリタンとか、ミックスジュースとか、バタートーストとかですけど」
「ウクライナの地酒かぁ」
稲垣医師の表情が、さらに柔らかくなった。由紀夫が、その体格でもって、草g助手を隠しているのがいいのかもしれない。
「どうですか?」
「楽しそうですね、お兄さん」
にこ。
にこ。
二人はにこやかに笑顔を浮かべ合い、じゃあ、行きましょうかと話がまとまったところで、
「着替えてきますね」
と、稲垣医師は、その場を離れた。

「な、何、兄ちゃん、ウクライナ映画の夕べって!」
「いや、それはホントにあるし、俺はホントに行こうと思ってた」
「あの喫茶店であるの!?」
「あるの。ウクライナから直接持ち帰ってきた、もちろん字幕なんかありませんよ映画」
「解んないじゃん!」
「そこはほら、感性で」
気軽に言いながら、由紀夫は草g助手を見た。彼は、頭の中がぐるんぐるん渦を巻いているような状態だが、役に立ちそうなことは何一つ考えていなさそうだ。
「でも、せっかく、草g先生の誕生日なのに、ま、2日過ぎてるけど、ウクライナ映画の夕べってー。それにナポリタンなんてー」
「だって、稲垣先生、確実に草gに対して怒ってんのに、誕生日パーティーとかいったら、かまいたちが吹き荒れるぞ。草gに対してだけ」
「ええ!そんなぁ!」
悲鳴を上げつつも、いや、きっとそうだと思った。自分の誕生日だなんて、浮かれてちゃいけない。しかも2日の前のことで。

そして。ようやく気がついた。
「・・・月曜日までは、普通だったと思います」
「え?」
「昨日の七夕は、とか、七夕の話をしてました」
「・・・どんな話・・・?」
「火曜日も、まぁ、普通だったと思うんです。昨日みたテレビの話とかして、だから僕も好きなテレビの話とかしたんですよ・・・。それで、水曜日には、もうなんか、機嫌悪いっていうか・・・」
「じゃあ、火曜日に何かあったんだ」
正広が首を傾げ、あ、と手を叩いた。
「草g先生のお誕生日」
「本人忘れてたけどな」
由紀夫の言葉に、てへ、と頭をかいてみたりする草g助手だが、その日にしても、平凡な、よくある一日だったに過ぎない。
「なんか、なかったんですか?えっと・・・、悪気なくってゆってたから・・・、こう、もう、命が危ない子猫ちゃんとかに、もう無理ですとかゆっちゃったとか!」
「言いませんよそんなこと!それに火曜日は、あまり患畜さん、こなかったし!」
えっと、と、草g助手は、受付に走り、記録を確認する。
「午前中に、レトリバーのジョアンくん、リスザルのあんずちゃん。午後は、二時に黒猫なのにビアンカちゃんが来て、薬だけ渡して・・・、それからは夕方までは誰もこなくって・・・」
「じゃあ、話とかしたんだ」
「しましたねぇ。でも、もっぱらテレビの話で・・・」
「稲垣先生、テレビとか見るんだ」
「見てるみたいですね、割と」
「あ、じゃあさ!」
正広が手を叩いた。
「趣味が合わないとかって思ったんじゃない?え!そんな番組見てんの?しかも面白いとかゆってる!?って」
「あー!ありえる!二人、趣味合わなさそうだもん!」
なるほどなーと納得した早坂兄弟だったが、そんなことは!と草g助手が反論する。
「だって、あれ面白いよね、って稲垣先生がゆった番組は、僕も面白いって思ってたし!」
「じゃあ、稲垣先生が面白いって言った番組なのに、草g先生が知らなかったとか!」
「・・・そ、それは・・・!」
「あったんだな!?」
由紀夫に詰め寄られ、ううっ、と体をのけぞらす草g助手。
「だ、だって、うち、普通のテレビしか入らないのに、CSで、とか衛星で、とか言うんですもーん!」
「そーゆーとこが気にいらないんじゃん?今、この現代を生きる若者が、あまりに情報に無頓着であるって言うようなことが」
「えーー、そんな精神のところを言われてるんですかぁ〜?」
「そう。きっとそう」
「えー、でもー!衛星とか、なんか、スカパーとか、よく解んないんですよぉー、お金かかるじゃないですかぁ〜!」

そこに、「お待たせ」という涼やかな声がして、稲垣医師が登場。
「あれ」
正広は驚いて、小さく声をあげた。
「珍しいですね、稲垣先生」
「ほんとだ、デニムはいてるのなんか、あんまり見たことない」
早坂由紀夫はジーンズをデニムと呼んだりすることもある男だ。
「そうかな。ま、最近手に入れたものなんだけど、おかしい?」
ごく、なんの変哲もなさそうなジーンズだった。
日頃はジーンズをはかない稲垣医師だが、その素直なシルエットは、よく似合っていると早坂兄弟は思う。

しかし。

「いっっ!稲垣せんせぇぇ!!!」
草g助手は絶叫した。
「そっ!それ、ま、まさか・・・!」
「え?何が?」
ふふ、と、稲垣医師は嬉しそうに微笑む。あ、ご機嫌直ったんだと正広は思った。由紀夫は、ご機嫌直ったなんてもんじゃなくて、超ご機嫌!?とその変化を訝った。
「どうしたって?」
「そのジーンズって!あの!」
まさに、草g助手は、稲垣医師にかけより、その足元に身を投げた。王様の足に、土をつけてたまるもんかと身をなげる民のように。
そして、その民、草g助手が汚してたまるもんか!と思っているのは、稲垣医師がはいているジーンズだった。
「うわ!!これ、すっごいいいヤツじゃないですか!
「あ、そうなのぅ?」
「そうですよー!状態もすっごいし・・・。うわー・・・!高かったでしょー・・・」
「ううん?」
けろっと稲垣医師は言った。
「もらったもんだし」
「も、貰った!?」
おそらく、百万を下らないであろう、ビンテージジーンズをもらった!?
草g助手の目の前は、一瞬真っ暗になり、そして真っ白になった。
真っ白な視界を、そのジーンズが舞っている。つかまえてごらんなさぁ〜い♪と言うように、見えない誰かにはかれているかのように、軽やかに走っていたりもする。
あぁ・・・!
どこにいくんだ・・・!
どこにいくんだ、ジーンズちゃん!ジーンズちゃーーーん!!

「火曜日の夜に、友達のパーティがあったんだけど、そこで持ちよりの抽選会があったんだよね。その賞品」
これをですか!?
「僕はまぁ、ペディグリーチャムを猫ゲンキをダースで持ってったんだけどさ」
このジーンズが、友達同士のパーティーでやりとりされてんですか!?
しかも持ちより賞品のランクって、そんなバラバラでいいんですか・・・!?あああ・・・!
ひしっ!とジーンズのすそを掴んだまま、草g助手は、溢れる涙を必死にこらえている。
いいなぁ・・・!
もしかして、自分がそのパーティーに呼ばれてたら・・・!
もしかしたら、自分のものになっていたかもしれないんだ、このジーンズ・・・!

「剛にも、火曜日の夜何してるのって聞いたんだけど、ジャングルテレビで小池栄子見てるって言ったから」

「えぇぇぇーーーー!!!!!そ、そんなことでぇぇぇーーーー!!!!!」
「だって、小池栄子一人暮し計画のやつが見たいっていったじゃない」
「言いましたけど!言いましたけどぉぉぉーーー!!」
「無理に誘っても迷惑かなぁと思ったし」
「迷惑じゃないですぅぅーー!!迷惑じゃあああーーーー!!!!」

草g助手号泣。
そして、早坂兄弟は解っていた。
火曜日のパーティーというのは、草g助手のサプライズバースデーパーティーだった、ということが。
それを、小池栄子に邪魔されてしまったため、ご機嫌斜めになった稲垣医師が、誕生日プレゼントに用意していたビンテージジーンズをはいてしまったのだということも。

ん。でも。
映画喫茶に向かいながら、由紀夫は思った。
稲垣医師は大変ご機嫌で、正広と話していると、草g助手の目線は、ジーンズから離れないまま、ゾンビのような足取りになっている。
機嫌悪い感じにして、不安を煽って煽って煽った挙句に、真の地獄に叩き落す作戦か・・・!?
稲垣医師、やっぱり恐るべし!!

それから。
内容はなんだか解らないけれど、映像の色とか、綺麗さは、好きだなーと、由紀夫はウクライナ映画を楽しんでいた。
正広も、なんか、わっかんねーなーと思いながら、ナポリタンをパクパク食べている。
そして稲垣医師は。
「あ。ナポリタン、おっことしちゃった」
「やーみーてーくーだーさーいぃぃぃーーー!!!」
ジーンズの上に、あれや、これや、零しながら、ウクライナ映画を楽しんでいる。

うーん、いい誕生日だった。

その感想はどうかな!稲垣先生!


ウクライナ映画ってどんなのかしらないんですが・・・。ウクライナの地酒とかも・・・(笑)

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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