天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

このページの画像は、すべてyen@gallery様から使わさせていただいております!皆様も遊びにいらしてくださいね!

ギフト番外編133話『停電が起こった』

yukio
 

「あぢぃ」
腰越人材派遣センター一同の口から漏れる言葉は、まずそれだった。
なぜって、ついさっき、付近一帯が停電になったからだ。
「信じられない!」
どうやら近くで事故があったらしく、その影響でしばらくその状態は続くという。
クーラーが効いていた室内が、徐々に暖まってくる。
首筋に、額に、汗が浮かぶ。
突然のことに、一体どうするかねぇ、と、ただその暑さに耐えていた時。
「・・・あ!」
正広が突如立ちあがり、冷蔵庫に走る。
「あぁっ!」
もちろん、野長瀬が後に続く。
「アイスアイス!アイス食べなきゃ!」
「急いでください!社長!どこ行くんですか!」
「あっついのに、座ってられないわよ!外いきゃ涼しいじゃない!」
「ダメですよ!アイス!ジュースも!」
冷蔵庫の中身がどんどんひっぱりだされ、テーブルに並べられる。

「・・・会社の冷蔵庫に、こんだけアイスが入ってるってどゆこと・・・?」
奈緒美が呆然とするほどの量だが、それもそのはず。
「だって、昨日100円アイス、5個298円だったんですよ!」
「だからって、いくつかってんだよ」
由紀夫もため息をつくが、暑い室内でアイスが溶けていくのを見るのも忍びなく、無難そうなカップバニラアイスを手にする。
「社長!ほら!ガリガリくんですよ!」
「まぁ!がぁ〜りがぁ〜りぃ〜くんっ!がぁ〜り、がぁ〜りぃ〜、くんっ!ね!って、誰が喜ぶかぁ!」
プレミアムアイスを愛する女、腰越奈緒美だったが、でもパピコは大好きなので、そっちを齧る。
「典子ちゃんは!」
「ピノ!ピノ食べる!後アイスの実!」
「えーっとえーっと、じゃあ、俺は〜、やっぱりジャイアントコーン♪」
そして野長瀬がかき氷系を求め、しゃぐしゃぐと食べ始めたのだが。

「だから、あっちーって!」
最初に由紀夫が切れた。
「窓開けても風はいんねーし!電話もならないんだし、今日もう仕事辞めたら?」
魅力的な提案だった。
アイスを食べていた社員たちも、そうだ。その通りだ!と同意したのだが、アイスの山がなくならない。
「・・・でも、やっぱりこれは・・・」
「家に持ってかえればいいじゃん」
「お待ちなさい!」
パピコ片手に奈緒美が言った。
「暑い暑いって、クーラーがないから暑いだなんて、日本人の言うことじゃないわね!」
「・・・さっき暑いからって帰ろうとしたくせに・・・」
「日本人は、様々な工夫をしてきたのよ。夏の暑さを乗り切るために!」
パピコを完食、結局ガリガリくんをかじりながら奈緒美が言う。
「まずはこの直射日光をなんとかするのよ!」
「ブラインド下げます!」
野長瀬がしゃー!っとブラインドを下ろしていき、室内が暗くなる。
しかし、暑い。
「・・・この事務所窓でかいからなぁ・・・」
バニラアイスの次に、いちごアイスを食べながら、由紀夫は温度計を見てめまいを覚える。
「車の中が暑くなってるのと同じような状態だから、今さらブラインド閉めたって遅いって!」
「えーっと、それで、風鈴を・・・」
「だからー!風通ってねぇから!」
そう。
いくら風鈴を下げたって、風鈴は、りん、とは言わないのだ。風通しが悪い。それが腰越人材派遣センター。
「んー・・・!」
「はい!」
典子が手を上げた。
「流し素麺はどうでしょう!」
「え?」
「お中元に素麺が来てたし、それにあるじゃないですか!流し素麺まっしーん!」
「あった!」
正広がぱたぱた!と倉庫に取りにいって、そのマッシーンを取り出したところ。
「・・・コンセント・・・?」
「つかえなーい!」
典子、おーまいがっ!
「ちょっとまって、冷凍庫の中にあったの、アイスだけか?」
「あっ!氷!」
冷凍庫が一瞬にして暑くなる訳ではないが、せっかくの氷が弱りかけてきた。
「これを無駄にする手はないしなぁ・・・」
とはいえ、たかが家庭用冷凍庫の中に入る程度の氷で何ができるのか。
立ちあがったのは、由紀夫だった。
足を冷やしたら涼しくなるんじゃないかと、何か、足をつっこめるバケツみたいなものを求め、一階の駐車場に降りる。
すると、さぁっと風が吹いていて、あー、あちかった、と呟いていた。
「ん?」
と、建物の中に戻る。
階段室は暑く、駐車場は涼しい。

ということで。

「わー、気持ちいー!」
裸足になって、氷の入った洗面器に足をつっこんだ正広が嬉しそうに声を上げる。
「なんだ、涼しいのねぇ、ここ」
回りの建物との関係もあり、一階の駐車場には、ほとんど日が入ってこない。どちらの道にでられるようになっているから、風も通り放題だ。
冷凍庫からの氷は、さすがに量が少なく、全員を冷やすことはできなかった。
しかし、もうここで涼む!と決めた腰越人材派遣センター一同は、バカなことでも平気でする。
同じく停電になったコンビニに走り、氷を買い集めたのだ。
「ちょっとでも、カッコがイマイチねぇ」
正広は、短パン姿で、典子はキャミワンピだからいいとして、奈緒美はオーダーメードのスーツだし、由紀夫も一応スーツ。野長瀬も当然スーツ。
「・・・浴衣を着ましょう」
「えぇっ?」
「あちーよ!」
「あのね、こんな外から見える場所で、オヤジみたいに涼めないでしょ!あんたたちは、まぁいいわ。そこでくつろいでて!」
「えー!私も浴衣着たいですぅ〜!」
「あんたはいいの!」
追いすがる典子を置いて、野長瀬、由紀夫を事務所に押し上げる。
「あっちー!」
空気がよどんでいた。
「まだ復旧しないんですかねぇ・・・」
「はい、野長瀬!」
若い典子に浴衣なんぞ着せてなるものか!という気分一杯の奈緒美は、野長瀬に、作務衣を投げ渡し、由紀夫の浴衣を選ぼうとする。
「そうねぇ、やっぱり涼しい白・・・。あ、でも、黒も捨てがたいわねぇ。これ、何気に金魚模様なの」
「なんでもいいよ!着たくねぇし!」
「あんたねぇ」
あっつい中、首の後にはっきりと汗をかきながら奈緒美は説教をする。
「暑いけど、気持ちは涼しくよ!しっかりしなさい、あんたも!」
「おまえ、頭動いてねぇだろ、何ゆってんだよ!」
「ちょっと、野長瀬!どこいくの!」
「え?いや、着替えたんで・・・」
「手伝いなさいよ!着付けを!」
「暑いんですよぉ〜」
「あたしだって暑いの!んー、でも、やっぱりこの金魚が可愛いから、こっちかなぁ〜」
「あちぃよ!黒なんて!」
「日陰だから大丈夫よっ!」

ほら!さっさと脱ぐ。
裸に剥かれ、黒地に小さく金魚がポイントではいるという浴衣を着せられる。肌触りはさすがに奈緒美が選んだだけあって、サラリといい感じだ。
「ここ!ここが可愛いのよ!」
背中の、着物であれば紋が入る場所にも、赤い金魚。
汗だくの奈緒美が声高に主張する中、由紀夫はどんどんぐったりしてくる。
「ちょ、どーでもいいけど・・・。どーせ俺見えないし・・・!」
「帯行くわよ、帯。えーっと、長さはこんなもんで・・・」
「・・っ!締めすぎ!野長瀬締めすぎだって!」
いきなり、内臓を締めつけられ、由紀夫がギブギブ!と野長瀬の腕を叩く。
「あんたもぉ、人の身にもなりなさぁ〜い!」
あぁ。
そんな言葉を社長の口から聞くだなんて・・・!
一度くらい、自分の身にもなって欲しい野長瀬だった。

「それで、私はっと」
奈緒美は、この夏あつらえた、白地に金魚模様の浴衣を取り出す。
「あ、じゃあ、男は邪魔だろうから」
「待ちなさいよっ!」
物陰でささっと浴衣を羽織ってしまった奈緒美は、二人をとっつかまえた。
「手伝いなさいってゆーのに!」
「何を!」
「帯よ、帯!兵児帯を買ったんだけどね、ちょっといい形にならないもんかと思って」
暑い。
部屋の中は暑すぎる。
その中で雑誌を渡され、このように結べと指示をされた。
「・・・すみません、社長。汗が目に入って見えません」
「何やってんのよ!これがだって可愛いじゃないの!」
「えー、でも、よく解んねぇよ、んー・・・」
じーっと雑誌を眺める由紀夫も、涼しい顔はして見せてるが、汗はひどい。当然、奈緒美も汗だくだ。
「奈緒美知ってるー?」
もういいや、チョウチョ結びで、って気持ちになった由紀夫は、適当にチョウチョ結びを作りながら言った。
「部屋の中でも、熱中症ってなるって」
「え?部屋の中で〜?」
「特に、赤ちゃんと、お年寄がやばいってさ」
「なんでチョウチョ結びなのよ!こっち!」
怒った奈緒美から、NGを出され、なおも汗まみれになった3人だった。

「あああ、すずしい〜〜・・・」
ようやく浴衣を着て、しかし、さわやかさのかけらもない状態で、駐車場に降りてきた3人は、すごい光景を見た。
「何なのっ!?」
「祭りか?」
「・・・なんか人が集まってきちゃってぇ〜・・・」
駐車場には、近所の人たちがやってきて、コンビニの氷を全て買い取り、それぞれに涼んでいる。
「なんで、スイカまで・・・」
「あ、兄ちゃん、浴衣可愛いー」
「ほんとだ!金魚じゃないですか、由紀夫さーん!」
こっちこっちと、スイカを食べてる正広に手招きされ、氷水に足を漬ける。
「気持ちいいー・・・!」
「でも、兄ちゃん、髪どうにかした方がよくない?」
今は、暑いからと長い髪を一つにくくっている状態だ。
「なんか、浴衣っぽくないからぁ〜・・・どしたらいいのかな」
「アップにします!?」
典子が言った。
「アップって」

「はぁーい!」

わいわいしてる人の中から、びしぃ!と手が上げられた。
「あたしやりたいですぅー!」
商店街の美容院に勤めている女の子だった。
「えっ!ずるーい!私もやりたぁーい!」
腰越人材派遣センターの早坂由紀夫といえば、ご近所のアイドル。しかし、ご近所で仕事をすることはあまりないので、今日自転車に乗ってるの見たー!というだけで、ヒーローだ。
その由紀夫の、長い、サラサラの髪に触れられるチャンスを逃す訳にはいかなかった。
「いや、いいから、これで!」
「でも、せっかく可愛い金魚の浴衣なのにー」
「私、クリップも持ってますー」
わらわらと、女の子たちが近寄ってくる。
「・・・私、正広くんにもしたいな・・・」
そんな不穏な囁きも、少しずつ広がってくる。
なぜか、その輪の中に男までいる。
「え?、ボ、僕は、そんな・・・!」
逃げようとした弟のシャツを、兄がしっかり握り込む。
死なばもろとも。
そんな言葉が、由紀夫の頭の中を横切った。

「かぁわいぃぃぃーー!!」
駐車場に悲鳴が上がる。
由紀夫と正広の頭は、彼女らの作品として、完成しきっていた。
由紀夫は無造作にアップにした上で、毛先を遊ばせ、かんざしをさしたスタイル。
正広は、髪が短いので、捻ってはクリップでとめ、、捻ってはクリップでとめと、色鮮やかな頭になっていた。
「あら、なかなかいいじゃない?」
奈緒美も、ちゃっかりアレンジしてもらい、いい気分で早坂兄弟を見る。
「ここは、なかなかいいわねぇ」
そして、今は人がわらわらしている駐車場を眺めた。
「あそこに葦簾でもつけて、風鈴でしょ?テーブルをおいて、カフェとかできるんじゃないかしら。夏だけの限定カフェ」
「わー、楽しそう〜」
頭色とりどりになってる正広も賛成した。
「じゃあ、じゃあ、やっぱり和な感じですよね。あたし、麦茶で作るデザートってテレビで見ましたよ!」
「えっ?ここカフェにするんですか?」
由紀夫の髪に最も触れ、よし、この髪は大事にするぞ、と、まんまと1本持ち帰っている美容院の子が尋ねる。
「それなら、このカッコで由紀夫さんにウェイターして欲しいー!」
「じゃあ、ひろちゃんは、ウェイトレスでー!」

奈緒美の頭の中で、銭儲けこんぴーたーが動き始めた。
夏限定和カフェ。
なんせ、せっかく喫茶店をカフェに改装しようか、なんて楽しい計画があったのに、結局映画喫茶になってしまったため、消化不良だったのだ。
これはいける・・・!
「いけるわ!」
「いけねぇって!」

果たしてどうなる!夏限定腰越人材派遣センター夏和カフェ!


浴衣の時の髪型って困りますよね・・・。長さが中途ハンパでねぇ・・・。私はねぇ。いいなぁ、由紀夫ちゃん。

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

今までのGift番外編へ

What's newへ

SMAPレポートへ

SMAPメニューへ

トップへ