天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

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ギフト番外編134話前編『夏限定和カフェを作る』

yukio
 

「つまりカフェというのは」
「はぁ」
「まさに憩いの空間なのよ」
その日の午後。腰越人材派遣センター社員一同を前に、奈緒美は断言した。
「カフェっていいですよねぇ〜。デザートがいいってゆっかぁ〜」
ちっちっち。
そんな典子の言葉には、宍戸錠バリの指サインを送る。
「バカたれ」
その上、丁寧に叱りもした。
「スイーツだの、小物だの、キャラメルカプチーノだの、そんなこたぁどーでもいいの!」
「えー!なんでですかー!ケーキとか楽しみじゃないですかー!」
それには正広も反論した。あまりカフェ、とかにいくことはないが、雑誌などでお店紹介を見るたびに、うっとし・・・!
行きたい!と思ってる店は数多い。職場の机の引出しには、お店紹介記事がスクラップまでされている勢いだ。
「私が求めてるカフェは、そんなぬるいもんじゃないのねぇ。白木のテーブル、フルーツたっぷりフレンチトースト、可愛らしいカトラリー、色鉛筆で可愛くつくられたメニュー、そんなものは必要なぁーし!」
「・・・じゃ、何が必要なんだよ」

「男前」

断言した。
腰越奈緒美にとって、カフェ、と切っても切れないものは、「男前」だった。

「ちょっと変わった髪形して、ちょっと変わったカッコして、パン作りが好きだからぁ、とかゆってる女はいらないの!男前なの男前なの!そして制服なの!!」

制服。
この言葉に萌えあがれるのは、男だけではない。
「カジュアルフライデーなんてなんてつまらないの!会社員はスーツを着こなしていればいいのよ!だから私は由紀夫にスーツを着せているの!」
「解ったから、解ったから!」
「解ります!本当に!」
エキサイトする奈緒美を止め様とした由紀夫だったが、それを上回る迫力で野長瀬が同意した。
「制服ですよね・・・!」
しかし、残念ながら。
「あんたが制服とかゆーと、きっもち悪いんだけど」
男性の制服好きへの理解は、この程度だ。
「私はつまり、カフェを作るなら、癒しだの、和みだの、ではなく、憩いの場を作りたいと思っている訳」
どう違うのか解らないと、由紀夫は正直に顔に書いた。
「・・・疲れた自分をさらけ出し、だらーーっとする場ではなく!そこへ来て、気合を入れる場として!」
「それって、『憩い』?」
「あぁもういい。闘いの場とするわ!カフェは闘いの場よ!」
「格闘カフェ!?」
「闘魂カフェかも・・・」
顔を見合わせる早坂兄弟だったが、奈緒美は我が意を得たり!と満足そうだ。
「そう。カフェは闘いの場。隣に座るあの女よりも、綺麗にセンスよく。そして、男前のウェイターにも決して負けない自分でいるための、闘いの場!」
「あぁ、そっか」
「え、兄ちゃん解るの!?」
「カフェって、その、女の子がやりたーいっていうんじゃなくて、オープンカフェだろ」

そう。可愛らしく閉じた空間ではなく、道に向かって座るオープンカフェ。
コーヒー系はもちろんあるが、シャンパンもある。たっぷりスイーツよりも、ちょっとしたサンドイッチやサラダ。店員はあくまでもスマート。当然、採用のポイントは顔。
「そんな店だろ」
「あー、萌えるわぁ〜。好き好き。そーゆーお店。でも、行こうと思ったら大変なのよ。やっぱりほら、見られるじゃない?さりげなく上質でいる必要があるのねー。でも突き抜けすぎててはダメなの。大衆に解りやすい上質さが必要で」
「なんでたかがカフェでそこまで考えなきゃいけねんだよ!」
誰が奈緒美を見てるってんだーー!!と由紀夫は吠える。
「でも、社長って・・・!誰よりも、女、なんですね・・・!」
典子は感激をしたりしていた。
「私はそーゆー!むしろ敷居の高いカフェを作りたいのよ!むしろ!!」

「・・・でも、夏限定和カフェ、なんでしょ・・・?」

先週、腰越人材派遣センターの周辺一帯は突然の停電に見舞われた。
その際、ここは風が通る!ということが判明した腰越人材派遣センター、半地下駐車場が近所の人たちの憩いの場になってしまっていたのだ。
それを見て、夏カフェっていいなぁ、と奈緒美が言い出したのだったが。

「夏の和カフェで、制服って・・・」
正広は不思議そうに首を傾げる。
「そ、そりゃ浴衣よ」
少々口篭もりながら奈緒美は答えた。
「浴衣!そして、客前に出るのは、由紀夫とひろちゃんだけ!」
「ちょっと待てって!ほんとにやる気か!?」
「望ましい客層は、浴衣、というよりも、夏の着物を着こなす女性。メニューは、冷たい白ワインに合うもの!」
「和カフェじゃなーーい!」
「日本酒でもいいわよ!」
「えっ、でも、かき氷とか、あんみつとか!」
正広は、奈緒美のことだから、絶対、本格的かき氷マッシーンを用意してくれるはずだと信じていた。透明な氷を、クラシックな氷かき器に装着し、ハンドルを回すとがりがりと氷が削られ。
「そこに、抹茶をかけて!小豆を乗せてぇ〜!白玉とぉ〜!バニラアイスおぉぉーー!!」
「採用」
大人のなんとか、とかゆってるけれど、奈緒美だって女の子(くす)、抹茶白玉クリームには弱い。
「それとそれと!」
はい!と正広は手を上げた。
「本格的流しそうめんもいいと思います!」
「正広・・・」
「そうねぇ。でも、流しそうめんには、美味しい水が不可欠だから、ちょっとねぇ。それより食事メニューをどうするかも重要ねぇ」
「はいはい!」
「はい、ひろちゃん!」
「冷やし茶漬け!」

「あれってどうなんだ!?」
正広の言葉に由紀夫は素早く反応する。
CMでやっているが、氷が浮いてるお茶漬けを、由紀夫は食べたことがない。
「ひろちゃん食べたことあるの?」
典子に聞かれて、正広は笑顔で首を振る。
「まだないけどー。でも、面白そうだから」
「ひ、ひろちゃん、あれってね?水をかけるんですか?ごはんは冷たい?あったかい?」
「え」
正広は難しい顔になる。
「・・・あ、そっか。冷たいお茶がかかってるなんて面白いって思ってたけど、ご飯がどうだか知らないや・・・」
そこで、しばし冷やし茶漬けについての考察が行われた結果。
どうやら、ご飯も、お茶も、すべて冷たいものだということが判明した。
「・・・ご飯まで冷たいんだったらいいかなぁ」
由紀夫が呟く。
「いや、なんか、温かいご飯に冷たいお茶ってどうなんだ?って思ってて」
「香川のうどんは、ひやあつとか、あつひやってあるんだって。熱いうどんに冷たい出汁とか、冷たいうどんに熱い出汁とか」
「そんで、結果的にぬるくなるのか?」
正広の報告に、全員がまた釈然としない思いを抱える。
食品の温度って大切だ。

「じゃなくって!」
話が冷たいがなんだかおかしな食べ物にどんどん進み出したのを、奈緒美が無理矢理引きとめる。
「私は、和カフェの話をしているの、和カフェの!」
「食べ物まで出さなきゃいいじゃん。大体、カフェとかするのには許可が。あ」
由紀夫の目の前に、奈緒美が書類を突き出す。
「・・・営業、できるんだ・・・」
「こんなものすぐとれるのよ!」
「食べ物屋って、なんかの資格を持ってる人がいないとできないんじゃなかったっけ」
「持ってるわよ、野長瀬が」
「えっ?私なんの資格おっ?」
履歴書には、運転免許くらいしか書くことができない野長瀬は驚いた。
「いいのよ、あんたは別にしらなくっても」
「・・・また、偽造だ・・・!」
「そんなことはどうでもいいんだけど、急がないと、夏祭りが始まっちゃうわね」
近所、という訳でもないが、夏なので、近隣では、夏祭り3、花火大会2が行われる予定になっていた。

「それには間に合わせなきゃいけないから」
「って、商店街の夏祭りって、明日ですけど・・・?」
「・・・明日?」
正広に言われて、奈緒美はカレンダーを見る。
カレンダーには、大きく花丸がつけてあった。
夏の奈緒美のカレンダーは、3日に1度はこんな感じだ。
「あらぁ〜。明日」
「そりゃ無理だろ」
「ううん。やりましょう。取りあえずかき氷器の手配!それと、メニューの詰めの作業に入るわよ!」
「詰めもへったくれもないだろー!」

かき氷マッシーン!
正広の心は、遥か高みにかけあがった。
できるだけクラシックなのがいい。それと氷!氷は透明なもの。抹茶やあんこはどこで準備しよう!あぁ!楽しすぎる!
「ぐえ」
跳ねるように電話に向かっていた正広の衿を、後ろから由紀夫が引っ張りとめる。
「張りきりすぎ・・・!」
「だって・・・!」
首を締められながらも、正広はなおも前に進もうとしていた。前に、前に。電話のところに。
「お祭りって楽しいじゃん・・・!」

こうして、準備は進められた。
どんどん進められた。
夏祭りは、夜からが本格的になるから、腰越人材派遣センターに残されている時間は、まる24時間。24時間あれば、いろんなことができるもんだと彼らは知っている。
「器のレンタルOKです」
「ガラスでしょ?」
「縁取りが、赤いのと、青いのと、両方です!」
「冷凍庫、レンタル大丈夫だって」
張り切ってるのは正広、あんまり張り切ってないのは由紀夫。暑いから外に出たくないと思っていたけど、こんなことなら、届けものしてる方が楽なんじゃないかと思ったりする。
「楽しいね!」
「そうかぁ・・・?」
由紀夫は、奈緒美が楽しそうであればあるほど、楽しくなくなってきてしまうのだ。
恐らく、明日、自分はまた浴衣を着せられる。
そして正広も着せられる。
新しい下駄とかはかされて、足が痛めるだろう。
それでも、バンドエイドでもはって、健気にもガコガコ歩きまわり、仕事が終わった時には足が棒。足の甲からは血。
痛い。靴も履けないと言うに決まっている弟の事を考えると・・・!

「・・・明日はチャリで来ような」
「なんで?」
おんぶするのは、いかにも大変そうだから、と口にはしなかった由紀夫だった。

<つづく>


あー、いきてー、夏限定和カフェ(笑)でも、ここは舞台よ!的なカフェには行ったことがございません。なんかかっちょいいですよね。西村しのぶの世界なのです、私的には。

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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