天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

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ギフト番外編136話『もう一人、現る・・・?』

yukio
 

稲垣アニマルクリニックには、往診などのために、ワゴン車が用意されている。
その車を運転するのは、18歳で免許を取った後、無事故無違反の男、草g剛助手。
今日も今日とて、ゴールデンレトリバーのみどりちゃんを、飼い主さんちに送り届けて、さぁ、帰ろうと運転席に座った瞬間だった。

「あれ」

ついさっき。みどりちゃんのパパと、ママと、お姉ちゃんから、まぁまぁお茶でも、ケーキでもと引きとめられたから、30分ほど経ってはいるにせよ、ついさっきまで運転していた車なのに。
「あれ、えっと・・・」
なぜか、運転の仕方がわからなくなっていた。
「エンジンを、かけて・・・。エンジン・・・。は、キーを、うん、キーを、回すんだよな?
それで、足のとこは、どうするんだっけ・・・?あれ?え?え?
「あれぇ〜〜???」

「え?それで車どうしたって?」
「みどりちゃんちのガレージに入れさせてもらってます」
「・・・ガレージに入れられたんなら、出せるでしょ」
「運転の仕方が解らなくなる前に、いれてあったんです」
「それで、運転の仕方がわからなくなったから、置かせてくれって言ったの?」
「いえ、それはちょっと・・・」
みどりちゃんのパパには、ちょっと車の調子が悪いみたいなのでと言ってある。

「それにしても、車の運転の仕方がわからなくなるなんて、大丈夫なの?これ、何本?」
ピースサインをした稲垣医師の手を見て、草g助手は、「2本」と答え。
「ブー。腕が1本」
「い、稲垣先生・・・!」
「やっぱり具合悪いんだねぇ・・・」
困ったなぁという顔を稲垣医師はする。
「僕は運転できないし」
「え!運転してるじゃないですか!」
「あの車はねぇ・・・」
ふふ、と微笑んだ稲垣医師の顔には、「あんな車、車じゃねぇ」と描かれていた。

「それじゃあ」
今日はヒトヅマのおうちで、ヒトヅマとホームパーティー。ただし、そのオットとともに。そんな訳で稲垣医師は早々に稲垣アニマルクリニックを後にした。今日の車はマセラッティ。オープンで乗っている。
そんな稲垣医師にとって、中古のワゴン車は、車とは言えない存在だろう。
にしても、どうして運転の仕方を忘れてしまったのか、草g助手には解らなかった。今も、車の外から、稲垣医師の華麗な(????)発進のさせかたも見ていたけど、左ハンドルだし、稲垣医師左利きだし(それはあまり関係ない)、なんだかよく解らないままだった。
「エンジンをかけて・・・。アクセルを、踏む・・・?だけ、だっけ・・・?」

「え。それはどうしたことですか?」
翌日、一番にやってきた患畜は、しぃちゃんだった。それに、正広と、由紀夫もくっついてきている。
「はぁ、いや、なんか運転の仕方が解らなくなって」
前日は、自転車で家に帰り、もう一度思い出そうとしたのだが、どうもよく解らない。免許取得のための勉強をする前の状態に戻ってしまったみたいだった。
「困るじゃないですか」
「そうなんだよねー。いつまでもみどりちゃんとこにおいとけないし・・・」
「兄ちゃん、とってきてあげたら?」
「あ?別にいいけど」
「あ、でもでも、そんな」
しぃちゃんの具合はどこも悪くなく、単なる定期検診なので、パタパタとそこらを飛びまわっている。
そんなしぃちゃんを指に止まらせた由紀夫が、何気なく言う。
「でも、それって催眠術みたいだな」
「え?」
正広が首を傾げた。
「催眠術?」
「あるじゃん。自分の名前が言えなくなるとか、数字の7だけ言えなくなるとか。そんなヤツ」
「知ってる知ってるー!あるよね、そーゆーの!」
「じゃあ、僕は車の運転の仕方を忘れるような催眠術をかけられたってことですか?」
「そうじゃねぇの?」
由紀夫は気軽にいって、白文鳥のしぃちゃんを、正広の肩に止まらせる。
しかし、正広は微動だにせず、それには気付いていないようだった。

「・・・草g先生・・・!」
緊迫した声。
「え、え、な、何っ?」
「稲垣先生は・・・!?」
「稲垣先生・・・!?」

朝一番の稲垣アニマルクリニックに出勤しているのは、草g助手だけだった。稲垣医師の姿がない。
「あれ?そういえば、先生が遅い・・・!」
いくら、ヒトヅマのおうちでホームパーティーとはいえ、ヒトヅマのオットも一緒なんだし・・・!いや!だからって!だからって、お泊りしなかったとは限らないじゃないか!
きゃーーー!!!僕って大人ぁーー!!
「あ、あの・・・草g先生・・・?」
赤い顔で、顔をぶんぶん左右に振ってる草g助手に、おどおどと正広が呼びかける。
「えっ!?あ、そうだねっ、どうしちゃったんだろう・・・!」
「僕、あの・・・!」
「え?正広くん、ま、まさか!?」
二人の目がびしぃ!とあった。
そしてお互い、その目の中にあるものが同じだと確信した。
確信できた。
「「稲垣先生はきっと!」」

「誘拐はされてないぞ」

「えー!なんでだよー、兄ちゃーん!」
「そうですよ!なんでそんなことが言えるんですか、お兄さん!」
「されてる訳ないだろぉ!おまえらまた言い出すつもりだろ!?なんだっけ、あの」
「「薔薇十字探偵社の稲垣!」」
やっぱり・・・。
その名前が、二人の口から出るのを聞き、由紀夫はがっくりと肩を落とす。
「あ、でも、僕は、薔薇十字探偵社の稲垣って言うよりも、すでにもう、怪人稲垣面相じゃないかって思ってるんだよね・・・!」
「稲垣面相・・・!な、なんて恐ろしい・・・!」
「二十面相は二十の顔を持つ、でいいとして、稲垣面相って言うのは・・・」
「だって、双子だもん!稲垣先生の顔してるでしょ!?」
「双子だったらそもそも同じ顔なんじゃねぇの!?」
ちっちっち。
正広は、左手を腰にあて、右手を気障に動かした。
「ニ卵生かもしれない」
「そうか・・・!じゃあ、我々を欺くために変装を!」
「草g先生が車を運転できなくなったら、稲垣先生が運転することになるでしょう!?そこを狙うつもりなんだ!稲垣面相は!」
「むぅー!ひどい!ひどいぞ、怪人稲垣面相!」

「さ、そろそろ会社いこっかな・・・」
立ちあがった由紀夫の腕を、ぐわし!と正広が掴んだ。
「因縁だと思うんだ・・・!」
「何が・・・!」
「稲垣先生と、怪人稲垣面相の間には、因縁があるんだよ!それはもう、どちらかがどちらかを抹殺しなきゃいけないような、因縁・・・!稲垣先生が危ない!」
「危なくねぇ!」
「だって、サーカスとかにつかまって、空中ブランコとかにぶら下がってるかもしれないんだよ!?稲垣先生に空中ブランコなんかできると思う!?」
「それは、昨日やってた、明智小五郎対怪人二十面相だろうが!」
そのドラマでは、田村正和扮する明智小五郎が怪人二十面相に捕えられた小林少年たちを救うため、サーカスで空中ブランコをするシーンがあったりした。
「見ました!?草g先生!」
「あ、その頃僕は、車の運転ってどうだっけーー・・・とか考えてたんで・・・」
「因縁なんだよね!兄ちゃん!」
「だっておまえ」
結構楽しみにしていた由紀夫は、腕をつかんだままの弟の顔を、少々眉を潜めてじぃっと見つめた。
じぃっと。
「・・・・・・・・・そ、そりゃ・・・、ラストシーンの前に、11時になっちゃったから、ロッカーの花子に変えた、けど・・・・・・・・・・・・・」
「・・・だから、明智と、二十面相の因縁が一体なにか、ってことに関しては、まだ知らないんだけども」
「そうなんですか・・・。でも、稲垣先生と、怪人稲垣面相の因縁って一体なんなんだろう・・・!」
「だから復讐ですって!明るい世界で生きている稲垣先生が憎い!」
「ど、どうしましょう!今頃先生のスポーツカーが、ブレーキを壊された状態で、ヘアピンの続くがけっぷちの道を走らされていたら!」
「この街のどこにそんな道がある!」
しかも、『スポーツカー』って、今時そんな言い方あるかぁ!?
「助手席には、富豪の奥様がいるんだ!着物を着た!それか、富豪の令嬢が!」
「ピンチ!令嬢と稲垣先生!」
「あ、草g先生」
ちょっと斜めに、正広が草g助手を見た。
「その言い方ぁ〜。先生より、令嬢が大切みたいぃ〜」
「え!そ、そんな誤解だよ、正広くん!」
赤い顔で、ぱたぱた手を振る草g助手を見ながら、正広の手をそろっと離し、由紀夫はこの不条理の世界から抜け出そうとした。

その時。

がちゃん!

二階で何かが割れる音がした。
「え?」
固まった正広と草g助手の間を、由紀夫が駆け抜けて二階へと向かう。稲垣医師も看護婦も来ていない今、二階は無人のはずだった。
音がしたのは、稲垣医師の部屋らしく、由紀夫はドアを開けようとしたのだが、鍵がかかっている。
「あっと!か、鍵!」
草g助手がポケットから出したマスターキーで部屋に入ったのだが。
「ん・・・?」
部屋の中は無人だった。
そして、素晴らしい花の香りがしていた。
「これ・・・」
部屋の真ん中に落ちているのは、アンティークな細工がされた香水瓶。繊細な首が折れ、部屋中に香りが広がっている。
「どこにあったものだ?」
「それは、机の上に・・・」
机は、壁にひっつけておかれていて、そこにあった香水瓶が、部屋のど真ん中に落ちるためには、よほどの突風でもない限り、人の手を借りないことは不可能だった。
「ま、窓は!?」
正広が大きな窓にひっついて鍵を確認するが、鍵は内側からかかったままだ。昔の学校なんかにあった、なつかしいタイプの、穴に鍵を差し、回して回してとめるタイプのものだが。
「どうして!?なんでこれがここに落ちてるんですか!?廊下には誰もいなかったじゃないですか!」
「しまった!他の部屋か!」
由紀夫が廊下に飛び出し、他の部屋を確認する。

しかし、そこには、誰の姿もなかった。

「稲垣面相・・・!」
正広が青い顔で呟いた。
「で、でも、一体稲垣面相は何をやるつもりで・・・!?」
「そうか。香りですよ!人間はごまかせても、動物まではごまかせない。だから、怪人稲垣面相は、稲垣先生の香水を奪って、動物たちすらごまかすつもりで・・・!」
「じゃ、じゃあ、やっぱりもう稲垣先生は!?」

「あ、しぃちゃん。おはよ」

「・・・稲垣先生!?」
一階からののんびりした声に、3人は、団子状態で階段を駆け下りる。
「先生!」
「あれ、なにしてるの、3人で」
そこには、いつもと変わらぬ稲垣医師の姿があった。指にしぃちゃんを止まらせて満足そうだ。
「く、車は・・・!」
「車?」
病院の駐車場には昨日とは色違いのマセラッティが停まっている。崖から落ちることはなかったようだ。
「そうだよ、剛。今日はちゃんと車取りにいってよね。予約入ってんだから」
「え?」
「忘れたんじゃないだろうね。ポニーの引き取りだよ、今日」
「あぁ!梅駒っ!」
「うめこま?」
「可愛い名前でしょ。ポニーの男の子なんだけどね。・・・子ってことはもうないか。そろそろおじいさんの域だから、健康診断をね」
「急がなきゃ!えーっと、車のキーが・・・!」
「でも、草g先生運転は!?」
「え」

ぴたっと足をとめた草g助手は、車を運転する時のことを考えてみた。
キーを回してエンジンをかけ、サイドブレーキをはずし、アクセルをふみ・・・。
「・・・あれ?解る・・・」
「え・・・?」
「なんでだろう。解る」
「まさか・・・・・・・・・・度忘れ?」
由紀夫の声で、稲垣アニマルクリニックには、深い深い沈黙が満ちた。

こうして、無事、草g助手は、みどりちゃんちから、梅駒さんちまで車を運転することができた。
しかし正広は思っている。

「まず、みどりちゃんちのパパが、すでに稲垣面相だったんだよ。そこで、草g先生は催眠術をかけられた。それを解くための道具が、あの香水・・・!偶然あの香水瓶が割れなかったら、今でも草g先生は・・・!」
自転車2台を連ねて走りながら正広は興奮しきったまま話している。
そんなことよりも、はっきり不思議なのは、何もない部屋の、それもど真ん中に香水が落ちていたことじゃないんだろうか。
由紀夫はそう思っていた。

「・・・・・・・・・・・だぁれがやったのかなぁ・・・・・・・・・・・・・?」

そして。
お気に入りの香水瓶を破壊されてしまった稲垣医師はものすごく怒っていた。
きっと、怪人稲垣面相より、薔薇十字探偵社の稲垣よりも、すごく怖い。
逃げろ!
草g助手!!


多分、次回稲垣アニマルクリニックが舞台になる時は、アームチェア獣医師の稲垣と、その稲垣に携帯電話で操られる草g助手、なんて話になるんじゃないかと思います(笑)いや、次回の土9っていいなぁと思って(笑)

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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