天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

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ギフト番外編137話『カッコ悪いを届ける?』

yukio
 

正広が、ある映画を見ての帰り道。
それは、典子と二人で、水曜日のレディースデーに映画にいったら、果たしていくら請求されるか、という遊びの一環だった。
チケットを買いに行くのは典子で、正広は、キャスケット、チュニックなど、秋の女の子風味ファッションで、やや離れた場所にいる。
「ピンポン、2枚」
「2000円です」
ガッツポーズ。

「やったね典子ちゃん・・・!」
「やったわね、ひろちゃん・・・!」
こうして二人は、見事ピンポンを安く堪能することができた。

その帰り道で、典子と別れ、正広は一人考えた。
映画の中で、自分のヒーローのカッコ悪いところは見たくないというセリフがあったのだ。
正広のヒーローといえば、やはり由紀夫。
由紀夫のカッコ悪いところといえば・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ん?いやいや。そんなそんな、兄ちゃんだって人間じゃん、カッコ悪いところ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
首を振りながら考えてみた正広だったが。
「・・・・・・・・・・・いやいやいやいや。人間なんだから、どっかあるだろ」
カッコ悪いところ、カッコ悪いところ・・・・・・・・・・

ゴツ。

考えすぎて、T字路を曲がることを忘れ、でこを、ブロック塀にぶつけた正広だった。

「おかえり」
「たぁだいまぁ・・・、ありっ?」
今日は遅くなるはずだった由紀夫が帰っていることに正広は驚き、そして目をむいた。
長い髪を下して、シャツのボタンをいくつか外し、ネクタイを緩めた状態で、缶ビールなんぞを立ったまま飲んでいる。
「か、かっちょいい・・・!」
「何言ってんの」
帰るなりのその言葉に、由紀夫は眉をひそめ、冷蔵庫の中を覗きこむ。
「あ、ご飯食べてないの?」
「中途ハンパな時間だったからなー。正広は?」
「典子ちゃんと食べた。いわゆる一つのカフェメシ」
「・・・足りる訳?」
「んっ?」
ニコ、と笑顔を見せると、冷凍庫からご飯を出して、チャーハンを作ってくれた。
いつも作っているものとはいえ、アっと言う間に、ビール片手に、ちゃっちゃと。
「かっちょいー・・・」
「なんだよ、さっきから。あ、ピンポンどうだった?」
「カッコよかった!!」
「あーもー、なんで残業かな、今日〜」
「でも、兄ちゃん、1000円じゃ入れないよ?」
「え!おまえほんとに1000円で入ったの!?」
「うん。典子ちゃんの服借りて、同じようなカッコしてたら大丈夫だった」
いただきまーすとスプーンを取り上げた正広を、由紀夫は不思議そうな顔で見つめる。
そーゆー顔もカッコいいんだよなぁ、兄ちゃんなぁ・・・。
むぐむぐ美味しくチャーハンをいただきながら、正広の観察も続いた。

仕事中の由紀夫は、ほぼ間違いなくかっちょいい。
それはすでに解っていることだった。
届け屋として仕事をしている場面は、そんなに見ることはないけれど、カッコよくないはずがない。
やはり、日常においての方が、かっちょ悪い場面は多そうなのだが・・・。
は。そうだ。
寝起きはどうだろう。
昔のテレビのような、「寝起きどっきり」をしかけてみるというのは・・・!
寝起きどっきりといえば、正広には忘れられない場面があった。千原兄弟の弟が桃太郎のカッコをして、ホテルに泊まっている仲間たちの部屋を回って、寝ているところを叩き起こし、いきなりボケさせる!というものだった。
「あれは面白かったなー・・・」
叩き起こされて、いきなりボケろ!といわれても困るよなぁ。はっ!もしかしたら、それ?それこそがちょっとカッコ悪い兄ちゃんの姿!?
兄ちゃん、そもそもボケじゃないし!ボケじゃない人が、いきなりボケろって言われてもボケられるもんじゃないはず!
よーし!これだぁ!

が。
正広が、由紀夫より早く起きられるはずはなかった。

「ちっ」
「ちっ、ってなんだよ、ちってよ!」
弟を起こしに来た由紀夫は、理不尽にも「ちっ」とか言われたので、目を覚ませ!と腕十字をかける。
「ギブ!ギブ!!」
ベッドを、べっしん、べっしん!叩きながら、この決め方もカッコいいじゃねぇかぁ!と思う正広だった。

寝起きがダメとなると・・・。不意打ち。
角を曲がろうとしたところで、わぁ!と出てくる、といった感じの・・・。
あ、びっくりさせてみればいいのか。
兄ちゃん、何でびっくりするかな。もうすでに、遅いけど、おばけ屋敷とか?・・・おばけ屋敷は、自分がイヤか。絶叫マシン?兄ちゃん平気だ。
何が苦手!?
稲垣先生!?
・・・いや、人の手は借りたくない・・・。
正広はもはや、何が目的なのかを完全に見失っていた。

「兄ちゃん、今晩、ごはん作るね」
「は?」
朝食の食卓でそう宣言すると、由紀夫は首をちょこんと傾げた。
「・・・大抵、いつも作ってないか?」
「あ?あ、そうだけど。今日はちょっと、ええ感じに作るから!」
「あ、そ、そう・・・?」
もうこうなったら、びっくりした顔だけでも見たい・・・!正広の中にあるのはそれだけだった。

その日、正広は定時で会社を出て、夕食の材料を買って家に帰る。
兄由紀夫も、そう遅くはならないはずだから、急がなくてはいけない。
今日のメニューはカレーライスー。定番だけども、カレーライスー。美味しく作るぞ、カレーライスー♪
「カレー?」
「カレーです」
白いお皿に、白いごはん。具沢山のカレーは、正しい日本風カレー。
「後、サラダと」
しゃきしゃきと切られた大根サラダには、梅ドレッシングがかかっている。
「うまそーじゃん」
「うまそーでしょ」
ニコっと笑った正広が先に席につき、部屋着に着替えた(これまたかっちょいい)由紀夫が目の前に座る。
「いただきます」
スプーンを持った手を合わせた。
「召しあがれー」

ぱく。

豪快にすくったカレーを口にした途端、由紀夫が固まる。
「・・・・・・・・・・・な、何・・・・・・・・・・・・・・・?」
「逆転カレー!びっくりした!?」
「するよ!なんだこれ!」
それでも、ごっくん!と飲み込んだ由紀夫を、正広は心から立派だと思った。
「でも、まずくはないでしょ!?まずくはないと思うんだよ!びっくりはするけど!」
「まじかこれー・・・!」
眉間にシワをぎゅーーー!と寄せ、由紀夫は汚いものを見るような目で、逆転カレーを見つめる。
逆転カレーとは、塩味で炊いたご飯の上に、色だけはカレー風にしたあっまーーーい!餡をかけた代物だ。
「おまえは、ジャングルクッキングの岡村か!」
「待って!味自体は悪くないんだって!カレーだと思ったのに甘いから驚くだけで!」
「そんなことを考えつくお前に驚くわ!」
きぃ!!と怒りながら、口直し!と大根サラダを食べた由紀夫は。

箸を取り落とした。

「・・・・・・・・・ジャム・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・そっちは、ちょっと・・・・・・冒険かなとは、思ったけど・・・・・・・・・・・・」
「このバカタレがーー!!!」
ぎゃあぎゃあ叱られた正広は、ここまで怒られても、兄ちゃんの驚いた顔なんか、ちょっとしか見られなかったな・・・・・・と、費用対効果で大きく失敗したことを知った。
「しかしまぁ、慣れたら癖になりそうな味ではある」
「だよねー。この逆転カレーは、ちょっとねー。死ぬまでに1度は食べてみた方がいい味じゃない?」
「一度でいいけどな」
「え!そう!?」
「慣れたくねぇよ!」
「えー!だって、たくさん作っちゃったんだよー!もう冷凍庫に保存しようとしてんだよー!」
「すんな!!」

結局、どうにも兄ちゃん、カッコわるーってところに出会えなかった正広だった。
でも、別にかまわない。
正広からしてみれば、兄に弱点はないということを確認しただけの作業だった。
眠りに落ちつつ、さすがヒーロー、と思っていた正広は、ん?と意識を覚醒させる。
あの映画では、自分のヒーローより、自分が強くなってしまい、そこの折り合いをどうつけるかっていうのが一つ問題になっていたりした。
・・・自分が兄ちゃんより強くなったら・・・!?
その時、自分はどうしたらいいんだろう。
強くなんかならなければいい?
でも、強くもなれなかったら困るじゃん!何が強さか知らないけど!
男ってのは、いつかは親を超えていかなきゃいけないもんじゃないの?
兄ちゃんだから親じゃないけど!

「どーーしたらいいのぉーー!?」

深夜にいきなり叫ぶ弟の声を背中に聞きながら、育て方を間違ったか・・・・・・・と、頭を抱える由紀夫は、あまりカッコよくもなかったが、もちろんカッコ悪くはないのだった。


あー、ピンポン。あーー、素晴らしきかなピンポン。絶対原作は読まないぞピンポン(笑)

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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