天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

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ギフト番外編138話前編『白い封筒があった』

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秋晴れの気持ちのいい日だった。
正広が銀行帰りにおやつを買いに和菓子屋に向かっていると、前方の四つ角から由紀夫が登場した。
「あ、兄ちゃん」
由紀夫は、いつものバカ高い自転車にスーツで。正広は、マサヒロスペシャルケッタマシーン(いわゆる一つのママチャリ)に、ものすごい普段着で。
その時、正広の中では、槙原教之の曲が流れたという。
『跡をつけてみよう、悪戯心に火がついた』
うふふふふ。

由紀夫は赤信号で止まり、先を見ていた。
正広からは、横顔が見える位置なので、様子をうかがいながら、自転車に乗ったまま電柱の陰に入ろうと苦労する。
「こっち見んなよー・・・?」
グラグラする自転車を下半身でささえ、手では電柱をつかんでいる。
怪しさ爆発。
しかし、正広は正広なりに真剣だった。
信号が変わり、由紀夫がスムーズに発進したところで、よしゃ!と電柱の陰から出たのはいいが、ペダルをひっかけてしまい。
「うわーっとっとっと!」
横倒しになりそうだったところを、どうにかこうにか踏みとどまることができたのだが。
「む!兄ちゃんは!?」
兄の姿を見失い、いけない!と、急いで追いかけ出した。

幸い、角を曲がると、まだ兄の背中は見えていて、これくらいの距離の方がいいな、とスパイ気分の正広はほくそえむ。
そこそこ人通りのある道だったが、由紀夫の姿は背後からでもかなり目立つので見失うことはないだろうと思った。
由紀夫は、かなりなスピードで人の間を擦りぬけながら進み、とあるファッションビルの前で止まった。
あれ?と正広は首を傾げる。
正広の肩書きは、早坂由紀夫担当課長だ。由紀夫の仕事の内容を最も把握しているのは正広のはずだった。
「兄ちゃんも、寄り道とかすんだー」
自転車を止めたのを見て、正広も、スペシャルケッタマッシーンミラクル(名前はその時の気分で色々に変わる)をとめて、兄を遠くに眺めつつ、ファッションビルに入っていく。
平日の昼間なので、そんなに人は多くない。
これは、気付かれてはいけないと、フロアの隅に隠れるようにしながら、目だけで兄を追う正広。
「いらっしゃいませぇ〜」
しかし、フロアの隅だと思っていたそのスペースは、立派な古着屋のテナントの中だったのだ。
「あっ?」
「そのシャツねー、かわいーでしょー?」
「えっ?あ、そ、そうですね」
正広が隠れるために使っていたのは、明るいチェックのシャツだった。
「・・・ん?でもほんとに可愛いかも?」
正広は、着るものにはあまりこだわりがない。ユニクロのフリースを全色揃えるとかそういうことはしてしまうけれども、いわゆるおしゃれさんでしゃなかった。
「綺麗な色ですね」
「秋にはぁー、こーゆーの、一枚あるとー、いいんじゃないかなーって」
「そうかもー」
値段も、正広のお財布を直撃!なんてものでもなかったので、これも一期一会だなと思って、ご購入。ありきたりかなぁとも思うけれど、手触りもよかったし、いいじゃん、いいじゃんと、袋を受け取り、ウキウキと店を出た正広は、自分が見とおしのいいフロア内の通路につっ立っていること。そして、その姿をみられたらまずい!と思う兄の姿が、そのフロアのどこにもないことを知るのだった。

いけない。
スパイとして失敗だ・・・!
色鮮やかなシャツの入った袋をかかえて、正広はこそこそと階段を上がっていた。最初は慌てて一階まで駆け下りたのだが、兄の自転車はまだそこにあったからだ。
エスカレーターでは、気付かれた時に逃げ場がないと正広は思っている。
階段をそっとあがり、フロアの扉をそっと開き、フロア内の様子をうかがう。
三階は、扉をあけたら目の前が女性下着売り場で、おぉう!鮮やかだぜ!華やかだぜぇ!!と目を白黒させたりもしたが、兄の姿はない。
そうして、最上階のフロアの扉を開けた時、ここだ、と、正広は確信した。
お店の女の子、お客さんの女の子が浮き足立っている。
最上階は、雑貨屋と、カフェがあるようで、浮き足だちは、カフェからさざ波のように広がっている。
お茶してるのか・・・。
正広は、買ったばかりのシャツを羽織り、バックの中につっこんであったキャップをかぶる。
軽い変装気分でカフェをうかがうと、確かに兄はそこにいた。
スーツ姿で、窓際の席で、カップを片手に、ちょっと視線を泳がせている。
「むぅ・・・」
さすが、フロア中の視線を一人でGETだけのことはある・・・!前回、兄のカッコ悪いところを必死になって探していたことは棚に上げ、さすがだ兄ちゃん!と心でガッツポーズをしてみたりもしてみた。

そんな正広の横を通りすぎ、カフェに入った女性客がいた。
どちらかといえば、カジュアルなテナントが多いファッションビルには似つかわしくない、シックでありながら、体にはぴったりフィット、という黒のワンピースを着ている。
背中しか見なかったが、まずはスタイルに文句なし!という細身の女性だ。
まさかバックシャン(すなわち前から見ると・・・・むにゃむにゃ)ではないだろうね!?と正広がハラハラしてしまうくらい、綺麗な後ろ姿だったが、迷わず由紀夫の席に座った女性は、前から見ても美人。
正広は、綺麗な人だぁ〜、と、思っただけだったが、フロアの空気は一気に悪くなった。
「何あれ」
正広が入っていた、雑貨屋の店員が不機嫌そうに言う。
「見たぁ・・・?」
他の店員さんも寄ってきて、しばし、文句が繰り広げられる。しかし、あまり文句をつけるところもないっていうところが、彼女らの怒りを深くしているようだ。
『・・・女の人って怖い・・・』
と思いながら、正広はその店を出て、フロアをウロウロしながら、なおもカフェの様子をうかがう。由紀夫の前に座った女性は、何やら注文をしてから、由紀夫の前に一通の封筒を差し出した。
「ん?」
ごく当たり前の白い封筒。厚みは結構ある。
由紀夫はその封筒をそのまま受け取り、バックに収めた。
そして、そのまま立ちあがってしまったのだ。

「あ、帰るみたい・・・」
別の女の子たちの声がした。
「なんだ、受け渡しだけだぁ」
そうなのか、兄ちゃん?兄ちゃん確かに、届け屋だけど、今、何を受け取った!?担当課長のワタクシは知りませんが!?兄ちゃん!?
「ひょっとしてさぁ・・・」
「あれって、お金だよねぇ・・・」
お、お金!?
「もしかして、ホストとかぁ?」
「ホストとお客ぅ〜?」

やだー!きゃははー!と彼女たちは笑ったが、由紀夫は下りエスカレータから降りていくところで気がついていないらしい。
客!?
客って、客!?
いやいや、落ちつけ正広。兄ちゃんはホストじゃない。
仕事が終わったら、名画喫茶で、延々映画を見ているようなホストは存在しない。
ホストじゃないけど、今日の仕事は、普通の会社からの依頼で、担当者にしても、女の人なんかいなかった。
なのに、兄は、予定にはないファッションビルにやってきて、正広の知らないやたらと美人の女性から、なんだか知らないけど分厚い封筒を受け取り、一言も喋らずに店を出た。
これは一体なんなのか・・・。
ま、まさか・・・・・・・!

内職!?

えらいことを知ってしまった・・・。
知らない方が幸せなことって、あるのね。
正広はそんなことを呟きながら、とぼとぼと階段を降りる。
正広の頭の中では、由紀夫が会社を通さず、フリーで仕事をしている映像がまざまざと浮かんでいた。
由紀夫は、給料制だから、どれだけ荷物を運ぼうと、残業にならない限りは給料に関係することはない。
でも、一件ずつ、自分で仕事を請け負ったとしたら、給料プラスアルファーにはなる。
兄ちゃん、お金持ちだと思ってたら・・・。
案の定、すでに由紀夫の自転車はなかった。
きっと、例の女性から頼まれた仕事をこなしているに違いない。
マサヒロバイシクルに乗った正広は、小さくため息をつく。
どうするべきかがよく解らなかった。
知らない振りをするべきか、それとも、先に確認をしておくべきなのか。
大体、聞くったって・・・。

『兄ちゃん、今日綺麗な人と会ってたでしょ』
『どこで?』

『あそこのファッションビルで』
『おまえ、そんなとこで何してたの』
って聞かれても、いや、大丈夫。このシャツがあるから、古着を買いにってゆって・・・。
『あんな遠くで、仕事中に?バーゲンでもやってた?』
いや、やってはなかった。
『しかも、途中にユニクロあんじゃん。大好きな』
その通りだ。無理がある・・・・・・・!
いや、待って!確か、あの近辺に美味しいケーキ屋さんがあったはず!あれをおやつに買うように言われたって言えば!
『そこ、土・日だけあいてんのよーって奈緒美が騒いでた?』
その通りだよ、兄ちゃん。さすがの記憶力!

どうもシミュレーションは上手くいかない。
どうしたもんかと考えながら正広はともかく事務所に戻った。
「ひろちゃーん!おっそーい!最中はー、みかん最中ー!」
「げっっ!」
銀行に行く以上に大切な仕事をうっかり忘れていた正広は、それから慌てて買いにいったのだが。すでに本日の販売は終わってしまっていた。
かなりショックを受けてるらしい。
正広は、静かに自己分析をした。

そしてその夜。

「はう・・・っ!」

正広は見てしまったのだ。
兄のカバンの中を。
お風呂に入っている好きに、こっそりと。
「入ってる・・・!」
そこには、例の白い分厚い封筒があった。
持ってみると、ずっしりと重い。
イヤなリアルさだと思った。
今日の兄の仕事は、すべてきっちり終わっているはずだ。『受領書』だって、ちゃんと依頼ごとにあった。
しかし、この封筒は、まだ由紀夫のバックに入っている。
届けられていないか。
もしくは、兄への報酬。
「ど、どぉしよお!?」

「何が?」
「はいぃ!?」
「何やってんの」
濡れ髪をタオルで拭きながら兄登場。すでにバックは元に戻していたにせよ、正広の心臓は大きく高鳴った。あげくに。
「うっ!」
「えっ!?おい、正広!」
「く、苦しい・・・!」
胸をおさえ、ベッドに倒れ込む。由紀夫の顔色がさっと変わった。
「心臓が!?」
「・・・、しゃ、しゃっくり・・・!っく!」
しゃっくりは、止めるために驚かせたりもするけれど、びっくりした時にも出るんだね・・・と、苦しい息の下で思う正広だった。

<つづく>


そういや、正広って心臓弱いキャラだったなーと思いだしました(笑)

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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