天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

このページの画像は、すべてyen@gallery様から使わさせていただいております!皆様も遊びにいらしてくださいね!

ギフト番外編139話『有名通販商品を使った』

yukio
 

大リーグボール養成ギブスだ。
正広の姿を見て、由紀夫はそう思った。
今、正広は、白いギブスを上半身につけ、家の中をうろうろしている。
冷蔵庫から1リットル紙パック入り牛乳を取り出し、腰に手を当てて、そのまま豪快にごっきゅごっきゅと飲んでいる。
青少年なら一度はやるであろうその行為を、由紀夫は止めようとは思わないが、多分この後、おなかが痛くなるに違いない。
さすがに1リットル一気は無理だったようで、冷蔵庫に牛乳を戻した正広は、ゲームをしていたテレビの前に戻った。
座るのは、なんだか不思議な形をした、やたらと体にフィットしてる小さなクッションの上だ。

『装着・・・』

心の中で由紀夫は呟く。
装着、もしくは、充電。何かの機械が、充電するためにドックに戻ってきたような状態に見えた。

なぜ正広がこのようにロボット化しているかというと、話はその日のお昼に遡る。

「え!モデル!」
お昼ご飯(59円バーガーなど)を食べていた典子が仰天する。
「ひろちゃん、モデルにスカウトされたの!?」
「兄ちゃんのついでです」
そう言いながらまんざらでも無さそうな正広は、おにぎりを食べていた。それは、事務所のキッチンで、鍋で炊かれたご飯を握ったもので、塩味&梅干しという美しいものだ。
その日は、由紀夫は、何かにうなされるように、おにぎりー、おにぎりーと、呟き続けたため、炊いたのも、握ったのも由紀夫。
「ゆ、由紀夫ちゃん、で、デルモになるの・・・!?」
野長瀬はショックを受けていた。せっかくつくってきた炊き込みご飯お弁当にも箸をつけられない。
モデルになるなんて・・・。モデルに・・・・・・・・・。
そして世界に旅だってしまうなんて・・・!
それは、自分の夢なのに!!と。
「ならねぇよ」
しかし由紀夫はあっさりと言い捨てた。
「えー、由紀夫さん、やればいいのにぃー」
「だって、興味もないし。なんか、大変そうじゃない?」

「それはね!」

ばぁん!と事務所のドアが開き、なぜか稲垣アニマルクリニックの稲垣獣医がそこに立っていた。

「モデルとは服を見せるもの!しかし、お兄さんは、自分を見せたいんだね!?」

まさか、あなたは薔薇十字探偵社の稲垣じゃないんでしょうね!!という高いテンションの稲垣獣医は、つかつかと部屋に入ってきて、すとんと、正広の隣に座った。
「ど、どしたんですか・・・?」
「信じられるかな、正広くん」
「は、はい?」
「僕はねぇ、今朝から何も食べていないんだよ」

「だからって、先生!いきなり車を止めさせないでくださいっ!」
まだおにぎりをにぎりつづけていた由紀夫が、そでをまくった状態で、指についたご飯粒をかじりとっていると、右手に子犬、左手で大猫を抱いた草g助手も乱入してくる。
「この子たちがまだ残ってるんですよっ!」
「だからといって、じゃあ、僕がその子たちのパパママが用意してくれた、愛情溢れるお弁当を食べちゃってもいいって言うのか?」
「せんせー、もうちょっとじゃないですかー・・・」
「やだっ」
何はともあれ、稲垣獣医はとてつもなくおなかがすいているらしい。そこで、手っ取り早くお昼ご飯にありつけそうな腰越人材派遣センターに乗り込んで来たようだ。
「あ、た、食べます・・・?」
正広がおずおずとお皿をずらし、兄作のおにぎりを差し出す。
「ありがとう」
にっこりと微笑んで、稲垣医師は満足そうにおにぎりをまず1個食べた。
それから、典子から59円バーガーを奪い取り、野長瀬から、炊き込みご飯のきのこ部分だけを奪い取り、それでもまだ足りないような顔をする。
「足りる訳ないじゃないか!」
稲垣獣医は、せつせつと今日までの自分について語った。
今日は、往診の日ということで、患畜さんちをぐるぐると回っているのだ。でも、会社行く前に来てもらえませんか?なんて要望にお答えしちゃうため、かなり早朝から動いている。
通常、この往診は草g助手がやっていたことだった。
しかし、稲垣アニマルクリニックの人気は高い。稲垣アニマルクリニックがあるのならと、複数のペットを飼っているお客さんも多い。それも、どうにかして、別種を飼おうとしているふしがある。
そうなると、まず犬を見て、それから猫を見て、さらにフェレットを見て、というのが大変なので、稲垣獣医も借り出される事になってしまった。
「だから、とても疲れてるんだ」
きっぱり言い切る稲垣獣医に、草g助手は目頭を熱くする。
熱い獣医魂に感動したからではない。
各ご家庭で、お茶や、ケーキを出してもらったことは、最初から別腹勘定になってしまっていることだ。

最後のおうちで預かった、今日からおうちの方々が出張でいなくなっちゃうわんちゃん、猫ちゃんをかかえ、草g助手は、急がないと!と稲垣獣医を促す。
お昼の診療まであまり時間も残っていなかった。
おそらくこのまま、草g助手はお昼抜きになるのだろう(ただし、彼は朝をしっかり食べている。早朝からカツカレーだ)。
「先生!」
「もう、うるさいなぁ。大体ね、親が死んでも食休みって言葉があるだろう」
カフェオレボールで、強い子のミロを飲んでいた稲垣獣医は、しぶしぶと立ちあがった。

「でも、早坂さん」
すちゃ、と、ターンを決め・・・ようとして、多少ぐらつきながら、稲垣獣医は言った。
「何度も言うようですが、モデルは服を見せるのが仕事です。ですから・・・」
「だからやりませんって」
キッパリ言う由紀夫と、稲垣獣医の視線が真っ向からぶつかった。
「ふふ」
そして稲垣獣医は静かに目線を外し、腰越人材派遣センターを出ていった。
残ったのは、子犬可愛いー!大猫もおもたーーい!ときゃあきゃあしていた正広、典子、野長瀬の服についた、動物の毛だけだ。

「・・・あの人、自分がやりたいんじゃねぇの・・・?」

由紀夫の呟きはもっともなものであったかもしれない。

「でもさあ」
ランチの後は絶対デザート!ホテイチで買って来たんだもーーん!と季節のフルーツタルトを大事そうに食べている典子が言う。
「服を見せるとかはともかく、撮影してもらったりとかは、1度くらいやってみたーい!」
「そうだよねぇ」
正広も答えていた。
野長瀬は、言葉もなく何度も頷いていた。
「1度くらい経験してみたらどうですか?由紀夫さんも、ひろちゃんも」
「そーだよ、にいちゃーん!」
「だから、面倒じゃん」
「体一つでいけばいいだけだよ?何が面倒なんだよーー、ねー、にいちゃーん!」
「正広・・・」
「だって、僕はさー、ちょっと見てみたいってゆーかさーー」
「そうよ!ひろちゃんも誘われたんでしょ!?いいじゃん!いってみたら!」
「あっ、ひ、ひろちゃん、そ、そしたらその時は!」
「うん!一緒に行こうね!典子ちゃん、野長瀬さん!」
「待て待てーー!!」
由紀夫は盛りあがる3人の中に割って入る。
「あっ!由紀夫ちゃん、過保護だ!そんな浮ついた世界に入るなんて!と思ってますね!?」
「思ってねぇよ、そんなことは!」
別にモデルが悪い訳じゃない。ただ、単に自分は興味がないだけだ。ただ、これが弟のことになると。

「だって、モデルできると思うか?この背中で!」

ばん!と叩かれた正広の背中は、世間一般で言うところの。
『猫背』だった。

自分の体型は、絶対的にモデルに向かないことを知っている由紀夫だったけれども、弟のスタイルは決して悪くない。猫背と、少々開き気味の足をのぞけば。

「猫背なんか治るわよ!」
がーん、そうか、猫背だった・・・とソファに崩れ落ちる正広に典子が言った。
「そうですよ!ひろちゃん!ほら、ほら、これ!」
野長瀬が持ち出してきたのは、白い背筋矯正ベルトだった。ゴムの力で常に背筋を真っ直ぐに引っ張ってくれるベルトが、すぐさま正広の体に装着された。
「こ、これ・・・」
「興味あったから買ってみたんです・・・」
微笑む野長瀬の背中は、ものさしが刺さってるかのようにまっすぐだ。
「それと、後」
「足・・・」
「長いのにねぇ・・・」
由紀夫と典子がうんうんと頷く。
身長の割に正広は足が長い。長いが、ややガニ股だ。
「・・・違う・・・」
野長瀬が呟いた。
「ガニ股じゃない。O脚です」
「・・・ものは言いようだわ!野長瀬さん!」
「ってことは、O脚矯正クッションです!」
ソファの上に、ゴムでできたようなクッションが置かれ、正広はそこに座らされた。
「これで、立派なモデル体型になれますよ!!O脚と骨盤を矯正し、背筋を伸ばすんです!」
「野長瀬さん!これも野長瀬さんの!?」
「はい!」

そんな訳で、正広は大リーグボール養成ギブスライクな背筋矯正ベルトと、骨盤の広がりって言われても・・・というような、O脚骨盤矯正クッションに乗っている。
果たしてそれでモデルになれるのかどうかはさっぱり解らないが・・・。
どこまで弟が本気なのか、さっぱり解らない由紀夫は、ユニクロの新作フリースが早く出てくれることを祈るばかりだった。

いや、そしたら、またそれを買うことに血道を上げ出すだろうからなのだが。

・・・それをまた買われても困るんじゃあ・・・・・・・・・・・・?

「・・・兄ちゃん、おなかいたい・・・」
ゲームをしながら正広が呟く。
「ゲームしながら言われて俺にどーしろっていうんだ」
「いや、いたいなーと思って」
「梅干しでも食ってな」
「梅干しかー、梅干しー、あ、おかゆ食べたーい」
「その前にトイレに行け!」

早坂家の秋はそろそろ深まりつつあった。


私も大変な猫背なので、背筋矯正ベルトをしていたことがあります。なかなか楽しいものですが、長期間やらなかったので、効果のほどはさっぱり解りませんね・・・。そして私はX脚なのですって・・・。どっちかってゆーと・・。骨盤を矯正したら、足も細くなるかと夢みていたのに!全部肉か!肉のせいか!きぃぃぃーーー!

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

今までのGift番外編へ

What's newへ

SMAPレポートへ

SMAPメニューへ

トップへ