天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

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ギフト番外編141話後編『あの物語の販売に並んだ』


 

「さ、さぶい・・・!」
家から出た途端、正広は自分で自分を抱きしめた。
フリースonフリースで、もこもこになってはいたが、顔が剥き出しだったのは失敗かもしれないと思う。
「風が出てきたな」
正広より薄着の由紀夫は、長い髪を風に持っていかれ、鬱陶しそうな顔になる。
さぶい、さぶいと肩をすくめている正広を見ると、眉間にシワを寄せ、頬を赤くしている。
「やめとく?」
「何を?」
正広は、眉間にシワを寄せたまま、兄を見上げる。
「え?」
「何をやめるの?」
「何って・・・、寒いんだろ?」
「寒いけど・・・」
そう言いながら、すでに正広は、正広ケッタマシーンプチエクセレントにまたがっていた(なぜプチ!?)。
「でも、マスクして自転車運転してたら、職務質問受けそうじゃない?」
つまり、外出を止めるつもりはさらさらない、ということなので、由紀夫も諦めてバカ高い自転車にまたがる。

「あ」
「うっそだろぉ!?」
野長瀬が並んでいるという本屋に到着したのは午後10時前。
おバカな野長瀬が、一人ぽつんと待っていると思い込んでいた場所に、行列ができていた。
「に、日本人って!」
由紀夫驚愕!
「うわーん!もっと早くくればよかったぁ〜!野長瀬さん先頭取れたのかなぁ〜」
「えぇっ?定時ですぐ行ったじゃねぇかよ、取れて・・・・・ねぇ!!」
由紀夫再び驚愕。
野長瀬の大きな体は、行列の先頭ではなく、5人目のところにあった。
「野長瀬さーん!」
「おまえ、何やってんだよ」
「あっ、ひろちゃん、由紀夫さん!」
野長瀬は、完全防備だった。
小型のイスに座り、足元はごっついブーツ。いくらなんでもそれは早いんじゃあ?というもこもこしたダウンジャケットに、手編みのマフラー。赤地に白いウサギ模様のマフラーは、もちろん野長瀬の手編みだ。
そのモデルとなったミニウサギ(大)野長瀬智子(♂)は、世にも不機嫌な顔で、ダウンジャケットの胸元から顔を出していた。
彼の鋭い爪は、ダウンジャケットの前面をひっかき続け、水鳥の羽毛を撒き散らしている。
「わー、智子ちゃん!」
その智子も、正広を見ると、多少表情を和らげた。彼にとって正広は、大変有能な世話係だ。
「寒いかなぁ。だっこしてもいいですか?」
「いいよ、いいよ」
ダウンをボロボロにされたって、そんなことは構わない。だって、智子は自分の大事な智子だから!智子だからぁぁ!
この暑苦しい愛情が智子の機嫌を常に損ない続けていることに、野長瀬はずっと気付いていない。
「とーもこちゃん」
智子は、愛情のみならず、実際暑苦しいダウンジャケットから逃れられて、ほっとした様子で正広に抱っこされる。
「野長瀬さん、おなかすいてない?」
「あ、食べ物なら」
巨大なナップザックを野長瀬が開く。中には、スナック菓子が山盛り入ってる。
「おまえ、スナック菓子とか、やけに好きだよなぁ」
イヤそうに由紀夫が眉をひそめた。
「チョコレートもありますよ」
「新作ラッシュだもんねー!」
食べたい食べたいっ、と正広は逆に目を輝かせて覗きこむ。
「あっ、でもでも!」
自分が何をしにきたのか、正広は忘れはしなかった。
「差しいれ持ってきました!」

えへん!と胸を張り、手巻き寿司を取り出そうとした正広は、ようやく周囲の様子に気がついた。野長瀬の前にいたのは、若い学生のような子たち。後ろにいたのは、典子よりも年上で、奈緒美よりは若いという微妙な年齢の女性が一人。

「あの、僕らは本を買うんじゃなくって、さし入れを持ってきただけなんです」
横入りじゃありません!と主張すると、言われた女性も、あ、いえいえと手を振った。

「そうじゃなくて、あの・・・制服が似合いそうだな、と思って」
「制服?」
制服フェチなのかしら、と首を傾げると、あぁっ!と野長瀬が立ちあがる。

「ひろちゃん、きっと似合いますよ!」
「な、何が!」
「看護婦さんとか?」
「に、兄ちゃん!!」
恐ろしいことをすらっと言う兄だった。

「あれだろ、ここの学校の制服だろ」
しかしまぁ、冗談は冗談として、ちゃんと状況を把握している兄でもある。
「あ、ハリーポッターの?」
「似合いますよ、ひろちゃん!着ます?」
「へ?」 

「似合うーーー!」
行列から声が上がる。
「なんで・・・?」
ハリー・ポッターが通っているといわれる学校の制服を着せられた正広は、なぜ、こんなものが、ここにあるのか、ということについて深い角度で首を傾げた。
「野長瀬、おまえ、あれ・・・」
「作ったんですけど・・・、自分ではやっぱり着れなくて・・・」
「正広に合うサイズでお前が着られる訳ねーだろ!」
「ま、そうなんですけど、やっぱり子供サイズじゃないと」
「素敵ー、よく似合ってますよー」
制服を着てまま、ミニウサギ(大)を抱っこしていた正広は、はっ!と思い出す。しまった、しぃちゃんを連れてきていれば、更によかった・・・!?ハリーポッターでは、ふくろうも活躍するので、どうせなら、ウサギより、白文鳥のしぃちゃんの方が・・・!

その気持ちが伝わったのか、智子は、力強い後ろ足で、正広のみぞおちにキックを決める。

「う・・・っ」
「あっ、なんだこのバカウサギ!」
目ざとく、兄由紀夫は乱暴なうさぎを弟から引き剥がす。
「智子ちゃんはバカじゃありませんっ!」
智子を心から愛する男野長瀬は、さらに由紀夫から智子を引き取り、

「ぐふぅ!」

顔面にキックを浴びた。

命拾いしたな・・・
智子の目は、由紀夫を見つめながらはっきりとそう語っている。本来は、由紀夫に向けて繰り出されたキックであった。
どんくせぇウサギ風情にやられるかよ。
そのウサギ風情と全く同じ土俵に上がってしまっている由紀夫だが、その意識はない。
「もー、兄ちゃん、やめなよー」
「え?ご兄弟なんですか?」
似合う似合うと、喜んでいた後ろの女性が由紀夫を見つめる。
「はい。兄です」
「お兄さんも、素敵ー・・・でもぉ」
少し残念な顔をした。
「お兄さんくらいカッコいいキャラクターって言ったら〜・・・」
うーん、と首を傾げながら彼女は言った。
「スネイプ先生?」
あまり発想が豊かではない彼女にとっては、映画になって、実際に誰かが演じたキャラクターじゃないと、イメージを沸かせることができないのだが。

「スネイプぅ〜!?」

由紀夫にとっては、大変、大変、大変不本意なキャスティングをされてしまったことになる。

「生きたスネイプを見せてやる!正広、電話!」
「はいっ!」

こうして呼ばれてきたのは、当然稲垣アニマルクリニックの稲垣獣医だ。
ハリーポッターが映画化された時、そのポスターを見て、え?稲垣先生?と驚いたのは正広だけではない。簡単に言えばハリーをいじめる先生、という役と、稲垣獣医は妙に似ていた。
「何かな」
寒いからと、黒いカシミヤコートで登場した稲垣獣医は、大きな拍手で迎えられた。確かに似ている!という空気が当たりに漂っている。
「手巻きずしをしてるって聞いたんだけど」
「はい。これからやります」
「ここで?」

「はい!」
明るく元気にはきはきと返事をする正広。
多少引きつった笑顔を浮かべる稲垣。
その笑顔がまた似てる!と喜ぶ行列者。
「いや、ちょっと冗談のつもりだったけど、こうやって見ると、雰囲気ほんと似てるな」
と、感動したように言う由紀夫。
「似てるって、誰に?」
「スネイプ先生」
「スネイプ先生ねぇ」
稲垣獣医は腕組をした。
「僕はどっちかというと悪い顔をしたいい人よりも、いい顔をした悪い人の方が好きなんだよね」

「そぉですよねぇぇぇーーーー!!」

稲垣獣医の遥か後方で、悲しい声が上がった。
稲垣獣医の防寒対策グッズを抱えさせられていた哀しき草g助手の声だった。

こうして、私服でありながら、スネイプ先生のような稲垣獣医。ハリーの制服を着せられた正広、助手魂炸裂の草g助手、それならダンブルドア校長の衣装で来るべきだったと後悔している野長瀬が、手巻きずしに手を出した。由紀夫は、特に何も思わず手を出している。
「こんなこともあろうかと、用意していたんだよね」
一息ついたところで、稲垣獣医が得意げに言った。
「剛、あれを」
「へいへーい」
「返事は一回!」
「はいっ」
草g助手が持たされていた大荷物の中から、静々と登場したのは、ご家庭用回転寿しマッシーンだった。
「・・・先生、これ・・・」

「電池で動くから、簡単だよ」
端から端まで手が届くくらいの、ちんまりとした回転寿しマッシーン。一体これをどうするのか、と思ったら、稲垣獣医は、不器用そうに小さな握り寿しを作って楽しそうに乗せている。
正広も手を出してみると、結構難しくて、なんだか面白くなってきた。
「兄ちゃんもやってみて?」
「そんな、おまえ握り寿司くらい・・・」
とやる気なく手を出した由紀夫も、その想像していなかった難しさに、ム、と眉間にしわを寄せる。
「・・・酢飯が足りない・・・」
ぼそりとつぶやいた由紀夫の声で、稲垣助手が、パンパン!と手を叩いた。
「炊飯器をこれへ!」
「えぇーーーーー!!!」

炊飯器から、桶から出してきて、草g助手に酢飯を作らせている稲垣獣医を見て、後ろの彼女は心の底からうっとりしていた。
ああん、ほんとにスネイプ先生みたぁい・・・!

こうして、長いような短いような夜があけた。

5時半。予定通り、ハリーポッター4巻の発売が始まる。
ウキウキと野長瀬はその本を手にしたが、家に帰りつくなり眠ってしまった。
早坂兄弟は、発売開始を一応待ったけども、もう眠い!と事務所で寝ることにして、稲垣獣医は、ちゃっかり並んで買ってしまっていた。もちろん、あの女性の前だ。
誰が、生けるスネイプ先生の横入りを怒れるだろう。
草g助手は死んでいた。へとへとで・・・。

由紀夫と、野長瀬智子の闘いは、とりあえず回避された。
由紀夫が握り寿司に夢中で智子どころではなかったからだ。
その鬱憤は、確実に智子の中で貯まっていた。

「あんたー!!いつまで寝てんのよーー!!!」
奈緒美の電話で叩き起こされた野長瀬が、あれだけ(?)の思いをして買ったハリーポッター4巻が、びりびりに噛み千切られているのを発見したのは、そう言う訳である。

智子と由紀夫・・・、もしかして、それなりに相性いい・・・!?


稲垣先生と、スネイプ先生は、きっと似ているの。似ているはず。由紀夫ちゃんは、シリウスってことでどうぞ(笑)

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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