天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

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ギフト番外編142話前編『お誕生日社内旅行に行った』


 

11月13日は、腰越人材派遣センターの届け屋、早坂由紀夫の誕生日である。

そんなことは、腰越人材派遣センターでお届け物をしてもらったことのある顧客には、よく知られた事実だった。
女性からはほぼ無条件に、男性からも高い人気を誇る由紀夫なので、この時期は、アホか!というほど仕事の依頼が入る。もちろん、仕事というよりも、由紀夫にあって、プレゼントを渡したいというファン心の顕れだ。
これらのお客様の振り分けに、早坂由紀夫担当課長の正広は、毎年頭を痛めている。
今年も11月になったら、どっと増えた由紀夫への依頼をどう捌くかについて四苦八苦するんだろうなぁ、と思っていたのだが。

「社員旅行に行きましょう」
突如、奈緒美が言い出し、FAXで送ったという依頼を取りにいっていた正広は、その書類を手落とした。
「はい?」
「社員旅行。秋だし」
「社員旅行ですか??」
「でももう冬近いし、断然温泉ですよねー!」
「そうね。温泉。温泉でカニ」
「雪はまだ早いですかねぇ!」
典子、野長瀬は、わっくわくだが、今は、早坂由紀夫担当課長として、バースデー月間を乗り越えなくては!と思っていた正広は、困ったように眉間にしわを寄せる。
「でも、兄ちゃん、仕事が・・・」
「だから、早めにその日は休みってことにしとけばいいのよ」
ぱっとFAXに目を落とす。
「お休みって、いつですか?」
「11月12日、13日」

「・・・おまえ、またそんなど平日に・・・」

結構仕事熱心な由紀夫は、帰ってくるなり耳に入ったそんな言葉に、げんなりとした顔を隠さない。
「何言ってんのよ。あんたの誕生日を、大好きな仲間たちが祝ってあげようってゆってるんじゃないの!ゆってるんじゃないのぉ!」
「そうですよ、由紀夫ちゃん!お祝いですよ、お祝い!」
「いつもいつも、お仕事でばたばたしちゃってる由紀夫さんに、心から憩ってもらおうと!」
それぞれが、旅行パンフを片手に振り回しながら力説し、どこがいい!?と詰め寄ってくる。
「正広、仕事入ってんだろ」
むしろ、助けを求めるような気持ちの由紀夫だった。何せ弟は困ったような顔でFAXを見下ろしている。
「兄ちゃん」
呼びかけられて兄に向けた顔も、困ったまんまだ。
「大丈夫」
しかし、その顔は、一転輝くばかりの笑顔になった。
「11日だから!」

どこだ。ここは。

11月12日。
駅に降り立った由紀夫は、最初にそう思った。隣にいる正広もそう思った。野長瀬も、典子も思った。思ってないのは奈緒美だけだ。
「何やってんのー!」
駅舎もない無人駅。ホームからとっとと降りる奈緒美の全身はエルメス。のどかな風景になじまないことおびただしい。
「大体、人気もないのに、なんで駅があんだよ!」
あたりは、山間の村、という風情ではあったが、人家が見当たらない。
「それに、カニ食べられないじゃないですかー、山じゃないですかー、社長ー!」
ちっちっち。
そんな不平不満を、奈緒美は指を振ることで封じ込めた。
「もちろん、あんたたちは知らないことだけど、ここはね、リゾート地なの」
「・・・リゾート地・・・?」
正広の頭の中にあるリゾート地は、海辺だ。海辺。プール。コテージ。トロピカルドリンク。水着。
「日本のセレブがひっそりやってくる隠れ家リゾートなのよ!ここは!」
「地下シェルターでもあんのか・・・?」
「山の中なのよ」
うふふん、と、得意げな奈緒美が指差した山は。
「・・・遠いじゃん・・・」
「迎えがくるようになってるんだけどー・・・」
きょろ?きょろ?と奈緒美はあたりを見回すが、ホコリっぽい道に車の姿はない。右を見ても、左を見てもない。
「もー、連絡してたのにー」
バーキンから携帯を取り出した奈緒美だったが、こめかみにびしぃぃ!と怒りマークが刻み込まれた。

「圏外じゃないのっっ!!!」

山間に響き渡る奈緒美の怒声を聞きながら、そりゃそうだろうと周囲を見回した由紀夫だった。

「大変申し訳ございません〜」
その、『日本のセレブがひっそりやってくる隠れ家リゾート』は、正広の認識の中では、『民宿』と呼ばれる建物だった。
「なにぶん、オープン前で人手が足りませんで〜」
山を登って『民宿』を探し出したのは、野長瀬だった。
それまで、残った4人は駅前でゲーム(主に山手線ゲーム)などして過ごしたのだが、その2時間近い間、電車は通過するだけだった。
「オープン前って?」
部屋に通されて、正広は悪気なく聞いたのだが、奈緒美の微笑みは少々複雑なものだった。
「ま、プレオープンって言うのかしら。ご招待?」
「えー、やっぱり奈緒美さんすごーい!・・・ッイテ!」
「簡単にごまかされるな!ここ単なる民宿だろ!」
部屋を見て、正広のでこを叩いた由紀夫は断言した。
畳だけは新しいが、もんのすごぉぉぉーーーく!普通の8畳間だった。without床の間。
「見た目は単なる民宿だけども!」
しかし、奈緒美は海千山千の立派な女社長。若造の言葉にびびるようなタマではない。
「いまどきの日本で!携帯電話が通じない場所がある!このことに着目して欲しいわ!疲れ果てている現代日本人。どこにいても追いかけてくる電波たち!それから逃れ、この山で、真の癒しを得ることができるのよ!それこそが、セレブの求めるリゾートの条件なのよぉ!」

「わー、だから、トルマリンゴがあるんだぁ」

「炭も・・・」

そのなんてことのない八畳間の、なんってことのない座卓の上には、癒しグッズと呼ばれるものが乗っている。
「安直だなー・・・」
「でも、ここ、お風呂はいいのよ。こないだ温泉が出たの」
「温泉が出たから、急遽民宿を新しくしたな!?」
「まぁ、まぁ、あんた誕生日なんだから。カリカリしないの。ほら、the DOGでも見て。ほらほら」
「わーいざどっぐだーかわいいなーかわいいなー、って可愛いかっ!」
パグのぬいぐるみを目の前にもってこられ、ていっ!と投げる由紀夫だった。

結局そこは単なる民宿であり、しかしまぁ、温泉も出たことだし、この不便さを逆手にとってなにやらムーブメントを起こしたいと、ただ奈緒美が思っているだけだったのだが、確かに風景はよかった。
夜になったらさぞ星が見事だろうと思える高さ。昼間は、山の中腹から緑の地面を眺められる。
マイナスイオンはこれでもか!と噴出してそうだし、そして足元には。
「松茸!?」
近くを散歩していた(それくらいしかすることがなかった)早坂兄弟は目を疑った。
「いやいや。きのこはやばいぞ」
「で、でも、そっくりじゃん!」
高給取りの早坂兄弟でも、なかなか松茸にお目にかかるチャンスはない。しかし、お目にかかるのならば奈緒美と一緒なので、いいものを見ているのは間違いなかった。
「し、しかし、ここは・・・!」
確かにこの足元のきのこは、松茸に酷似している。しているが、そこに生えているのは、松茸風のものだけではなかったのだ。
「だって、見ろよ、この鮮やかな赤いきのこを!」
「・・・そ、それはさすがに・・・」
「きのこの見分けは素人には無理だって。後で宿の・・・、民宿の人に聞けばいいだろ」
「解った!じゃ、今聞いてくる!」
「今かよ!」

「これも食べられるんですか!」
これこそが、温泉に続く、民宿という名のリゾート地が用意していた売りだった。
訳がわからないほどきのこが取れる山。運がよければ松茸もあり。ただし、毒きのこもあるから要注意というものだが。
「えぇ、それも食べられますよ。大丈夫です」
ニコニコとやさしい顔をしたおばあさんが二人について、取れるきのこを教えてくれた。
「すっごいな・・・」
感心しきりの由紀夫が持たされてる籠は、すでにきのこで山盛りだ。
「これでね、今晩は、きのこ懐石ですからね」
「うわぁ、楽しみー!」
二人で山盛りきのこを取った後は、全員そろって露天風呂に。
サイズは小さいながらも、男女分かれた露天風呂は、緑の中の温泉で、眺めもいい。
「なんか、いいかも、これ」
「いいよねぇ」
「いいですねぇ〜」
野長瀬の顔が赤いのは、温泉に入っているせいではない。奈緒美、野長瀬、典子の3人は、このリゾート地、3つ目の売り。豊富な地酒攻撃に自らの身をさらしていたからだ。
「んー、あれと、きのこ懐石・・・!」
冷酒で飲んだ地酒が大変美味しかったらしく、野長瀬は何度もため息をついた。
「そんな美味かったの?」
「そりゃそうですよー、由紀夫ちゃんも後で飲んでくださいねぇ!」
「うわー、飲みたーい!」
という弟のことは、きっ!と睨みつつ、これは期待できそうだなと由紀夫は微笑む。

電話も通じない。テレビもない。部屋を見れば時計もなかった。
そんな、隔離された空間で、ただぼんやりと過ごす。
確かに、いい場所なのかもしれないとみんなが思っていた。

しかし。

相手はきのこ料理だったのだ・・・。

<つづく>


あぁ、温泉.1年365日、いつだっていい。温泉は素敵だ。でも、長時間つかってられないのさ(笑)!

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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