天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

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ギフト番外編142話後編『お誕生日社内旅行に行った』


 

「それでは、早坂由紀夫くんの、お誕生日を祝しまして、まずは腰越社長より、お言葉を賜りたく存じます!」
「ただいまご紹介に預かりました、腰越奈緒美でございます」
優雅に頭を下げた奈緒美は、座布団の上に正座をしていたが、浴衣はかなり乱れていた。
それはもう、下手すれば、「見たくない」のレベルまで後7分といったところだろうか。
「思い返してみますれば、早坂由紀夫くんをタンスの中で発見するという衝撃的なあの日より」
「タンス!?」
「その話はいい!」
「タンス!?兄ちゃん、タンスの中って!?」
「タンスの中じゃねぇぞ。正確には、タンスの下だ」
「し、下!?」
正広の脳裏に、タンスの下敷きになっている兄の姿がまざまざと浮かんだ。
「あら、下じゃないわよ。中よ、中。中に全裸で」
「ぜ!ぜんら!!」
「もういいっつーの!はい!かんぱいっ!」
がっちん!と、無理矢理隣の正広の烏龍茶のグラスと、自分のビールのグラスをぶつけ、由紀夫は取りあえずビールを一気飲みする。
当然、地ビール。
「ん?美味いな」
「そうですよね!このビール美味しい〜!」
典子は手酌で、すでにがんがんそのビールを飲んでいた。
「どこで作ってるかもよく解んねぇけど」
なぜ駅があるのかもよく解らないほどに、無人につぐ無人の地域なのだから。
「日本酒もいいわよー!」
温泉に入る前から飲んでいた奈緒美や、野長瀬はすでに挨拶するどころの騒ぎではなく、ひたすら飲んだ暮れている。
「兄ちゃん、タンスで全裸って、どしたの?なんでタンスで全裸なの?そんで、タンスの下敷き!?」
「いいから、きのこ鍋食ってろ」
この民宿におけるきのこ懐石とは、主にきのこ鍋のことだったようだ。
大きな鍋には、たんまりの野菜と、たんまりのきのこ。そして、ちょぴっとの肉が入っていた。ちょぴっととは言え、いのしし&鴨だ。
「美味しそうだけどぅ〜」
育ちざかりで、痩せの大食いである正広にとっては、あまりにボリュームが足りない。
「その分は、米で補え」
俺は、麦で補う!とこちらも手酌で地ビールを、の由紀夫。
「え〜」
正広は顔中に不満を描く。
「なんで、俺だけ飲んじゃダメなんだよー!」
「未成年だからに決まってんだろ!」
ほれ!と、おひつを目の前に置かれ、むぅ、という顔をしたままの正広は、おひつの蓋を開ける。
「何で米〜・・・」
と呟いていた正広は、ふと言葉を失った。
おひつの中には、つやつやと、キラキラと、美しいご飯があった。
もちろん、立っている。当然米粒は立っている。
「い、いい匂い〜・・・」
炊きたてご飯の香りもばっちり!これは・・・!と正広の目もキラキラと輝いた。
「俺、米食う!」
「おう!食っとけ!」
「あたしも米食ってるわよーー!!」
「僕もですー!」
純米酒をいただく二人のメートルは上がりっぱなしだ(古典的表現)。

「む!」
ご飯も美味しかったが、きのこ鍋も美味しかった。
「美味しい!」
「ん!?このきのこも!」
さすがにきのこ鍋だけではなく、七輪の上で焼かれているきのこもいた。
「きのこって、ゆーか、それ松茸じゃない!」
「多分な」
由紀夫は小さく頷き、七輪の上から、がつがつとその松茸のようなきのこを奪いとって行く。途中、正広の皿にも放り込みながら。
「あー!無くなるじゃないのー!野長瀬ー!」
「はいっ!」
野長瀬は七輪の隅っこにある松茸のようなきのこをすぱっ!と奪い!
すぱっ!と自分の口に入れてしまった。
「あぁーーっ!!」
もちろん、その後奈緒美に首を締められて、喉を通すことはできなかったのだが。

「にしても、美味しいわね」
「美味しい」
正広が黙々と食べていた鍋を、当然他のメンバーも食べ始める。
「なんだろ、この美味しさ」
「出汁?なんの出汁なんだろ」
きのこ鍋は、どうした訳かやたらと美味しかった。
「今日、取ってきたきのこなんですよ」
口一杯にほお張って、ほふほふさせながら正広は言う。
「すごいのあったな」
「真っ赤なのね・・・」
「やぁねぇ、それ毒きのこじゃない」

一瞬、全員の手が止まった。

毒きのこ・・・!?

「・・・いやいやいやいや」
笑ったのは由紀夫だった。
「だって、鍋茶色いし」
鍋のあちこちをつっつくが、ごく自然な野菜メインの鍋らしい色しか見えない。
「うん、茶色いね」
正広も、同じように鍋をつっつく。
奈緒美もつっつくし、野長瀬も、典子もつっついた。
無言で。延々と。
「・・・何、やってんの・・・?」
「あれ?」
由紀夫に言われ、正広が顔を上げた。
「ないね。毒きのこ」
「ないだろ。見りゃ解んじゃんよ」
「そうよね?」
そう言いながら、もうしばらく奈緒美は鍋を突つき続けた。
「・・・あたし、何してんの?」
「・・・鍋、突ついてっけど?」
「だから、なんであたしはこんなことをしてる訳?」
突つきながら、真剣な顔で奈緒美は聞いた。
「なんか、探してんのか?」
「何って・・・」
鍋の中で何を探すというのだ。
「・・・愛、ですか?」
「愛?」
正広の言葉に、奈緒美が首を傾げる。
「愛・・・」
「いや!鍋の中に愛はないだろ!」
「そうかしら」
奈緒美は、ぎゅ、っと眉間にシワを寄せ、鍋の中を真剣に探り始めた。
「え、あ、愛、あるんですか・・・!?」
愛と聞いては黙ってられない男。それが野長瀬定幸。一体どんな愛が!と、鍋をかき回す。
「思えばさぁ」
野長瀬と二人、ぐぅるぐる鍋をかき回しながら奈緒美が言った。
「こうやって、みんなで鍋をつつけるなんて、なんか幸せよねぇ〜」
「ほんとですねぇ〜。あっ、お肉っ」
いつまで育ちざかりのつもりなのか、鴨肉のキレッ端を見つけた野長瀬は幸せそうだ。しかし。
「ひろちゃん、はい」
「えっ」
その肉のキレッ端を、野長瀬
は正広の取り皿に入れたのだった。
「どうした野長瀬!」
「の、野長瀬さん、鴨大好きだって!」
自分が食べたい時は、遠慮会釈なく可愛いかつあげやさんに変身する正広も、野長瀬が自主的にお肉を手放すなんて!と驚いた。
「いや、だって・・・」
野長瀬は、なおも鍋に箸を突っ込みつつ、どことも知れない中空を見つめる。
「幸せだから・・・!」
「幸せって・・・」
変なこと言うヤツだなぁ、相変わらず、と、地ビールを飲んでいた由紀夫は、そのビールを吹き出しそうになり、そして実際吹き出した。
「何!兄ちゃんっ!」
それを少々浴びた正広は、きぃぃ!となったが、兄の視線の先を見て、声を失う。
「な、奈緒美さん・・・!」
「奈緒美!」
はらはらと、奈緒美の瞳からは、真珠(?)のよおな涙が零れ落ちていた。
「なんだおまえ、泣き上戸か!?」
ぎゃはははは!と思わず大笑いの由紀夫に、奈緒美は首を振る。
「違うの・・・。私はただ・・・、嬉しくて・・・」
「う、嬉しい・・・?」
「だって・・・、たんすから裸で落ちてきたあんたが」
「に、兄ちゃんやっぱり!」
「それはいいってゆってんだろ!」
「こんな立派に育って、誕生日だからって、みんなでお祝いして・・・!」
そう言いながら、奈緒美は、おいおい泣き始める。
「社長!」
つられて野長瀬も泣き出した。
「それが!それが鍋の中にあった、愛なんですねぇ!」
「そうなのよ!由紀夫!」
「由紀夫ちゃん!」
「ちょと待てーーー!!」

鍋の一番近くに、奈緒美と野長瀬が向かい合って座っていた。由紀夫は奈緒美の隣。その隣に正広。典子は、野長瀬の隣にいた。
少なくとも、野長瀬と由紀夫の間には、きのこ料理が山盛りになった、あったり前のテーブルがあったのに。
「なんだこれーー!!」
なぜか由紀夫は両側から、奈緒美と野長瀬にしがみつかれていた。
「あんたの誕生日だから!あんたがいたから!!」
「こうやって鍋が食べられるんですよ!由紀夫ちゃん!」
「酒!そこの日本酒調べろ!150%やばいもん入ってる!」
「さ、酒・・・!」
野長瀬に押しやられる形になっていた正広は、奈緒美たちが飲んでいた酒瓶を取りに立ち上がる。典子も立ち上がって、一緒に見てくれるの!?と思ったら。

「由紀夫さんっ!」
テーブルを飛び越えるようにして、背中から由紀夫にしがみつきっ!
「よかった!由紀夫さんがいてくれてぇぇーーー!」
「ビールかぁ!?」
「だって、ビールは兄ちゃんも飲んだじゃん!」
酒瓶はすでに空だった。一升瓶なのに。
「飲みすぎだ、こいつら・・・」
3人を身にまとい身動きできない由紀夫は、じっと最後に鍋を見詰めた。
「・・・いや、でも・・・」
変な色や、形をしたきのこなんて入ってないのに。一体どうしたっていうんだ??と。
そして。
「兄ちゃん・・・」
「ま、待て・・・!正広、おまえもか!」
「だって、みんなだけずるいじゃん!!」
「ずるいじゃんって!」
右に奈緒美、左に野長瀬、背中に典子がくっついてる以上、残っているのはひざだけだ。
「兄ちゃん!」
「やめろってー」
「なんか知らないけど、お誕生日おめでとう!」
テーブルをどけて、よいしょ、と、由紀夫のひざに座った正広は、さ、鍋食べよう、ときのこ鍋に手を出す。
「兄ちゃんも食べる〜?」
「・・・って、なんかやだろう〜、この状況見たらさぁ〜・・・」
「食べないのぉ〜?兄ちゃん、食べないのぉ〜」
「・・・食べりゃいいんだろ!食べりゃ!」
取り皿を渡された由紀夫は、正広がひざに座っているため、二人羽織のような状態になっている。うざってぇなぁ〜、と奈緒美に取られている右腕をどうにかこうにか伸ばして、鍋から、肉でもなければきのこでもない白菜なんかを取り出す。
「兄ちゃん兄ちゃん!」
それを見て、正広は明るく声を上げた。
「あーーん♪」
「正広?」
「だって、兄ちゃん、俺が小さい頃にこんな風にして」
「やっぱおまえもおかしいぞぉーーー!!!」

翌朝。
「なかなかよかったわね!」
「よかったですねぇ、社長」
「お料理がなんせ美味しいし。お酒もねぇ」
ご飯、お味噌汁、卵焼き、納豆、生卵などなど。美しい日本の朝ご飯をいただきながら、奈緒美たちは機嫌よく喋っている。
「こう。起きたら、気分すっきり!って感じで。残らないわねここのお酒は」
「なんか、すべて癒されたって感じなんですよぅ〜」
お肌もすべすべ、と、奈緒美も典子も、やっけに嬉しそうな笑顔だ。
「あぁ〜、なんか、また着たいなぁ〜」
「よかったですよねぇ、ひろちゃんねぇ」
おひつに入った炊き立てご飯をがっぱがっぱ食べている正広のほっぺも、やけに薔薇色。
「一泊しだけでこの癒し効果。すごいわ。絶対商品になる」
やりて女社長の顔で奈緒美が断言し、3人はうなずいた。

うなずかなかったのは、由紀夫だった。
由紀夫は一晩中。
周り中から、自分の過去の話をされていた。全員の記憶を抹消させるために、一人ずつがけから突き落とすか、という凶暴な気持ちをかきたてられた。
きのこのせいだか、酒のせいだか、その複合効果か知らないが。
ともかく。
この宿に来た人々は、日ごろ思ってはいるけど、なかなか口にできない柔らかな気持ちを、思う存分吐き出すことが出来る。
だから、目覚めてもすっきりだ。
しかし、その対象になってしまった由紀夫は・・・・・・・・・・・・・・・・

「おはようございます」
おまえごと、この宿を燃やす。
挨拶にきた宿の人を見て、反射的に思ってしまうほどのやさぐれっぷり。
その由紀夫の表情を見て、きのこ取りにつれていってくれたおばあちゃんの顔色も軽く変わった。
「あ、あの・・・」
「・・・なんか入ってました・・・?」
「あのー、なんていうんかなぁ〜」
朗らかそうなおばあちゃんも、少々口篭もる。
「火が入ると、色が変わるきのこがねぇ、あったんだけどもねぇ」
「色?」
「捨てたはずだったんだけどもねぇ」
「・・・・・・・」
「あ!でもね、そんなたいしたもんではないんよ。マジックマッシュルームほどの威力もないから!」
「幻覚かよ!!」

あ。だからかぁ〜。
その程度のもんじゃ、トリップしないもんねー、俺。えへ♪と納得した由紀夫だった。

早坂由紀夫の誕生日は、こうして終わった。
全員、由紀夫への尽きぬ思いを語りつづけたため、もう、気分すっきり。
誰も、誕生日プレゼントを渡す、ということを思い出さなかったという。


なんだかんだとばたばたして、由紀夫ちゃんのお誕生日ほったらかし。あぁ、ほったらかし。やっちゃったよ、あたしゃあ!!

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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